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「何を感じたか」で「何を撮るか」が決まる
風景写真は、いつ行っても同じような写真が撮れるという簡単なものではない。その日の光の具合、天候の変化、四季の移ろいなど、さまざまな条件の中でのよい出会いの結果、初めて良い写真が生まれるのである。四か月ほどの応募期間で一万点を超す作品があるのは、コンテストを目標に一年がかりで風景撮影に挑戦している人が多い結果で、全国からレベルの高い作品が集まってくるのだ。良い作品というのは自分の感動を写真に表したいという明確な意志があること。そのような作品が審査で最後まで残っていく。ただきれいというだけの作品は撮った人の心が見る人に伝わってこない。上位に入るか入らないかの違いは、ここにある。
撮影者が何を撮りたいのか、被写体に対して心の感動がなければならない。そのための好奇心が必要である。何を自分が感じたかで何を撮るかが決まってくる。他人の作品を真似しても作品をなすっただけで力が無い。自分が感動したものを写真に写し込むことによって、その人のオリジナリティーが生まれてくる。そしてそのパワーが見る人に伝わっていく。写ったという写真と写したという写真は違う。写った写真はシャッターを押せばだれでもが写せる。何か写そうとした写真は、写すということに対する自分の心構えがあるから、その人なりの作品が生まれてくるのだ。撮影での失敗はだれにでもあることで次のステップにつながる貴重な経験だと思えばいい。大事なことは、自分で撮った写真をよく見ることだ。そこからのメッセージを読み取ることで次の撮影に生かしていけるのだ。写真は簡単には上達しない。あれこれ思い悩みながら、また写真を撮りにでかけていく。この繰り返しがあるからこそ、写真は楽しいのだ。 |
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たぬまたけよし/1929年、東京・浅草生まれ。1949年東京工業専門学校卒業。木村伊兵衛氏に師事する。高度成長以前の東京の様子や下町の暮らしを撮り始めると共に、世界各地の子供の写真を撮り続けている。『人間万歳』『輝く瞳
世界の子供』『トットちゃんとアフガニスタンの子供たち』など、数多くの写真集を出版。『ぼくたち地球っこ』『戦後の子供たち』『60億の肖像』など写真展も数多く開催。また、19年間にわたりユニセフ親善大使の黒柳徹子さんに同行し、親善大使と子供の交流を撮影。モービル児童文化賞、菊池寛賞など受賞多数。'90年紫綬褒章受賞。文化功労賞顕彰。現在(社)日本写真家協会会長。
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日本の自然や生活を、記録していけることが幸せ
予備審査を経て本審査にかけられる作品全体が一定水準のレベルに到達していて、見ていてとても気持ちがよかった。コンテストに出そうという応募者の一生懸命さが感じられ、作品内容も変化に富んでいておもしろかった。
常連者は、皆が撮影にでかけて行く有名スポットで同じような意識で撮りたがる傾向があるが、自分の目で素材を探し、自分の見方で新しいアングルを発見していくことができるはずだ。そういうことを自分の力量に応じて発揮していく能力を開発してほしい。写真を撮っているがゆえに自分で発見できる美というものがあるはず。日本列島には、各所にそのような未知なる領域がある。自分が新しい視点に立てば、風景が私たちに教えてくれるといったことがいっぱいあるはずで、そういう研究をしてほしい。初心者は、どのような撮り方でも見せ方でもいいし、気に入ったカメラを使って撮ればそれでいい。撮った写真が見る人にもわかってもらえる、自分の感動が人にも伝えられるのだということを理解してほしい。そのことが写真のおもしろさにつながるのだ。デジタル時代になって写真の合成とか加工が容易になったが、姑息なことをする必要はない。日本列島は自然風景を撮るのに最も適した自然空間だ。自然のあるがままを切り取ってきっちり撮ってやる、人に伝わるように撮ってやる、美しく撮ってやる。そのような意欲があれば撮れるはずで、そのための努力をしてほしい。応募することで自分の周りの日本列島、自分が旅行した日本列島が今年どうなっているか確認しながら撮影できるということは、とてもいいことだと思う。21世紀初頭の日本の自然や生活を記録していくこと、自分がそういう時代を確認していける恵まれた状況にいられることを考えてみると、こんな幸せなことはない。 |
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たけうちとしのぶ/1943年愛知県生まれ。名城大学理工学部卒業。27歳まで愛知県庁に勤務。その後、フリー写真家になり、ルポルタージュを中心に活動。35歳頃より風景写真の分野に取り組み始める。日本はもちろん外国の風景写真にも果敢に挑戦し続け、数々の個展を開催するとともに、雑誌、PR誌などに数多くの作品を発表している。内外の支持を集め、日本を代表する風景写真家として高い評価を得ている。写真集に『花祭』『日本の野生馬』『天地聲聞』『天地光響』『天地風韻』『櫻』『山櫻』『櫻暦』『天地』などがある。(社)日本写真家協会副会長。日本写真芸術専門学校副校長、現代写真研究所講師。 |
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