「日本の祭り」写真コンテスト2009に、たくさんのご応募ありがとうございました。
全国から寄せられた応募作品総数約11,100点の中から、見事に入賞された方々の作品を、
ここに発表させていただきます。

 

腕自慢部門 総評:
 良い作品からは、構図、シャッターチャンス、露出などの表現方法により、作品に込められた写真家と被写体のメッセージが伝わってきます。今回は応募点数は6,497点あり、昨年より3割増えました。しかし残念なことに約1/3にわたる作品が最終仕上がりであるプリントの調子(色あい、露出など)が良くないために、その十分なメッセージが伝わってきません。2日間厳正なる審査をおこない、最終審査に残った作品はどれも完成度の高いプリントで、作品からは強烈な被写体と写真家のメッセージが放たれています。グランプリの「ササラの舞い」金子敏己氏は、富山県五箇山の「こきりこ祭り」での田楽舞で、こきりこという楽器を地方(じかた)に108の木片でつくられたササラを持ち、秋の豊かな収穫を願い優雅に舞います。シャッシャッというササラの音と場の透明な空気が見事に表現された美しい作品です。今回は特選で初めてモノクロの作品が入賞。裸男による「蘇民祭」の後ろ姿は村上 秋氏の作品。モノクロネガフィルムを使い、雪の中の光景を情緒的に表現するというメッセージが伝わりました。
腕だめし部門 総評:
 腕だめし部門では、4,631点の応募があり昨年に比べて1割増えました。審査では素朴な民間信仰や祭りを家族の視線で表現したものに票が集まりました。こちらの部門でも上位を占めた作品はプリントの質が良いものとなりました。どちらの部門においてもプリントづくりは写真家の最終過程で大切なものです。応募前に知人やプリント店の店長に見てもらうのも良いでしょう。グランプリは「祭の日」浅岡香代子氏。祭りに向かうお稚児さんとお母さんとの触れあいの光景。光線が美しく会話が聞こえるようです。秋の収穫を祝い宴会場に持ち込まれた田の神様はまさに鹿児島の心であり、「土下座まつり」の行列を拝む女性たちの表情にも日本の心を感じました。子供歌舞伎の出番前のひとときや、伊勢神楽の門付けなど、腕だめし部門入賞作品は、大きな祭りのハイライトの場面よりは、わが街の祭りでの生き生きとしたスナップ作品です。いつも見ている祭りや民間信仰にあなたならではの新しい発見をして、ぜひ今年も素晴らしい作品の応募を楽しみにお待ちします。

はが ひなた/日本・世界の祭りの写真家。1978年成蹊大学法律学科卒業、1983年米国西イリノイ州立大学文科人類学科卒業。朝日新聞社「週刊日本の祭り」全30巻に「祭りを撮る」を連載。日本経済新聞社水曜夕刊「地球ハレの日」連載。2007年-2008年全国5都市のキヤノンギャラリーにて「世界のカーニバル」写真展開催。鹿児島市おはら祭審査委員長。(社)日本写真家協会、日本旅行作家協会会員。
芳賀日向公式サイト:http://hagafoto.jp/

腕自慢部門 総評:
 今年は応募総数1万1千点を越えるたくさんの応募があったことに、まず驚かされました。そのうちの65パーセント以上がこの「腕自慢」の部への応募です。さすがにベテランを対象とした部だけに、祭りという行事を正面からきちんと敬意を払って捉えた作品が多く、その点に感心しました。また、当然そのような視点で撮られたものが最終的に上位作品として残ったようで、これは祭り写真の基本ともいえることです。 日本最大規模の祭りコンテストですから、祭りや行事の珍しさだけで入選入賞することはありません。もちろん独自の視点や狙い方といった新鮮な映像への挑戦も必要ですが、その祭りの持つ本質的な意味を自分の中できちんと認識することが重要だと思うのです。グランプリに輝いた金子敏己さんの作品には、そうした被写体への敬意と真剣な撮影姿勢を感じさせる強さがありました。質の高いラボプリントでの仕上げにも好感を持ちました。
腕だめし部門 総評:
 初心者を対象とした部門とはいえ、最終的に上位に残った作品のレベルはかなり高いものになりました。この部はプリントの応募サイズが小さいこともあり、主要被写体を大きめに捉えた作品のほうがインパクトが感じられ有利だと思います。また、そうでなくても、応募サイズに幅があるとすれば、できるだけ上限のサイズでプリントしたほうが作品の価値も増すと考えましょう。大は小をかねるというのは写真も同じです。 グランプリの浅岡香代子さんの作品は、祭りに向かう少女と地域の人との心温まる交歓の一瞬を見事に捉えた傑作です。行事そのものはもとより、こうした人と人との心のふれあいこそが祭りの大切さであり本質なのではないかということを考えさせられました。撮影のチャンスはクライマックスのみならず、むしろその前後や合間にこそある、という良い例でしょう。他にも上位には独自の視点で祭りを捉えた作品が多く、本当に感心しました。

いたみ こうじ/福岡県生まれ。法政大学法学部卒業。写真愛好家向けの月刊誌「日本フォトコンテスト」(現-フォトコン)の編集長を約20年務めたのち2004年に独立。フォト・エディターとして、多くのコンテストや写真賞の審査にも参加。NHK衛星第2「カシャっと一句!フォト575」審査委員。社団法人日本写真協会(PSJ)理事。写真関連の企画・制作会社「Jophy Communications」代表。

腕自慢部門 総評:
 写真は眼に見た物を正確に描写する大変すぐれた記録装置です。しかし、人の心は眼に見えないものですから写真には写りません。とはいえ、そのような人の心模様を否応なく感じとらせてしまう写真があります。眼に見えない心と心が通い合う写真、それこそ紛れもなく優れた作品というべきでしょう。今年も全国から実にたくさんの応募写真が寄せられました。期待した通り、心を揺さぶられる写真が少なくなく、選考にはたいへん頭を悩ませました。祭りは神の来訪を「待つ」ことに由来するといわれます。祭りは森羅万象の不思議なものを畏れ敬う心を凝縮させた文化遺産です。わが国では北から南までそれぞれ特徴ある祭りを育んで来ました。祭りの規模も行事次第も千差万別ですが、その心の姿勢にはどこか共通するところがあります。上位入賞したのはいずれも、見た目の美しさにとどまらず、祭りの背景にあるひたむきな心を感じさせずにはおかない作品ばかりです。
腕だめし部門 総評:
 全体的に今年は昨年よりも上手な写真がずいぶん増えた印象があります。応募区分が変わったこともあるでしょうが、デジタルカメラの進歩と普及が関係しているのは否めません。撮影技術の専門性がほとんどなくなり、シャッターを押すだけで、だれでもそれなりに写真が写せるようになったということです。表現の優劣は、写すべきものを判断する物を見る目と、写された画像を批評する目で決まるといっても過言ではありません。私たちはどうして写真を撮るのでしょうか。写真を見て喜んで欲しいからです。見せかけをよくする技術をひけらかすためではありません。大事なのは感動です。そのために写真を撮るのです。そうした意味からすれば、写真の原点は家族写真にあるといえます。もっともっと身近な世界に目を向けて欲しいと思います。あまりにも上手すぎるたくさんの写真にうろたえながら、そんな贅沢な不満を持ちました。

ひらしま あきひこ/写真家、編集者。1946年千葉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。1969年毎日新聞社写真部入社。出版写真部長、出版制作部長、ビジュアル編集室長を歴任し、2009年に退社。共著に『昭和二十年東京地図』、『町の履歴書、神田を歩く』など。編集者として『宮本常一 写真・日記集成』、『宮本常一が撮った昭和の情景』、『グレートジャーニー全記録』などを担当。
 

 
特選
特選
村上吉秋
(岩手県奥州市)
撮影地:岩手県
丹治 美知夫
(福島県福島市)
撮影地:福島県
特選 特選
石倉美義
(群馬県前橋市)
撮影地:新潟県
石策重喜
(島根県松江市)
撮影地:島根県
特選  
山下善久
(福岡県福岡市)
撮影地:福岡県
 
 
 
 
 
特選
特選
市川禎宏
(神奈川県川崎市)
撮影地:東京都
別所義和
(三重県松阪市)
撮影地:三重県
特選 特選
藤沢廸夫
(滋賀県東近江市)
撮影地:滋賀県
安部萬侑
(広島県福山市)
撮影地:岡山県
 
特選  
長里利寛
(鹿児島県鹿児島市)
撮影地:鹿児島県
 
※敬称は略させていただきました。