写真何でも情報 EXPRESSコラム・ギャラリー
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2006.10.14
ちょっとした撮影のコツや本格的な撮影方法、最新の写真・カメラ用語解説など写真とカメラに関する最新の話題を毎週さまざまな角度から取り上げていく「写真何でも情報 EXPRESS」。これを読んでスキルアップ!
デジタル一眼レフカメラは、レンズを交換できることが最大の特徴。一眼レフを初めて使う方は、レンズキットとして販売されている、広角~中望遠をカバーする焦点距離の標準ズーム1本、あるいは、これに望遠ズームを加えた計2本のレンズで撮影されていることが多いでしょう。旅先での記念撮影や日常の風景などを撮る場合は、このレンズ構成だけでも十分に間にあいますが、ほかのレンズも使ってみると、普段の見慣れた眺めとは違った、個性的な写真を撮ることも可能です。今回は、気軽にトライできる特殊レンズの一例として、中望遠マクロレンズに注目し、その実践的な使い方をご紹介します。
製品例1/シグマ
MACRO 105mm F2.8 EX DG
(35ミリサイズでは伝統的な焦点距離の中望遠マクロレンズです。
APS-Cサイズのデジタル一眼レフでは実効焦点距離が変わります。)
製品例2/シグマ
MACRO 70mm F2.8 EX DG
(APS-Cサイズのデジタル一眼レフで使用すると、35ミリ判換算で105mm相当の中望遠マクロレンズとして使うことができます。)
マクロレンズは、近接撮影に特化した、一眼レフ用の交換レンズで、特別なアクセサリーを必要とせず、被写体に極限まで近づいてピントを合わせることができます。多くは、レンズ単体だけでも1:1の等倍撮影が可能で、ズームレンズのマクロ機能をはるかにしのぐ近接性能を持っています。マクロレンズには、焦点距離が50mmクラスの標準マクロレンズと、100mmクラスの中望遠マクロレンズがあり、これらは、どのカメラメーカー、レンズ専業メーカーでも発売していますが、花や植物などの小さいものを撮影するには、どちらかというと中望遠マクロレンズのほうが使い勝手が良く、出番も多いでしょう。
なお、ここで言う、標準・中望遠という焦点距離の分け方は、フィルムカメラ時代から続いており、35ミリサイズ仕様のカメラに装着した場合を想定しています。よって、実効焦点距離がレンズ表示の1.6倍程度になる、APS-Cサイズ仕様のデジタル一眼レフにマクロレンズを装着する場合には、実効焦点距離が増えて、感覚的に標準・中望遠レンズとは画角が変わるのでご注意ください。APS-Cタイプのデジタル一眼レフでマクロ撮影する場合には、倍率分だけ焦点距離が短くアレンジされたデジタル対応タイプのレンズを使うと便利です。なお、デジタル専用タイプのレンズを、35ミリサイズのカメラで兼用することはできません。
マクロレンズは、近接撮影ができるだけでなく、普通の標準レンズまたは中望遠レンズとしても使うことができます。ただし、同じ焦点距離のマクロ仕様ではない単焦点レンズと比べると、近接撮影を優先した設計であるため、開放F値は約1段ほど暗めです。それでも、普及型のズームレンズよりは明るいので、背景をぼかした撮影などにも幅広く使うことができます。マクロレンズは、最短撮影距離にピントを合わせると、レンズの鏡筒が前方へ大きく伸びて、カメラボディのシャッター幕の位置から30センチ程度まで接近。このとき、レンズ本体は相当に長くなっているので、実質的には被写体に接触するくらいの距離感になります。
中望遠105mmのマクロレンズを使用して、実際に近接撮影してみました。使用したカメラは、APS-Cサイズのデジタル一眼レフ。35ミリ判換算では160mm程度になるので、実際には等倍以上の倍率で撮影したことになります。被写体は、「レンズ豆」という名前の、食用の豆です。
ワイングラスにレンズ豆を1袋分入れて、グラスの縁から少し盛り上がっている部分を近接撮影した写真です。三脚にカメラを固定し、スローシャッターで撮影しました。このくらいまで近づくと、レンズ本体の直径よりも画角のほうが狭いくらいになり、レンズそのものが被写体を隠してしまうので、通常のフラッシュ撮影はできません。
絞りは、豆1個の幅にピントが合う程度の被写界深度となるよう、プレビュー(ファインダー像で絞りの効果が確認できる機能)を使用して調整した結果、背景のボケ味も写せるf8に決めました。撮影に使用した光源は、普通の室内電灯です。フィルムで撮影する場合、写真用の電球か色補正フィルターを使わないと、画面全体が赤く色カブリしてしまうことが多かったのですが、デジタルカメラではホワイトバランスの自動調整が可能なので、自然光やフラッシュ光以外の光源で撮影する場合も、色カブリについては、さほど心配がありません。
なお、このくらいの近接撮影になると、オートフォーカスの指標と、ピントを合わせたい被写体の場所が一致しないことが多いので、マニュアルフォーカスによる調節が多くなります。マクロレンズは、最短撮影距離~∞の動作範囲が広くなるので、AFが一旦ピント合わせに迷い始めると、合焦までに時間がかかることもあります。カメラ位置のわずかな移動がピントのズレにつながり、フォーカスロック(AFロック)も使いにくいことがあるので、マクロ撮影ではAFだけに頼らず、MFを使いこなすことが、一つのコツと言えそうです。
ほぼ最短撮影距離に近いピント位置で、レンズ豆の粒一つ一つを見分けることができるように撮影しました。レンズの機能的にほぼ等倍での撮影ですが、APS-Cサイズでは焦点距離が伸びるので、実際には等倍以上ということになります。白い紙の上に、いくつかの豆を、それぞれができるだけ重ならないように配置しています。
今回の撮影では、豆だけをアップで撮ると、見た目がジャガイモのような印象になるので、豆のサイズがわかるように、比較できるものを一緒に画面内に収めることにしました。1円玉や、キャラメル1個、コーヒースプーンなど、いろいろな案を考えてみましたが、豆と並んだときの撮影しやすさと、サイズの正確さという点で、郵便切手を使いました。切手の金額が書いてある数字の大きさは一定であるはずなので、「NIPPON 80」の字を基準に、レンズ豆の大きさを想像してみてください。
今回の撮影に使用したマクロレンズでは、最小絞りを、f45まで絞ることができたので、それに対応したシャッター速度で露出を設定しました。f45というと、一般的なレンズの最小絞りより、さらに2段上の数値です。なお、マクロレンズの等倍とは、フィルム(または画像センサー)に写った被写体像のサイズが、実物と同じ原寸大になることを指し、倍率1:1と表記されることもあります。このくらいの近距離だと、切手に印刷された絵柄の、インクのドットまで見えそうなくらいです。フィルム上に等倍で写っている被写体をプリントすると、結果としては数倍に拡大したことになります。
レンズ豆は食用の豆ですが、その名前は、カメラで使われるレンズとも深い関係があります。豆の一粒を、よく見てみてください。形が平べったくて、虫眼鏡のレンズみたいな感じですよね? この形を見れば、「レンズみたいな豆だから、レンズ豆なんだ!」というように、誰もが考えるでしょう。ところが。。。! 実際は、大多数の予想に反して、なんと名前の由来が逆なのです。
レンズとレンズ豆、どちらが先に、この世に存在したかといえば、豆のほうが先。そして、平べったいガラスを、レンズ豆の形になるように研磨すると、光が集まるという光学的な性質に人類が気付いたことのほうが後なので、そういう形のガラスを「レンズ」と呼ぶようになったそうです。つまり、もしも、この豆がなかったら、レンズという光学製品は存在せず、カメラも写真も登場することがなかったかもしれない!? というわけ。
このレンズ豆、サイズはとても小さく、一粒は、薬の錠剤か、菓子の「フリスク」くらいです(豆をかじってもフリスクの味はしませんが)。どちらかというと、豆よりも雑穀に近い印象かもしれません。一粒が小さいゆえ、短時間で簡単に加熱できるので、欧米ではわりと一般的な食材なのだそうです。料理法としては、そのままゆでてサラダに混ぜたり、スープの具にするなど、いろいろな用途に使えます。「レンズ」というくらいだから、なんとなく硬そうな雰囲気を感じるかもしれませんが、調理したレンズ豆は、やはり豆らしく柔らかな食感です。インターネットでレシピを検索すると、個人の方などが公開しているホームページで、いろいろな料理の例を探せるので、興味のある方は気に入ったレシピで試食してみてください。
なお、名前に「レンズ」が付いていても、キタムラでレンズ豆は売っていません!(笑) 冗談はともかく、レンズ豆を置いている店は食料品店でも意外に少なく、今回の撮影に使用した豆も、探しにかかってから購入するまでに、実際、かなり手間がかかってしまいました。デパートの食品売り場や、高級スーパーなどを何軒も回って探したものの、結局は見つからずに通信販売で調達しました。自然食品関係のお店なら、取り扱っている可能性が高いようです。値段は、豆なりの値段ということで、それほど高いものではありません。レンズ豆は、生で袋に入れて売っているほか、「豆サラダ」の缶詰もしくはビン詰として、ほかの種類の豆と混ぜて調理した、お惣菜として売っている場合もあるようです。
あなたの大切なお写真の現像・保存・プリントは写真専門店カメラのキタムラにおまかせください。