写真何でも情報 EXPRESSコラム・ギャラリー
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2006.10.21
ちょっとした撮影のコツや本格的な撮影方法、最新の写真・カメラ用語解説など写真とカメラに関する最新の話題を毎週さまざまな角度から取り上げていく「写真何でも情報 EXPRESS」。これを読んでスキルアップ!
いまでこそ、写真はカラー(その昔は「総天然色」と言った)で撮るのが当たり前になっていますが、戦後、カラーテレビが家庭に普及するまでは、写真もモノクロ(白黒)が普通でした。昭和40年代生まれの団塊ジュニア世代以降は、アルバムの中にある思い出の写真も、生まれたときからカラーで残っていると思いますが、それよりちょっと上の世代の方は、幼少時代の写真だけモノクロという方も多いのではないでしょうか? このモノクロ写真、思い出を残す目的では、すっかりカラー写真に役目を譲った感があります。でも、趣味の作品として写真を撮るのが目的なら、モノクロ写真もまだ健在。白と黒の濃淡だけで被写体を描き出すモノクロ写真は、見慣れたシーンの中にも新たな魅力を発見できる、ちょっとしたきっかけを与えてくれるかもしれません。そんな、モノクロ写真ならではの楽しみを、再考したいと思います。
モノクロ写真が、表舞台から姿を消した理由。それは、何だと思いますか? おそらく、それは結局のところ、かかるコストと効果の問題だと思われます。
いまでもモノクロ用フィルムは販売していますし、モノクロ写真の現像・プリントをDPE店にオーダーすることもできます。しかし、モノクロ写真の現像は、カラー写真とは工程がまったく異なるので、価格的には割高となり、店頭でのスピードプリントにも対応できません。それで、得られた写真は、色のない白黒になるわけですから、芸術作品を表現しようと思って写真を撮っているわけではない、多くの一般消費者の方にとっては、あえてモノクロ写真を選ぶメリットは少ないと考えるのが現実的でしょう。
一方で、モノクロ写真の現像・プリントは、自分で暗室作業をやれば、コスト的には安くすることも可能ですが、趣味で写真を撮る方でも、自家現像まで行う例は、住宅事情(床が畳だと薬液をこぼしてしまったときに後始末が大変)、時間的余裕などの面からも、しだいに少数派となってきています。お店に現像をオーダーするならカラーのほうが安く、自宅で暗室作業するのも面倒となると、モノクロ写真を積極的に選ぶ必要性がなくなり、加えて、デジタルカメラがフィルムカメラにとって代わる時代となったので、モノクロ写真の登場する機会が、だんだんと少なくなった。。。こうして、モノクロ写真を見る機会が、減っていったのではないかと思われます。
現実として、モノクロ写真の活躍の場が少なくなっていることは抗いようがありませんが、でも、それは決してモノクロ写真がカラー写真に、表現手法として劣るということを意味しているわけではありません。モノクロがカラーに圧倒された、その背景にあることは、基本的にはフィルムカメラとDPE店でのスピード現像の利用を前提とした場合に、コストと時間、そして得られる成果の勝負で、モノクロがカラーより不利になるということ。それだけが原因なら、カラーと直接競合しない部分では、モノクロにもモノクロなりの使い道が、まだ残されているはずです。
写真を撮る人、見る人の「好み」という点では、モノクロにも、カラーにも、ともに違った魅力があります。だから、モノクロ写真も、技術面で簡単に撮れさえすれば、活躍できる機会を広げることも、おそらく十分に可能でしょう。この点で、デジタルカメラの普及は、むしろ朗報といえます。なぜかというと、デジカメのモード設定には、モノクロで撮影するための機能も、しっかり付いているから。撮影にかかる手間は、ノーマルモードのカラー撮影とまったく同じで、何も特別な機材・材料を買い足す必要もなく、いまでは手元にあるデジカメを使ってモノクロ写真が撮れるのです。
だから、「このシーンにはモノクロが面白いかな?」と思うときには、デジカメを使って、気分次第で1コマだけモノクロ撮影を楽しむことも自由自在。フィルム時代にあった、現像する手間やコストなどの負担を抜きにして、いまならモノクロ写真ならではの魅力を、誰でも純粋に楽しむことができるわけで、デジタルカメラの普及で、モノクロ写真にも復権の道が開いたと言えます。記録するだけの写真から、遊び心や、芸術性のある写真へ。写真表現の楽しみを広げる上で、モノクロ写真にできることは、きっとたくさんあります。
カラー写真にはなくて、モノクロ写真だけにある最大の魅力。それは、写真ゆえの「写真らしさ」「作品らしさ」に尽きると思います。 アルバムに思い出を残すことや、資料としての記録が目的の写真では、モノクロ写真は、すでに低コストで高画質のカラー写真に、主役の座を譲り渡しました。でも、写真には日常生活で親しまれる日用品のメディアという側面だけでなく、長い歴史と伝統のある趣味の一分野という側面もあるのですから、芸術作品の創作を目的とする、「表現するための写真」として、モノクロ写真が果たし得ることは、当然、まだ残されていると思います。
カラー写真は、目で見ている現実空間のシーンと同じ色が、印画紙の上に再現されます。他方、モノクロ写真では、現実の世界にある色彩の情報が取り除かれ、すべてを白と黒の濃淡だけに変換して描写されます。この視覚効果の違いが、写真が写真たる、存在の力をはっきりと見せてくれるというわけです。もし、鑑賞するための芸術作品として写真を撮るのであれば、写真としての存在感が意識できることは、とても大切です。いまや事実として、カラー写真プリントの市場規模全体にみる絶対的な数量では、一般消費者の方が撮られる実用目的の写真のほうが、趣味人の芸術表現を目的とした作品写真の量を圧倒しています。この状況では、芸術性を意図して撮影された写真でさえ、ほかの誰かに見せたときに、その作品性に気付いてもらいにくい可能性が高まるかもしれません。そこで、あえてモノクロ写真を選んでみれば、見慣れた普通のカラー写真との違いが明確になり、作品として異彩を放つことにもなるでしょう。
見る人に、1枚の写真が持つ作品性が伝わること、言い換えれば、被写体の実物を直接見たときの感覚とは違う、作品に表現された撮影者の個性に気が付いてもらえることは、芸術表現が目的の写真なら“生命線”とも言える重要な条件。その目的を果たす解として、写真に凝る人は、レンズ選びや構図、シャッターチャンスなどに、いろいろと工夫を尽くすわけですが、カラーではなくモノクロを選ぶという方法にも、期待できることはたくさんありそうです。一つ、実際にモノクロで撮った写真作品を見ながら、話を進めましょう。
これは、V字型に切り立った断崖の間から海を眺めた風景写真ですが、カラー写真で撮った場合とは、シーン全体の中で目にとまる部分が、相当に違ってくると思います。
これが、もし普通のカラー写真なら、海と空のブルーや、崖の上に生い茂る木々の緑のほうが先に目にとまり、それらが、ほかの被写体よりも強く意識されるでしょう。しかし、モノクロ写真では、これらの色彩から受ける印象の要素が、最初から写っていません。すると写真を見たときに、まず視線が向かう先としては、ゴツゴツとした断崖の表面や、水平線まで果てなく続く海原の波頭、そして沖に浮かぶ小舟などの「カタチ」が優先され、カラー写真のように、たまたま手前に位置している色の強い被写体だけに惑わされることなく、風景の奥行きや広がりを写真全体から感じ取ることができます。
そのとき見ているのは、写真の中にある特定の被写体だけではなく、作品としての写真の全体像であり、見る人は、単に写真を通して、そこに写ったモノを見ているのではなく、「まさに作者によって表現された写真を見ているのだ」ということを、明らかに実感できるはずです。こんな感じで、“パッと見”としてのインパクトがあるカラー写真とは違った、作品としての味わいの深さを楽しめるのも、モノクロ写真ならではの魅力でしょう。
写真を撮ろうと思ったとき、被写体の色に感銘を受けたのなら、その色をカラーで撮るのは適切な判断です。だけど、もし被写体の「カタチ」や、光と影の織りなす模様に感動して、写真でそれを表現したいと思ったのなら、白と黒のグラデーションが作るシンプルな空間の中で、被写体が持つ質感を浮かび上がらせるのも、また効果的な写真の表現方法になります。いつもの写真とは一味違う「作品」を撮ってみたいと思ったら、モノクロ写真にも気軽にチャレンジしてみてください。機材は、フィルムカメラ+白黒フィルムでも、デジカメの白黒モードでも、どちらでもOKです。
あなたの大切なお写真の現像・保存・プリントは写真専門店カメラのキタムラにおまかせください。