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写真何でも情報 EXPRESSコラム・ギャラリー

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2006.10.28

ちょっとした撮影のコツや本格的な撮影方法、最新の写真・カメラ用語解説など写真とカメラに関する最新の話題を毎週さまざまな角度から取り上げていく「写真何でも情報 EXPRESS」。これを読んでスキルアップ!

【秋の夜長の自家現像】
白黒フィルム現像の知識

前回、このコーナーでモノクロ写真の魅力についてお話ししたので、その関連として、今回はモノクロ用フィルム(白黒フィルム)を自分で現像できる基礎知識について、ざっと解説したいと思います。大多数の読者の方は、実際に自分で試してみることはないと思いますが、キタムラの店頭にあるカラーネガ用の自動現像機の中でも、工程の原理的には同じことをやっているので(実際には薬液の種類が異なります)、話のタネとしてお付き合いください。ここでは、難しい数字の話などは省略して、概略的に現像作業の流れがわかるようにしたいと思います。夏休み最終週にご紹介した、モノクロプリントのやり方と組み合わせると、自宅で全工程のモノクロ写真現像ができるので、興味のある方はバックナンバーもご参考にどうぞ。

白黒フィルムの準備

写真:LPLディロール135とパトローネ

LPLディロール135とパトローネ
(ISO感度は手動操作でカメラに設定します)

白黒フィルムは、一般に使われるカラーネガフィルムと同じように、パトローネに入って普通に1本ずつ売っていますが、ほかに100フィート(30.5メートル)の長尺フィルムとしても販売されています。白黒フィルムを自家現像する場合は、撮影前のフィルムも、自分で作業してパトローネに詰めたほうがメリットが大きいので、まず長尺フィルムの使い方から説明したいと思います。

長尺フィルムは、1本につながったフィルムの中身だけが長々と巻かれた缶詰になっていて、ここから必要な分だけを切り出し、パトローネに詰めて使います(もちろん暗室で)。1個のパトローネに入れるフィルムの撮影枚数は自分で決めれば良いので、12枚撮りでも、36枚撮りでも自在に調整可能です。撮影枚数は、市販フィルムの規格に合わせる必要はなく、自分で使いやすいように決めて構いません。長尺フィルムは、購入コストが安くできる上、本当に必要な枚数だけフィルムをカメラに入れるのでムダが出ず経済的。それゆえに、長尺フィルムは、大量に写真を撮るベテランの写真愛好家やプロカメラマンが利用することが多いようです。

長尺フィルムをパトローネに詰めて使える状態にするには、「ディロール」または「フィルムローダー」と呼ばれる専用の道具を使います。フィルムの缶詰を開けて道具にセットするまでは暗室作業ですが、パトローネへの装填は、この道具を使えば、光が当たっている場所で行っても大丈夫です。また、空っぽのパトローネ(とフィルムを巻くための軸)を用意する必要があります。パトローネは、写真用品としてそれだけでも売っていますが、普通のフィルムを現像した後に出る使用済みのパトローネ(ゴミになるもの)を写真屋さんでもらってきてリサイクルで使用することも可能です。(ただし、この場合はDXコードにカメラが反応して、感度設定が中身のフィルムとズレることがあるので注意が必要です。)

「ディロール」にセットされたフィルムの先端を、これから装填するパトローネの軸にまず粘着テープでしっかり貼り付けて、その上に円筒形の外装をかぶせ、それから「ディロール」を密閉してクランクを回せば、フィルムがパトローネの中に巻き取られていきます。必要な枚数のフィルムを詰め終わったら、ハサミで長尺の本体から切り離し、パトローネから出ている先頭部分(1コマ目より手前になるところ)のフィルム面に切り込みを入れておきます。切り込みの形は、市販されているフィルムを参考にしましょう(カメラによってはフィルムの先頭に切り込みがないと装填できない場合があります)。パトローネに詰めたフィルムを保存しておくためのフィルムケースは、ほかの市販フィルムで使用したものをリサイクルして使います。以前は、パトローネ同様、中身のない空っぽのフィルムケースだけでも束で売っていたのですが、近頃はデジタル化の影響で、さすがに空ケースだけという商品は少ないようです。

なお、富士フイルム製の30.5m巻フィルム(100フィート缶)は、「平成19年3月頃販売終了とさせていただきます」との告知が、メーカーのWEBサイトに明記されています。

フィルム現像の準備

写真:LPLチェンジバッグ

LPLチェンジバッグ

現像を始める前に必要なことは、まず、現像液や定着液などの薬液を、袋に書いてある指示通り、水に溶かして作っておくこと。薬液(粉末の状態で販売)は、基本的には、使うフィルムのメーカーに合わせて購入しましょう。フィルム現像の薬液は、印画紙現像用とは異なります。でも、薬液を作る作業手順は、印画紙現像と似ていますから、比較的スムーズに準備できると思います。

次にやることは、撮影済みの白黒フィルムをパトローネから取り出して、現像タンクに詰め替えること。これは、作業中に感光させてはいけないので、現像工程全体でも、かなり緊張感のある第一の関門になります。

フィルムの取り出しは、ダークバッグ(商品名はチェンジバッグ)と呼ばれる道具を使えば、手元だけ光から隠して明るい場所で行うことができます。ダークバッグは、例えるなら、首部分に穴が開いていないジャンパーの裾に、二重のファスナーを付けたようなもの。まず、裾に相当する部分を開け、フィルムや現像タンクなどの必要なモノをあらかじめ中に入れて密閉し、ゴムの付いた両袖部分を手前にして、外側から左右の腕を入れて使用します(ジャンパーを着るときの逆の形)。当然、作業中は中が見えないので、すべて手探りで行うことになります。慣れないとわかりづらいので、初めて使う方は、ダークバッグなしで作業工程を一通りシミュレーションして、コツをつかんでから本番に進んだほうが安心できるかもしれません。

ダークバッグには、フィルムと、現像タンク、フィルムを巻き付けるリール(タンクとワンセット)、それから、栓抜きと、ハサミも入れます。栓抜きは、フィルムのパトローネを分解するために、ハサミは、フィルム先頭にあるカメラ装填用の切り込み部分をカットして、一直線の断面を作るときと、最後にパトローネの軸に貼り付いている粘着テープを切るために使います。作業途中で入れ忘れに気付くと、かなり大変なことになるので、しっかり確認してからファスナーを閉めましょう。

なお、昔の市販フィルムは、パトローネの軸が飛び出しているほうを下にして、台や地面などの硬いところに叩き付けると、底が抜けて簡単に分解できましたが、いまのパトローネは頑丈なので、栓抜きがないと開きません。リールは、金属の渦巻きを2つ並べて、真ん中にある軸でつなげた車輪のような構造の道具。フィルムの両サイド(上下にある穴の並んでいるところ)を渦巻きの溝に合わせて順に巻き付け、現像タンク内で薬液がフィルム全体に浸透するように、適度な隙間を保つ目的で使います。なお、撮影したフィルムをカメラ内で巻き戻すとき、その先頭の部分を巻き撮らないで少し出しておけば、パトローネを分解しないでフィルムを取り出すことができます(ただし、新品と間違えて、同じフィルムで2度撮影しないように注意)。また、フィルムピッカーという道具を使って、パトローネを分解せずに、先頭部分が巻き込まれたフィルムを取り出す方法もあります。

この工程で、初心者の方にとって、最も難しく感じるのがリールへの巻き付け作業。リールには、溝式とベルト式の2種類がありますが、上手にフィルムを巻けることを前提とすれば、作業効率が良いのは溝式です。だから、できれば溝式の現像を覚えたほうが、後々、何かと都合が良いでしょう。ただし、ダークバッグを使った手探りの作業で、溝式のリールに的確にフィルムを巻き付けるのは、ある程度、習熟に時間が必要で、実際のところ、最初は、しばしば巻き付けに失敗することがあります。

写真:LPLステンレス現像タンクとタンクリール

LPLステンレス現像タンクとタンクリール(複数のリールが一度に入る大型タイプもあります)

何で難しいのかというと、リールの構造上、フィルムの幅よりも、リールの幅のほうが狭いから(現像中に脱落しないようにするため)。指先に力を入れて、フィルムがわずかに上下に曲がるような体制を保ちながら、フィルムの張り具合と巻くスピードを一定にしたまま、1本全体を手探りだけで巻ききる作業が、感覚的にわかりづらいのです。上手に巻けていない場合は、フィルムどうしが接触する部分が生じて、そこだけ十分に薬液が浸透せず、一部だけ未現像で残ったり、現像ムラを起こしたりすることがあります。溝式リールを初めて使う方は、有効期限切れのフィルムなどを使って、明るい場所で目視確認しながら、納得がいくまで練習してください(練習に使うフィルムは感光してしまうので不要なものを使ってください)。このコツを覚える訓練は、いかにも「修行」といった趣です。

リールにフィルムを巻いたら、最後にパトローネの軸をハサミで切り離し、現像タンクにリールごといれて、タンクのフタをします。ここまで終わったら、ダークバッグを開けても大丈夫です。薬液を使う現像作業は、明るい場所で行います。

薬液を使った現像作業

フィルム現像も、現像液→停止液→定着液→水洗という工程を進むのは、印画紙現像と同じです。ただし、印画紙現像のように、画像を見て確認しながら工程を進むことができないので、フィルム現像の場合では、時間を正確に測りながら、指定された通りの手順を守って作業する必要があります。いずれの薬液も、現像タンクのフタ本体の中央にある注入用の小さなフタの部分から注入して、指定時間が経過した後で、同じ場所から外へ出します。現像の全工程が終わるまで、大きなフタを開けてはいけません(感光します)。

現像時間、定着時間などは、使用するフィルム、薬液や、増感の有無などによっても微妙に異なるのでここでは省略しますが、全工程にわたって繰り返す動作として、「かくはん」があります。これは、タンクの中に水流を作って、フィルム全体にムラなく薬液を行き渡らせるために行います。溝式リールで使うステンレス製タンクの場合は、垂直方向にタンク全体をゆっくりと回すと良いでしょう(天地の入れ替えを繰り返す)。かくはんは、一定時間ごとに行えば良く、延々と回し続ける必要はありません。また、タンクの中に気泡を作らないようにすることも重要なので、無論、カクテルを作るように、タンクを激しくシェイクすることなどは厳禁です。ゆっくり一定の速度でかくはんした後、軽くタンクの底を叩き、フィルム面に付着してムラになりかねない、薬液内の気泡も除去しておきましょう。

もう一つ重要なことは、薬液を入れる順番の厳守。現像液と定着液を、間違えないように、くれぐれも注意してください。未現像フィルムに、先に定着液を入れてしまうと、写っているはずのが画像が全部消えて、ベースの色しか残りません。

定着液を経て、水洗工程まで完了したあとは、フィルムをタンクから取り出して、リールからも外し、長いまま部屋の天井などから吊るして自然乾燥します(もちろん陰干しで)。この乾燥工程で使う道具として、専用のクリップも販売されています。十分に乾燥したら、6コマずつハサミでカットして市販のフィルムシートに詰めれば、DPE店で見覚えのある現像済みフィルムの状態にたどり着きます。ここまでくると、ほっと一息といった感じですが、使った薬液や道具の後片付けもお忘れなく。現像液、定着液は、何回か繰り返して使えます。道具は、よく洗って乾燥させておきましょう。

写真:LPLフィルムクリップ

LPLフィルムクリップ 両オモリ付

自家現像の楽しみ

以上が、白黒フィルムを自家現像する際の、一連の作業工程となります。薬液に浸す時間などの詳細は、各製品の説明書や、専門書などを参考にしてください。これに印画紙現像を組み合わせると、モノクロ写真に関するすべての作業を、自前で行うことも可能となるわけです。効率性を考えれば、自前でフィルム現像からすべてを行う必要性は、現在ではほとんどありませんが、雑学として作業工程の流れを覚えておけば、撮った写真がフィルムや紙に記録される、その仕組みを深く理解することもできるでしょう。いま、当たり前のように使っているデジカメも、そのブラックボックスのベースにある技術として、実はフィルムのこんな役割を受け継いでいるのだ! ということがわかってくると、写真を撮ることも、もっと楽しめるようになるのではないかと思います。ご興味のある方は、ぜひフィルム現像から始まる全工程の作業も、ご自身で体験してみてください。現像作業に必要な道具を揃えたいというご要望については、全国のキタムラ各店にてご相談を承ります。

 
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