写真何でも情報 EXPRESSコラム・ギャラリー
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2007.06.01
ちょっとした撮影のコツや本格的な撮影方法、最新の写真・カメラ用語解説など写真とカメラに関する最新の話題を毎週さまざまな角度から取り上げていく「写真何でも情報 EXPRESS」。これを読んでスキルアップ!
フィルムとデジタル、その画質の再現性や、描写の味わいについては、いまだ賛否両論があります。でも、このフィルムとデジタルという、二元論的な対立軸だけで優劣を言うのは、ちょっとばかり比較の基準が、おおざっぱ過ぎてはいないでしょうか? フィルムの画像は化学変化で色素を定着した「モノ」、対して、デジタルカメラの画像は、多くがJPEGというファイル形式で記録された圧縮画像の「データ」。
一眼レフタイプの場合、「RAW」(発音はロー)での記録もできますが、このファイル形式名は総称であり、実際には各機種別にデータ形式が異なるので、全メーカー・全機種に共通の規格は、現実的にはJPEGしかありません。それゆえに、技術論やコストの問題は別として、人の目で見た感覚で、フィルム全体とデジタル全体のどちらが良いかと語るなら、フィルム対JPEGという対立軸をとらない限り、正確なジャッジはあり得ないでしょう。
そんなわけで今回は、デジカメのJPEG画像について、その写り具合を、違うタイプの被写体で実際に確かめてみました。
同じデジタル一眼レフカメラを使って、画像サイズ、画質設定とも同じモードで撮影した、被写体の違う写真が2枚あります。これらの写真を例に、それぞれの特徴を見てみましょう。写真の1つは、横浜(神奈川県)の有名観光スポット、山下公園の近くにある小さな船着場の周辺をとらえた都市風景。
もう1つは、「あやめ」の花が咲いている様子を撮影した自然風景です。ここでは、被写体の主観的な好みは別として、実物に対する画像の再現性について考えます。
デジタルカメラの場合、1枚の写真を、写真として存在させているベースは、「液晶」です。紙へのプリントも、もちろん可能ですが、撮影した写真を最初に見る時点から、カメラ背面の液晶モニターを使うことになるほか、パソコンを使ってスライドショーを見る場合でも、結局、見ている対象は「液晶」の画面なのです。そして、「この写真をプリントしてみようか」という判断を行うときに見ている対象も、また「液晶」であることに変わりはありません。よって、デジタルでは、まず「液晶」ありき。フィルムの写真は、色素のある「物体」として存在していますが、デジタル写真は、その意味で考えると、見ることはできても、物体としては存在していないということになるでしょう。それゆえに、JPEGの画質より先に、まずは液晶の特性を考えておく必要性もありそうです。液晶の画面はガラス製ですから、その光沢感のある硬い質感に映える被写体であったほうが、写真画像を再生したときには、違和感なく眺めることもできるだろうと考えられます。ただし、紙にプリントした場合は、必ずしもこの限りではないかもしれません。デジタル写真の画像そのものには、ベースになる物体がないので、紙にプリントした場合には、紙の質感・色調から影響を受けることになります。
さて、ここにある2枚の写真を、パソコンの液晶画面で見比べた場合、もともとから、実物が金属やコンクリートなどの硬質な素材でできている都市風景のほうが、どちらかというと“液晶映え”するように思えませんか? 一方で、自然の植物である、あやめの花は、本物が持っている羽根のようなやわらかで繊細な感触や、色彩のグラデーションが画像では失われてしまい、逆にコントラストが強調されて、どこか陶器のような冷たい印象になってしまった感じがします。このように違う種類の被写体を並べて見比べれば、デジタルカメラ、およびその画像の再生装置では、被写体によって、やはり再現が得意なものと、不得意なものがあるのかもしれません。
カメラユーザー全体を見渡すと、最も撮影頻度が高い被写体は記念写真などの人物で、主として風景写真を撮るユーザーは、写真愛好家層に限られることが多いようです。ただし、風景写真の中にも被写体別の類型があって、実際には、自然風景を撮る人が写真愛好家の多数派を占めており、都市風景だけを撮る人のほうが少数派です。この被写体別ユーザー人口が一定であるとすれば、おそらくは機材にデジタルカメラを使う場合も、写真愛好家の大半は、自然風景を選んで撮っている可能性が高くなると思われます。
ベテランの写真愛好家には、「フィルムの味には替えられない」との理由で、デジタルカメラを敬遠される方も多いのですが、こうして考えてみると、自然風景に限っては、「液晶で写真を見るデジカメとの相性が、実はあまり良くないのでは?」という疑問がわいてきます。被写体選びは、撮る人それぞれの主観的な好みによりますから、おそらくフィルムが全盛だった昔から自然風景を好んで撮っている人は、デジタルで液晶映えするような他の被写体はあまり撮影しないかもしれません。すると結果的として、写真の写り具合に深い関心がある愛好家の方の場合は、もとより自然風景に限定してデジタルカメラを使う形にもなりやすいですから、液晶のガラス上に表示された写真の質感に対して、どうしても敏感になるという可能性もありそうです。つまり、最もカメラの性能に厳しい目を向ける人が、実は、最もデジタルが得意としない被写体を選んで撮っているのではないか? ということ。これが本当なら、愛好家層についてはフィルムの需要がなくならない理由も説明できます。
ちなみに、人物を撮影した普通の記念写真などで、あまりフィルムとの比較が問題にされないのは、もともとカメラ・写真関連の製品は、人の顔を撮る場合に最も高い性能が発揮されるようにできているから。これはフィルムでも、デジタルでも変わりはありません。カメラユーザー全体が撮影する写真のうち7割までが人物であるという統計データもあるので、マーケティング戦略として考えても、商品であるカメラが人物撮影を中心に開発されるのは、やはり当然のことなのです。
ご覧いただいている2つの写真は、カメラボディ内における露出以外の基本的な設定は同じですが、撮影した画像ファイルのデータ量には大きな違いがあります。どちらも、JPEG形式での記録で、都市風景のほうは約3100キロバイト、あやめの花のほうは約2300キロバイトです。その意味するところは、あやめの花を撮った写真のほうが、単純計算では画像の圧縮率が高い、つまり画像センサーの最高性能に対して、保存されたデータ量の間引きが多いということ。
デジカメは、JPEGで記録する場合、撮ってすぐに画像データを圧縮処理しているので、後で再生して見る写真は、基本的には圧縮済みの画像データを、液晶に表示しただけになります。(RAWモードで記録すれば非圧縮画像を保存することも可能ですが、この機能がないデジカメもあります。また、RAWで撮った画像は、パソコンを使って液晶画面を見ながら、後で専用ソフトを使って「現像作業」を行う必要があります。)よって、画像センサーの有効画素数だけでなく、JPEG画像の圧縮のされ方次第でも、画質は左右されることがあります。
圧縮されたデータ量の多少は、カメラのモード設定のほか、光線状態も含めて被写体が見せる外観の複雑さや、画面にとらえた色の数、そして、明るい部分と暗い部分の差などによっても、写真1枚1枚で微妙に変化するもの。パソコン上で、撮影した全写真のファイル名を並べてデータ量を比較すると、それぞれに違いがあることがわかります。
データ量の数値を見る限り、都市風景のほうが、比較的圧縮されていないことになりますが、そこにある被写体の場合、もともと輪郭が直線的で、なおかつ同系色にまとまっており、背景に明るい空が占める部分も少なく撮っていますから、この画像に固有の特性として、JPEG圧縮はやりやすい部類に入ると思われます。つまり、データを圧縮しても、その影響による画質劣化が再生時点で現れにくいということ。
それでも、この写真のデータ量が多い理由は、おそらく写る範囲が広いため、多くの被写体が画面の端まで複雑に絡み合う構図となったからでしょう。こんな感じの直線的な被写体を撮る場合なら、JPEGの圧縮画像でも、見た目の高画質は維持しやすいようです。ということは、人物以外を撮る場合でも、業務用の商品サンプル写真などであれば、デジタルは、より実力を発揮しやすいと言うこともできます。
あやめの花の写真は、被写体と背景という構図そのものは単純で、それゆえに記録されたデータ量は少ないですが、画面の見た目では、被写体の輪郭に曲線が目立ち、背景ボケもあります。また、色調を見ると、1つの花の中にも多様な色彩が混在していることがわかります。あやめの花弁には、紫と白で構成される細いラインのシマ模様と、花全体を彩る濃淡のグラデーション、そして花の芯にはアクセントとなる黄色。これが複数の花々について、微妙な違いを伴いながら繰り返されている上、背景は明るさの異なる緑色で、花の色とは補色に近い関係です。その見た目の感じでは、JPEG圧縮が少々やりにくい写真であるようにも思えます。
つまり、データを圧縮すると、再生時点で画質劣化が目立ちやすいということ。1つ1つの被写体の内側にある、この繊細な色の違いを写真で再現できるかどうかは、画像センサーでレンズの像をとらえてから、その元画像をJPEG圧縮して保存するまでの全工程を電子的に演算する、画像処理エンジンの性能次第です。フィルムの場合、画像の記録は物質の化学反応で行っており、デジタルのように画像を数値データに変換してから圧縮処理するというプロセスそのものがないので、被写体の複雑さが写真の画質に直接影響するという問題は、まったく発生しません。
デジタルカメラの場合、小さな受光素子の集合体である画像センサーと、被写体にあるコントラストの高い部分が相互に影響して、データ圧縮以前に、モアレ(干渉縞)や、偽色(演算エラーにより被写体に存在しない色が現れる現象)が発生する場合もあるので、模様が細かく複雑な花の写真は、簡単に撮れそうでいて、実はデジカメにとっては難易度が高い被写体なのかもしれません。
また、植物の多くは、花の色と葉っぱの色が補色になるので、構図によってはコントラストがより高くなる傾向もありそうです。そのため、細部にモアレや偽色が生じてしまう可能性も比較的多いと考えられ、仮にそうなれば、JPEG圧縮してデータを間引く時点でも画質の再現性に影響は出ます。それゆえ、最終的に液晶画面に表示された画像についても、実物の見た目と違った印象に映ることはあり得るでしょう。
あやめの写真では、複雑なシマ模様のある花弁は小さく、同系色が占める背景部分の面積は大きいので、JPEG圧縮工程では全体の色調傾向につられて、細部の模様やグラデーションの再現が犠牲になった可能性も想定できます。
写真撮影の感光材料は、一昔前なら、フィルム以外に代替手段がありませんでした。しかし、新たにデジタルカメラが誕生し、画質性能的にもフィルム同等レベルを達成できたことで、ユーザーはフィルムとデジタルのどちらかを、自由に選択できる機会を得ることができました。
この状況を良い方向へ考えるなら、フィルムとデジタルそれぞれの特性を知って、より優れていると思うほうを撮影目的に応じて使い分けるのが、最善の策であると言えそうです。デジタルカメラが、JPEG画像を液晶を使って見る装置である以上、被写体によって向き不向きが出てくることも、ある意味では当然ですから、デジタルが得意ではない被写体の場合は、従来のフィルムを選ぶというような判断があっても、もちろん良いでしょう。
写真がデジタルであることの最も大きなメリットは、画質を劣化させずにバックアップデータを作ることができたり、インターネットを経由して画像を転送できたり、パソコンを使って写真入りの印刷用版下を作りやすいなどの点にあります。つまり、フィルムよりデジタルが画質的に優れているから、デジタルカメラへの代替が進んだというわけではありません。したがって、従来のように写真の鑑賞、または紙焼きプリントを目的とする場合では、フィルムでも、デジタルでも、主観的にユーザー個人が好む方法を選べる状況にあるので、これをあえて二元論的にどちらが良いと断定する必要はなく、そのどちらも並行して、使い分けができることこそが本質的には重要なのではないかと思われます。
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