写真何でも情報 EXPRESSコラム・ギャラリー
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2007.07.06
ちょっとした撮影のコツや本格的な撮影方法、最新の写真・カメラ用語解説など写真とカメラに関する最新の話題を毎週さまざまな角度から取り上げていく「写真何でも情報 EXPRESS」。これを読んでスキルアップ!
写真用のレンズには、標準のほか、広角、望遠の大きく分けて3タイプがありますが、現在では広角から望遠までを1本でカバーするズームレンズが主流になっているので、一眼レフの場合でも、各タイプ別に分けてレンズを購入することは、以前より少なくなっています。
しかし、ズームレンズであっても、広角側と望遠側で光学的な効果が異なる点は、単焦点レンズと何ら変わりはないですから、実際の撮影では、各焦点距離について描写特性を知っておくことも大切です。そこで今回は、一眼レフ用の単焦点レンズを例に挙げて、焦点距離によって異なるレンズの特徴を解説したいと思います。
写真撮影で使うレンズでは、ピント合わせと、絞りの調節を行う必要があります。したがって、最も基本に忠実に作られているレンズでは、被写体までの距離と、絞りの設定値がレンズを見ればわかるようにできています。ズームレンズの場合では、これらの表示が省略されている例も多いのですが、一眼レフ用の高級レンズであれば、最低限、ピントを合わせた被写体までの距離を目盛りから読み取ることは可能。さらに単焦点レンズなら、設定した絞り値に対応する被写界深度の範囲も、距離目盛りからわかります。
AF一眼レフ用のレンズでは、ピントリングの回転部分がカバーされているので、その距離目盛りの全体を一度に見ることはできませんが、MFに切り替えてピントリングを回してみると、距離目盛りには一定の特徴があることに気付くと思います。レンズのピントは、近接撮影時ほど細かな調整が必要で、その逆に、無限大側の遠距離に移動するにつれて調整が大ざっぱになる傾向があり、この特徴は全レンズに共通です。したがって、ピントリングを調整する回転角も、被写体までの距離によって変わることになり、被写体が遠くなるほど、ピント合わせの調整幅は狭くなっていきます。MF撮影時には、被写体のある位置によってピントリングに触れた指先の動かし方を加減すると、単純にファインダーのボケた像だけを見ながらピントリングを左右に振り回すより、素早く正確なピント合わせができます。これは、距離目盛りが付いていないズームレンズをMFで使う場合でも同じことなので、覚えておいてください。
ところで、ピントリングの距離目盛りの間隔は、単焦点レンズでは焦点距離によって、それぞれ異なります。それだけでなく、最も近い位置にピントが合う限界の撮影距離も、レンズによって異なります。加えて、レンズの焦点距離は、絞り値に対応した被写界深度にも大きな影響を与えます。こうした特徴は、高倍率ズームレンズでは表示がないためよくわかりにくく、また一眼レフ用の交換レンズであっても、最近のAFタイプでは絞りをカメラボディ側から制御する方式が多いので、レンズ側のみで性能のすべてを知るのは難しくなっているようです。しかし、レンズに表示がなくてもズーム操作で焦点距離が変化すれば、それに応じて光学的な効果も変化しているので、レンズの性能を十分に引き出して撮影に活用するなら、このような特徴も、ぜひ知識としては覚えておきたいところでしょう。
ここで注目したいのが、レンズ単体でも基本性能がわかりやすい旧式の単焦点レンズ。標準・広角・望遠それぞれを例に挙げて、特徴を比べてみましょう。今回の例は、キヤノンがEOSシリーズを発売する前に普及していた、MF専用の単焦点FDレンズです。製品写真には、キタムラ「ネット中古」のコーナーに掲出されている画像を引用しました。
35ミリ判のフィルムを使用する一眼レフカメラの交換レンズでは、50mmのことを標準レンズといいます。人間の肉眼に近い画角で、画像の歪みや背景ボケなどにクセがなく、見た目通りに撮れることが特徴です。昔の一眼レフでは、ボディを購入すると、通例、この50mmレンズがセットされていました。ちなみに、F1.4は開放絞りが明るい高級レンズで、これより少し暗めで普及価格のレンズも発売されていました。
レンズの鏡筒を見ると、メートル表示とフィート表示を併記した距離目盛りが、ピントリング上にあります。単位が2つあるのは、カメラが日本の輸出製品であるという事情からです。そのすぐ下、「3メートル」の位置の真下あたりに刻まれているオレンジ色の指標がピント位置で、カメラに装着すると、ちょうど上から見て中央の位置になります。その横に、「4、8、11…」と左右対称の間隔で刻まれている数字は絞り値に対応し、被写界深度を示す指標。中央の指標に、ピントリング上のいずれかの距離が合うとき、それに対応した被写界深度を、距離目盛りの幅から知ることができます。ちなみに、被写界深度は、正確なピント位置の前後で、ボケがなくシャープに写る範囲のこと。単焦点レンズでは、絞り値の数が大きいほうが、被写界深度は広くなるということも、レンズを見るだけでわかります。被写界深度の目盛りがあるのは、基本的には単焦点レンズのみで、ほとんどのズームレンズには付いていません。
この例の場合、「3メートル」にピントが合っているので、F11まで絞れば、ピント位置より前の2メートルから、その先の5メートルくらいまではシャープに写るだろうということが判読できます。この条件において特に注目したいのは、手前側の余裕が1メートルであるのに対して、ピント位置より後ろ側の余裕が2メートルであること。レンズの被写界深度は、後ろ側が深いので、奥行きのあるものを撮るなら、ピントはちょっと手前側に合わせるのがコツというわけです。なお、被写界深度はピントを合わせた距離ごとに、相対的に変わるので、「0.8メートル」にピントを合わせた場合、同じ絞り値でも被写界深度は浅くなります。このようにして被写界深度の目盛りは、ピントリングの操作に連動して、天体観測で使う星座早見盤のような要領で表示を読み取り、絞り値の設定に応用するわけです。
なお、一番下にある数字の列は、MF時代ならではの絞りリング。これは一部のメーカーを除けば、AFレンズには付いていないので、現在では、あまりなじみがないかもしれません。しかし、AFレンズでも単焦点なら、距離目盛りと、被写界深度の目盛りはあるので、こんな感じで焦点距離による表現特性を知ることは可能です。
MFレンズでは、ピントリングに書かれている距離表示の全体を一度に見ることができるのも特徴の一つ。そこで、まずはこの50mmレンズの距離目盛りの間隔を覚えて、次に挙げるレンズと比較してみてください。この製品写真では、あまりよく見えませんが、5メートルの先の距離目盛りは、「10メートル」「∞」と続きます。
これは、被写体までの距離が同じ条件の場合に、より広い画角を得られる広角レンズ。焦点距離は20mmで、広角の中でも「超広角」といわれるタイプです。標準50mmレンズに対して、「∞」の1つ手前の距離目盛りが「3メートル」であることや、被写界深度を示す指標の間隔が広いことが特徴として挙げられます。最短撮影距離も、50mmレンズよりは短く、そのため1メートル以下の目盛りが細かくなっていることも大きな違いです。ピントリング上の目盛りで、「3メートル~∞」の幅よりも、「0.4~0.5メートル」の幅のほうが広いことなどにも注目してください。ただし、このくらいの近接撮影でも、ファインダーの見た目の画角が標準レンズより広くなるので、実際の撮影では、あまり近付いて撮っている気がしないかもしれません。広角レンズにおけるこの傾向は、焦点距離の数字が小さくなるほど強くなり、ピントの合う範囲はより広くなります。
このレンズの製品写真では、ピント位置の指標は、「0.7メートル」あたりにありますが、設定した絞り値が開放のF2.8でも、その前後で合計20センチ弱くらいにはピントが合うことがわかります。そして、いっぱいまで絞ってF22に設定すると、このピント位置のまま無限大までピントが合うことが判読できます。つまり、広角レンズでは、標準レンズと比べて被写界深度が極めて広いので、あまりピント合わせを気にしなくても良いのです。これこそが、スナップ撮影で広角レンズが多く使用される理由で、広角レンズ特有の画面の歪みと合わせて、迫力ある写真が撮影できます。その逆に、一般的な撮影距離では背景をぼかすことが苦手なので、人物のポートレート写真などでは、広角レンズの出番は少なくなります。
このような特徴から、広角レンズは、単に引き(奥行き)がない場所で、横方向に広い範囲を写すためのレンズというだけでなく、被写界深度を広く確保するためのレンズであることがわかります。したがって、広角系の焦点距離では、F値も絞り気味にして使うことが基本。ズームレンズでも、風景などをバックに記念写真を撮るような状況では、焦点距離は広角側を使うこととして、人物の写る大きさは撮影者自身が前後に歩くことで調整したほうが、ズーム機能だけに頼る撮り方より、背景までシャープな画像が得られます。なお、ズームレンズで人物を大きくとらえて背景をぼかしたい場合は、広角レンズの描写特性では不向きなので、正反対の望遠側にズームし、さらに絞りを開いて撮影します。
こちらは、ズームレンズが登場する以前には、お手軽な中望遠の代表格だった135mmレンズ。標準50mmレンズや広角20mmレンズと比較して、遠距離側の目盛りが細かくなっており、「∞」の手前の目盛りが、「30メートル」「15メートル」であることなどに大きな違いがあります。ちなみに、これより焦点距離の長い(ミリ数が大きい)超望遠レンズでは、さらに遠距離側の無限大に近い目盛りが細かくなります。これら3つのレンズを比べると、距離目盛りの付け方、つまりピントリングの回転角が、焦点距離によって大きく変化する傾向があることは明白でしょう。しかし、ズームレンズの場合は、こうした違いのある焦点距離を統合して共通の距離目盛りを付けるので、どうしても目盛りの刻みが大ざっぱになってしまいます。最近の一眼レフはAFが標準仕様なので、実際の撮影では、違和感を覚えることはまれですが、MFに切り替えて撮影することが多い場合、高倍率のズームレンズでは、望遠の遠距離側と、広角の近接側で、やや小回りが効きにくい印象を受けるかもしれません。
被写界深度の指標を見ると、広角レンズとは違って、望遠レンズでは同じF値でのピントの幅が極めて狭いことがわかります。この製品写真でのピント位置は、およそ「15メートル」ですが、F16まで絞っても、無限大には届かないことが読み取れますね。つまり、どんなに絞って撮っても、望遠レンズでは、ピントを合わせた主要被写体以外は基本的にボケて写るということ。それならば、必要以上に絞ったところでシャッター速度が下がって手ブレするだけなので、望遠レンズは、絞りを開け気味にしてボケ味を生かす撮り方が、しばしば好まれます。では、なぜF22などの絞りがあるのか疑問に感じますが、おそらくは古い時代の一眼レフでは、シャッタースピードの上限が1/1000秒までの機種も多かったので、高感度フィルムを使用したときや、明るい海辺などの撮影で露出を対応させるために、F値の上限にも余裕が求められたのではないかと思われます。
ズームレンズの場合、距離目盛りが標準50mm程度の仕様のままで、望遠側が300mmくらいに達するものもあります。そのレンズで「∞」の1つ手前の目盛りは、おそらくは「30メートル」ではないでしょう。そして、メートル表示の距離目盛りの間隔も、ズームレンズではもう少し大ざっぱな刻みになっているはずです。とはいっても、そのズームレンズを望遠で使う場合、遠距離側のピント合わせに、単焦点レンズと同等の厳密さが要求されることに変わりはありません。たとえ、距離目盛りが大ざっぱであっても、ピント合わせそのものまで大ざっぱで良いというわけではないので、ズームレンズを使用するときは、可動域の中からその都度に選んだ焦点距離に応じて、表現特性の違いがあることを意識しながら撮影してみてください。ズームレンズは、ここに挙げた3本のレンズの特性を、ひとまとめにしたもの。一見すると簡単そうに思えますが、焦点距離ごとに描写特性が激変するレンズでもあるのです。
さらに注意が必要なのは、コンパクトデジカメや、普及型の一眼レフ用ズームレンズを使用する場合。このタイプでは、単焦点レンズとは違って距離目盛りや被写界深度の指標がなく、よって距離感を把握しにくいのですが、(一眼レフの)ファインダー像も、レンズの絞りを常に開放の状態で見ているものなので(シャッターを切った瞬間だけ絞り羽根が設定値まで動く)、どのようにしても距離感がよくわかりません。そこで被写界深度に疑問を感じるときは、プレビュー機能を使って実際の絞り値を反映した状態で、ファインダーを確認してください。ただし、このとき光量も低下するため、一眼レフの光学ファインダーでは像が暗くなります。
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