写真何でも情報 EXPRESSコラム・ギャラリー
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2007.08.03
ちょっとした撮影のコツや本格的な撮影方法、最新の写真・カメラ用語解説など写真とカメラに関する最新の話題を毎週さまざまな角度から取り上げていく「写真何でも情報 EXPRESS」。これを読んでスキルアップ!
コンパクトデジカメに付いているレンズは、現行機種ではすべてズームレンズで、その開放F値(最も小さい数字の絞り)は、F2.8~5.6程度。一般的な用途では十分な明るさですが、これがズームレンズである以上、この開放F値が限界です。デジタル一眼レフでも、ズームレンズで最も明るいものは開放F2.8ですが、こちらの場合は、ズーム機能がない単焦点レンズに交換することもできるので、F2.8以下の数字になる大口径レンズを使った表現も楽しめます。
F2.8より明るい絞り値は、F2、F1.4と続きますが、これで撮影すると、どんな写真が撮れるのか? 実際に撮影した例を見ながら、解説を進めます。
製品例: ソニーα用(ミノルタ・コニカミノルタ互換マウント)の50mm/F1.4レンズ
ソニーブランドになっても、単焦点の50mmレンズは発売を継続。レンズ鏡筒に、距離目盛り(最短撮影距離~無限大)と、被写界深度目盛りも付いています。これと同じ性能の標準レンズは、ほかのメーカー各社もラインアップ。キヤノンとニコンには、開放F1.2の高級レンズもあります。多くの普及型デジタル一眼レフで使用する場合、実効焦点距離は1.5~1.6倍程度となります。
35ミリ判フィルム用の一眼レフで、標準レンズと呼ばれるのが単焦点の50mm。このレンズは、描写にクセがなく、見た目に近い画角で撮れることが特徴ですが、もう一つ、あらゆるレンズの中でも、開放F値が最も明るいという特徴があります。望遠レンズや広角レンズでは、単焦点でも一部の高価な製品を除けば、開放F2.8程度のものが大半を占めますが、50mmでは開放F1.4がスタンダード。このレンズであれば、比較的費用をかけずに、大口径レンズならではの表現を楽しむことができます。
単焦点レンズゆえに近接性能が高いという特性もあり、分類上はマクロレンズではなくても、ある程度の接写には、そのまま利用可能です。デジタル一眼レフに装着して使う場合、APS-Cサイズでは実効焦点距離が伸びるので(35ミリ判換算)、感覚的な焦点距離では約80mm程度の中望遠レンズに相当。その独特の描写を生かして、コンパクト機にはない写真の魅力を味わうこともできます。
絞りは、開けば開くほど被写界深度が浅くなり、ピントを合わせた1点以外の部分がボケやすくなります。そして、この被写界深度は、カメラから被写体までの撮影距離が近付くほどに浅くなる特徴もあるので、絞りを開いて、レンズに近い被写体を撮影すると、背景が大きくボケた写真になります。
これが「ボケ味」というものですが、この描写力を生かせるのが、単焦点レンズならではの性能です。では、ズームレンズでもあり得るF2.8を下回って、F2、F1.4で撮影するとどうなるか、デジタル一眼レフを使用して、実際に撮影した写真をご覧ください。
絞り値をF2に設定して、絞り優先AEで撮影した写真です。F2は、F2.8より1段開けた絞り値。これは、開放F1.4のレンズの場合、全開より1段だけ絞ったことになります。被写体はチューリップの花で、春先に撮影したものです。撮影場所は横浜市内中心部、横浜スタジアム(プロ野球の横浜ベイスターズが本拠地としている野球場)の場外にある、公園の花壇。この場所は、横浜では知る人ぞ知る、チューリップの名所です。
さて、絞りF2では、ピントの芯に位置する花がシャープに写っていて、その後方にある花も、形がわかる程度に輪郭がボケていて、この花の一群が、徐々に背景から浮かび上がるような感じの写真になっています。この花壇の背景には、横浜市役所などの建物があり、花壇の外側の風景については、官庁街の中心部らしく雑然としていますが、大口径レンズを使って背景を大きくぼかすことで、撮影場所に関わらず、天然の植物のような雰囲気を演出できました。
絞り値を、多くの50mmレンズでは開放となる、F1.4に設定した場合の例です。ピントの芯が合っている部分の精度は変わりませんが、背景のボケが、F2の場合より大きいことに注目してください。背景の葉っぱの部分は、ほぼ完全に輪郭がボケて、その姿形もかき消されてしまいました。この写真だけを見るのであれば、公園の花壇に咲いていた花だと思う人は、誰もいないでしょう。F1.4では被写界深度がほとんどないも同然なので、チューリップ1つの中でも、ピントを合わせた一点以外では、微妙にボケているところがあります。
なお、ここにある写真は、WEB画面に入りきるようにリサイズした上でJPEG保存したものなので、リサイズ・圧縮段階で輪郭線が緩くなる場合があることを、ご承知おきください。ご覧の写真2枚からわかるように、大口径レンズで絞り値を増減すると、ボケ具合の大きさを、表現意図に応じて使い分けることができます。一方、ズームレンズでは、普及タイプの場合、開放F4前後の性能となるので、構造的に小さな背景ボケしか得られません。
絞りを開いて、これくらいの近距離で撮影すると(50センチくらい)、少し風が吹いただけでも、フォーカスが狙った花から外れてしまうので、ピント合わせは慎重に行い、ピントが合ったら素早くシャッターを切りたいもの。奥行きのある立体的な被写体や、動きのある被写体の場合、被写界深度を少し多めに確保するために、開放ではなく1段絞って撮影したほうが撮りやすいこともあります。絞り値をどう選ぶかということには、すべての状況に通用する正解がなく、結局それは、撮る人それぞれの好みで決まるので、実際に撮りたいものに合うように、気の向くまま自由に選んでください。
最新製品では、コンパクトデジカメのレンズ性能も高度になっているので、ごく普通の撮影用途に限れば、コンパクト機でも一眼レフでも、写真の仕上がりに見られる画質の差は縮まっています。しかし、背景ボケなど、単焦点レンズにのみ特有の光学性能を活用するには、レンズ交換が可能な一眼レフが欠かせません。今回の写真2点をご覧いただけば、現実の見た目と、作画意図を持って撮影した写真の間には、明らかな違いのあることが実感できるのではないかと思います。
写真は、現実空間に存在する被写体を、そっくりそのまま機械的に写し取っているのではなく、撮る人の感覚に沿って、被写体の印象を描き出すことができるもの。そんな表現さえも可能とする機能を持っているのが、一眼レフ+単焦点レンズなのです。コンパクトデジカメや、デジタル一眼レフの標準ズームレンズ(キットレンズ)より、一味違う写真を楽しむなら、次なるステップとしては、絞り値の選択幅がズームレンズより広い、単焦点レンズを選んでみるのも、また面白いかもしれません。特に、植物と小動物の観察や、人物のポートレート撮影に関心がある方には、F2.8未満の絞りが使える大口径レンズがおすすめです。
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