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ホームカメラ・写真情報写真何でも情報 EXPRESS2007年

  • Vol.456
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    ※掲載されている情報(製品の価格/仕様、サービスの内容及びお問い合わせ先など)は、ページ公開日現在の情報です。予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

    2007.10.12

    ちょっとした撮影のコツや本格的な撮影方法、最新の写真・カメラ用語解説など写真とカメラに関する最新の話題を毎週さまざまな角度から取り上げていく「写真何でも情報 EXPRESS」。これを読んでスキルアップ!

    【カメラもいろいろ】
    デジタルカメラは、あのディスクカメラの再来か!?

    フィルムからデジタルへ、カメラが進化していく過程では、実は、35ミリ判以外にも、いろいろな新規格のフィルムが現れては消えていった経緯があります。その中でも、とりわけ異色だったのが、いまから四半世紀前の1982年に発表された、「ディスクカメラ」と呼ばれる規格でした。このカメラ、商品寿命としては短命に終わりましたが、いま改めて考えると、これこそが現在のコンパクトデジカメの卵だった可能性が見えてきます。

    フィルムのダウンサイジングという発想

    一般向けフィルムというと、35ミリ判フルサイズと呼ばれる、実効画面で縦24×横36mmの規格が、最も多く使われています。現在、デジタルカメラ以外の一般消費者向けカメラで、実質的に規格が現存しているのはこのサイズだけですが、デジタルカメラが実用化されるまでの間には、35ミリ判より小さなフィルムの規格も、幾つか存在しました。こうした規格の多くは、フィルムそのものを小さくすることで、カメラ本体を小さく、軽くしようという発想から生まれたものです。

    その新規格には、(映画用フィルムを除く写真撮影用フィルムとして)これまでに、35ミリ判ハーフサイズ、ポケットカメラ専用サイズ、APSサイズなどがありましたが、これらは、すべて35ミリ判と同じロールフィルム系です。たくさんのコマを連続して撮影できるように、長いフィルムを軸に巻いた構造で、ポケットカメラ専用サイズ、APSサイズは、フィルムの幅がより小さくなるように設計されていました。ただし、いずれも感光材料としての性能は、同じ時代に発売されていた35ミリ判フィルムと変わりませんでした。フィルムの幅が狭ければ、当然ながら、実効画面寸法も小さくできるので、撮影機材として、それぞれ専用のカメラが発売されていました。多くは、いわゆる初心者向け(写真撮影が趣味や仕事ではない人向けという意味も含む)の簡単なカメラだったので、上級者やプロ写真家が、この種の新型カメラを使うことはまれだったようです。

    この中で、35ミリ判ハーフサイズは、1960年代に登場した規格。普通の35ミリ判フィルムの1コマを縦半分にして使うもので、本来は横に長い画面が、ハーフサイズでは縦長になります。要するに、実効画面を小さくして、フィルム1コマ分を巻き上げる長さを節約するというわけで、ファインダーの視野も縦型になっていました。横長画面で撮りたいときは、カメラを縦にして使います。

    ポケットカメラは、規格としては「110判」と呼ばれ、簡単にカメラに装填できるカートリッジ式が、初めて採用されました。ポケットカメラが登場したのは、1972年のことで、35ミリ判のAFコンパクトカメラが普及する前の一時期に、初心者ユーザーを中心として、多く利用された歴史があります。当時は、デジカメも、カメラ付き携帯電話も、レンズ付きフィルムもまだなく、普通のカメラさえAFではなかったので(自動露出はあった)、誰でも簡単に使える小さなカメラへのニーズは、確実に存在しました。

    APSフィルムは、1996年に登場。現像処理が必要な感光記録層のほかに、磁気記録層を持っていて、撮影データを記録できる点が、登場時点では画期的とされて、各メーカーから対応の機種が登場しました。現在では、デジタルカメラが普及したため、APSフィルムは、ほとんど使われなくなりました。ちなみに、APSフィルムが出てきた時代には、既にレンズ付きフィルムが普及しており、フィルムを自分で装填する必要すらなかったので、ポケットカメラの時代ほどには、新規格で初心者ユーザーを取り込めなかったようです。

    フィルムしかなかった過去の時代には、このように一貫して、フィルムの規格そのものを小さくすることで、カメラを小型化しようという流れがありました。その発想は、アイデアとしては価値のあるものでしたが、同時に35ミリ判フィルムを使うカメラも進化したので、しばらくすると新規格から従来の35ミリ判に、消費者ニーズが戻ることが常でした。新規格のどこに問題があったかと言えば、フィルムが小さくなるほど、プリントした時点での引き伸ばし倍率は高くなるので、画質が荒れやすいという点でしょう。銀塩フィルムは切り刻んで面積を小さくしても、感光する粒子の密度を上げるわけにはいかないので、これは宿命です。結局、カメラのダウンサイジングという開発の方向性は、フィルムではなく、後にデジタルという新しい技術に出会ってから、ようやく製品として完成し、一般市場に定着することとなります。ただし、その前には、一つだけ例外的なステップがありました。

    巻き上げ・巻き戻しのない異色のフィルム

    ミノルタ クレージュac301/ac101

    ミノルタ「クレージュac301/ac101」(1983年8月発売)
    新規格のディスクフィルムを使用する、国産の「ディスクカメラ」。レンズは、固定焦点式。重さ200gは、当時としては抜群の小型・軽量ボディで、後に登場するコンパクトデジタルカメラと同じ程度の質量でした。

    上記のフィルム規格は、すべてフィルムをカメラ内で巻き上げ、撮影後に巻き戻すロールフィルムです。しかし、これとは、まったく異なる斬新な発想で作られたフィルムの規格が、たった1つだけ存在しました。1982年に発表された「ディスクカメラ」と、専用の「ディスクフィルム」です。この規格に対応した製品は、コダック、富士フイルム、ミノルタなどから発売されました。

    「ディスクフィルム」は、感光材料を塗布した銀塩フィルムであるという点は、従来型のフィルムと変わりませんが、1枚の円盤上で、その円周部に小さな実効画面のコマを並べ、全体を円周に沿って徐々に回転させることでコマを切り替えていくところが異なります。撮影時は、レンズと並行する位置に来たコマに露光し、その後、1コマ分の角度だけずらして、次の撮影に備えます。つまり、撮影時にフィルム送りはあっても、巻き戻しがないというわけです。わかりにくければ、アナログ式腕時計の、カレンダーの部分(機械式日付表示)を想像してみてください。

    1枚のディスクの直径は、約65mm。その円周に沿って、画面サイズ8mm×10mmという小さな実効画面が配列され、1周で合計15コマの写真が撮れました。35ミリ判フルサイズと比較すると、面積比で9分の1くらいの超ミニサイズの規格です。なお、ディスクフィルムがむき出しでは感光してしまうので、実際にはカートリッジに入っていました。カメラ本体に付いていたレンズの焦点距離は、富士フイルム製で単焦点の12.5mm。ズームレンズではないですが、現在のコンパクトデジカメと同じくらいのレンズでした。こうして実効画面を小型化すれば、搭載レンズに求められる光学上の焦点距離が短くなり、結果的にカメラ全体が小型化できるメリットがあるわけですが、このアイデアは、デジタルカメラの普及に先駆けること、約20年も前からあったことになります。

    なお、この当時はパソコンが徐々に普及しはじめた時期とも重なり、データの磁気記録メディアとして、フロッピーディスクも既に登場していました。その点を考慮すると、「ディスクカメラ」も、実際の記録は銀塩式でこそあっても、カメラの機構とデザインでは、フロッピーディスクを想起させるものとなっていたのではないかと思われます。実際、初期のパソコン(「マイコン」とも言った)のデータ記録用メディアには、音楽用と同じ規格のカセットテープが使われていたこともあり、円盤型のフロッピーディスクは、巻き取り型のテープよりは新しい記録メディアとして位置づけられていました。なお、当時のフロッピーディスクは、現在よく見られる3.5インチ規格ではなく、8インチ、または5インチという大型のものです。

    そんな時代に登場した「ディスクカメラ」は、格好だけはフロッピーでも、中身は超小型の銀塩フィルムというアナログなシステムだったので、現実的な問題として画質が追いつかずに、数年で姿を消してしまいました。タイミング的に、AFコンパクトカメラの爆発的な普及や、一眼レフブームの到来などと重なって、カメラのサイズに対するユーザーの関心がそれた点も、「ディスクカメラ」が前評判ほどヒットしなかった一因でしょう。

    しかし、それから歳月は流れて、フロッピーディスクという磁気記録メディアさえも、既に過去のものとなった現在、「ディスクカメラ」の発想は、(結果論ではありますが、)そのままコンパクトデジタルカメラに姿を変えて、受け継がれることになったようです。コンパクトデジカメのCCDサイズは、「ディスクカメラ」の1コマと、ほぼ同じサイズ。この小さな画面寸法に合わせて、レンズの焦点距離も短くすることで、軽量・コンパクトにカメラを設計するという発想は、かつての「ディスクカメラ」も、いまのデジカメもまったく同じです。その上で、現在ではフィルムではなく、デジタル記録を利用したことで、銀塩時代には、小さな画面規格に特有の問題だった画質の劣化さえも、克服が可能となりました。デジタルなら、センサーの面積そのものは小さくても、受光素子を微細化すれば、大量の画素数を確保できるので、規格の小型化と画質維持の両立は、銀塩フィルムより格段に有利なのです。

    ロールフィルムである限り、これまでの一般市場では、絶対に35ミリ判には勝てなかった新規格の小型カメラ。その形勢を逆転したのは、巻き上げ・巻き戻しのない、まったく新しい発想のカメラ規格でした。現在のコンパクトデジタルカメラがそれに相当するわけですが、四半世紀前の一時期に存在した、伝説の「ディスクカメラ」が、この発展の行く末を予見していたと考えることもできます。「ディスクカメラ」が、かつて憧れたであろうフロッピーディスクと同じ血統にある、カードへの完全デジタル記録という技術を本当に手に入れて劇的に進化したとき、それが、従来のフィルム市場を根っこからひっくり返すことになる、デジタルカメラとして生まれ変わったというわけです。いつの世も、歴史を変えていく力を持つのは“異端児”。とすれば、昔の「ディスクカメラ」も、決してムダな寄り道ではなかったということになるのかもしれません。

     
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