写真・カメラでは、機能が多い分だけ、それを指し示す数多くの言葉があります。こうした用語は、初心者の方や、写真・カメラに詳しくない方、さほど興味がない方にとっては、相当に難しく感じることもあるでしょう。ただし、その用語は、まったく聞き慣れない外国語ではなく、やたらに1語が長いわけでもなく、発音ができないということもありません。むしろ、日本語で書かれた文字の綴りだけを見れば、どことなく読み慣れた印象さえあります。では、写真用語の、いったい何が難しいのか? この疑問の核心は、同じ単語でも、普通の日本語と、写真・カメラ用語の間で、意味・用法と解釈が違うところでしょう。いわば、標準語ではない、“写真の国”の「方言」が多いことが、写真・カメラの話を通じにくくしているのです。そこで今回は、一般の方が勘違いしやすい、写真・カメラ用語の実例を挙げてみたいと思います。
勘違いしやすい写真・カメラ用語の例
以下に、1つずつ用語を例示し、それぞれについて、写真・カメラ用語としての意味と、それ以外の一般分野で通用している意味の両方を対比します。今回は、詳しく説明すると、余計にわかりにくくなるので、簡潔にまとめます。
機材(きざい)
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撮影に使用する、カメラボディ、交換レンズ、フィルター、フラッシュ、露出計、三脚といった装置のことを、まとめて「機材」と呼びます。フィルムや電池などの消耗品は、「機材」とは言わないニュアンスがあります。なお、コンパクトデジカメ1台のみを使っている方の場合、それを、あえて「機材」ということはまれでしょう。
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航空業界で、B747、A300、YS11といった飛行機の機体(種類)のことを、「機材」と呼びます。テレビのニュース番組でも、台風などの影響で飛行機が欠航するとき、「機材のやりくりがつかないため欠航」といった表現が出てくることがあるので、一般の方は、飛行機の意味で理解している場合が、多いかもしれません。
プログラム
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自動露出機能のモードの1つ。絞り値とシャッター速度の両方とも、カメラ任せで決める設定で、正しくは「プログラムAE」といいます。シーン選択機能は、プログラムAEのバリエーションです。自動露出機能には、このほかに「絞り優先AE」と「シャッター速度優先AE」などがあるので、自動露出のすべてがプログラムAEという一義的対応ではありません。
- 【一般】
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コンピュータを動作させるソフトのことを、プログラムといいます。ウィンドウズのスタート画面にも、「プログラム」という用語が出ています。デジカメも電子機器なので、ソフトの意味でいうプログラムが中に入っていますが、カメラでは、プログラムという呼び名は使わずに、「ファームウェア」といいます。そのほかに、一般的な意味として、学校などで運動会や式典の進行予定を書いてある紙のことを「プログラム」と呼ぶ場合があります。
オート/マニュアル
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現在では全自動が普通になったカメラの、AF(自動焦点)や自動露出など、各種自動機能のことを「オート」。これに対して、ユーザーが自分で数値などを設定する機能、または、そのモードのことを、「マニュアル」といいます。
- 【一般】
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クルマの用語では、変速が自動であるAT車のことを「オートマチック」「オートマ」。これに対して、クラッチペタルと手動変速機が付いているMT車のことを、「マニュアル」と呼びます。この区別の考え方は、カメラと同じです。また、パソコン用語では、取扱い説明書のことを「マニュアル」といいます。デジカメでも、こちらの意味としてマニュアルという用語を、慣例的に使う場合がありますが、前述の意味に対してまぎらわしいので、日本語で「取扱い説明書」と言い換えることも多いようです。
アクセサリー
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撮影機材のうち、大前提として必要であるカメラボディとレンズに対して、オプションで使用する周辺機器のことを「アクセサリー」と呼びます。外付けフラッシュや、フィルター、三脚などが、これに該当します。カメラのアクセサリーは、見た目を良くするための装飾用ではなく、装着することで、撮影した後の写真に特殊な効果が得られます。携帯電話のようにカメラをデコることは、アクセサリーとは言いません。
- 【一般】
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ファッション用語で、宝石などの装飾品を総合的に「アクセサリー」と呼びます。一般の方の多くは、こちらの意味で用語を理解しているでしょう。
ドライブ
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連続撮影やセルフタイマーの設定機能のことを、「ドライブモード」といいます。これは、フィルムカメラの時代に、カメラ内でフィルムが走行していたことに由来する呼び名です。フィルムがないデジカメの場合でも、馴染みのある「ドライブ」の名称が使われています。これは、慣れていない方にとっては、理解しにくいかもしれません。
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クルマを自分で運転して、どこかへ出かけるレジャーのことを指して、「ドライブ」というのが一般的です。また、AT車の通常走行モードのことを、「ドライブ」といいます。
モニター
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デジタルカメラでは、背面液晶モニターのことを、短く省略して「モニター」と呼ぶことがあります。フィルムカメラには、この意味でいう「モニター」はありません。
- 【一般】
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パソコンやテレビの画面のことを、「モニター」と呼びます。この意味は、デジカメと代わりないので、特に問題はないでしょう。そのほか、マーケティング用語で、商品の試用体験テストに協力する一般ユーザー(人)のことを、「モニター」と呼ぶ場合があります。
デフォルト
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デジカメでは、パソコン用語から転じて、個別機能・モードの初期設定を「デフォルト」と呼ぶ場合があります。カメラ専門誌などでは、この意味だけで用語が使われています。
- 【一般】
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パソコン用語で、デジカメと同じく初期設定のことを「デフォルト」といいます。そのほかに、金融用語で、「債務不履行」のことを、英語で「デフォルト」ということがあります。新聞の経済記事に出てくる場合では、こちらの意味で使われています。
メモリー
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SDメモリーカードや、CFカードなどの、外部に取り出せる画像記録媒体に対して、コンパクトデジカメの多くでは、カードなしでも、小容量なら本体内で画像データを保存できます。この装備を「内蔵メモリー」といい、画像データを記録しておくスペースという意味で、「メモリー」の用語が使われています。
- 【一般】
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パソコン用語では、ディスクやカードなどの外部記録媒体ではなく、パソコン本体にソフト(プログラム)を読み込んで、それを動作させるために必要な、内部記憶装置のことを「メモリー」と呼ぶのが慣例的です。そのほか、一般的には「思い出」のことを総称して、「メモリー」といいます。
媒体
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画像データを記録するツールのうち、内蔵メモリーではない、メモリーカードの類を「記録媒体」といい、略して「媒体」と呼ぶことがあります。この表現よりは、「メモリーカード」と言ったほうがわかりやすいようですが、カメラの仕様書には「記録媒体」という項目があります。
- 【一般】
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雑誌やテレビといったマスメディアのことを、日本語に読み替えて「媒体」と呼びます。
印刷
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デジカメの画像を、家庭用プリンターで出力することを、特に区別して「印刷」ということがあります。これに対して、現像工程があるDPE店のプリントは、あくまでも「写真プリント」であって、「印刷」ということは、標準的用法ではありません。いずれにせよ、デジタル画像1点に対して、紙の写真が1枚だけの場合でも、簡単に作成可能です。
- 【一般】
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狭義では、チラシや書籍などを制作するために、版下(またはデジタル版下)を作成した上で、業務用の印刷機を使って、同じ原稿を大量に印刷することを指します。この場合の写真は、本当に写真だけで印刷されるのではなくて、文字などの原稿とともに版下にレイアウトされます。「印刷」という本来の意味では、原稿1点に対する刷り部数は、100枚単位、1000枚単位といったように、大量になるのが普通で、部数の多い制作物を低コストの単価で作成できるのが、印刷という技術の強みです。写真プリントのように1枚だけを、印刷機で印刷することは、普通はコスト的にあり得ないので(デジタル印刷は例外)、同じ「印刷」という用語でも、それぞれの業界で意味が違います。
写真集
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キタムラをはじめとするDPE業界では、「写真集」といえば、印画紙プリント+製本加工のセットサービスのことです。お客さまがご自身で撮影された写真を印画紙にプリントし、1枚ずつバラバラではなく、束ねて製本した状態にまとめます。これは、部数1点から作成可能。お客さまにとっては、個々の写真プリントを、自分でアルバムに貼っていく作業の手間を省略できる利点があります。なお、キタムラでは、次項に挙げる書籍出版としての写真集制作は、行っていません。つまり、キタムラで行っている「写真集」制作サービスは、自費出版とはまったく違います。
- 【一般】
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出版業界では、書籍の一ジャンルのこと。主に、活字より写真が誌面の多くを占める本のことを、「写真集」と呼びます。こちらの意味で「写真集」を作るのは、DPE店ではなくて出版社であり、それを販売するのは書店です。
このように、写真・カメラ用語では、普通の日本語とは違う意味で、同じ言葉を使っていることがあるので、「わかったつもり」で誤解することがないように気を付けながら、取扱説明書やカメラ雑誌、WEBサイトなどの情報を読むことを、おすすめします。