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2009.03.06

【銀塩写真の本当の実力を知る】
いまでも現役続投の中判フィルムカメラたち

ここ数年は、「フィルムが淘汰されて、デジタル化が大きく進んだ」とされます。とは言っても、これは35ミリ判フィルムの話。実は、フィルムには、それ以外のサイズもあって、35ミリ判より1コマの面積が大きなフィルムを使うカメラについては、まだ完全にデジタル化されたわけではないのです。その中でも、アマチュア写真愛好家の方にも、比較的、手が届きやすい「中判」のフィルムカメラは意外に健闘していて、中古ではなく、新品で売っている現行モデルとしては、35ミリ判のフィルム一眼レフより、むしろ機種の数は多いくらい。中判カメラ入門機の実売価格も、いまでは高級機だけになった35ミリ判と、いい勝負になるレベルです。デジタル全盛時代のいま、フィルム派が選ぶのは中判カメラ。これは、新しい常識になるかもしれません。

中判フィルムの魅力

カメラといえば、まだフィルムカメラしかなかった、10年以上も昔の時代。当時、撮った写真の画質や描写力を重視するユーザーは、特に大切な写真の撮影に使うフィルムを、その「サイズ」で選んでいました。そこで、35ミリ判を上回る高画質フィルムとして、プロやベテランのユーザーから注目を集めたのが、35ミリ判よりもフィルムの幅が広く、撮像面積が大きな中判フィルムです。

いまの時代にある、「デジタルカメラと、フィルムカメラのどちらが高画質なのか?」という論争と、まったく同じような理屈で、フィルムしかないのが前提の時代にも、「35ミリ判と、中判では、どちらが高画質か?」という議論があったのです。当時は、技術革新によって、微粒子フィルムの性能が飛躍的に高まる傾向がありましたから、「35ミリ判フィルムの高画質化で、中判カメラの画質レベルを代替し得る」という意見も見られました。つまり、フィルムだけの時代でも、中判フィルムで撮る写真の画質というのは、製品開発や機材購入の目標にされるくらい、一目置かれていたということ。それだけ、中判カメラを使ってフィルムで撮る写真には、魅力があるわけです。

しかし、中判カメラには、弱点もあります。小さくて扱いやすく、自動露出の性能が良い35ミリ判に比べて、ボディサイズが大きくてかさばり、マニュアル操作の多い中判カメラでは、機動性が欠けます。また、35ミリ判フィルムは、1本で最大36コマまでの連続撮影ができますが、中判フィルムは、あまり多くの写真を一度に続けて撮れません。中判フィルムは、ロールフィルムという点だけは35ミリ判と同類ですが、しかし、パトローネがない特殊な装填方式になっていて、しかも基本的には12コマ程度しか撮れない(1コマの画面サイズで微妙に変わる)ので、必然的にフィルム交換の手間も増えます。ただし、1枚ずつシート状になっている大判フィルムよりは屋外撮影に便利なので、特に画質を重視したいユーザーが、中判フィルムを選ぶことが多くなっていました。

こういった事情から、一般的には35ミリ判フィルムだけが突出して需要を伸ばし、中判・大判フィルムは、プロ写真家や、一部アマチュアの愛好家層が使うだけというのが、フィルム時代の常識でした。しかし、以前はニーズが集中した35ミリ判フィルムが、いまではデジカメによって代替され、結果として、35ミリ判のフィルムカメラは淘汰されたので、中判カメラと大判カメラだけが、現役フィルムカメラとして残された状況となっています。そこで、いまあえてフィルムカメラ、しかも新品にこだわるのであれば、中判カメラ・大判カメラの二者択一ということになりますが、このうちのどちらが、より一般撮影に向くかといえば、それはロールフィルムを使う中判カメラ。もともと昔から、35ミリ判をしのぐ高画質という特徴があったので、中判カメラなら現時点でも、デジカメやデジタル一眼レフと使い分けて、わざわざフィルムで撮るだけの理由もありそうです。

以上の点から、次のことが言えます。機動性やコストを最重要視するなら、現在の性能レベルでは、デジタルカメラ・デジタル一眼レフがベスト。しかし、必ず35ミリ判フルサイズ以下の撮像面積になるデジタルカメラに比べて、それを上回るレベルの高画質を追求するなら、中判フィルムカメラにも魅力あり。中判デジタルカメラも存在しますが、実売価格を考えるなら、現状では、やはり中判カメラではフィルム用を選ぶことにも合理性があるので、今後も一定のニーズを維持するとみられます。

35ミリ判とは違う、中判ならではの長所

印画紙プリント時の拡大率

写真プリントのサイズは、どのカメラで撮った場合でも、基本的には変わりません。つまり、撮影時に使ったフィルムのサイズや、デジカメの画像センサーサイズが違っても、プリント時に使う印画紙の商品ラインアップは変わらないので、最終的にプリントした状態で鑑賞する写真のサイズは、幾つかのパターンのみに限定されます。

しかし、元画像(フィルムまたはデータ)に対する、プリント時の拡大率は、一定ではありません。撮影時に使うカメラ次第で、元画像をプリントサイズに引き伸ばすときの「拡大率」は変わるのです。したがって、もともと撮影時点から画像サイズが大きいほうが、あまり極端には画像を引き伸ばさなくて済むので、印画紙にプリントした後の画質も向上します。フィルムの場合、同じISO感度の同じ商品なら、1コマの面積に関係なく粒状性は同じなので(デジタルに置き換えて言うと解像度が一定という意味)、35ミリ判よりサイズの大きな中判で撮影したほうが、プリント時の拡大率は抑えられて、画質を低下させずに済みます。

ということは、半切や全紙といった、面積の大きな印画紙にプリントする場合は、中判フィルムで元画像を撮影したほうが有利。この特性を活用すると、例えば風景写真では、木の枝の一つ一つや、砂粒の一つ一つといった小さな被写体の細部まで、背景や周囲に同化することなく、画像として再現することができます。

レンズの描写

中判カメラでは、写真1コマの撮像面積が、35ミリ判フルサイズより大きいため、同じ画角を撮影できるレンズのミリ数が変わって、より長い焦点距離(35ミリ判フィルムの感覚で言えば望遠寄り)のレンズが必要となります。つまり、中判カメラの場合でも、見た目の“焦点距離”(画角)は、35ミリ判換算するわけです。

ただし、デジタルカメラとは換算の方向が逆。デジカメでは、35ミリ判よりも画像センサーの撮像面積が小さいので、換算すると“広角レンズ”が標準レンズになる感覚ですが、中判カメラでは、35ミリ判よりも中判フィルムの実効面積が大きいので、換算すると“望遠レンズ”が標準レンズになる感覚です。したがって、焦点距離だけを単純に比べると、同じミリ数でも、コンパクトデジカメなら超望遠レンズになるところが、中判カメラでは広角レンズになってしまうことになります。

ただし、1コマの面積に応じて、写真になったときの見た目の画角が変わっても、レンズの焦点距離だけは光学的に不変ですから、写り方は、それなりの描写になります。つまり、被写界深度や、絞りの効き方は、中判ならではの光学特性になるので、そのつもりで撮影する必要があります。

フィルムサイズと、画面サイズの関係

中判カメラは、機種によって、1コマの「横の長さ」が変化します。中判フィルムそのもののサイズは、幅6cmで一定なので、1コマの「縦の長さ」は変わりませんが、横方向の長さだけは複数の規格があります。これは、つまり中判フィルムでは、機種が変わると、実際に撮影される写真の画面サイズが、変わることもあり得るというわけです。

具体的には、1コマの横方向が、4.5cm・6cm・7cm・8cm・9cm・17cmなどとなり、6×4.5判、6×6判、6×7判といった規格名で呼ばれます。いずれの画面サイズでも、装填して使うロールフィルムのフィルムサイズは、同じ「中判(ブローニー判)」です。

このとき使うフィルムの1ロールの長さは変わらないので、1コマの横方向が長い規格になるにつれて、フィルム1本で撮影できるコマ数は減っていきます。すると、これに応じて、フィルム交換の回数も多くなります。

フィルム装填の方法は、機種によって微妙に違うので、使用する中判カメラの取扱説明書を参照してください。また、撮影後の取り出し方も、忘れずに確認してください。

いろいろな中判フィルムカメラ

現在、新品で購入することができる、中判フィルムカメラをタイプ別に分類すると、次のようになります。中古の場合も、ほぼ同じように分類可能です。

アイレベルAF一眼レフタイプ(6×4.5判)

ペンタックス645NII

ペンタックス645NII

ローライフレックスHy6

ローライフレックスHy6

ローライフレックス4.0FW

ローライフレックス4.0FW

マミヤ7

マミヤ7

中判カメラでは最も小さな規格となるのが、6×4.5判。このタイプには、構造がアイレベル一眼レフ方式の機種があり、35ミリ判カメラに最も近い操作感で、比較的、簡単に撮影できます。現行機種はAF(オートフォーカス)と自動露出に対応し、プログラムAEを含む露出モードを自在に選べます。レンズ交換可能で、各種の専用レンズをラインアップ。代表的な機種の例は、「ペンタックス645NII」(写真参照)。ペンタックスは、既に35ミリ判のフィルムカメラを作っていませんが、中判フィルムカメラは、いまでも生産しています。このほかに、マミヤもAF・AE対応の6×4.5判フィルムカメラを発売中。価格は、35ミリ判フィルム用の高級一眼レフ(新品)に近い水準です。いま、本格的な撮影ができるフィルムカメラを探すなら、このタイプが狙い目かも。

ウェストレベルAF一眼レフタイプ(6×6判)

6×6判では、撮影した写真の形が正方形になります。このタイプも、最新機種はAF&AE一眼レフ。ファインダーは、上から覗き込むウェストレベル方式で、この点は、35ミリ判のカメラとは大きく異なります。レンズ交換に対応し、多様な焦点距離で撮影可能。ただし、かなりの重量があるので、三脚に据え付けて、スタジオで撮影する場合などに向いています。基本的には、趣味用というより、業務用のカメラ。後述する二眼レフタイプと比べて、特に近接撮影時には強みを発揮します。代表的な機種は、「ローライフレックス6008AF」。その姉妹機として、6×4.5判や、デジタルカメラバックで撮影することもできる(交換式)、「ローライフレックスHy6」(写真参照)もあります。価格は、はっきり言って高いです。

MF二眼レフタイプ(6×6判)

6×6判を代表するスタイルは、やはりコレ。独特のクラシカルな外観を好む、カメラファンも多いのです。ファインダーは、一眼レフタイプの6×6判と同じく、上から覗き込むウェストレベル方式。ただし、ピント・露出は、基本的にマニュアル操作となります。でも、それは決して面倒で不便ということではなくて、操作感覚そのものが、このカメラを使う楽しみなのです。いまの時代、面倒なカメラが嫌なら、デジカメを使えばいいだけですから。ちなみに、本体に2つあるレンズのうち、上側はファインダー用、下側が露光用となります。近接撮影では、上下のレンズで視野がズレてしまうので、その影響が少ない風景撮影に適したカメラです。同じ6×6判でも、一眼レフタイプと違ってミラーの動作がないので、露光時の振動でカメラブレすることがない点も特長。代表的な機種は、「ローライフレックス4.0FW」(写真参照)。このほかに、搭載レンズの焦点距離が異なる「ローライフレックス2.8FX」があります。いずれも、TTL露出計内蔵。価格は高額ですが、レンズ込みとして比べると、ハイテク化された6×6判AF一眼レフタイプよりは、どちらかといえば安くなっています。

そのほかのタイプ(6×7判)

中判フィルムカメラでは、撮像面積が大きな部類に入るタイプが6×7判。代表例として、マミヤから発売されている、レンジファインダー方式の「マミヤ7」(写真参照)があります。この機種は、マニュアルフォーカス専用ですが、絞り優先AEでも撮影可能で、レンズ交換にも対応。一眼レフや二眼レフと比べて、比較的、ボディが小さい点は、機材を担いで徒歩移動する時間が長い風景撮影などにも向きます。価格は6×4.5判AF一眼レフよりは安く、中判カメラでは、わりとお手頃。

また、このほかにペンタックスからは、同じく6×7判で、フォーカルプレーンシャッターと、アイレベルファインダーを搭載した、MF一眼レフが発売されています。この「67NII」は、35ミリ判と同じ使い勝手で撮影できるカメラとしては、最もボディが大きな機種。往年のMF一眼レフに近いテイストを残した、まさにカメラらしいカメラです。ただし、重さだけは相当なもの。本体の実売価格は、「645NII」より割安となっています。

中判フィルムの購入について

中判フィルムにも、ネガ・ポジ・白黒など各種が揃っていますが、購入は写真専門店に限ります。35ミリ判ネガフィルムのように、全国どこでも売っているわけではないので、撮影する前に、まとめ買いしておいたほうが安心でしょう。35ミリ判の感覚でいうと、中判では3倍の本数を用意する必要があります。詳細は、お近くのキタムラ各店にて、おたずねください。中判フィルムは、キタムラのネットショップでも販売しております。

 
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