写真何でも情報 EXPRESSコラム・ギャラリー
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2009.03.19
写真歴の長いベテランの方には、「わざわざ、こんなくだらん話を。。。!」と、お叱りをいただきそうですが、今回は、「写真館」と「写真展」の違いを、改めて、お話ししたいと思います。撮る側としてカメラを使うことはあっても、自分が撮られる側になったり、あるいは、ほかの誰かが撮った写真作品を鑑賞することには詳しくない方の場合、「写真館」と「写真展」の区別は、わかりにくいかもしれませんので。ちなみに、キタムラグループにも、「スタジオマリオ」という「写真館」があり、そして、毎週、「写真展」を開催している「フォトギャラリーキタムラ」(東京・新宿御苑の近く)もあります。
「写真館」と「写真展」は、文字の綴りが似ているので、どちらも同じ意味だと取られることが、あるかもしれません。しかし、それらの中身と見た目は、まったく別。サービスの内容も、まったく別です。とはいえ、「カメラの扱いだけで初心者」という方に対して、「館」と「展」を、何の予備知識もなしに自分で区別しろというのは酷なので、まずは、用語から解説したいと思います。
「写真館」という用語は、写真撮影用スタジオのことを指すのが普通。しかも、貸しスタジオではなく、カメラマンが常駐して、撮影サービスを提供しているものが、典型的な「写真館」です。それ以外の意味で、「写真館」という言葉が使われることは、滅多にありません。
ちなみに、スタジオとは、屋内で写真を撮影するための専用施設。複数の大型フラッシュなど、専門的な照明機材を駆使することによって、人物写真や、広告用の商品写真(商品サンプルの写真)などを効率良く撮影します。スタジオという場所があることで、時間帯や季節、天気などに左右されることなく、いつでも思い通りの写真が撮影可能となるわけです。
「写真館」は、プロのカメラマンが、人物の記念写真を撮影するためのスタジオです。そこを訪れるお客さんは、基本的に一般の方(一般市民の消費者)。例えば、子供の七五三などのとき、正装して記念写真を撮りたい場合などに、「写真館」を利用するわけです。キタムラグループの「こども写真館 スタジオマリオ」という名前にも、しっかり「写真館」という文字が入っていますね。「写真館」は、あくまでも有料サービスのお店ですから、営業日であれば、お客さんが利用する日時に制限はなく、いつでもご来店いただけます。
「写真館」では、スタジオで撮影した記念写真を、現像・プリントして、お客さんにお渡しするまでを、ここでの基本的な業務とします。
-スタジオマリオ
http://studio-mario.jp/
「写真展」は、展覧会のことです。絵や彫刻の場合は展覧会といいますが、展示する作品の制作技法が写真である場合は、特に「写真展」といいます。「写真展」は、展示専用の会場で、大きなサイズの写真プリントを、額に入れて壁面に飾り、一挙大量に見せるのが基本です。「写真展」は、店舗というよりは、ショールームのようなもので、見学は無料であることが普通です。
「写真展」に来るお客さんの目的は、そこに飾ってある写真作品を鑑賞すること。作品を見ることで、その芸術的な表現を楽しんだり、また、写真を通じて紹介された事柄について、理解を深めたりします。だから、「写真館」と「写真展」は、サービス内容的にまったく違うわけで、仮に「写真展」に行っても、そこで七五三の記念写真は撮ってもらえません。たぶん、本当に間違えることは、さすがに、あり得ないでしょうけど。。。
実際に開催される「写真展」では、その1つずつに開催テーマがあり、1テーマにつき通例1週間程度で、次々と、同一会場の展示内容が入れ替わります。別の言い方をすると、1テーマの写真展は、だいたい1週間くらいで終わります。つまり、同じ会場でも定期的に通えば、多様なタイプの写真作品を鑑賞できるわけです。具体例として、「写真展」が、どのようなものか見てみたい方は、東京・新宿御苑のそばにある、キタムラ直営の「フォトギャラリーキタムラ」に、ぜひ一度、遊びに来てください。
ちなみに、「写真展」で展示される写真作品は、「写真館」で撮られる記念写真と比べると、かなり趣が異なるのが普通です。「写真展」の作品で最も多いのは風景写真で、特に自然風景が中心となります。世間一般的な写真の使われ方では、人物写真が最も多いので、それに比べると、内容に幾分かの違いがあると思いますが、これはこれで確立された文化なのです。その点で言えば、「スタジオマリオ」で開催予定の「赤ちゃん写真展」は、企画としては、むしろ、珍しいタイプの写真展となります。「マリオ」の「赤ちゃん写真展」をご覧になった方は、「フォトギャラリーキタムラ」などの一般的な写真展も、機会をみつけて覗いてみてください。
ここまで、とりあえず、ご理解いただけましたか? では、ちょっとだけ話がややこしくなりますが、補足説明として、次に「写真展」と「ギャラリー」の関係に触れておきます。
-フォトギャラリーキタムラ
http://kitamura.jp/photogallery/
簡単に言うと、「写真展」はコンテンツ、つまり展示する内容そのものです。それは、額に入れた、大きな写真プリントを一堂に集めて見せる「機会」のことですから、「写真展」そのものに形はありません。
そして、「ギャラリー」は、作品を展示する屋内施設のこと。展示室の壁は、額を吊り下げて飾ることができる特殊な構造になっていて、そのほかに、作品1つ1つを照らす専用のライト(照明)も備え付けられています。こうした展示用の施設内に、テーマに沿った写真作品群を搬入して飾ることで、1つの「写真展」が成立するわけです。ここで、先に挙げた「写真館」という用語の意味を、「ギャラリー」と比べてみると、どちらも「場所」を表すという点では同じですが、「写真展」という催しに使用できる施設は、ただ1つ「ギャラリー」だけということが理解できると思います。だから、「写真館」と「写真展」は、概念的にも、まるで違うのです。
「ギャラリー」では、主に週替わりで、いろいろな企画の「写真展」が、開催と終了を繰り返します。でも、会場の「ギャラリー」は、あくまで、そう呼ばれる場所(=作品の入れ物となる空間)なので、恒常的に存在しています。つまり、たとえ飾られた作品がなく、「写真展」がお休みの場合でも、「場」である「ギャラリー」だけは、ずっと、あり続けるということです。
「写真展」を開催する人(写真家)は、展示作品のテーマや内容を決めて、その作品を撮影・制作するわけですが、一方の「ギャラリー」は施設運営者が管理・所有する“ハコ”なので、「写真展」を開催する人は、一定期間に限定して、施設運営者から「ギャラリー」の使用権を借り受ける関係になります。より噛み砕いて言えば、「ギャラリー」の運営者が“大家さん”なら、「写真展」の開催者は“店子”という間柄に例えることができます。(実際には、写真業界でこういう例え方は、あまりしませんが。。。)とにかく、約1週間程度の「写真展」の開催期間中だけ、写真家は「ギャラリー」という場所をレンタルするということです。
写真家が「ギャラリー」を借りる方法は、基本的に2通り。有償の場合と、無償の場合があって、個々の「ギャラリー」ごとに、借り方は異なっています。ただし、ここでいう有償とは、利用代金を写真家が「ギャラリー」に対して支払うという意味で、「写真展」を見学に来るお客さんからはおカネを取らず、無料で入場できるほうが一般的です。今回は詳しく触れませんが、「ギャラリー」は、有償・無償とも、それぞれに違うメリットがあり、写真家は目的や開催時期によって、「写真展」を開く「ギャラリー」を使い分けます。ちなみに、キタムラの「フォトギャラリーキタムラ」は、有償タイプです。ほかのカメラメーカー直営系ギャラリーでは、無償タイプもありますが、週替わりの開催枠よりも写真展開催希望者のほうが多いので、選抜競争(審査)の倍率が高くなるほか、開催日時も、写真家の都合ではなく、ギャラリー側のスケジュールに沿って指定されます。
カメラメーカーが、直営ギャラリーを所有し、なおかつ、「写真展」を開く写真家に無償で場所を貸し出して、また、見学に来るお客さんにも、「写真展」を無料公開できる理由は、こうした直営ギャラリーの多くが、メーカーショールームに併設されているから。ショールームで自社製品を見てもらうことを兼ねて、一定の集客力が常に保てる「写真展」という機会を、カメラメーカーは無償で提供しているわけです。こうした文化・習慣が、写真愛好家層に広く定着している点から言えば、日本の写真展文化とは、まさしく、カメラメーカーの直営ギャラリーが主体となって育て、支えてきたものであるとも考えられます。
「ギャラリー」は、「写真展」を見学するお客さんの立場で見れば、「美術館」と同じようなものとみなすこともできるでしょう。しかし、美術館の見学が有料である一方、「ギャラリー」は原則として無料であることは異なります。また、美術館は、展示作品が写真である場合も、あくまで美術品としての価値を重視しますが、「ギャラリー」の写真展は、アートだけではなく、報道・ドキュメンタリーに類する作品も含めて、ジャンルを問わずに開催されます。
また、美術館には専門職の学芸員が在籍し、学芸員が展示を企画しますが、「ギャラリー」には、特にそのような役職がなく、「写真展」の内容は、開催者である写真家が自分で企画します。これは、「ギャラリー」を借りる申込みをする段階で、写真家には、規定の応募書類と、作品見本の提出が義務付けられていることが多いからで、ある意味、写真家が自作を発表する「写真展」を、自分で企画するのは写真業界の一般常識です。言い換えれば、「写真展」を開きたい写真家にとって、自分自身で「写真展」の内容を企画することは、むしろ、できて当たり前で、それができてこそ一人前とも言えます。
ちなみに、美術館で写真作品を常時公開しているところは、東京都写真美術館(東京・恵比寿)や、横浜美術館(横浜・みなとみらい/写真作品は一部の専用展示室で公開)などがありますが、美術館全体では少数派。一般的に、美術館で写真作品が展示される場合は、特集の企画展となる場合が多いようです。これに対して、カメラメーカー系ギャラリーでは、展示会場の規模こそ小さいですが、いつ訪ねて行っても、必ず写真の展覧会だけを途切れることなく開催しています。
なお、「ギャラリー」の意味は、日本語で書くと「画廊」です(「写真館」ではありません)。スポーツ競技の場合では、観客(見ている人)のことを「ギャラリー」ということがありますが、写真および芸術については、スポーツとは明らかに分野が違いますから、「ギャラリー」という言葉は、あくまで展示施設(作品を飾る場所)のことを指しています。
「写真館」と「写真展」は、どちらが先に誕生したか? というと、史実では、撮影スタジオである「写真館」のほうが先です。「写真館」は、江戸時代の末期には、日本国内に誕生しました。ただし、「写真館」では、「写真展」は行われていませんでした。そもそも江戸時代末期の日本には、「美術」という概念さえなかったくらいなので、写真を見るために「写真展」という形式をとることは、なかったようです。
一方の「写真展」、つまり展覧会が開催されたのは、明治時代の終わりごろからで、一般の写真愛好家にも「写真展」が認知されるようになったのは、大正時代以降です。「ギャラリー」が誕生するのも、大正時代以降と言えます。ただし、大正の頃は、現在のように、誰でもカメラを持てる時代ではなかったので、「写真展」を開いたり、見学したりできる人は、極めて限られた階層の人だけでした。ちなみに、日本製のカメラが世界シェアで寡占状態になるのは、昭和時代、それも戦後の高度経済成長期より後。カメラメーカー各社が直営ギャラリーの開設を進めたのも、高度経済成長期以降のことです。
それでは、歴史的には先に登場した、撮影スタジオの「写真館」が、どのようなものだったのか? 具体例を挙げて、確かめてみましょう。
愛知県犬山市に、「博物館明治村」という、かなり歴史の長いテーマパークがあります。ここは、かつて日本国内各地にあった、明治生まれの建築物を移築・保存し、広大な敷地の中で、その建物群(撮影セットではなくて全部が実際に使われていた本物)を、“展示品”として一般公開していることで知られ、そこでは、たくさんの古い建物が「村」の集落のように並んでいます。もちろん、建物一つ一つの内部を、見学することも可能です。
さて、「博物館明治村」にある歴史的建築物の一つに、「高田小熊写真館」というものがあります。これは、元は新潟県にあったそうですが、明治時代の建築当時から、この建物の使用目的は「写場」、つまり撮影スタジオでした。いまのようなフラッシュ設備が、まだ実用化されていなかった明治時代において(この当時は感光材料の感度も極めて低かった)、写真撮影に十分なくらいに「写場」内部を明るくするため、建物の屋根全体に大きな天窓が付いているのが、この建物の特徴。昔は、「写真館」という場所そのものが、一つの撮影機材だったというわけです。
「博物館明治村」には、ほかにも大小さまざまな歴史的建築物があって、日本の西洋化が進んだ明治時代の文化を今日に伝え残す役割を果たすとともに、愛知県の人気観光スポットにもなっています。
-博物館明治村公式ホームページ
http://www.meijimura.com/
(※「博物館明治村」のWEBサイトは、キタムラグループとは関係がありませんが、情報の出典元を示すための参考文献として、ご案内します。)
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