写真何でも情報 EXPRESSコラム・ギャラリー
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2009.05.22
キタムラをはじめ、いろいろな主催者がフォトコンテスト(出品料なし)の作品を募集していますが、その入選作品は、主催者のWEBサイトや、雑誌・新聞などのマスメディアで見られる機会があります。それらの作品を見ると、いわゆる普通の記念写真などに比べて、フォトコンテストの作品は、どことなく撮り方が違うという印象を受けるでしょう。では、その「どことなく」とは、何なのか? ということを、お話ししておきたいと思います。この点を明らかにできると、自分でフォトコンテストにチャレンジする人にとっては、入選のコツをつかむヒントになるほか、フォトコンテストというものを、まったく知らなかったという人にとっても、それを理解する手助けになると思います。
記念写真や記録写真、証拠写真といったような一般的な用途の写真と、フォトコンテストの応募作品用として撮影する写真では、応募票の有無だけでなく、カメラの使い方の段階から違いがあります。その両者の違いは、以下のようなことです。
レンズの光学特性、および、カメラの自動露出の測光特性などから考慮すると、現行のカメラ機材は原則として、いわゆる「日の丸構図」、つまり、画面中央で被写体を大きくとらえる撮り方に最も適しています。市販されているカメラは、フルオートで使用する条件なら、被写体を画面中央で撮ったときに、撮影の失敗が最も少なくなるように設計されているわけです。だから、ごく一般的な写真の場合、撮り方としては、なるべく、この原則に逆らわなければ、キレイな写真が誰にでも撮れます。これは例えるなら、インスタント食品を調理するときに、余計な工夫をせず、説明が書いてある通りに調理すれば、必ず、おいしく食べられるのと同じことです。
レンズは丸いものなので、それが結ぶ像の形も丸くなります。そして、レンズの画質は中央部分が最も高く、周辺部分で低下します。一方で、写真は、丸いレンズの像を四角く切り出して写すので、丸い像の円周に接する、写真の四隅の部分で、画質は最も低くなります。だから、レンズの画質が最も良い部分を使って撮影するには、写真の画面中央部に主要被写体を配置するべきで、それが光学の理論的にはベストの構図となるわけです。ただし、この構図で撮った写真に芸術的な魅力があるのかといえば、それはまた別の問題です。
また、プログラムAEなどの自動露出で使われるTTL内蔵露出計は、測光センサーの分割精度が細かいものでも、基本的には、画面の中央付近を重点的に測光しています。そのため、画面の四隅やフチに相当する部分を、あまり正確には測光できません。したがって、AEモード(自動露出)で撮る場合は、やはり、露出計の動作が保証できる、画面中央部に主要被写体を配置した構図とするべきなのです。
このタイプの一般的な写真を撮るとき、構図の決定で注意することは、画面から被写体がはみ出さないこと。ただ、それだけなので、まさに単純明快でしょう。カメラの宣伝文句で、「誰でも簡単」「初心者でも安心」と言っているのは、このようなシンプルな撮り方のことを指しているのです。このような撮り方は、主要被写体と目立たせて、背景と区別したい場合などに適しています。つまり、記念写真や記録写真などには、好都合な撮り方となるわけです。しかし、「日の丸構図」という名前の通り、ワンパターンな写真になるので、それが芸術的とは言い難い側面もあります。
フォトコンテストでは、「日の丸構図」以外の撮り方を、最初から選択肢に含めます。もちろん、画面中央で被写体をとらえる構図を、表現意図として選ぶ場合もありますが、それ以外の構図についても候補に含めながら、画面内に入る被写体のとらえ方を考えるわけです。そのときの考え方は人それぞれなので、ここに写真の表現が成り立ち、そして「作品」、つまり創作物としての価値を持つことができるのです。このような「作品」としての写真では、被写体と背景を真っ二つに分けるような区別はなく、画面内に見えている多様な被写体のすべてについて、位置関係のバランスを考えながら撮影します。
「作品」を撮る場合、言い換えれば、自分の表現意図に応じて構図を決めるには、次のような方法論を実践します。
まず、カメラのファインダーを覗いたら、そこにある画面の縦・横を「座標軸」と考えてみましょう。そして、中央の原点と、その周囲に位置する、第一象限から第四象限の座標を想定して、目の前にある被写体を画面に重ねてみてください(実際には、遠近感の表現として、奥行きも判断します)。こう考えてみると、被写体は、写真のどこかに写ってさえいれば良いというわけではなく、数学のグラフのように、それが座標上に存在する位置も意味を持つことが理解できます。つまり、被写体を中央部でとらえる撮り方だけが、決して写真のすべてだとは決め付けずに、ほかにも自分なりの撮り方を発見することが大切ということ。写真で表現することは、例えるなら、数学で新しい方程式のグラフを導き出すような意味を持つのです。これは、別の言葉で言い換えるなら、絵画の描き方に用いられる美術の知識を、カメラに応用しているとみなしても良いでしょう。
このような考え方で写真を撮影する場合は、画面の中央部ではなく、隅のほうに被写体を配置することもあります。だから、撮影時に使用する機材には、画面内のどこでも高画質であることが求められるわけです。そんなわけで、画面周辺でも画質が落ちない高級レンズが、「作品」としての表現を志向するユーザーからは特に好まれています。
露出設定についても、「作品」としての写真では、画面の隅に当たる、分割測光しにくい位置に被写体を配置して撮る場合があるので、カメラの自動露出が正確には機能しないことが多くなります。プロやベテランがマニュアル露出を多く使うのも、こんなところに理由があるわけで、決して、「ベテランは懐古趣味で頑固だからマニュアル露出にこだわっている」というわけではありません。マニュアル露出で実際に撮影するときは、先にファインダーをTTL露出計としてのみ使用し、測光しやすい位置で絞りとシャッター速度を確定。その後で、撮影本番用の構図になるようにファインダーを微調整して、それからピントを確認して、シャッターを切るという順番の流れになります。
以上のように、フォトコンテストなどに見られる「作品」としての写真の撮り方は、前述した、一般的な用途での写真の撮り方に比べると、シャッターを切る前段階で意思決定するべき項目が多く、その考え方も複雑であることが明らかです。こうなると、カメラの宣伝でいうほどに、「誰でも簡単」に撮れる写真ではないという印象を受けるでしょう。だからこそ、写真は創作物であり、そして著作権を保護する対象ともなり得ます。ここに、一般的な写真と、作品としての写真の違いがあるのです。
記念写真などの、ごく普通の用途に限って、写真を撮影する一般のカメラユーザー(フォトコンテストを知らない人の場合)は、もっぱら、上記の「1」の撮り方を選ぶことが多いと思われます。よって、「キレイな写真」の基準も、一般的に言うときは、光学の原則と、自動露出機能の動作に逆うことがない、「日の丸構図」の撮り方に準じていると考えられます。この撮り方を正しく知っているだけでも、写真を撮る機会の大半では、まったく問題なく事が足ります。
一方で、フォトコンテストに応募する作品に特化し、それを専門的に撮影するタイプの人の場合は、(自覚はなくても)上記の「2」の撮り方を選ぶことが多いのではないでしょうか? こちらの場合では、「キレイな写真」の基準も特別なものとなり、構図が十分に配慮された、芸術性の高い写真作品であることが、より重視されるでしょう。この基準であれば、奇抜な構図の写真も、その独創性が好意的に受けとられることがあります。つまり、同じ文字の綴りで「キレイな写真」と称する場合であっても、ごく一般的な写真と、フォトコンテストの写真作品では、思考の基準が変わり、意味も変わるというわけです。
フォトコンテストの結果発表を見て、「何で、こんな作品が入選しているのだろう?」とか、「どうして自分の作品だけ落選するのだろう?」と、不思議に思うことは、あるでしょう。そんな場合は、だいたい、「キレイな写真」の基準が、審査員と自分自身で違っていることに、原因があったりするもの。記念写真の撮り方が上手であることと、作品としての写真表現が魅力的であることは、まるで次元が違う話なのです。フォトコンテストで入選を狙うなら、一般的な、あるいは無難な撮り方から、もう一歩進む必要があるとも言えます。
ところで、プロ写真家は、自分の創作活動として芸術的な写真作品を撮るだけでなく、他者からの依頼を受けて、淡々とした記録用の写真を、業務として撮影することがあります。また、アマチュアの写真愛好家で、フォトコンテストの応募作品を撮ることが多い人でも、ときには、知人・友人から会合やイベントなどを記録する、カメラマン役を頼まれることはあるでしょう。それらの場合、撮影を頼んだほうの人が考える、「キレイな写真」は、普通の撮り方、つまり上記の「1」のように、基本に忠実な撮り方の写真である場合が多いものです。したがって、より現実的に言えば、写真表現に本格的に取り組む人は、普通用と、作品表現用という2通りの撮り方を、時と場合で使い分けできたほうが好都合です。ごく普通の撮り方を期待して記録撮影を頼んだ人に、フォトコンテストの作品のような、凝った撮り方の写真を見せると、構図が奇抜すぎて驚かれることもあり得ますから。
フォトコンテストに、自分自身では応募しないという方も、これからフォトコンテストの入選作品などを見るときには、写真の撮り方には2通りあるということを、覚えておいてください。この違いを知っていれば、フォトコンテストは、結果発表を見ているだけでも、それなりには楽しめると思います。
フォトコンテストに入選した作品の実例は、毎月発売されている月刊カメラ雑誌の誌上にある、「月例フォトコンテスト」のページなどで、気軽に見ることができます。カメラ雑誌は、老舗級として多くの写真愛好家に名を知られる「アサヒカメラ」「日本カメラ」「学研CAPA」「月刊カメラマン」の4誌をはじめ、各誌が発売されているので、一般書店で購入して、該当のコーナーを読んでみてください。これらのカメラ雑誌では、毎月、フォトコンテストが実施され、入選作品が発表・掲載されるので、いろいろな人が撮った個性的な写真作品を鑑賞することができます。
あなたの大切なお写真の現像・保存・プリントは写真専門店カメラのキタムラにおまかせください。