■レンズが無くても写真が撮れる
なぜレンズが無くても写真が撮れるのか、ということを説明するよりも、カメラにはなぜレンズが付いているのか、ということを説明した方が分かりやすいと思います。昔のフィルムは感度がとても低かったので、レンズで光を増幅させないと写真を撮ることが難しかったのです。現存する世界最古の写真は、レンズ付きのカメラで撮影したにもかかわらず、1枚撮影するのに8時間もかかったそうです。現在の一眼レフカメラは高速シャッターで撮影することができますが、高速シャッターはシャッターが短時間しか開いていませんから、光もほんの少ししかフィルムに届きません。それでも鮮明な画像が撮れるのは、フィルムとレンズの長足な進歩のおかげなのです。
ピンホールカメラの場合、レンズがないので撮影時間は通常の市販カメラに比べて長くなります。もっとも、フィルムの感度が昔よりずっと高くなっていますので、天気のよい日中ならば、順光で数秒〜数十秒です。光を取り入れる穴を大きくすれば、それだけ光がたくさん入るのだから、より短い時間で撮影できるのでは、と思われがちですが、穴を大きくすると画像はボケてしまいます。画像が鮮明に得られる穴の大きさは、直径0.3〜0.4ミリ程度。この穴から光を取り入れてフィルムに画像を焼き付けます。ですからピンホールカメラでは、絞りは常に絞りきった状態に固定されており、画像の隅々にまでピントが合ってしまうパーンフォーカスのみで、操作できるのは露光時間、つまりシャッタースピードだけです。
■カメラを作るときから作品づくりは始まっている
では、このような制約のあるピンホールカメラに、どのような魅力が隠れているのでしょうか。一つは「写真を撮る」というそのことに、撮影者が直接関わっていくという点です。通常の一眼レフカメラですとオートの場合、大半の操作はカメラ任せにできますので、被写体選びと構図に専念できますが、ピンホールカメラの場合、写真の出来不出来はカメラの制作時点からはじまるのです。
たった0.3ミリほどの小さな穴ですが、この穴は正円が理想です。穴にゆがみがあればそれだけ画像もゆがんで写ります。また穴からフィルムまでの距離も重要で、この距離が短かければ広角の、長ければ望遠の画像になります。つまり、広角、望遠、さらにはワイドといった画角は、カメラの制作時点で決まるのです。使用する箱や缶の形状に合わせてフィルムにカーブを付ければ、超ワイドカメラも簡単に作ることができます。どのような写真が撮りたいのか、その撮りたい写真のためにカメラから作る、それがピンホールカメラです。 |