ピンホールカメラの世界
■光がゆっくりと描き出す味わい

 そして撮影。ピンホールカメラの場合、フィルムの装填は一眼レフカメラほど簡単にはできません。富士フイルムから発売されているクイック・ロードや、インスタント写真のホルダーを使わない限り、ほとんど一発勝負で、一眼レフのような気軽さはありません。また、露光時間は自分で決めなければなりません。1秒以下の露光時間が画像に大きく影響する高速シャッターとは違い、長時間露光ですので、それほどシビアになることもありませんが、天候の具合、フィルムの感度などを考えあわせたうえで、算出します。

 ピンホールカメラによる撮影の醍醐味は、この数秒の露光時間を、光がフィルムに画像を描きだしてゆく時間として、撮影者が実体験できることでしょう。そして出来上がった写真には、パーンフォーカスであるにもかかわらず、柔らかみがあるのです。それはレンズを使って光を機械的に急激に増幅し、描きだした写真とはひと味異なる柔らかみです。光がじっくりと時間をかけて描き出したからこそ、穏やかな柔らかさが生まれてくるのです。

 皆さんも是非一度、このカメラの原点でもある、不思議なピンホールカメラで撮影を体験してみてはいかがでしょうか。コンパクトカメラや一眼レフカメラでは体験することのできない、それでいて写真を愛好する者なら、誰もがもっとも大切にしなければならない、光との語り合いを、また光を通じた被写体との語り合いを、体験することができることと思います。

すでに引退して久しいバスと、今は取り壊されてしまった秋田県の芝居小屋「康楽館」。時間を重ねた被写体をピンホールカメラで撮影すると、自然と存在感が際立って写ります。
■露光時間:15分 フィルム:フジNS-160 8×10インチ 
撮影地:秋田県小坂町 撮影:黒田カツオ
■露光時間:4秒 フィルム:フジNS-160 8×10インチ 
撮影地:仙台市太白区茂庭字松場 撮影:黒田カツオ
1 なるべく天気の良い日中を選びます。露光時間が長いので、必ず三脚を使用し、ピンホールカメラをテープでしっかりと固定します。
2 被写体にカメラが上下左右とも、まっすぐに向いているかを確認します。ファインダーがないので、少し離れて確認するようにしてください。
3 露光時間を調べ、時計を見ながらシャッター代わりの黒テープを外します。
4 時間が来たら再び黒テープを針穴の上からかぶせます。これで撮影は完了です。
5 撮影後は暗室でフィルムや印画紙を、表面を傷つけないように慎重にはずし、黒い袋などに入れて現像所へ持っていき、現像してもらいます。
※フィルム部分にインスタント写真やクイック・ロードのホルダーなどを、工夫して取り付けられるようにすると、暗室作業はいらなくなりますし、フィルムも日中、屋外で装填できるようになりますので便利です。
■ピンホール(0.3mm)カメラの露光の目安
焦点距離
(ミリメートル)
露光時間(秒)
印画紙 ネガカラーフィルム(感度100)
晴れの日 曇りの日
60 30 6 15
65 30 6 15
70 30 6 15
75 30 6 15
80 30 6 15
85 30 6 15
90 45 8 20
95 45 8 20
100 45 8 20
120 45 8 20
 今回この企画を編集するに当たって、写真家の黒田カツオ先生に全面的にご協力いただきました。黒田先生は仙台にご在住で、長年ピンホールカメラの作品を撮り続け、またピンホールカメラの普及にご尽力されておられます。黒田先生より「ピンホールカメラで撮影した写真を存分に味わうためには、4×5やエイト・バイ・テンなど大きな判を使われることをお勧めします」というアドバイスをいただきました。また、「被写体と撮影者との対話を実感することができる、それがピンホールカメラの魅力ではないでしょうか」というお話も伺いました。ここに掲載させていただいたピンホールカメラの作品をご提供いただいた黒田先生に、厚く感謝いたします。
黒田カツオ氏
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