フォトコンテストのすゝめ Vol.1|フォトコンの歴史を学ぶ

板見浩史

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はじめに:日本のフォトコンテスト概論

 今ではフツーに行われている〝フォトコンテスト〟も、その源流をたどれば遥か明治~大正時代にまでさかのぼります。写真撮影の技術が日本に伝わり、長崎・横浜を皮切りに各地で花開いたのは幕末から明治とされています。当初は外国商社を経由していた貴重な写真機材と感光材料も、明治中期になると小西本社(コニカの前身)や浅沼商会など、国内の材料商が欧米メーカーと直接取引を開始することで次第に写真が普及していきます。

 その後、写真愛好家による研鑽のための研究会や団体がいくつも発足したり、大正10年にアルス出版社から『カメラ』という雑誌が創刊されたりすると、写真レベルの向上と写真材料や雑誌の販売促進を兼ねて撮影会や写真コンテストも行われるようになりました。

林立したカメラメーカーが写真雑誌を支える

 そうした日本の写真の黎明期を経て、第二次世界大戦後、経済が復興を始めると国産カメラメーカーが雨後のタケノコのように設立されるようになります。戦艦大和の測距儀など優秀な軍用光学機器を製造していたニコンをはじめ、顕微鏡などの医療光学機器をおもに手掛けていた高千穂光学工業(のちのオリンパス)、国産初の35mmフォーカルプレーンシャッターカメラ「KWANON」(観音菩薩に由来)をいち早く試作した精機光学研究所(のちのキヤノン)等々を先駆けとする光学・カメラメーカーが、後年の日本をカメラ大国に育て上げていくのです。

 戦後の雑誌ブームに乗って写真・カメラ雑誌も活況を呈してきます。戦前からあったアルス「カメラ」や「アサヒカメラ」が1949年に復刊すると「フォトアート」「日本カメラ」「カメラ毎日」「サンケイカメラ」等々の雑誌が相次いで創刊され、写真愛好家も増えていきます。それら多くの雑誌の成長の背景には、カメラメーカーとの広告出稿を通した共存共栄という相互利益の関係が大きく影響していたと思います。

50年代はフォトコンテストの成長期

 フォトコンテストの隆盛は、この光学・カメラメーカーとカメラ雑誌の二つの大きな波によってもたらされたと言えるでしょう。1950年には富士フォトコンテストが、1953年にはニッコールフォトコンテスト、二科会写真部公募展がはじまり、最長のものは来年70回目を迎えるなど、ますますの盛況ぶりを維持しているのは驚くべきことです。ちなみに応募数は昨年のニッコールが26,603点、二科会が11,204点、富士コンが29,554点となっています。この時代ほかにもキヤノン、ペンタックス、ミノルタなどほとんどのメーカーも何らかの形でフォトコンテストを開始し、1950年代はまさにその成長期と言える時代を迎えます。

 もちろん先に述べたカメラ雑誌もそれぞれに〝月例コンテスト〟をそれぞれ何部門か持っていて、増え続ける読者の作品発表の受け皿を作り出します。これはメーカーの年一回のコンテストと違って毎号の月刊誌の誌上で競い合うため、最後は年間の総得点数で順位が決まるというなかなか刺激的なシステムです。全国の写真愛好家が所属クラブや県や地域を代表するような意識で表現と技を競い合うのですから、読者も熱狂します。自分たちは応募しなくても〝ギャラリー〟となって応援しベテランたちの作品を楽しむのですね。

 雑誌にとっては読者を増やす機会にもなるので、12月号での最終集計を基に決定する〝年度賞〟には各メーカーの賛助を頂いて、トップの受賞者には最高級一眼レフなどの豪華な賞品が用意されたものです。また、審査員にはアマチュア写真愛好家に人気の第一線の写真家たちが選ばれたのは言うまでもありません。

プロと地方の作家を結んだフォトコンテスト

 いま世界中を見渡してみても、日本ほどフォトコンテストの盛んな国、言い方を変えればアマチュア作家による写真の水準の高い国はないと思っています。よく言われることですが、欧米はプロとアマの差は歴然としています。たとえばカメラにしても高機能な一眼レフを持っているのは欧米ではプロだけでした。日本では昔からプロに引けを取らない高級機を持っているアマチュアの方はゴマンといますね。その理由については、この国の写真関連製品が世界一のシェアを持っていて機材そのものが手に入りやすく、それらの情報を得やすいということともちろん無関係ではないでしょうが、写真の撮影技術や表現技術の水準が高いということについては、もうひとつ別の理由があるのではないかと考えています。

 そこにはいま述べたように、写真の大衆化の過程でカメラ雑誌の月例やメーカー、美術団体のコンテストを通じて醸成された、プロとアマチュア作家との交流(情報交換)と指導が大きな役割を果たしているのではないかと思うのです。

 戦前には特殊な例を除いては写真館ぐらいしかなかったプロ写真家の仕事を戦後大きく広げたのが、雑誌ブームと広告写真だと言われています。そこで活躍した代表的な写真家が「秋山庄太郎」と「林忠彦」の二人の写真家でしょう。ふたりはともに二科会写真部の公募展をはじめとするコンテストの審査等を通じて、全国アマチュア作家の指導に心血を注ぎました。

 また、アルス「カメラ」の月例で「土門拳」と「木村伊兵衛」がリアリズム写真を提唱し、彼らに影響を受けた応募作家たちが全国各地でオピニオンリーダーとして指導的な役割を果たしたことはよく知られています。そうした多くのプロ写真家たちが先駆者となり、その後の雑誌やメーカーのフォトコンテストを通じてアマチュアリズムに与えた影響力は、大げさに言えば日本の写真文化の向上において実に大きなものがあったと思っています。

フォトコンテスト入選作品から学んでみよう

 前置きがたいへん長くなりましたが、まず初めに写真好きな僕たち日本人の環境は一朝一夕に出来上がったのではなく、産業や経済や出版や文化などとも深く関わり合ってきたことを知ってほしかったからです。これからはフォトコンテストの優れた入選作品を通して写真の楽しさや素晴らしさ、そしてこんな写真を撮るにはどんなところに着目し工夫すればよいのか、などということを写真愛好家の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 まず、カメラのキタムラが毎年2回、春夏と秋冬に開催しているフォトコンテストの過去の上位入賞作品からその一部をご紹介しましょう。カメラのキタムラフォトコンテストは、他のコンテストと違って全国各地の最寄りのキタムラ店頭で応募できるのが大きな特長(梱包も不要)ですが、もちろん郵送もOK。テーマもあらゆるカテゴリーが用意されていることもあり、初心者からベテランまで自由に応募できます。

 カメラのキタムラ フォトコンテスト2021〈秋冬〉の審査員は清水哲朗さん。数々の写真賞受賞経験を持ち、いまバリバリ活躍中の中堅写真家です。自然風景の巨匠・竹内敏信事務所の出身で自然写真はもちろんのこと、モンゴルをテーマにしたドキュメントフォトでも有名です。こんな現役のプロ写真家から写真の評価をもらえるのも(入選したらの話だけど…)フォトコン応募のメリットですね。

■カメラのキタムラ フォトコンテスト2021〈秋冬〉WEBサイト

①グランプリ「ひだまり」横山晃二さん(ネイチャー・生き物部門)

 実に優雅な印象のネコのポートレート作品です。さぞかし格式の高い写真館での撮影?と思いきや、ご自宅の縁側での撮影のようです。ポイントは前景の網戸。コントラストをやわらげ、ソフトフォーカスのような効果を上げてくれました。輝度差の少ない撮影場所を選んで網戸の存在を目立たなくしたことも成功の要因です。

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②準特選「秋を駆ける」望月あゆみさん(ネイチャー・生き物部門)

 飼い主のもとへ〝戦利品〟の枯れ枝を運んでくるワンちゃんの得意げな表情が、ローアングルだからこそうまく捉えられました。前足が上がったシャッターチャンスも見事。望遠レンズによる背景と前景のボケ効果を活用したことで、主役が美しく浮き上がりました。

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③グランプリ「お食い初め」増田俊次さん(日常・自由部門)

 構図と色彩効果と赤ん坊の表情の勝利です。窓際からのサイド光をうまく活かして、お目出たい二つの主役を立体的に描写しました。まるでタイを見て喜んでいるような赤ん坊の楽しそうな表情は、画面の外の大勢の家族親戚の方々の努力によるものでしょうね。

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④準特選「流れ作業」伊藤久幸さん(日常・自由部門)

 マンションの足場工事作業を巧みに画面構成した洒落た作品です。垂直線と水平線を基調に、作業員の動きや服の色の点在もバランス良くまとまっています。まるでシフトレンズでも使ったように垂直がきちんと出ていることで、さらにその効果を上げました。

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⑤グランプリ「Snow_on_stage」久野穣さん(日常・自由部門)

 恐ろしいほどに美しく幻想的な雪の光景です。画面の上部に配置されている照明塔の光軸に向けて吹いてくる雪の動きが圧巻ですね。スローシャッターの効果が抜群。唯一この部分が動きを感じさせ、ほかの静かな部分と対比することで良いポイントになりました。赤いカラマツの点在も奥行きを感じさせ効いています。

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⑥準特選「神の目覚め」岡島和生さん(風景・絶景部門)

 近景はより大きく、遠景はより遠くに…という超広角レンズの特性を余すところなく発揮した素晴らしい山岳写真です。手前の樹氷の存在感と細部の美しさは、遠近のスケール感をより強調していて、石鎚山の作品でも特筆に値すると思います。タイトル通り、まさに神々しさに満ちた作品と言えるでしょう。

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 スペースの関係もあって今回はここまでしかご紹介できませんが、今後も引き続き素晴らしい入賞作品を鑑賞しながら、応募する場合の作品づくりのコツとポイント、自分に向いた応募の続け方、フォトコンを通して写真を上達させる楽しみ方などを一緒に学んでいきたいと思います。

 

 

■ナビゲーター:板見浩史(いたみ・こうじ)
1952年、福岡県生まれ。月刊日本フォトコンテスト(現フォトコン)誌の編集長を長年経て、現在はフォトエディター。写真賞や多くのフォトコンテスト審査にも関わる。公益社団法人日本写真協会(PSJ)顧問。カメラのキタムラ フォトカルチャー倶楽部(PCC)理事、一般社団法人日本写真講師協会、日本フォトコンテスト協会代表理事。著書に「カシャッと一句!フォト五七五」(NHK出版)、「世界一受けたい写真のアドバイス」(玄光社)など。

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