天候を味方に!条件を生かす撮影法|その2:雨天編
はじめに
「雨」と聞くと撮影に行くのが面倒? or 特に気にならない?皆さんはどちらでしょうか?色々な方とお話しすると面倒とお答えになる方が多数派の印象ですが、私自身は雨こそ撮影に出かけたいと思っています。
前回から複数回にわたってお送りしている天候条件による撮影の秘訣。今回は雨天での撮影についてお伝えしてまいります。
雨天ならではの撮影
風景写真にとっての雨はめぐみの雨。しっとりと情感あふれる写真を撮影することができます。濡れた木々や葉はみずみずしく、そして鮮やかに。地面や岩は黒々と重厚感を増します。
また小さなところに目を移せば、いたるところで水滴がキラキラと輝き、普段目にしている何気ない風景が一変します。雨天時は晴天の強い直射光に対して雲で光が拡散される柔らかい光だと言えます。影が付かない状態は優しい表現が出来る反面、光の強弱がつけにくく立体感が出しにくい難しい状態だともいえます。
雨表現のバリエーション
濡れた風景の様子を撮る
特に難しいことを考えることなく普段通りに撮影すればよいでしょう。風景が雨に濡れることで晴天時や曇天時とは一味も二味も違った作品に仕上がります。
■撮影環境:焦点距離29mm 絞り優先AE(F16、0”7秒、-1.5EV補正) ISO400 太陽光 CPLフィルター
しっとりと濡れた杉は色濃くなり重厚感を増します。大木で挟み込む額縁構図でその堂々とした姿を協調しました。
■撮影環境:焦点距離191mm 絞り優先AE(F13、1/20秒、-0.5EV補正) ISO400 太陽光 CPLフィルター
草の絡まった小屋の様子から年月を感じ取ることができます。何気ない風景ですが雨が情感を加えてくれました。渋いながらも鮮やかな柿の発色が印象的です。
■撮影環境:焦点距離55mm 絞り優先AE(F1.8、1/200秒、-0.5EV補正) ISO400 太陽光 CPLフィルター
切株に散る梅の花びら。雨の湿度感によって、より儚さが伝わります。
■撮影環境:焦点距離41mm 絞り優先AE(F13、1/3秒、-0.5EV補正) ISO800 太陽光 CPLフィルター
雨に濡れた紅葉。鮮やかさと艶やかさが加わります。
水滴で雨を表現する
雨天時は全体の風景だけではなく、細かい所にも目を向けてみましょう。水滴の美しさに魅了されるはずです。
■撮影環境:焦点距離161mm 絞り優先AE(F16、1/45秒、-1EV補正) ISO400 太陽光 CPLフィルター
彼岸花にびっしりと付く水滴が目に留まります。花の赤色もより鮮やかです。
■撮影環境:焦点距離90mm 絞り優先AE(F2.8、1/750秒、-0.5EV補正) ISO400 太陽光
水をはじく蓮の葉の上ではコロコロとした水滴ができます。ぜひ狙ってみてくださいね。
■撮影環境:焦点距離200mm 絞り優先AE(F2.8、1/60秒、補正なし) ISO400 太陽光 CPLフィルター
雨粒をまとえば蜘蛛の巣もこの通り。宝石をちりばめたようです。
波紋で雨を表現する
水面があるところでは、波紋を狙ってみましょう。出来る位置や降りの強さ、雨粒の大小などで上手くいく時といかない時があるので、1枚だけであきらめずに納得するまで複数枚撮影するのが良いでしょう。シャッタースピードが遅くなりすぎると波紋が写りにくくなるので調整が必要です。
■撮影環境:焦点距離41mm 絞り優先AE(F16、1/4秒、補正なし) ISO400 太陽光 CPLフィルター
大雨の中で撮影しています。無数の波紋が雨の様子を伝え画面にリズム感を描きます。音に例えるなら「ザーサー」といったところでしょうか。
■撮影環境:焦点距離200mm 絞り優先AE(F8、1/1000秒、補正なし) ISO6400 太陽光 CPLフィルター
こちらは小雨。音で例えるなら「ぽつぽつ」ですね。静かな水面に描かれる大小の波紋がかえって静寂感を強調します。薄暗い状況ですが、波紋の形が崩れないようなシャッタースピードを確保するためISO感度を上げて撮影しました。
■撮影環境:焦点距離229mm 絞り優先AE(F16、1/20秒、-0.5EV補正) ISO3200 太陽光 CPLフィルター
夕焼けを撮影していると突然の夕立。急遽望遠レンズで田んぼを狙いました。こちらもISO感度を上げてシャッタースピードを稼いでいます。
雨そのものを撮る
降る雨そのものを表現するのは難しいものです。シャッタースピードが遅すぎると雨の線が消えてしまいますし、速すぎると目立ちません。また、降りが弱すぎると写らないことも……トライ&エラーでものにしましょう。
■撮影環境:焦点距離61mm 絞り優先AE(F8、1/125秒、-0.5EV補正) ISO2500 太陽光 CPLフィルター
濡れた藤と新緑に強い雨が打ち付けます。カメラや自分が濡れてしまうのが気になるかもしれませんが、本降りの日に狙う方が雨は写りやすいと言えます。
■撮影環境:焦点距離55mm 絞り優先AE(F1.8、1/500秒、+0.5EV補正) ISO1250 太陽光 CPLフィルター
シャッタースピードを調整することで雨の線の長さが変わるのですが、どのように設定するかは雨の強さや雨粒の大小によって異なります。複数枚を撮影して再生画像を確認しつつ、ベストを探るのが良いでしょう。
PLフィルターの使用には注意が必要
風景撮影では使用頻度の高いPLフィルターですが、濡れた被写体を狙う際には、特に注意が必要です。
というのも……
PLの効果を強める = 被写体の反射を取り除き鮮やかな色表現ができる。
反面、被写体の質感や濡れた雰囲気や空気感が伝わりにくくなる。
PL未使用 = 濡れた被写体の反射が強すぎて色が出しにくい。
と言えます。
■撮影環境:焦点距離26mm 絞り優先AE(F16、6秒、-0.5EV補正) ISO400 太陽光 CPLフィルター
PLフィルターの反射除去効果を最大にして撮影。緑が鮮やかに表現できていますが、濡れた葉の様子を描けているとは言えません。
■撮影環境:焦点距離26mm 絞り優先AE(F16、6秒、-0.5EV補正) ISO400 太陽光 CPLフィルター
PLフィルターの反射除去効果を最大からやや弱めて撮影。葉が濡れた様子を描くことが出来ました。この際PLフィルターが未装着だと葉のテカリが強く出すぎて色の鮮やかさとの両立が出来ません。
雨天時は暗いことが多く、木々が覆い茂る森の中などではさらに光量が少なくなります。PLフィルターを装着すると1段階~2段階シャッタースピードが遅くなってしまうので使用をためらう方も多いとは思いますが、結論から言うと雨天でこそ使うことが望ましく、適切に調整して使うことで被写体の色と質感を両立することができます。
調整の基準は色を鮮やかに表現したいのか?それとも、濡れた被写体の質感を表現したいのか?を考えながら行うと良いでしょう。
雨天時の装備
雨の日は撮影を控えがちという方にお聞きすると、カメラやレンズが気になるからといったお答えが多いようです。確かに大切なカメラやレンズを濡らしてしまうと心配になりますよね。しかし、装備をしっかりと整えることで、そう気にならなくなるでしょう。
いざ出かけるまでは、気が乗らないかもしれませんが、思い切って一歩フィールドに踏み出してしまえば、むしろみずみずしい風景のとりこになってしまうことでしょう。それでも濡れるのが気になるという方は、まずは雨上がりを狙って出かけるのがおすすめです。
ただし気温が高い夏季は雨が上がるとともにどんどん風景が乾いていくので、チャンスの時間は短く手早く撮影することが必要です。
服装
上下ともにレインウェアが必要です。ただし撮影時間が短い場合や小雨の場合は上だけで良い場合もあります。
おすすめは透湿防水素材(ゴアテックス等)を使ったものです。特に気温が高い夏の場合、ウェアに透湿機能が備わっていないと蒸れと暑さで撮影への集中力を欠いてしまいます。雨が降る中でも快適に撮影を続けられる装備を整えることは、良い作品のために重要だと言えます。
靴
長時間の歩行を伴う場合は、トレッキングシューズがおすすめです。こちらもウェアと同様に透湿防水素材(ゴアテックス等)のものが良いでしょう。また近くの公園やそう広くない場所、歩行距離が少ない場合は長靴もおすすめです。
足元に水が浸入してしまうと、早く靴を脱ぎたくなってしまい、集中して長時間撮影することができなくなってしまいます。
カメラの雨対策
最近のデジタルカメラやレンズは防塵防滴機能を備えているものが多いので過剰な心配は不要ですが、あまりにも濡らしてしまうとカメラやレンズが心配になってしまい撮影どころではなくなってしまいますよね。
そこで普段、私が雨の日にどのような装備で撮影しているのかを説明していきましょう。
・土砂降りでない限りはタオルをかけるだけ。カメラ操作を妨げることなく水滴を吸収してくれます。
防水タイプのカメラのレインカバーは外す際にカメラに水滴が落ちやすいので注意が必要。
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・降りが強い時は三脚に取り付ける傘ホルダーを使用
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・カメラを濡らした後は、カメラやレンズについた水滴や湿気をふき取りエアコンで除湿した部屋にしばらく置いてしっかりと乾かす。ドライヤーの熱風は避けましょう。
ズームレンズはいったんカメラから外し湿度の少ない部屋でズームリングを複数回往復させることでレンズ内にたまった湿度の高い空気を逃がします。防湿庫を持っている方でもそのまま入れるのではなく、上記の手順を踏んだうえで入れるのが良いでしょう。
雨天でありがちな失敗
レンズ前面に水滴が付着することで写真に写りこんでしまいますので、レンズフードを装着したうえで、撮影中、レンズに雨粒が付いていないかを確認しましょう。
また、雨粒をふき取るクロスやタオルが濡れてくるときれいにふき取れなくなりますので、乾いた布や新しいクリーニングペーパーを使いましょう。
雨天での注意点
普通に降る雨なら前述の装備点を踏まえて撮影すればよいのですが、あまりの土砂降りが長時間にわたって続くときや大雨予報が出ている時は撮影地の選定に注意が必要です。都市部の公園などでは、余程でない限り、そう気にしなくてもよいのですが、土砂崩れが起きそうな山間部、また滝や渓流などの河川では増水が考えられますし、特に上流にダムがある場所などでは放流によって急激に水かさが増えることもありますので避ける方が良いでしょう。
また撮影中、あまりに降りが強くなり不安を感じたら、切り上げることも選択肢に入れ、撮影に集中しつつも周りの状況の把握しておくことが重要です。あくまでも自然相手だということを頭に入れておくことが大切です。
まとめ
今回は雨天での条件に関して撮影と装備のポイントをお話してまいりましたがいかがでしたか?これまで雨で撮影を躊躇していた方もこの記事をご参考にしていただき、撮影に出かけていただけると嬉しく思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみに。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニーイメージングプロサポート会員・αアカデミー講師
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