スナップで街めぐり。一瞬の情景を愉しもう。Vol.7|府中
はじめに
ここは写真撮影が面白いと知った場所。会社からの帰り道に電車の乗り換えが面倒なこともあり、二駅分を歩く様になった。30分ぐらいの道中で花も沢山咲いていたので写真を撮り始めた。帰りは夕焼けの時間になる事が多く素敵な瞬間が多い。当時は写真をはじめて間もない時期で、夢中になってここでの撮影を続けていた。毎日同じ道ではあるが、色々なものを探す様になり、そういった習慣は今でも続けている。10年以上前の古い写真が多いが、そんな府中のいろんな場面を見てほしい。
土手を見上げて
撮ったのは2008年、当時この様な土手を見上げ人を小さいシルエットで捉えた写真は見たことはなかった。毎日の様に土手の上を歩いていたのだが、下の道からこの様な景色が見えることに気が付くのに2年くらい掛かった。この写真を撮って以降、自分が今いる場所ではなく、あちらの場所に立つとどう見えるんだろう思うようになった。まだ芽生えていない桜の枝と、素晴らしい空の色、ポンチョの女性がいい雰囲気を醸し出してくれた。
関戸橋近くのグラウンド(1)
グラウンドでは少年野球の練習をしていた。張りきったコーチが股を広く開いて構えていて、その場面にほっこり。せっかく望遠レンズもつけていることだし、これで面白い写真が撮れないか考える。股の向こう側の世界を想像してふふふっておかしくなった。少年が飛んできた球を捕り損ねて後ろを向いた瞬間にシャッターを切った。登場人物皆一生懸命なんだけどそこをあえて和む方向にもっていくことが好きだ。
関戸橋近くのグラウンド(2)
夕暮れの土手で子供がお母さんとキャッチボールしている場面に出会った。夕陽が綺麗だったこともあり、逆光になる場所へ移動。少年のシルエットが光っている事に気が付く。背景が暗くなる場所で露出をアンダーにしてその光を捉えた。そしてボールを投げる時よりも、お母さんからのボールを待っている時の方が物語が見えるかなとこの写真を選んだ。
関戸橋近くの土手
土日の夕方は土手の上を走る野球少年に出会うことがある。自転車だけでもいいシルエットになるのだが、この場合は少年、ヘルメット、自転車、集団、背中にバットといった素敵な写真になる要素が盛りだくさん。これだけの情報量の写真はそうそう撮る事は出来ないが、そんな場面に出くわした時どう処理するか。私の場合は、カメラの高さを決めたら次は人の間隔を意識する。被ると一気に残念な写真になるので、そこを一番気にかけてシャッターを切った。
関戸橋近くのグラウンド(3)
グランドで締めのストレッチをしている子たちの長い影に目がいった。その真ん中にひっくり返ったかわいい影を発見。奥にある川の向こうの景色も良いので、なかなか見てほしい影のところに目が行かない。ぎりぎり空と川向こうの景色は入れずにグランド中心の構図にしてみた。じっくりと写真を見てくれる人だけがわかるような場面をひっそりと入れるのが好きだ。
飛んでいる傘
計算して撮っていないハプニング系の写真。小雨が降っていたので土手の上の自転車、傘をさしている人のすれ違いが撮れるといいなと待っていた。こう撮れるなんて想像もしていなかった。そんな一生に一度も出会えなさそうな場面でよくシャッターを切ったと思う。少年が通り過ぎた時に突風が吹いた。そんな突然の出来事の時、もしかしたらってシャッターを切る癖があるのだが、この時はそんな感じで撮った。撮った時はあはは傘が飛んでると笑ってたぐらいで特別な写真だとは思っていなかったが、後にこれが私の代表作っぽくなるとはわからないものだ。
府中本町駅近くのトンネル(1)
帰り道、傘を持っていないところに突然の大雨。仕方なくトンネルに避難し雨宿りをしていたら、こんな場面にでくわした。この前に1台自転車が通りすぎたので、おおよその構図は思いついた。あとは自転車の人を待つだけだ。向かいに明るい街灯があるのでそれを利用して人をシルエットに。明るいレンズだったので雨粒の流れも長くなりすぎずいい感じで撮る事ができた。突然の大雨ってのは写真にとってはかなり好条件。傘を差しながらだとちょっときついと思うが、このような場所を数か所知っておくといい写真が撮れる確率がぐっと上がると思う。
大國魂神社近く
猫が自転車の籠の中で眠っていた。めんどくさそうにこちらを見た瞬間をパチリ。こういった場面で人もさりげなく入っているのがポイント。メインの被写体がかなり強くても補助的に人のシルエットなどあると作品性がぐっとあがるので、しっかり周りを見て撮ろう。あと、猫がこっちを向いてくれたのでそちらにレンズの光軸を向けたくなる場面だが、猫中心の写真にしたくはないので、全体的な構図を優先している。
府中本町駅近くのトンネル(2)
夜の雪の写真は難易度がぐっと上がる。トンネルの中から望遠レンズを使い、先が見通せ、木と街灯が並ぶ道でどのように撮るか色々考えた。自分は道よりも1mほど階段を下りた低いところに居たので、人の足元から撮る事ができた。そこを通る方の股越しに遠くを歩く傘の人を狙ってみた。
多摩川の冬ススキ
実は多摩川の土手はススキの一大群生地。冬の時期は日が沈む太陽を低い位置で撮る事ができる。東京ではなかなか撮る事ができない夕焼けの風景に出会えるはずだ。この写真は特に条件が良かった、上下の雲に囲まれた太陽、それによって太陽の上下は暗くなるので飛んでいる種が強調された。風は写真の大敵になる事が多いが、その中でもこんな写真が撮れる事があるのであきらめないことが大切だ。
あとがき
府中、いかがでしたか。土手沿にいい景色が広がっているので、そんな写真が多くなったが、縦横無尽に遊歩道があり、季節ごとの花も沢山撮る事ができる。コース的には府中本町から多摩川方面、土手を撮って中河原か聖蹟桜ヶ丘方面がおすすめだ。土手は断然夕方がいいので、冬の時期は15時頃府中本町駅から遊歩道でスナップしながら向かうと良いと思う。
■写真家:富久浩二
日々の通勤風景を主に、いつも見ている変わりばえのない、しかし二度とやって来ない一瞬の情景を大切にし、ちょこっと人が入った物語りのある写真をテーマのもとに、人びとの優しく楽しい感情が伝わる事を目標に日々撮影している。子供の頃の目線、何と無く懐かしさを感じて貰える様に、ライブビューを使った低い目線、思い切って背伸びをした様な高さからの撮影が特徴的。