天候を味方に!条件を生かす撮影法|その3:霧編
はじめに
複数回にわたってお送りしている天候条件による撮影の秘訣。今回は「霧」の条件です。霧は街中で暮らしていると滅多に出ないように感じますよね。しかし、少し山の中に入ると良く出ているもので、目的地を選べばかなりの確率で遭遇できます。そこで今回は、霧の出やすい条件や撮影についてのポイントをお伝えしてまいります。
霧の出る条件
平野部での霧
出る確率は、そう高くありません。季節を問わず出ると言えば出るのですが、湿度に加えて空気と地表との温度差が必要となりますので、夏以外の方が出やすいと言えます。前日に雨が降り、その後、夜の間に晴れるような条件になると、放射冷却現象により地表が冷やされて霧が発生しやすくなります。アスファルトで覆われた地面よりも、水分を蓄えられる土の地面の方が発生確率は高くなります。とは言え、その予測はなかなか難しいもの。まずは天気予報で濃霧注意報が出ている時を参考にするとよいでしょう。
山間部での霧
前述の平野部での条件を満たせば、より深い霧となりますが、それ以外でも雨が降る、もしくは雨上がりなどは山の斜面に雲がかかるように霧が発生します。湧き上がるような霧となることもあります。実は雲と霧は同じもので、浮かんでいるものが雲。接地しているものが霧と定義されています。下から見上げていると山の頂上付近にかかっているのが雲に見えますが、実際にその付近を歩いている人にとっては霧だということですね。こちらのタイプは季節関係なく発生します。
霧条件のバリエーション
霧を一言で表すなら「幻想的」という言葉がしっくり来るでしょう。辺り一帯を霧が包み込むことで、普段何気なく見ている風景が一変します。しかし霧と言っても、その出方やタイプによって撮影時の注意点も変わりますので、代表的な霧撮影のケースを説明してまいります。あくまでも自然現象なので、すべての霧に当てはまるわけではありませんが参考にしてくださいね。
(1)一面を覆う霧
風景全体が霧の中にすっぽりと入り、ベールをまとったようになると視界が悪くなり遠望がきかなくなります。たとえ肉眼で見えていても写真に写すとぼんやり霞んでしまうので、遠くのものを望遠レンズで引き寄せる場合はシャッターチャンスの見極めが重要です。
また、霧が深い時は前景を入れることで近くはハッキリ、遠くをぼんやり描くことで遠近感表現につなげることができます。そしてもう一つのおすすめは、森や林を探して中に入ること。霧のおかげで空間に浮かび上がる木々の模様が、遠くになるほど薄くなり奥行きが増します。
上はNGカット。霧のベールが主役を覆い隠してしまい、ただ単に全体がぼやけた写真になってしまいました。下のOKカットでは手前紅葉部分の霧が薄くなり、遠景だけが霞むタイミングを待って撮影しています。
(2)光芒
前述(1)の条件(霧に覆われた森)に運よく太陽の光が差し込むと光芒が現れます。条件が揃わないとなかなか出会えませんが、その神々しい風景は魅力たっぷりです。光のラインを美しく描くためには露出補正が重要。背景の明暗によってプラス側にするのかマイナス側にするのかが変わります。ケースバイケースで一概に決められないので現場で試すことが重要です。雨→晴れ、霧→晴れの予報が出た時がチャンスです。
(3)雲海
前述(1)の条件で、ほとんど視界がきかないような濃霧時、近くに高い山や展望スポットがあれば上がってみることも選択肢のひとつです。霧が地表付近にとどまっている場合、霧の層を突き抜け、それよりも高い所に行くことができれば雲海に出会える可能性大!そういう意味では全国に数多くある雲海の名所は、眼下に霧が溜まりやすい場所だとも言えますね。
ただしこればかりは思い通りにはいかず、標高を上げても霧の中だということもあります。何度もトライしていると傾向が自分なりにつかめるようになるかもしれませんが、こればかりは行ってみないとわからず運頼みと言えます。雲海とはよく言ったもので、その様子はまさに雲の海。その光景は感動的です。
(4)浮かぶ霧、棚引く霧
雨の止み間や雨上がりによく見られるのですが、霧というよりは雲が浮かんでいると言った方がしっくりときます。当然霧のかかっている部分は霞むのですが、霧のない部分はクリアに見えますので風景を遠望した写真が撮れます。時間と共に目まぐるしく霧の形が変わりますので、良い形になったと思ったらスピーディーに撮影しましょう。また形が良くないと思っても、時間の経過とともに「良くなるかもしれない」ことを想定してシャッターチャンスに備えておきましょう。
(5)水面(地表)からの霧
霧条件になるためには、少なからず何らかの湿度や水分が必要だと言えます。そういう意味では、常に水気のある湖面などからの蒸気霧は発生条件が読みやすいと言えます。ねらい目は夜を通して朝まで快晴の日。放射冷却現象により冷やされた空気と水面との温度差により、分量の多少はあれ浮かぶような霧が見られます。真夏は気温と水温の差異が小さく、海抜の高い山間部を除いては発生しにくくなります。また、地面が湿気を含んでいる時は地表をはうような霧が発生することもあります。
霧撮影時の装備
少しくらいの霧なら特段の装備は不要ですが、相当に濃い霧の場合はカメラも人も水気への対策が必要です。こちらに関しては雨撮影に準じた装備と同じと考えましょう。前月に雨に関する記事を書いていますので、そちらも参考にしてくださいね。
■天候を味方に!条件を生かす撮影法|その2:雨天編
https://www.kitamura.jp/shasha/article/487967070/
霧撮影時の注意点
濃霧時には当然視界が悪くなります。まずは車の運転。辺りが霧に包まれてくると気持ちがはやるのはわかるのですが、速度は控えめに。昼間でもヘッドライトの点灯を忘れず、暗い時間帯ではさらに注意が必要です。霧の撮影を想定して出かける場合は、慣れた道でも通常より時間がかかりますので早めの出発を心がけると良いでしょう。
また、山中を歩く場合は霧に覆われてしまうと方向感覚が失われます。特によく知らない場所で少しでも不安に思った時の深追いは禁物です。不慣れな方は、よく知っている場所や標識等のルート整備がしっかりした場所から始めるのがおすすめです。
まとめ
一般的に「霧」と聞くとただ単に真っ白な風景かと思われがちですが、霧の性質によって場所を選び、狙いどころを変えることで様々な撮影を楽しむことができます。今まで経験したことがない方でも、一度その幻想的な風景を目の当たりにすればその魅力に引き込まれてしまうでしょう。その時その時の状況判断が必要になるのですが、まずは「習うより慣れろ!」。条件を探りつつ、まずは出かけることから始めましょう。今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。次回もお楽しみに。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニーイメージングプロサポート会員・αアカデミー講師
高橋さんの風景写真ハウツー記事はこちら
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