スナップで街めぐり。一瞬の情景を愉しもう。Vol.9|雑司ヶ谷

富久浩二

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はじめに

 池袋駅から10分ぐらい南に歩くと、昭和の雰囲気が味わえる不思議な空間が現れる。大きな道路が少ないから静かで、落ちついてスナップができるお気に入りの街だ。 ここ10年ぐらい前に廃校になっていた小学校が取り壊されたり、古い味のある建物もぐっと減ってきたが、鬼子母神と都電荒川線の辺りはまだまだ昔の雰囲気が残っている。 ここには線路があり見通しがよい場所があるので望遠を使うことも多い。そんな場所で自分は何を考え、撮っているのか紹介したいと思う。

鬼子母神前駅の線路横

 数年前の大雪の日、家から電車に乗り継いで一時間ぐらい掛かるこの場所へ迷わず向かった。真っすぐな道がほんの少し谷になっているので、望遠で丘の方から撮ると雪がただ降っているのではなく、レンズを向けた方向に暗い場所の面積が増える。それにより雪の粒が目立つのと、遠方の陰影もよく見える。線路を渡る傘の人を待っていたのだが、もうこの場面は細かいことを言わなくてもわかる印象的な写真になっていると思う。

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■撮影機材:SONY α7 + MINOLTA MC TELE ROKKOR-QF 200mm f3.5

鬼子母神参道のわきの道

 犬がボールとにらめっこしている場面に出くわした。その先で男性がゴルフの練習。「ボール遊び繋がり」って頭に浮かんだ。しかし、ここでいきなり男性の方にレンズを向けると練習をやめてしまう可能性があるので、なるべく犬を狙っている風を装い、男性の姿勢を一番気にしつつシャッターを切った。この場面で他に気を付けた事は、右側の自転車のカギ(青い輪っか)と軽自動車を構図の中に入れた事だ。これだ!と思った場面でも、更に細かいところを見て撮ることが写真の奥深さになっていくと思う。

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鬼子母神参道の角

 角にある古民家は味があるのでよく撮影するのだが、行きかう人も一緒に撮りたいので、カーブミラーに映りこんでいるところを望遠で狙った一枚。このご時世、街中では人にレンズを向けづらいのでこんな撮り方をしてみるものいいかもしれない。角度的に参道の奥まで写るように、高い位置にカメラを持って撮っている。あとはこんな中でも人の動き、間隔も見てシャッターを切ることが大事だ。

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■撮影機材:SONY α7R III + MINOLTA AF70-210mmF4

小道

 この辺りの野良猫は餌を沢山もらっているのか、喧嘩もしないのでのんびりとした光景を撮ることができる。望遠を付けていても寄り過ぎず、街の雰囲気を残しつつ撮ることを心掛けている。左側の猫がさみしく端っこを歩いているところがお気に入り。猫だけを注視した写真にならないよう気を付けた。

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■撮影機材:SONY α7R III + MINOLTA AF70-210mm/F4

雑司ヶ谷駅

 雑司ヶ谷駅近くにあるカーブミラーを覗いてみたら、車両が丁度丸いミラーの中に映り込んでいるのが見えた。ただ撮るだけでは面白くないと思い、ミラーの中の流し撮りに挑戦。3両目ぐらいでなんとか使える写真が一枚撮れた。ただ撮るだけじゃ面白くないって、その場その場で思うことが大事。いつも通る道でもそう思うだけでいろんなものが見つかっていくと思う。

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■撮影機材:SONY α7R III + MINOLTA AF200mmF2.8 G

都電荒川線の線路横

 街を歩いていると、なにこれって不思議な場面に出くわすことがあると思うが、これはほとんどの人には一生に一回も出会わなさそうな場面。警備の男性を囲む子猫が3匹。男性は落ち着いていてしばらく動かなそうだったので、電車を待ってパチリ。電車も含めたお気に入りの写真になってくれた。こんな凄い状況でもメインの被写体が動かないと思った場合は、他に動くものを少し待つ。プラス1を意識するだけでも作品性がぐっと上がる。

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雑司ヶ谷駅近くの踏切から

 丘の上の方から望遠で撮影。私は望遠で撮影する時は、ほぼマニュアルフォーカスで撮っている。オートフォーカスだと手前にピントをとられて失敗するのが怖いからだ。終始オートフォーカスで撮る人は、その場面場面でマニュアルフォーカスに簡単に切り替えられる設定をしていると失敗写真が減ると思う。この場面でのピントは自転車。来てからでは間に合わないので、踏切の自転車が通るであろう場所に置きピンをして撮っている。

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■撮影機材:SONY α7R III + MINOLTA AF200mmF2.8 G

鬼子母神近く

 瞬間を捉えるのではなく、ただこの場所が気に入ったと思った時の撮り方。単焦点のお気に入りのレンズに付け直し、じっくり構図、ピント位置を考える。この場面でまず気になったのは自転車と対になっている雪柳の花。黒と白の境目を中心にして、余計なものが写り込まないようにぎりぎりまで下がってこの構図にした。ピントは手前のハンドルに。理由は手前にピントを持ってくることによって画面に立体感を出したかったからだ。こんな感じで花が混ざるスナップはボケを生かすと雰囲気がぐっと良くなるので、レンズ交換を面倒くさがらずに単焦点で撮るといい。

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■撮影機材:SONY α7R III + SONY Planar T* FE 50 mm F1.4 ZA

鬼子母神前駅電線路

 街スナップでは機材が一気に重たくなってしまうので、大きく明るい望遠を使うことは少ないと思うがこんな風に見通しがよくなる場所があるとわかっているときは、持っていくと印象的な写真が撮れることが多い。情報量も一気に多くなるし、ボケも生かしやすくなる。この場面では黒猫だったのが幸い。完全にシルエットとなり、表情もわからないが、猫の右上の矢印がポイントとなったお気に入りの一枚。

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■撮影機材:SONY α7R III + MINOLTA AF200mm2.8G

あとがき

 今回は雑司ヶ谷の一番の見どころ、鬼子母神堂の写真が一枚もないが、それぐらい近くのいろんな場所に魅力的な被写体が多い場所だ。一枚目の様な雪はめったにないので普段は撮ることはできないが、都電荒川線の線路は東西に延びているので、早朝、夕方に行くと雪に負けないぐらいのいい場面を撮ることができると思う。途中途中にある魅力的な被写体もズームで撮るにはもったいないので、お気に入りの単焦点があれば持っていくことをお勧めする。

■写真家:富久浩二
日々の通勤風景を主に、いつも見ている変わりばえのない、しかし二度とやって来ない一瞬の情景を大切にし、ちょこっと人が入った物語りのある写真をテーマのもとに、人びとの優しく楽しい感情が伝わる事を目標に日々撮影している。子供の頃の目線、何と無く懐かしさを感じて貰える様に、ライブビューを使った低い目線、思い切って背伸びをした様な高さからの撮影が特徴的。

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