【ジャンク】引き伸ばし機用レンズってカメラに使える?ニコン「EL-NIKKOR 50mm F4」
はじめに
今回はいつもとはちょっと違ったレンズのお話です。ピックアップしたのはカメラのレンズではなく、引き伸ばし機のレンズです。若い世代の方には馴染みの無いレンズと思いますが、フィルムを自分で印画紙に焼き付けていた筆者のような世代では懐かしいレンズです。そんな引き伸ばし機用レンズのニコン「EL-NIKKOR 50mm F4」をジャンクコーナーで見つけてしまったので、早速購入してしまいました。ただ、引き伸ばし機用のレンズをカメラに装着して使用するには、なかなかの工夫が必要になってきます。今回は、引き伸ばし機用のレンズ「EL-NIKKOR 50mm F4」をいかに簡単・快適に撮影できるかを目標に試行錯誤してみました。
引き伸ばし機用レンズってどんなレンズ?
引き伸ばし機用のレンズは、フィルムを印画紙に焼き付ける際に使用する「引き伸ばし機」に使うためのレンズで、基本的には絞りリングはあるもののフォーカスリングは無く、固定焦点のレンズになります。引き伸ばし機側でピント調整する為、レンズ側にはピント調整するリングはありません。また引き伸ばし機のレンズは各社から発売されていましたが、マウントに関してはねじ込み式ライカマウント(39mm)が多く採用されており、引き伸ばし機とレンズは自由に組み合わせる事ができました。
そんな引き伸ばし機のレンズも、引き伸ばし機自体の需要が減り使われる事も少なくなり、使用用途が限られているレンズであるがゆえに、中古市場ではジャンクコーナーで格安で販売されている事も多いレンズです。
今回使用する「EL-NIKKOR 50mm F4」はエントリークラスの引き伸ばし機用レンズで、1970年頃では標準価格5,800円で販売されていた、ニコンの引き伸ばし機用レンズの中では一番安く販売されていたレンズです。
「EL-NIKKOR 50mm F4」の主な仕様
焦点距離 | 50mm |
画角 | 46度 |
レンズ構成 | 3群4枚 |
絞り | 4・5.6・8・11・16 |
マウント | ライカマウント(39mm) |
重量 | 63g |
この小さな引き伸ばし機用レンズですが、実際にカメラで使用しようとすると色々な問題点があり、その中でも一番の問題点は撮影する際のピント調整です。引き伸ばし機用のレンズにはピント調整する機能が無いので、ミラーレスカメラに装着して撮影するには、ピント調整をする機能を別途用意しなければなりません。また、使用するカメラのメーカーや引き伸ばし機レンズの種類によって、調整する為の機材が異なってくることから、格安で購入できますが、実際に使用するには難易度が高くなってきます。
引き伸ばし機用のレンズをミラーレスカメラで使用する際の一般的によく使われている手法としては、
1. 引き伸ばし機用レンズM39マウントをM42マウントに変換するアダプターを使用
2. カメラ、レンズのフランジバックに合わせたヘリコイド(M42マウント)を使用
3. M42マウントから使用するカメラのマウントに合わせたマウントアダプターを使用
といったように、いろいろ組み合わせて無限遠のピントが合うように調整して使用されている方が多いようです。
今回、筆者は試行錯誤のうえ少し違ったアプローチで、この引き伸ばし機用のレンズをミラーレス機のソニーαで撮影できる様にチャレンジしてみました。
「EL-NIKKOR 50mm F4」を使うために試行錯誤
今回は、引き伸ばし機用のレンズ「EL-NIKKOR 50mm F4」を使って、簡単に楽に撮影をするアプローチを考えてみました。このアプローチは単に筆者の遊び心からの思い付きで始めたもので、コスト面などを考えるとパフォーマンスは非常に低いものになってしまいますが、組み合わせによってこんな事もできてしまうのが、いろいろなレンズにハマってしまう要因かもしれません。
まずはレンズとアクセサリーとカメラを組み合わせる為の事前調査です。
・引き伸ばし機用のレンズ「EL-NIKKOR 50mm F4」のフランジバックは45.2mm
・使用するカメラ、ソニーαのフランジバックは18mm
このフランジバックの差27.2mm。ここでピンときたのがこの27.2mmの数字。ライカMマウントのフランジバックの値が27.8mmなのでかなり近い数字だと思い、もしかしたら手持ちのTECHART LM-EA9(ライカMマウントレンズ → ソニーEマウント変換)マウントアダプターを使用できるのではと思いました。
このTECHART LM-EA9マウントアダプターは、AF駆動用モーターを搭載し、レンズ側のマウント面を前後に動かしてピントを合わせる仕組みになっていて、可動部分の繰り出し量はカタログ値で4.5mmとなっているので、上手くいけばフォーカスリングの無い「EL-NIKKOR 50mm F4」がオートフォーカスで使用できるのではないかと予想。
しかし、TECHART LM-EA9マウントアダプターを使うと決めたら、残り45.2mm-27.8mm=17.4mmの調整が必要になってきます。
L39マウントからM42マウントに変換するアダプターが必要なので、このアダプターの厚みの影響が1mm程度あり、残り16.4mmを調整する為に16mm厚の接写リングを組み合わせてみました。これで残り0.4mm分はマウントアダプターの「TECHART LM-EA9」の稼働領域でカバーできるのではないかと思い、早速組み合わせてみました。
組み合わせた状態はなんとも不思議な形にはなってしまいましたが、結果として面白い組み合わせのオートフォーカスで動く引き伸ばし機用レンズが爆誕しました。
「EL-NIKKOR 50mm F4」はどう写るのか?
マウントアダプター類を駆使して出来上がったオートフォーカス仕様の引き伸ばし機用レンズ「EL-NIKKOR 50mm F4」を持って、東京~新橋間を散策しながらスナップ撮影をしてみました。使い勝手から言えば、及第点をもらえるレベルで撮影をする事ができたと思います。
ピントリングが無い引き伸ばし機用レンズを、ヘリコイドを使用しないでマウントアダプター「TECHART LM-EA9」の稼働でピント調整に頼るため、マニュアルでのピント合わせができない点や、ケンコー接写リング16mmを挟んでいる事もあり、オートフォーカスの動きが不安定になる事もありました。しかし撮影した写真を見てもらえばお分かり頂けると思いますが、ピントやその写りに関してもまずまずの合格点を頂けるレベルにあると思います。
引き伸ばし機用レンズは、そもそも小さなフィルム原版を印画紙に拡大して投影する為のレンズなので、解像性能は高く、歪みなどの収差がよく抑えられているのが特徴です。実際にこうやってカメラに装着して撮影してみると、小さな引き伸ばし機用レンズ「EL-NIKKOR 50mm F4」の素材の良さを感じることができます。50年ほど経過したレンズなのに、現在のレンズと比べても遜色ない写りをしてくれました。
逆光時の撮影の際に虹色のフレアが発生しましたが、引き伸ばし機用レンズのもともとの用途を考えれば逆光なんて想定していないので、オールドレンズらしさが出た感じです。
まとめ
今回はジャンクコーナーで1000円で入手した、引き伸ばし機用のレンズ「EL-NIKKOR 50mm F4」で撮影を楽しんでみましたが、引き伸ばし機用レンズの素材の良さを改めて実感しました。引き伸ばし機用レンズはピントリングがないので、カメラに装着して撮影する際には今回のようなひと手間を加えなければいけませんが、試行錯誤する事は実験でもしている感じがして、とても楽しい時間を過ごすことができました。
■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー
・ソニーαアカデミー講師