第2回フィルムカメラを始めよう!ジャンクなハーフカメラを活用する:京セラSAMURAI編

鈴木啓太|urban
第2回フィルムカメラを始めよう!ジャンクなハーフカメラを活用する:京セラSAMURAI編

はじめに

こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回はフィルムカメラを始めよう!シリーズ第2回として、近年フィルムの高騰によりジワジワ人気を上げてきているハーフカメラの魅力を紐解いていきたいと思います。

ハーフサイズカメラとは

ハーフサイズカメラ、通称ハーフカメラは通常の135フィルムの半分を使う、ハーフ判と呼ばれるカメラの事です。ハーフカメラは1960年代にブレイクしたカメラで、今も市場にあふれているOLYMPUS PENシリーズがその火付け役と言われています。まだフィルムが高価だった時代に、倍の量撮影ができ、コンパクトという理由で爆発的にヒットしたカメラです。

世界のカメラ史に名を残すであろう、数多くのカメラを作り上げてきた米谷美久氏が設計した初のカメラ、OLYMPUS PENは女性を中心に大ヒット、1960年代に一大ハーフカメラブームを引き起こしました。その後、技術革新により135フィルムを使うフィルムカメラも小型化が進み、1967年コンパクトフィルムカメラ界のキングともいえるRollei35が発売、1970年以降ハーフカメラは徐々に衰退していくことになるのです。

■撮影機材:OLYMPUS PEN-FT + F.Zuiko Auto-S 38mm F1.8
■フィルム:FUJIFILM FUJICOLOR100

ハーフカメラの衰退は諸説ありますが、当時では撮った写真を確認するのにプリントをすることは必須で、倍の量撮れることによるプリント費用の増加が、そのひとつであると考えられています。2022年現在では、プリントよりもデータ化がメジャーとなっており、スキャン技術の向上によって、ハーフのネガでもそれなりに高解像度で出力ができるようになりました。近年のフィルムの高騰、そしてKodakから最新ハーフカメラ「EKTAR H35」がリリースされたことにより、第三次ハーフカメラブームの機運が高まっている、そう言えるのではないでしょうか。

ハーフカメラの革命児 SAMURAIシリーズ

さて、前置きが長くなりましたが、今回紹介する京セラの「SAMURAI」は1987年に発売され、1980年代の第二次ハーフカメラブーム再ブレイクのきっかけとなった名機です。作曲家 坂本龍一氏をモデルに起用し、「カメラは今日からサムライです」のキャッチコピーの元、片手でカメラを持つ姿は今見てもカッコよく、正に大ヒットとなりました。一眼レフの構造をもつ、ブリッジカメラと呼ばれるジャンルのカメラで、Chinon GenesisやRICOH MIRAIといった、ムービーカメラの様な見た目が特徴です。

SAMURAIは3倍ズームを誇る初代「×3.0」、4倍ズームに進化した「×4.0」、多重露光、5重露出、高速連続撮影など機能てんこ盛りの「Z」、そしてZの廉価版「Z2」の4種類からなります。Zシリーズにはそれぞれ左手用(!)の機種「Z-L」と「Z2-L」も存在しており、その人気の高さがうかがえます。僕が愛用しているのは「Z2」。そのスペックは次の通りです。

京セラ SAMURAI Z2
レンズ 京セラズームレンズ25~75mm(35mm換算:35~105mm相当)、F4.0~5.6
シャッター プログラム電子シャッター(4秒~1/500秒)
露出制御 プログラムAE
測光方式 TTL中央重点、スポット測光自動切替(SPD素子使用)
測光範囲 EV3~EV18(ISO100)
フィルム感度設定 DX方式自動セット(ISO50~3200)
DXのないフィルムと自動セット範囲外の感度のものはISO100に設定
オートフォーカス TTL位相差検出方式
測距範囲 f=25mm 1.0m~∞、 f=75mm 0.7m~∞
ファインダー 視野率83%
フィルム巻き上げ オートローディング
ストロボ 有(発光禁止可能)
電池 6Vリチウム電池(2CR5)1個使用
デート機能 2020年まで
寸法 幅63×高さ108×奥行118.5mm
重量 460g(電池別)

 

特徴は横構図で撮影できるということ。PENシリーズなど一般的なハーフカメラは基本的に縦構図がデフォルトになっているのですが、本機種は数少ない横構図が基本のファインダー。また、レンズはズームとは言え、10群12枚構成で高い描写力を誇り、35mm換算で約35~105mmといった万能ズームレンズさながらのスペックは、その使いやすさに拍車をかけています。

レンズの解像力の高さ、切れ味からSAMURAIと名付けられたのかは定かではありませんが、当時の単焦点レンズに匹敵する描写力が備わっていたと言うことは想像に難くないでしょう。

■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2
■フィルム:KODAK ULTARAMAX400
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2
■フィルム:KODAK ULTARAMAX400
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2
■フィルム:FUJIFILM C200
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2
■フィルム:KODAK GOLD200

弱点と言えばAFで、特に暗いところでのAFは迷うことが多い印象。ですが、日中晴れ間であれば、それを払拭できるくらい快適に使うことができます。ボディの重さも電池込みで500g程度と、比較的軽量。特徴的なボディですが、万人が使いやすい人間工学に基づいた機種です。

しかし、SAMURAIには大きな欠点があります。特にZシリーズはほとんどの機種でレンズが曇ってしまう(僕のZ2はファインダーまで曇っている)という持病があります。かなり売れたカメラで市場にはまだまだ多く流通していますが、そのほとんどでレンズが曇っているという状態で販売されています。

■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:FUJIFILM X-TRA400
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:FUJIFILM X-TRA400

これが曇ったレンズで撮影した例です。曇ったレンズでストリートスナップを撮影しても、フワッとなりすぎてしまうので、あまりオススメとは言えません。しっかりと撮りたい場合は前モデルである、×3.0及び×4.0シリーズを購入するのも良いでしょう。曇りの状態の機種は比較的少なく、安定した描写が楽しめます。

2020年代のSAMURAIとの付き合い方

■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:ILFORD XP2 SUPER400

今回は世にあふれる持病を抱えたSAMURAIを活用すべく、ポートレート用にあえてジャンク品[レンズ状態:曇り]を購入しました。なぜ今このSAMURAIを紹介したかというと、昨今のフィルターブームが挙げられます。ハイライトにフレアの様な効果をもたらすブラックミストだけではなく、特殊な効果をもたらすカラーフィルターや、はたまたホワイトミストなるものまで、ムービー業界だけではなく、スチル業界も未だ様々なフィルターがリリースされ続けているのが現状です。

ポートレートにもこういったミスト系フィルターの需要が高いのに加え、オールドレンズもまたフレア系のレンズが人気になっています。そんな中、フレアと言ったら経年劣化の天然物で勝負!と言う考えから、前々から知っていた病の剣豪EMO-SAMURAIに白羽の矢を立てたというのがきっかけです。解説が長くなりましたが作例をどうぞ。

■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:ILFORD XP2 SUPER400
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:ILFORD XP2 SUPER400
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:ILFORD DELTA3200
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:ILFORD XP2 SUPER400
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:ILFORD XP2 SUPER400
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:ILFORD XP2 SUPER400
■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:ILFORD XP2 SUPER400

白昼夢の様なイメージのポートレートです。こういった幻想的な雰囲気がお好きな方もいらっしゃるのではないでしょうか。この曇りから成るフレアを活かすには、カラーよりもモノクロフィルムでの利用がおすすめ。ILFORDから発売されているXP2 Super 400を使えばカラーネガ処理が可能なため、他のカラーネガフィルムと一緒に現像に出すことができ、初めての方には使いやすいと考えます。

光の飽和から連想される、「幻想的」、「淡い」、「透明感」と言ったイメージを元に具現化し、撮影するのがこのEMO-SAMURAIを使う肝だと考えています。特に女性ポートレートとの相性は良く、表現方法のひとつとして覚えておいていただければ嬉しいです。

まとめ

■撮影機材:京セラ SAMURAI Z2(レンズ状態:曇り)
■フィルム:ILFORD XP2 SUPER400

さて、いかがでしたでしょうか。一見するとただのジャンクカメラと捉われがちですが、自分が表現したいイメージとマッチすればジャンクカメラやレンズでも至高の機材となり得ると考えます。ジャンク扱いであれば安く購入もでき、正に一石二鳥。ただし、レンズ以外の部分の動作が問題ないことはきちんと確認しましょう!

フィルムが高価になりつつある現在、二枚一組でプリントされる組写真としての魅力や、フィルム1本で72枚撮れるコストメリットも最高なハーフカメラに是非挑戦してみてください!また、実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるフィルムワークショップ「フィルムさんぽ」にもご参加いただければ嬉しいです!ではまた、次の記事でお会いしましょう!

 

 

■モデル:雨下(https://lit.link/amashita429)

■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。

 

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