モノクロのススメ vol.8「モノクロフィルムにチャレンジ」|佐々木啓太
はじめに
モノクロのススメ vol.8はモノクロフィルム(以下 フィルム)の話です。モノクロをやるなら一度はフィルムを経験してほしい。そんなことを思って原稿を書いています。そんな私もフィルムを使ったのは何十年ぶりになります。それでも、フィルム現像が上がるまでの時間がワクワクする感覚は忘れていませんでした。
使用するカメラとレンズ
カメラ:コニカ III
フィルムのためにカメラを新調?
今回使ったカメラはクラシックカメラで、実は頂き物です。お父さんの形見として持たれていたものを譲り受けました。とても大切に保管されていたので今でも現役で使えます。カメラまではなかなかという場合はフィルム付きカメラなどがあります。
さらに四ツ谷のペンタックスクラブハウスではフィルム体験会というイベントが不定期で行われています。その体験会ではフィルムカメラの貸し出しだけでなく、フィルムの販売もしてくれます。実はフィルムカメラ最大の障壁かもしれないフィルムの装填作業もスタッフさんが教えてくれるので、タイミングが合えばぜひチャレンジしてください。
今回撮影に使ったカメラは金属製の外観でメカメカしさがなんとも言えません。今ではコンパクトカメラというジャンルに入るカメラですが、手に持ったときの存在感は心地よさすら感じます。
フィルムの巻き上げレバーはカメラの前面で、レンズから飛び出したような雰囲気です。このレバーを2回下に下げるとワンカット分のフィルムの巻き上げとシャッターがチャージされます。
絞りを合わせるレバーはとても小さく繊細で、今のデジタルカメラのように頻繁に絞りをコントロールするという発想はあまりなかった時代を感じることができます。外側のダイヤルの目盛りはEV値でその内側のダイヤルが絞り値です。カメラについているレンズは開放絞りF2.0のヘキサノン48mmで、モノクロフィルムのコントラスト調整用のイエローフィルターは付属品です。シャッタースピードもレンズについているダイヤルで変更します。ちなみにシャッタースピードの最高速は1/500秒でこの辺りにも時代を感じます。
このカメラには内臓露出計がなく、撮影時は長年の勘に頼って露出を決めていたので今回は撮影データを割愛します。さらに今回使っているモノクロフィルムの写真はデータ化されたオリジナルで、リサイズだけで調整を加えていません。
フィルムはEDU
今回使ったフィルムは、ARISTA EDU ULTRA 200と400です。最後の数字はISO感度の違いで、EDUというのは、学生や教育機関向けという意味で通常のフィルムより少し安価に入手できます。このフィルムを入手したのは実は数年前で、パッケージをみると期限切れになっていました(笑)。フィルムは生物(ナマモノ)で消費期限があります。それを越えるとメーカーが推奨する色やトーンが再現されないことがあります。
しかし、カラーフィルムはカラーバランスが崩れる(色が悪くなる)ことがあるので特に注意が必要ですが、モノクロフィルムは多少感度が低くなる程度と考えても大丈夫です。と、かなり大雑把な説明ですが、購入したフィルムは出来るだけ早く使って、撮影後もなるべく早く現像に出してください。
数年前に久しぶりにフィルムを試そうと購入したフィルムで、数本使ってあとは放置していたものを今回は使いました。
フィルムの魅力は粒子
かなり前置きが長くなってしまったので、実際に撮影した写真を見てください。今回はせっかくなので家の近所のカメラのキタムラさんでフィルム現像をして、店舗でフィルムをデータ化してCDにしてもらいました。
空や雲の中にある小さな粒々がフィルムの粒子です。フィルム粒子はISO感度が高くなる(ISO感度の数字が大きく)ほど荒くなります。今回使ったフィルムはそれほど粒状性に優れたフィルムではないですが、デジタルとの違いを感じるには最適だと思います。
粒子があることで黒の中にも質感を感じやすくなるのがフィルムの最大の利点ですが、そのためには撮影時の露出が大切になります。
撮影時の露出が少しオーバー(明るい)すぎると画面全体の質感が弱く、粒子も弱々しく感じます。露出がオーバーになるとフィルムに残る銀粒子の数が多すぎて……。と、細かい話より、はじめのうちは少しアンダー気味ぐらいの方があとで調整しやすい場合があります。
露出についてちょっと歯切れの悪い文章になっていますが、実は最適なプリントを作るためには最適なフィルムが必要で、そのためには自分のフィルム現像に合わせた露出コントロールが最も大事になります。そして、実はこれがフィルムの基本です。特にモノクロの黒の締まりと再現性のためにはとても重要なことです。ただ、この話を真剣に書いてしまうと誰も興味を示さなくなると思います。今回はまずはお試しということで気軽にフィルムを試してください。露出はスマホのアプリにも露出計があるので、それを使えば簡単に測れます。
近所の店舗でフィルム現像、そして、デジタル化
カメラのキタムラさんのサイトで原稿を書いているというのが、家の近くのカメラのキタムラでフィルム現像をした最大の理由ですが、改めて使ってみるととても便利で、実は店員さんが知識をお持ちであることがわかりました。
フィルム現像を出した時の伝票袋は昔のままで、懐かしくてとても温かく感じました。上の方で少しずれているのが仕上げを受け取りに行くときに必要な伝票です。
伝表袋の中にはさらに袋に入ったフィルムが入っています。フィルムが入っている袋の白黒写真現像所という文字がシンプルでおしゃれに感じてまた使いたくなりました。左側のCDが店舗でデータ化してもらったCDです。フィルムスキャン専用の機械なのでフィルム1本(36枚)のスキャン作業は10分程度で終わりました。
フィルム現像を扱っているお店の中には郵送でフィルムを受け取って、フィルム現像後はデータだけを送ってくれるサービスがある所もあります。確かに便利ですが、せっかくなので店頭でフィルムを受け取ってください。店頭でのやり取りがデジタルにはないフィルムらしさでもあります。フィルムの楽しさはそんなアナログ感です。店舗でお店の方との会話もひとつのアナログ的楽しみではないでしょうか?ちなみにネガフィルムは明暗が反転している状態なので、フィルムを見ても仕上がりを想像しにくいかもしれません。それでもそれを見た後に仕上がりを見る楽しみもフィルムの醍醐味として覚えてください。
今回使ったCDへのデータ化は200万画素でした。アプリを使ってスマホにデータを転送するサービスもあってそちらは250万画素になるそうです。さらに料金をプラスすることで1300万画素に変更できるサービスもあります。
最後にもう少しだけ写真
豪華なフレアとゴースト祭りです。フィルム時代のレンズには現代のデジタルレンズにはない味わいがあります。その味わいとフィルム粒子には相乗効果があると思います。
モノクロは難しい、そんな話を聞くことがありますが、まずは形の違いを狙う。そんなところから始めるのも良いと思います。私も悩んだときはこのように形を探します。
ISO400のフィルムを使っていると夕方暗くなってからも安心できます。フィルムの感度はフィルムごとに決まっています。フィルムにも増感現像という感度を少しあげる現像方法はありましたが、今はあまり使われていないようです。
昔から続けている不屈のシリーズ「俺のポルシェ」です。そのほかに「俺のジャガー」「俺のベンツ」などがあります(笑)。全て人様の車を勝手に撮影するシリーズですが、高級車の塗装は質感がよくモノクロとの相性は抜群です。撮影するときは堂々と、しかし、近づきすぎないで、何か注意されたときは「かっこよくて思わず撮ってしまいました。」そんな一言と笑顔を忘れないようにしてください。
まとめ
まずはチャレンジしてください。やってみると分かることや悩むことも出てくるかもしれません。そんなときはまずは店舗の店員さんに相談しましょう。それがアナログ時代の最初のカメラの楽しみ方でした。今はネットでなんでも検索できる時代です。そんな時代でも経験からくるアドバイスにはそのときの状況に合わせた答えがあります。そんなふうにちょっとアナログ的にモノクロフィルムをお試しください。
■写真家:佐々木啓太
1969年兵庫県生まれ。写真専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。街角・森角(モリカド)・故郷(ふるさと)というテーマを元に作品制作を続けながら、「写真はモノクロ・オリジナルはプリント」というフィルム時代からの持論を貫いている。八乃塾とweb八乃塾を主宰しフォトウォークなども行い写真の学びを広めている。
佐々木啓太監修 八乃塾写真展「My Theme」のご紹介
佐々木啓太氏が主宰する写真塾「八乃塾」の写真展を2月に開催します。
■会場:池袋 ギャラリー路草「草」 HPはこちら
■住所:東京都豊島区南池袋2-25-5 藤久ビル東五号館14階 [地図]
■会期:2025年2月6日(木)〜2月11日(火)
■時間:11時から19時(最終日16時まで)
■参加者:秋元正人・伊藤美晶・金尾義則・熊澤 伸・こ とし・佐々木直彦・清水栄子・清水一夫・中川隆次・福永則彦・ほかむら かすみ・陳 美樹・宮崎則行・八木美恵・佐々木啓太
■解説:My Theme って、あたり前です。そのあたり前から何を導き出してもらえるか。そんなことを考えていました。展示では、それぞれが1年間追い求めたテーマを3枚組で表現しています。テーマをまとめた写真集の展示もありますので、そちらも楽しみにしてください。