『世界に、なにを見よう』開催記念 特集記事|前編「写真家、花澄の歩みを知る」
はじめに
2024年2月23日(金)-2024年3月19日(火) の期間中、新宿 北村写真機店 6F イベントスペースにて写真展『世界に、なにを見よう』を開催いたします。開催を記念して主催者の花澄氏にインタビューを行いました。
前編となる今回は花澄氏のこれまでの活動にフォーカスを当て、写真家としての活動や前回の写真展開催までの経緯をお聞きしました。後編では今回の写真展についてのお話しいただきますのでぜひご覧ください。
花澄写真展『世界に、なにを見よう』の詳細ページはこちらより
ナレーターの道は突然に
今回写真展を開催する花澄氏は現在、俳優・ナレーター・写真家として幅広く活躍している。いずれも”表現する”ということが共通しており、まず最初に経歴についてお聞きした。
「元々は俳優からスタートしました。ある時、所属事務所でナレーターセクションがあり声のサンプルを取った後にナレーターの仕事が決まり、ナレーターの活動が始まりました」とナレーターの始まりは意外な形から始まったそうだ。
「その後は事務所の先輩にスタジオの様子や録音の流れ、音声をやり取りするための装置であるカフやキューランプの仕組みや形を教えて貰ったものの、実際のナレーターブースは一人きり。右も左も分からないのでドキドキでしたが、ミスはだれでもあるので”とりあえずやってみよう”と腹を括って頑張りました」と現場での経験を積んでいき、ナレーターの道が始まった。
舞台終わりの寂しさがきっかけでカメラを購入
ナレーターとしても多くの仕事をするようになった花澄氏だが、カメラとの出会いを聞くと舞台終わりの寂しさがきっかけだという。
「舞台は稽古から本番まで数ヶ月間を共にするため家族のように仲が深まり、千秋楽が終わると急に一人になるのでいつも寂しく感じます。特に2015年に出演した舞台の現場は稽古から本番までとても幸せだったため寂しさの反動も大きく、心の復活にも時間がかかりました」
「それがちょうど秋ごろで自分の誕生日に何かプレゼントを買おうと思いました。ブログやインスタで写真を撮るのが好きで、周囲の方に相談してOLYMPUSのOM-D E-M5 MarkIIを買ったんです」
同社の可愛らしいフォルムのPENシリーズではなく、より高性能なE-M5 MarkIIを選んだことでカメラにハマる予兆があったという。
「カメラを購入後は自宅から駅までの道も撮りたいものがたくさんあり、息を吹き返しました。自分が見ている主題を切り取れるカメラは楽しくて水滴が一つでもあれば嬉しく、花が一輪咲いているだけで”こんなに世界がいろんなものにあふれているんだ”と再認識しました」
その後は3年間で3回壊れてしまうほど愛用。同時にオールドレンズにも興味を抱き、現在も重宝しているというケルンのMacro Switar(マクロ スイター) 26mm f1.1を購入したそうだ。
ライカとの出会い
E-M5 MarkIIを使い写真の撮影を楽しんでいた花澄氏だがその当時はライカのことを知らず、知ったきっかけを聞くと小山薫堂氏の番組で花澄氏がナレーションを担当しており、ゲスト出演されたハービー・山口氏とお会いするようになったことで初めてライカを知ったようだ。
「その後にライカの方とお会いすることもあり、レセプションにご招待いただいたり、ハービーさん、薫堂さんの展示やソール・ライターの写真展を見た際にライカの展示もあって”何か違う”と感じました」
愛機のE-M5 MarkIIが3回目の故障となり、もう一度修理するか、それともライカを購入するかで悩んだそうだ。SNS(特にInstagram)が好きなことから、当時のライカよりもスマートフォンとの接続性が高いカメラもお勧めがあり悩んでいた時にハービー・山口氏にも相談したという。
「ハービーさん、ライカっていうのはどうですか?とお聞きしたところ、お使いになりたいカメラを使ってみるのが良いと思いますよ。とお言葉をいただき背中を押してくれたんです」
その後、ネットで調べた際に「買わない理由が値段なら買った方が良い。買う理由が値段ならやめた方が良い」という言葉や「使いたいなら1日でも長く使った方が良い」といった言葉を発見。ハービー・山口氏のお言葉もあり、Summicron-M 50mm/f2 (2nd)を先に購入。その後にライカM10を購入した。
ライカを購入後はレンズが持つ奥行き感に感動したという。舞台のオフショットや稽古中も俳優を撮りたくなったがM10はシャッターや電源をつけた際の音が大きめで気になっており、翌年に発売されたM10-Pは音が小さくなったことで買い替えたそうだ。
セルフポートレートを撮り写真家へ
「2019年に京都で映画の撮影があり、オフでライカ京都店に立ち寄ったときに開催されていたソール・ライター展を見たんです。その展覧会ではヌードの作品ばかりで、そういった印象はなかったので見た時は雷に打たれたような衝撃が走り、当時宿泊していたホテルの壁紙がちょうど海外のような模様の壁紙だったので、好奇心から初めてヌードのセルフポートレートを撮ってみたんです」
初めてヌードのセルフポートレートを撮影した後はそのまましばらく撮っていなかったものの、「被写体として面白いな」とぼんやり思っていたそうだ。
世界中が激変した2020年
2020年に新型感染症のコロナウイルスが流行し、花澄氏だけでなく世界中の情勢すらも一気に変わった。その影響は大きく、舞台は中止になり出演予定の映画は延期、感染予防の観点から劇場も行くことができなくなり全ての創作活動が完全に止まってしまったという。
「外には出られないけど表現者として何かしないと生きていけないから、家の中で出来ることを考えました。その時に私の手の中にあるライカで自分が写るセルフポートレートしかないと思いました」
「それから月日が経ちセルフポートレートを撮ったときのことを思い出し、”続きを撮ってみよう”と思いました。ただ、ずっと自宅で撮影しても飽きてしまうので小物やおもちゃ、光を工夫してバリエーションをたくさん出せるように試してみたんです」
コロナ禍は予想に反して長引いたこともあり、気が付けば多くの作品が仕上がった。しかし最初は誰かに見せるわけではなく創作活動として作品作りに没頭していたという。
写真展開催の決意
最初は誰かに見せるわけでもなかったが作品は分厚いバインダー3冊分になるほど撮りためており、ハービー・山口氏にお見せしたことで写真展の気持ちが芽生えたという。
「ハービーさんにお見せしたところ、これはとても手間をかけて撮った写真だということが一目で分かります。クオリティもしっかりしているので、ちゃんと世に出すべきものだと思いますよ。と言っていただけたんです」
最初は世に出すことについて考えていたが、映画の公開のタイミングもあり「やるなら今だ!」と思い写真展の開催を決心したそうだ。
新宿 北村写真機店での写真展開催
「決心したものの、なかなか条件に合うギャラリーが見つかりませんでした。そして最後にダメ元で来たのが新宿 北村写真機店だったんです。意外にもあっさりと決まりその後は写真集の制作に取り掛かりました」
「写真集はデザインを自分で作り、そのぶん紙質にこだわりました。ただイラストレーターを使ったことが無いため、「とりあえずやってみよう!」と別のソフトを使用してデザインしました。
そうして写真集はクラウドファンディングのご協力もあり無事に完成。写真展も開幕し多くのお客さまにご来場いただき大盛況だった。
花澄氏のInstagramアカウント(@texisan)より引用
- 編集後記
筆者は当時、新宿 北村写真機店のギャラリーを担当していました。花澄氏は仕事の合間を縫ってできる限り在廊されて、来場されたお客様とたくさんお話ししていたことを覚えています。こだわりの詰まった作品や写真集、プロジェクターで投影された映像・音楽は多くの来場者を魅了していたのは言うまでもありません。
後編の記事では今回の写真展が誕生した背景や写真展の見どころをご紹介します。2024年3月9日(土)公開予定となっていますのでぜひお楽しみに。
花澄 写真展『世界に、なにを見よう』開催中
『世界に、なにを見よう』も花澄氏のこだわりが細部に詰まっており、写真はもちろん会場内の光や音にもこだわった空間となっています。どなたでも無料でご覧いただけますのでぜひご来場ください。
写真展の詳細ページはこちら
- 花澄氏 プロフィール
埼玉県熊谷市生まれ。
俳優・ナレーターとして、舞台・映画・ドラマ・CM・ラジオ等で幅広く活動。
同時にLeicaとの出逢いから写真家としてもデビュー。
オールドレンズをこよなく愛し、やわらかいタッチと視線で世界を見つめている。
コロナ禍を機にセルフポートレートにも取り組みライフワークとしている。本会場での展示は2度目となる。