風景写真撮影テクニック~モニターキャリブレーション編~|齋藤朱門

齋藤朱門
風景写真撮影テクニック~モニターキャリブレーション編~|齋藤朱門

はじめに

今回は前回に引き続き、風景写真のプリントを行う際に必要な手順であるモニター(ディスプレイ)キャリブレーションについて紹介したいと思います。

前回はプリントを行うために必要なプリンタや紙の選び方について紹介しました。実際に自身でプリントをしたことがある方は分かると思いますが、残念ながら、実はこれだけではモニターに表示された写真とプリントの色を完全に一致させることは難しいことがあります。

この色の違いを解決するために必要な作業がモニターキャリブレーションです。

モニターの色とプリントの色を合わせる

写真用のプリンタと紙を購入して、さっそくお気に入りの写真をプリントしてみると、大抵の場合はなんとなくモニターと同じ色のような雰囲気でプリントできるのですが、よくよく見比べると若干色味が異なっていることに気がつくと思います。使用しているモニターの設定次第ではありますが、場合によってはモニターとは大きく異なってプリントされることもありえます。

これは同じ写真のデータであっても、モニターによって発色している色に違いがあることが要因の一つです(電器屋さんのパソコンコーナーで、並んでいるモニターそれぞれで若干色が違って見えることを想像すると分かりやすいと思います)。

多少の差ならば気にならないこともありますが、写真展等で展示を行う作品として仕上げたい場合や、プリント作品を販売したい等、自分が納得したものにする必要がある場合は修正したい部分が出てくるでしょう。

例えば「少し赤色の彩度を抑えたい」、「全体の輝度を上げたい」、「シアンっぽい部分の色相を変えたい」など、細かい部分の修正をしたい場合はどうするか。手探りで元のデータを変更してみて、再度プリントを何度か繰り返せば解決できるかもしれませんが、何度もテストプリントを繰り返すのは時間もお金もかかる作業です。

本来であれば、モニター上で納得できるものに仕上げてあるはずなので、その見たままにプリントできていれば、この作業は不要なものです。

ではなぜ、モニター上とプリント結果では違いがあるのでしょう?それはモニターとプリントの発色や色の表現方法の仕組みの違いにも関係しているのですが、かなり難しい話になるので、ここでは詳細は省きます。

この違いを吸収して補正するために必要な作業がモニターキャリブレーションになります。また、それぞれのモニターとプリントの色の違いを吸収して合わせ込むことをカラーマネジメントと言います。

モニターキャリブレーション

「モニターキャリブレーション」というと、なんだかとても難しい作業のように聞こえますが、モニターとモニターキャリブレータというデバイスがあれば簡単に行うことができます。モニターキャリブレータには様々なものがありますが、代表的なものを紹介しておきます。

●Calibrite Display Pro  https://calibrite.com/jp/product/colorchecker-display-pro/
●Calibrite Display Pro HL  https://calibrite.com/jp/product/display-pro-hl/
●Datacolor Spyder X2 シリーズ http://datacolor.jp/spyder/spyderx2/datacolorlist.html#x22

筆者はCalibrite Display Pro (i1 Display Pro 同等品)を使用しています。

引用元:https://calibrite.com/jp/product/colorchecker-display-pro/

また、モニターは現在使用しているもので良いですが、キャリブレーション機能が強化されているカラーマネジメントモニターと呼ばれるものがあります。(例 EIZO ColorEdgeシリーズや、BenQ 等)

カラーマネジメントモニターの場合はハードウェアキャリブレーションが可能で、色の調整をより正確に行うことができます。一般のモニターの場合はソフトウェアキャリブレーションと呼ばれるキャリブレーション方法で調整を行うことになります。

ハードウェアキャリブレーションの方がモニターの性能を最大限に使用できますので、より高品質に展示プリント作品を仕上げたい場合はハードウェアキャリブレーションが可能なカラーマネジメントモニターがオススメです。蛇足ですが、モニターによっては購入時から比較的、色が正確と謳っているものもありますが、色温度や白色点の基準がプリント用になっているわけではないというのが注意点です。デフォルトのままですと、プリントと色は異なって見えますので、そういったモニターを使用している場合でも、特にプリント時はモニターキャリブレーションは必須だと筆者は考えます。

キャリブレーションを実践する

カラーマネジメントモニターの場合、付属のキャリブレーション用ソフトウェアを使用します。(例:EIZO製モニターの場合はColorNavigator)

一般のモニターの場合はモニターキャリブレータに付属のソフトウェアを使用することになります。(例:Calibrite PROFILER)

どちらも手順としてはほぼ同じですが、カラーマネジメントモニターの場合、調整は自動で行われます。

キャリブレーションを行う際、目標の色温度をいくつにするか迷う場合があると思いますが、ソフトウェアの写真用の推奨値などを参考に決めます。また、展示作品の場合は展示会場の照明の色温度に合わせるとよりよいでしょう。参考までに、筆者の場合は通常は5000K~5500K前後にしています。

最終的にはICCプロファイルが作成されるので、それを保存し設定・使用します。

プリント結果との比較

プリントを確認する際に使用する照明ライトは、演色性が高く色温度が調整できる照明を使うと良いでしょう。手軽で演色性が高い照明としては、デスクライトタイプのものや小型のLED照明など様々なものがあるので、使いやすいものを選択すると良いと思います、最近は数千円の安価なLEDライトでも演色性が高く色温度調整もできる便利なものがあるので、迷ったらこれでも十分です。

また、展示用のプリントの場合、もし展示会場の照明の色温度が分かれば、その色温度と同じ照明を使うと、実際の展示時の色をシミュレーションできます。

モニターキャリブレーションの重要性

SNSやWebの場合、写真を表示しているデバイスや環境によって色や明るさが異なってしまうのは避けようがないのですが、それで自分の作品の基準となる環境を作っておくことは、とても重要だと筆者は考えます。

スマホやタブレットで編集するケースも増えてきていますが、その場合でもキャリブレーションを実施してない場合は、何が正解の色なのかが不明な状態だということに注意が必要です。

また、データで提出するコンテスト等の場合は、審査員は当然ながらしっかりとキャリブレーションしたモニターで評価しているということにも留意すべきだと思っています。

作例

前回に引き続き、EPSONギャラリーさんでインクジェットプリント作品で個展https://www.epson.jp/showroom/marunouchi/epsite/gallery/exhibitions/2019/1213/を開催した際の作品をいくつか紹介したいと思います。

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:マニュアル露出・18mm・F16・ISO100・1/25秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:マニュアル露出・19mm・F16・ISO100・0.6秒
■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:マニュアル露出・16mm・F16・ISO100・1/80秒
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 24-105mm F4 G OSS
■撮影環境:マニュアル露出・68mm・F13・ISO100・6.0秒
■撮影機材:ソニー α7R III + シグマ 24-105mm F4 DG OS HSM
■撮影環境:マニュアル露出・46mm・F13・ISO100・8.0秒

まとめ

今回はモニターキャリブレーションについて説明しました。キャリブレータは少々高価ですが、作品を仕上げる上では必須のデバイスですので、少しステップアップしたい場合はぜひ使用してほしいと思います。

特にプリント作品を制作する際は、自分の意図した通りのプリントに仕上げるためにモニターキャリブレーションは必須の作業となりますので、ぜひこの記事を参考にチャレンジしてみて頂けると幸いです。

 

 

■写真家:齋藤朱門
宮城県出身。都内在住。2013年カリフォルニアにて、あるランドスケープフォトグラファーとの出会いをきっかけにカメラを手に取り活動を始める。海外での活動中に目にした作品の臨場感の素晴らしさに刺激を受け、自らがその場にいるかのような臨場感を出す撮影手法や現像技術の重要性を感じ、独学で風景写真を学ぶ。カメラ誌や書籍での執筆、Web等を通じて自身で学んだ撮影方法やRAW現像テクニックを公開中。

 

 

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