天候を味方に!条件を生かす撮影法|その4:曇り編
はじめに
4月から連載形式でお送りしてきた天候条件による撮影の秘訣。今回は「曇り」の条件についてです。前回までの「晴天」「雨」「霧」などは、積極的にその条件を選んで出かける方が多いと思うのですが、わざわざ曇りの日を選ぶ方は少ないかもしれませんね。
それもそのはず、私が個人的に撮影するときでも「曇り」が一番難しいと感じています。晴れていれば光線の向きや角度を考えることで陰影や立体感を付けられますし、風景全体が雨に濡れたり霧に覆われたりすれば、普段見ている風景が一変。その好条件に撮らせてもらう事ができます。しかし「曇り」条件ではそういうわけにいかず、被写体の見つけ方や目の付け所などを工夫して撮影する必要があります。
曇り条件の光とその生かし方
どのような条件でも光の読み方が重要なのは間違いありません。直射光のない曇りは全体的に光がまんべんなく回る拡散光だと言えますが、それをどのように作品に生かすのかがポイントとなります。そこで私が曇りの日にどのように考え、撮影しているのかを、様々なケースを紹介することでお伝えしてまいります。
フラットな光を利用する
晴天の直射光下、木々に覆われた所や谷が深い場所では、風景全体に光が回らず輝度差が強くなりすぎます。その状況で無理に撮影しても明暗がアンバランスな写真になりがち。撮影の時間帯を変えても、風景の一部がどうしても日陰に覆われてしまうような場所では、晴天より曇り条件での撮影が向いていると言えます。晩秋や冬の太陽が低い季節では尚更です。
上はNGカット。谷が深いため直射光では明暗バランスが悪く、日なたは白っぽく、日陰は暗く落ち込んでしまいました。下はOKカット。同じ場所ですが、曇り条件の柔らかな光が苔の色を引き立てています。
上はNGカット。こちらも直射光では明暗バランスが悪いケース。下はOKカット。比べてみると晴天より曇りのフラットな光が向いていることがわかりますね。
空の扱い
曇っていると空が白っぽく写ります。青空ならよいのですが、白い空がたくさん入ると主役の印象が弱まります。地上風景が濃い色であるほど空との明暗差が大きくなり、より白くなってしまうので注意が必要です。しかし曇り空であっても雲に濃淡や模様が感じられる場合は、積極的に生かすのも有りです。
上はNGカット。青空ならともかく、曇り条件で空が白いにも関わらず無理に構図に取り入れると締まりのない写真になります。下はOKカット。空をカットした方が主役のカキツバタ群生が生きてきます。
上はNGカット。こちらも空が不必要なケース。下はOKカット。立木のパターンを主役に望遠レンズで切り取りました。撮影時にいきなりファインダーを覗くのではなく肉眼でしっかりと風景を眺め、自分がどの部分を撮りたいのか?に気付くことが出来れば、どこを中心にフレーミングすべきかが自ずと見えてきます。
前述2組の話と矛盾してしまうのですが、たとえ空が白くなってしまっても山の稜線と空を取り入れた方が、奥行きが出ると言えます。しかし画面が弛んでしまうので入れすぎは禁物、最小限の扱いにとどめておきましょう。上は空を入れ過ぎたNGカット。下がOKカットです。
空が白っぽいものの山の稜線が入った方が風景に広がりが出ます。これに関してはどちらの写真もOKカットと言えますが、皆さんはどちらが好みでしょうか?
曇り空ながら濃淡が感じられる雲だったので、広めに取り入れて波の模様と組み合わせました。白波が明るく空との明暗バランスが取れるので、雲のディテールがしっかりと描けます。
雄鹿をシルエットで扱いました。マイナス補正を強めて怪しげな雲をより印象付けています。
空の白を生かす。白飛びを生かす
前項と矛盾するようですが、白い空を作品にプラスに生かせると判断した場合は取り入れるのも有り。意図せぬ白飛びは注意が必要ですが、 意図しての白飛びはOK。上手くまとまらない場合もありますが、結果はともかく撮りたいと思ったら撮ってみるべきです。
雪をかぶった真っ白な丘。プラス補正を強めて無機質な空間を表現してみました。
梅の花をマクロレンズで撮影。フラットな光ですが、思い切りハイキー調に振ることで光が感じられるように描く事が出来ました。背景は白飛びしていますが、花の色との調和が取れており問題ありません。
日の出前や日の入り後の時間を利用する
曇りの拡散光は被写体の色が出しにくく、さらに立体感に欠けがち。しかし日の出前や日没後の薄暗い時間(いわゆるマジックアワーと呼ばれる時間帯)に限っては、光の色が青味を帯びることで写真に雰囲気が加わります。曇っている日の朝や夕方は撮影を諦めがちなのですが、むしろ撮影に取り入れてほしいと思います。
夕景狙いでしたが曇ってしまったので日没後にそのまま15分程待機。光が青味に振れる頃を見計らって撮影しました。薄暗いため三脚必須です。
こちらも曇り条件の日没後、薄暮の時間帯に撮影。モクレンを妖艶に描きました。
曇り空で玉ボケを作る
木々に覆われた場所で上を見上げると葉の間から空が見えますよね。それらを背景に花などの主役にピントを合わせれば玉ボケとなります。空が広く見えすぎると玉ボケにならないので、細かな隙間から空が見える所を探しましょう。
木立の隙間から見える曇り空は玉ボケ表現に最適です。ボケが明るくなりすぎないようカメラ位置や背景を調整しましょう。
優しい雰囲気で描く
晴天時、強い影が付いてしまうとキツイ雰囲気に写ってしまうことがあります。そんな時は被写体を柔らかな光が包み込む曇り条件が向いています。曇りで全体像を撮影しても今一つだと感じた時は、明暗差が少なくコントラストが付かないということをプラスに捉え、花のアップ等を撮るなどに考えをシフトしましょう。
花が大きなあじさいは晴天時に影が出やすく、曇りの方が撮りやすいとも言えます。
上の写真は曇り、下は晴天。どちらも有りなのですが、個人的には花びらの柔らかさがより感じられる曇りの写真が好みです。
※撮影データは上の写真のものです。
上の写真は曇り、下は晴天。どちらもOKカットですが、全く同じ場所で撮っても直射光の有無によってこれだけ雰囲気が変わります。晴れたり曇ったりの日は両方撮っておくと良いでしょう。
※撮影データは上の写真のものです。
田植え後のまだ頼りない早苗を優しい光で描きました。手前の紫色はあじさいの前ボケです。
明暗の強弱を意識する
一見明暗に乏しくメリハリ感に欠けるような曇り条件ですが、決してそういうわけではありません。それは周りに木々などがない広い場所での場合で、森の中や木々に覆われた場所には明暗の強弱が存在します。晴天時に比べると明暗は少なめですが、むしろ弱めの明暗差がプラスに働くことがあると意識しておきましょう。
紫陽花の小道を撮影。木に覆われて暗くなっている部分を手前に配置、奥は上に木が無いので明るくなっています。この明暗を利用して道の先へと視線誘導しています。
生まれて数日も経っていない小鹿を木の影から狙うことで明暗を利用。額縁構図でまとめました。こちらも主役への視線誘導を意識しています。
険しい岩壁に逞しく根を張るシダ。右からのサイド光により、岩の立体感とシダの透明感が表現出来ました。曇り条件下でも注意して探せば光の強弱が見つかるものです。また、その繊細な光を感じられるようになることが重要です。
まとめ
当たり前のことですが天候をコントロールできない風景撮影では、その日の条件で撮らせてもらうしかありません。今回は私自身も一番難しいと感じている曇り条件についてお伝えしてまいりましたが、それも風景のワンシーン。曇りではパッとしないと思わず、とにかく撮影に出かけ、その時に撮れるものを見つける事が撮影を楽しむコツです。
好条件に撮らせてもらうのも、そうでない時に自身の目線で被写体を見つけるのも、その全てが楽しみです。どのような時でもプラス思考に考えて、あらゆるシーンに対応できる引き出しを増やすことが、レベルアップへの近道です。今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師
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