皆既月食&天王星食を見逃すな!2022年11月8日のダブル天文現象を撮影しよう
はじめに
来たる11月8日は皆既月食。皆既月食は月がどの時間に地球の影のどこを通るのかによって、高度や皆既食の持続時間などが変わってきますが、今回の皆既月食は非常に好条件。好条件の意味は、「日本全国で誰もが観察・撮影しやすい」という意味。まさに初めて皆既月食を撮影するかたにはうってつけでしょう!
今回は皆既月食の撮影方法・ロケハン方法や、初心者が失敗しがちなあるあるネタを紹介していきたいと思います。
準備は入念に!皆既月食あるある
忘れもしない、私が皆既月食を初めて撮影したときのこと。友人と車で移動していると、カメラを三脚をセッティングして椅子に座っているおじさんがいました。見るからに皆既月食を撮影するのだろうということが一眼でわかったのですが、悲しいことにおじさんがカメラを設置した場所は、ビルが邪魔をして皆既月食が撮れない場所だったのです。
「おじさん!そこからじゃ撮れませんよ・・・!」と車の窓を開けて叫んであげればよかったかなと思いましたが、車はあっという間に通りすぎ・・・。きっとおじさんは、時間になっても月食が見えないなぁと不思議がって、いざ見えたときには既に月食が終わっていてがっかりしたのかもしれない。
この記事を見ている皆さんはそんな経験をしないよう、しっかりとこの記事で皆既月食について学び、準備をしておきましょう!
2022年11月8日の皆既月食について
皆既月食の情報を入手する際には、ビクセンの無料アプリ「Moon Book」をスマホにインストールするのがおすすめ。
このアプリは月に関する情報が満載のアプリで、皆既月食の情報も手軽に入手することができます。Moon Bookによると、皆既月食のはじまり(月が完全に地球の影に隠され赤くなる)は、19:16。このときの高度がおおよそ30度。また、皆既月食の終わりが20:42で高度おおよそ47度です。方角はほぼ真東の方角になります。
なんと1時間半もの間、皆既月食の現象が楽しめるというのが今回の皆既月食の特徴です。ここまで長い皆既月食は私も過去に経験がありません。被写体となるのは皆既月食中だけでなく、皆既に向かう過程や、皆既を終えて満月に向かっていく姿などさまざま。
また、望遠でクローズアップ撮影をするのか、風景と絡めて撮影するのかによってもアプローチが異なってきます。これだけ皆既の時間が長いと、皆既中に別の場所に移動して、別の構図で撮影する、なんて計画も立てられますね!
皆既月食の撮影には赤道儀が必要?撮影時の設定は?
月も同じ場所に留まってはおらず、地球の自転の影響を受けています。実際は恒星よりも少し速度が遅いので、赤道儀には「月追尾モード」という機能が備わっているものが存在しています。
ここで疑問になるのは、皆既月食の撮影では赤道儀で追尾して撮影する必要があるのか?ということですが、皆既月食の撮影では赤道儀はなくても大丈夫。ただ、露出時間や撮影方法によっては赤道儀があったほうがベターです。
赤道儀なしで撮影した場合、露出が長くなると月がブレてしまい全体的にぼやっとした印象になってしまうため、できるだけ速いシャッターを心がけたいです。「シャッタースピードは何秒までブレないのか?」という問いに関しては焦点距離によって変わってくるので一概になんとも言えないのですが、個人的な目安としては1/10秒以上のシャッタースピードで撮影するのがよいと感じています。
その他の撮影時の設定については、この記事の作例にある撮影情報を参考にしてみてください。
皆既月食の撮影には何mm必要?
200mm~600mmで月の大きさがどのように変わるのかは画像を参考にしてみてください。クローズアップ撮影する場合は、大きければ大きいほうがよいですが、風景と一緒に撮るとなるとあまり焦点距離が長くないほうがよいでしょう。
月から離れれば離れるほど地上風景が小さくなり、月を大きく表現できる望遠レンズの「圧縮効果」というものを生かした撮影方法がありますが、今回の皆既月食は発生する高度が30度以上と非常に高く、地平線付近では発生しません。そのため、圧縮効果を生かした表現は難しいかも。
風景と絡める場合は高い建物や鉄塔などを見上げて月と絡めるのが良いのですが、焦点距離が長くなると風景か月、どちらかにしかピントが合わなくなってしまうため、風景と皆既月食の月を一緒に撮影する場合は300mm程度のレンズまでが適切なのではないかと推測しています。
個人的なイメージでは、焦点距離が50mm以下になると月の表面が白飛びしやすくなります。皆既月食中の月は光量が落ちるので関係ないですが、皆既前の月を撮影する場合、50mm以下だと基本的に白飛びするものと考えて構図を練るのが良いと思います。
そんな急に超望遠レンズ用意できないよ!という方におすすめ機材
天体望遠鏡で撮影する
以前に「天体望遠鏡を使った撮影ハウツー|天体望遠鏡の魅力とカメラの接続方法」という記事を書かせていただきましたが、手軽に撮影するには天体望遠鏡が大変おすすめ。ビクセンのポルタII A80Mfなどの天体望遠鏡であれば、三脚付きで5万円程度で入手することができます。レンズ設計がシンプルですっきりとした写りに加えて、マルチコーティングが施されているため皆既月食を撮影するには申し分のない写りです。
ご自宅の物置に天体望遠鏡が眠っていて、どうしたらカメラがつくのか?という方もいるでしょう。そんな方はぜひ下記記事を参考にしてみてください!
ケンコー・トキナーのミラーレンズ「SZX」「SZ」シリーズを使用する
ケンコー・トキナーから発売されたミラーレンズ「SZX」「SZ」シリーズは、設計に天体望遠鏡の技術が応用された高コスパなレンズです。天体望遠鏡はサイズが大きいのが気になる、という方にはお手軽に超望遠撮影が楽しめるのでこちらが大変おすすめです。画像は「Tokina SZX 400mm F8 Reflex MF」。このサイズでなんと焦点距離は400mm!もちろんピント・露出ともにマニュアルで使用します。
ビクセン 星空雲台ポラリエUや、ケンコー スカイメモSWなどと一緒に使用すれば、お手軽&コンパクトな月食撮影セットの出来上がり。F8のレンズなので、この記事に掲載した作例のデータが参考になると思います。
おそらく最もコンパクトな皆既月食撮影セットがこれ。2xテレコンも発売されていますが、さすがにこれ以上F値が暗くなるのは避けたほうが良いです。私のYoutubeチャンネルでも、このセットで中秋の名月の映像をライブ配信しましたが、とても気軽・気楽に月の姿を楽しむことができました。
広角レンズで皆既月食と風景を絡めて撮影するには?
私は以前に望遠鏡メーカーに勤めていたこともあり、皆既月食が起こる日は必ずと言っていいほど皆既月食観察会の仕事でした(涙)。そのため、クローズアップした皆既月食の作例は豊富にあるものの、風景と絡めた星空風景写真での月食作例を持っていません・・・。そのため、ここで紹介する月食を絡めた風景写真の作例は、皆既月食をイメージできるものに限ることをお許しいただきたい。
インターバル撮影した画像を比較明合成して月の変化を表現するのも面白い思います。
これは皆既月食ではなく、月の出をインターバル撮影で表現したものなのであくまでイメージです。タイムラプス撮影した素材のうちの何枚かで合成するのが一番効率がいいです。そうでない場合、どのくらいの間隔で撮影すれば良いのかを調べるのにはビクセン「Interval Book」がおすすめ。
この画像は朝霧高原付近から富士山と皆既月食をインターバル撮影で表現する場合のシミュレーションです。焦点距離や撮影する場所を設定すればこのようなシミュレーションが手軽にできます。
また、すべての撮影画像を比較明合成し、月の軌跡を表現するのもいい感じです。
この画像は池袋サンシャイン60展望台から撮影したもので、月の出から撮影したタイムラプス素材を比較明合成したもの。昇りたてから月の高度が高くなるまでの色の変化が表現できています。皆既月食の場合は、皆既中の月の部分だけが赤く細く表現できます。
次に起こるのは84年後!?皆既月食中に起こる「天王星食」にも注目!
今回の皆既月食、実はダブル天文現象で話題なんです。皆既中の月に天王星が隠されるという「天王星食」が話題です。こちらは口径の大きな天体望遠鏡で200~300倍くらいがあるといいんじゃないかなと思いますが、撮影するにはちょっとレベルの高い天文現象ですね。
フリーソフト「Stellarium」で皆既月食と天王星食がどのように起こるのをシミュレーションしてみましたので、こちらの動画を参考にしてみてください。
天王星自体は、どれだけ高倍率で見ても白い球体なのは変わりません。200倍程度の倍率で観察・撮影すれば、皆既月食後に月が元の姿に戻っていく過程と絡められそうです。この撮影方法が楽しいかもしれませんね。
最後に
いかがでしたでしょうか?今回もボリュームのある内容になってしまいましたが、それだけ魅力的な天文現象であることは間違いありません!私のYoutubeチャンネルでも今回のダブル天文現象の情報を発信しています。ぜひ見てみてください。
■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員