オールドレンズを始めよう!作例編Vol.4:進化を遂げるオマージュレンズ Mr.Ding Studio「Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II」

鈴木啓太|urban
オールドレンズを始めよう!作例編Vol.4:進化を遂げるオマージュレンズ Mr.Ding Studio「Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II」

はじめに

こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回は急遽市場に出現したMr.Ding Studioという新興ブランドが送り出す、新型大口径レンズ「Noxlux 50mm DG F1.1 E58 II」をレビューしていきたいと思います。F1.4を超える大口径レンズと言えば、明るさにパラメータを全振りしてしまった代わりに、重い、大きい、ボケがうるさいというレンズがほとんどですが、このレンズはどうなのでしょうか。さっそく見ていきたいと思います。

オマージュレンズにおける温故知新

焦点工房オンラインストアより引用

Mr.Ding Studioは中国の新興メーカーで、主にLeica Mマウントレンズの研究開発とLeica Mマウント用オールドレンズの探求に専念していると言われる企業です。生粋のライカファンから成るMr.Ding Studioは、模倣ではなく温故知新というテーマのもとレンズを開発されているということで、オールドレンズファンとしてはワクワクするような製品に期待が高まります。

そのMr.Ding Studioが最初に世に送り出すことになったのが、今回紹介するNoxlux 50mm DG F1.1 E58 IIなのです。「II」と名前があるように、実はアップデートされリリースされています。バージョンIについては、主にOEMとして出荷されMr.Ding Studio銘ではなく、いくつかのバリエーションがあることが判明しています。

Noxluxと名前がある通り、ライカのNoctilux(Noctilux 50mm F1.0)をオマージュしていると思われますが、正に模倣ではなく温故知新のもと、ダブルガウス型を採用しつつもNoctilux 50mm F1.0の6群7枚とは異なる6群8枚構成とし、独自の進化を遂げているのが気になるところです。

それではレンズのスペックを見ていきましょう。

対応マウント Leica Mマウント
サイズ Φ63×64mm
質量 約390g
焦点距離 50mm
フォーカス MF(マニュアルフォーカス:距離計連動型)
レンズ構成 6群8枚(高屈折低分散レンズ1枚、ランタンガラス4枚)
対応撮像画面サイズ 35mmフルサイズ
最短撮影距離 0.7m
絞り F1.1-F16
絞り羽根 11枚
フィルター径 58mm
カラー ブラック、シルバー
付属品 メタルレンズフード、メタルレンズキャップ、リヤキャップ

Noctiluxと言えば初代F1.2の非球面レンズ採用が有名ですが、本レンズは非球面レンズではなく高屈折低分散レンズに加えランタンガラスを多く配置することで、各種収差を低減しています。非球面レンズの採用を見送り、当時最新のガラスを採用したNoctilux 50mm F1.0に通ずるものがあります。

近年、非球面レンズを採用した高価なレンズは多く存在しますが、それらを使用しない構成とすることで価格を抑え、市場価格として7万円を切る低価格でF1.1の大口径レンズを世に送り出してくれるのは、ユーザーにとっても非常に嬉しいポイントなのではないでしょうか。

■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f1.1 1/100秒 ISO800 WBオート
■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f2.8 1秒 ISO100 WBオート ストロボ発光
■model:南条葉月
■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f1.1 1/160秒 ISO1600 WBオート
■model:さくらましろ

超大口径レンズがもたらす光

■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f1.1 1/8000秒 ISO100 WBオート
■model:mami

それでは、その描写を見ていきましょう。本レンズは大口径レンズがもたらすボケの量は言わずもがなですが、F1.4を切る超大口径レンズに付きまとうボケの乱れ、汚さがあまり見られず、なだらかなボケが得られるという特徴があります。もちろん、ボケのざわつきや緩いぐるぐるボケなどは見られるのですが、球面収差も程よく抑えられており、全体が淡い描写に包まれるものの、ライカレンズによく見られるハイライトだけが滲むという描写にはなりません。

開放においてもしっかりと解像し、コントラストは低めながら背景がなだらかにボケていくという描写になります。これは非球面レンズを多く採用した近年のピント面と背景が綺麗に分離されるというレンズとはまた異なった、特徴的な描写です。色収差の少なさからもボケの美しさは見て取ることができ、強い逆光には弱いものの、大口径特有の軸上色収差からなるフリンジが苦手な人にもプッシュしたいレンズとなっています。

ボケが最も綺麗に出るのは1.5m~4m程度の距離で、淡い描写を目指すのであればF1.1~1.4、背景とある程度の分離を求める場合はコントラストが高くなるF2~2.8をメインに使うのが理想です。

■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f1.1 1/1000秒 ISO100 WBオート
■model:さくらましろ
■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f4 1/250秒 ISO100 WBオート
■model:南条葉月
■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f2.8 1/250秒 ISO200 WBオート
■model:小桜はる

Noxlux 50mm DG F1.1を使いこなすために知っておきたい特徴

■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f1.1 1/500秒 ISO100 WBオート
■model:小桜はる
■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f1.1 1/640秒 ISO100 WBオート
■model:さくらましろ

大口径レンズを使いこなすためには、事前にその特徴を押さえておくことがポイントです。本レンズも言わずもがな、幾つかの注意点があります。弱点として上げるのであれば、絞り開放時の逆光撮影になるでしょう。逆光と言っても、いわゆる強い逆光ではなく、被写体の背面に窓があり間接光が入る程度でも大きくコントラストが低下してしまいます。

上記作例の中央部分は少しモヤがかったように見え、ややローコントラストで緩い描写になっているのがわかるでしょう。ノスタルジックと言えば聞こえは良いですが、撮って出しの状態ではやや使いにくく感じました。Lightroomなどのソフトウェア現像を介して、コントラストを上げる、かすみの除去を行うなど、彩度とコントラストを少し補正した方がメリハリのある写真になります (作例はLightroomで補正しています)。

■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f1.1 1/250秒 ISO100 WBオート
■model:南条葉月

周辺光量落ちの強さは他の大口径レンズと同等レベルですが、中心と周辺で約3段程度の明るさの差があり、視点集中効果はあるものの暗所では不自然な光量差になることもあります。これはF2.8~4程度まで絞り込むことで中心と周辺の光量差が1段程度にまで収まることから、気になる場合は絞るということを心がけましょう。

オールドレンズをオマージュした現行レンズにおけるメリット

電子マウントアダプターTECHART LM-EAシリーズ(写真はLM-EA7)

今回の作例ではSONY α7 IVにマウントアダプターを接続し撮影を行いました。理由は2点あり、1点目は「TECHART LM-EA9」と言うAFアダプターと相性が良いという点が挙げられます。

LM-EA9は簡単に言ってしまうと、MFレンズをAFで動作させるアダプターなのですが、絞り値を開放にした方が合焦しやすい(ピントが合いやすい)という特徴があります。オールドレンズを絞り開放で使った場合、中心部以外の収差が強いことが多く、ほぼ中央のAFポイントでしかピントを合わせることができません。一方、本レンズは球面収差の影響はあるもののAFにおけるその影響が少なく、中央以外のAFポイントも十分利用可能です。さすがに周辺ではAFが利きにくいですが、画面上の70~80%程度のAFポイントはカバーでき、現行レンズさながら使用できるというのも便利な点です。

2点目はミラーレスカメラでの使用を想定されたレンズで、テレセントリック性を考慮しているレンズだという点です。テレセントリック性はテレセン性ともいわれ「レンズを通った光が、フィルムやイメージセンサーに対して垂直に照射できるか」をあらわすものです。レンジファインダー用のレンズはテレセン性が低く、特に広角レンズをミラーレスカメラで使うと周辺が色被りする、解像度が低下する等が起こりやすくなります。

デジタルライカ(以下「デジライカ」とする)は、自社のオールドライカレンズをデジライカでも快適に使えるようにセンサーに独自のチューニングを施していると言われており、これがオールドライカレンズ(レンジファインダーレンズ)はデジライカで使った方が良いと言われる所以です(※)。

※最近は裏面照射型センサーも増え、デジライカ以外でもテレセン性の低いレンズを快適に使える状況になってきています。

本レンズはLeica Mマウントレンズですが、デジタルカメラでの使用を前提に作られていることが想定され、テレセン性の影響も加味した設計になっていると考えます。実際Leica M10とα7 IVで撮り比べ周辺画質を確認しましたが、目立った差は現れませんでした。こうした細かな調整が施されているのもオールドレンズをオマージュした現行レンズのメリットでもあると感じています。

まとめ

■撮影機材:SONY α7 IV + Mr.Ding Studio Noxlux DG 50mm F1.1 E58 II
■撮影環境:f8 1/800秒 ISO100 WBオート

筆者は近年、銘玉のオマージュレンズや復刻レンズを使うことが増えてきています。これらを使用するメリットとしては、今では手が届かない伝説的レンズが安価に購入できる、現代の最新レンズを用いその描写を逸脱しない範囲で高性能化が図られている、最短撮影距離の短縮、レンズの軽量化などによって使い勝手が良くなっているなどがあります。

復刻レンズは当時のレンズを正確に再現し販売することに注力されていますが、オマージュレンズも人気になっている理由は、先述したメリットを取り入れ、現代レンズとして進化している事にあると考えています。時代の銘玉を使用したい方、ぜひお手に取って試していただければ幸いです!

この記事でオールドレンズに興味を持っていただけたのであれば、僕が執筆している「ポートレートのためのオールドレンズ入門」そして「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」に数多くのオールドレンズの作例と詳細な設定等解説を載せておりますので是非ご覧ください。また、実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるオールドレンズワークショップ「フランジバック」にもご参加いただければ嬉しいです!では、次の記事でお会いしましょう!

 

 

■モデル
南条葉月:@nanjo_hazuki
さくらましろ:@mashiropenguin
mami:@_____mami20
小桜はる:@kozakuraaam

■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。

 

 

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