オールドレンズを始めよう!作例編Vol.2:LIGHT LENS LAB 50mm F2「周エルカン」
はじめに
こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回はオールドレンズを始めよう!シリーズ第5弾として、作例編を掘り下げていこうと思います。
作例編第2回目は激レア中の激レア、LeicaのELCAN(エルカン)のコピーとなる「LIGHT LENS LAB 50mm F2(通称:周エルカン)」を紹介していきます。2022年に復刻した現代のオールドレンズ、さっそく紹介していきましょう。
LIGHT LENS LAB 50mm F2「周エルカン」とは?
Leicaユーザーの中でELCANは、聞いたことはあるが実物を見たことも使ったこともない、というレンズの筆頭なのではないでしょうか。
それもそのはずELCANと言うレンズは、フィルムカメラのLeica M4をベースにした、KE-7Aと言う軍用ライカカメラとセットになっていたレンズで、生産台数が数百台と極めて少ないのです。もちろんお値段も写真用レンズとは思えないほど高価、かつ入手は困難と言う理由から、作例など話題に上がることも少ない超マニアックな1本なのです。
それを周八枚=八枚玉Summicronのコピーで一躍話題となったLIGHT LENS LAB(ライトレンズラボ)が新製品としてリリースし、我々にとっても購入しやすい値段(実売13万円前後)まで下げて提供しているのが、今回紹介する周エルカンと言うわけです。
カラーもシルバー、ブラック、チタン(限定色)、ゴールド(限定色)に加えブラックペイントを長年使用した状態を再現したヴィンテージブラックも用意されており、さらにフードも完全コピーしている徹底ぶり。レンズのスペックは次の通りです。ご存じの方もおさらいしておきましょう。
メーカー | LIGHT LENS LAB |
レンズ名 | LIGHT LENS LAB M 50mm F2 (通称:周エルカン) |
マウント | Leica Mマウント |
発売年 | 2022年 |
絞り設定範囲 | F2-F16 |
フィルター径 | 39mm |
重量 | 230g |
最短撮影距離 | 0.7m |
周エルカンとフードの組み合わせを掲載しましたが、筆者お気に入りの組み合わせはLIGHT LENS LABからリリースされている、Summilux 35mm F1.4 2ndのコピーフードを組み合わせたスタイル。Summilux 2ndのオリジナルはブラックフードですが、このシルバーのフードもとてもよく似合います。
周エルカンはELCANなのか
コピーレンズと言えば、その再現性が気になってしまうのが本音。筆者が撮影した結果とネット上にあるオリジナルELCANの開放描写を比較したにすぎませんが、結論から言えばその描写は「非常に近い」と感じました。
もちろん、周エルカン=ELCANではありませんが、近いと感じた根拠のひとつにLIGHT LENS LABのものづくりがあります。第一弾、周八枚はオリジナルの八枚玉Summicronのレンズ硝材を徹底的に研究し、生み出されました。その外観はもちろんのこと、描写についても詳細比較でほぼ同等の描写と言うことが明らかになり、大ヒットしたという過去があります。
その信頼性の高さは、フードまで完全再現した周エルカンにも表れており、LIGHT LENS LABの信念を垣間見ることができます。オリジナルと同様4群4枚、今となっては珍しいエルノスター型を採用しており、Leicaのレンズでも非常に珍しい1本。厳密な描写の比較結果を求めるのではなく、懐広くオリジナルに思いを馳せて使用するのが良いのではと感じています。
描写の概要
写真の色味に影響を及ぼすコーティングはアンバー寄りの暖色系で、作例の様にやや温かみのあるカラーとなります。エルノスターは3群3枚のトリプレットでは追及できなかった「明るさ」に振ったレンズで、その代わり各種収差の呪縛から解かれることはなりませんでした。
本レンズを見てみると絞り開放では、中心解像度は高めで、中心のみを見れば物事を写すのに不足のない解像力を誇ります。ですが、作例を見ると分かるように周辺にかけてはにじみを伴う収差が残っているのがハッキリとわかります。
F4ほどでにじみはほぼ見えなくなりますが、ポートレートではこの解像力とにじみ、そしてやや強めの周辺光量落ちのバランスを活用することで、雰囲気のある写真を撮ることができるでしょう。開放では十分に柔らかく、現行レンズでは見ることのできない描写をもたらしてくれると考えています。
特徴を活かした撮影方法:スナップ、風景編
周エルカンをスナップや風景で活用するのであれば、やはり絞って使うことがおすすめです。周辺描写に関しては、F8程度まで絞っていても四隅はやや甘いというのが現実です。スナップではあまり気にならないとは思いますが、風景のように隅から隅までをしっかり写したいというのであれば、F11程度まで絞る必要があります。それでも周辺の光量落ちがやや残るのは気になるところです。
一方、開放描写はその強い周辺光量落ちの効果も相まって、被写体を注目させる効果がありますので、静物や特定のシーンを印象的にスナップすることも可能になります。また、スナップだけではなくポートレートを撮影する際にも注意したい点として、色収差(パープルフリンジ)が強くみられるということが挙げられます。開放では空との境目など高輝度部分に顕著に現れますが、ある程度絞ってもフリンジが発生することは意識しておいた方が良いでしょう。
特徴を活かした撮影方法:ポートレート編
絞り開放時のにじむ描写と光量落ちは、やはりポートレートの様な明確な被写体がある撮影でこそ、その真価を発揮すると言えます。このレンズを入手された際には、ぜひ絞り開放+日の丸構図で撮影してみてください。柔らかさと淡さの絶妙なバランスを感じることができるはずです。ハイライトが飽和しやすいのは玉に瑕ですが、ライカレンズに見られる柔らかさは健在で、積極的に絞り開放を多用したくなります。
一方、絞っても解像しきらない特徴は、ことポートレートにおいてはその柔らかさをメリットと捉えることができます。個人的に、現行レンズにはない柔らかさこそがポートレートでオールドレンズを使う最大の魅力だと感じているので、絞ってもその甘さが残るレンズは人物撮影向きと言えます。
また、この時代のレンズでは類を見ない程、逆光に強いのも特徴です。フレアの発生は見られるものの、ゴーストの出現はほぼなく、安心して逆光に立ち向かっていける強さも兼ね備えています。オリジナルERCANと同時期に販売されていた、解像力番長のSummicronとは異なる艶のある描写が周エルカンの魅力と言えるでしょう。
まとめ
さて、いかがだったでしょうか。周エルカンは本家ERCANのコピーですが、コピーと言うよりはERCANを再現、復刻させたレンズと言っても良いのではないでしょうか。オリジナルの希少性から詳細な比較をすることは難しいですが、周エルカンではなく「LIGHT LENS LAB M 50mm F2」と言うレンズとして、とても魅力のある1本となっていると感じました。軍用=端正な描写をイメージしがちですが、どこか優しさを彷彿とさせる、実にライカらしい1本と言えるでしょう。
この記事でオールドレンズに興味を持っていただけたのであれば、僕が執筆している「ポートレートのためのオールドレンズ入門」そして「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」に数多くのオールドレンズの作例と詳細な設定等解説を載せておりますので、是非ご覧ください。また、実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるオールドレンズワークショップ「フランジバック」にもご参加いただければ嬉しいです。では、次の記事でお会いしましょう!
■モデル:しいたうさぎ(@Siita_Rabit_if)
■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。