特徴ある3本のオールドレンズで撮るイルミネーション|坂井田富三
はじめに
今回は「オールドレンズで撮るイルミネーション」として、筆者の所有している数々のオールドレンズの中から、特徴のある描写をするものを3本ピックアップしてみました。オールドレンズには現在の高性能でキレイな描写をするレンズとは違い、独特の描写をしたりクセのある描写をするものが多くあり、味わいのあるレンズの個性を楽しむ事ができます。そんなレンズの個性を表現しやすい、イルミネーションを被写体にしてその写りと特徴を紹介します。
特徴あるオールドレンズで撮るイルミネーション
今回筆者がセレクトした特徴あるオールドレンズ3本は、ヘキサグラムボケが魅力の「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」、バブルボケを楽しむことができる「FUJINON 55mm F2.2」、ベス単フード外しの描写が得られる「キヨハラソフト VK50R 50mm F4.5」の3本です。いずれのレンズも中古市場で程度によりますが、比較的お手頃な価格で入手できる個性的なレンズです。
INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8 |
FUJINON 55mm F2.2 | キヨハラソフト VK50R 50mm F4.5 |
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焦点距離 | 50mm | 55mm | 50mm |
最短撮影距離 | 0.30m | 0.60m | 0.45m |
絞り開放 | F2.8 | F2.2 | F4.5 |
レンズ構成 | 3群4枚 | 4群4枚 | 1群2枚+保護ガラス |
絞り羽根枚数 | 6枚 | 5枚 | 10枚 |
フィルター径 | 49mm | 49mm | 40.5mm |
マウント | M42、その他あり | M42、その他あり | 各マウントあり |
発売 | 1960年代~ | 1970年代~ | 1987年 |
今回はこの3本を、比較的お求めやすい価格で個性的なボケの表現を楽しめるレンズとしてピックアップしてみました。鮮やかなイルミネーションを、ファンタジーに表現できるアイテムとしてそれぞれのオールドレンズの特徴と撮影のコツを交えて、レンズ毎に撮影したものをご紹介します。
INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8
ロシア製レンズ「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」は、絞り羽根の形状が独特なのが大きな特徴のレンズです。6枚の絞り羽根をF5.6~F8あたりに絞っていくと、独特な「六芒星」の形になります。この状態(絞りF5.6~F8あたり)でイルミネーションなどの点光源があるものを背景にして撮影すると、点光源のボケの形が「六芒星」の形にボケるのがこのレンズの特徴になります。
背景にあるイルミネーションの点光源を「六芒星」の形にするには、この「絞り」の設定と背景をボケさせる為に、比較的近い位置にピントを合わせるメインになる被写体を設定する事が重要になってきます。そのため少し撮影シーンが限られる場合があるかもしれません。
絞りの値によっては独特な形状のボケをする「INDUSTAR-61L/Z-MC 50mmf2.8」ですが、絞りをしっかりと絞った場合や絞りを開けた場合には、普通のボケになります。ただ絞り羽根の枚数が6枚という、現在のレンズではほとんど見られない羽根の枚数なので、絞って撮影した場合の光芒線も現代のレンズとは少し違った雰囲気になります。絞り羽根が偶数の6枚なので、光芒線の数も6本になり、6本線ができるクロスフィルターのような味わいがでます。
現代のレンズの絞り枚数は7枚・9枚・11枚が主流で、奇数枚の絞りの光芒線は倍数で発生するので、14本・18本・22本と少し線が多くなり、ギラギラとした感じになってしまいます。
「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」はオールドレンズならではの少ない絞り羽根の枚数と解像度の低さが、イルミネーションを柔らかい表情に写し出してくれるのがもう一つの魅力のポイントです。
FUJINON 55mm F2.2
「FUJINON 55mm F2.2」は、お手頃な価格(中古相場5000円程度~)で購入できるレンズです。1970年代当時のフジの一眼レフカメラの標準セットレンズとして発売されていたもので、レンズの筐体もプラスティックでできていて、見た目はチープな感じのレンズです。
そんなレンズですが、絞りを開けた状態で撮影した際に背景が通常の玉ボケよりも「玉ボケの輪郭に縁取りがある状態」に写り、「バブルボケ」と呼ばれる特徴的なボケをします。
このレンズの特徴である「バブルボケ」を上手く表現するには、イルミネーションなどの点光源を背景にして、手前にメインとなる被写体を設定し、絞り開放で撮影するのがポイントです。
発売から50年ほど経過しているレンズで、カメラのセットレンズでプラスチック筺体だった事もあり、程度の良い状態のものを見つけるのは少々困難かもしれませんが、気楽にオールドレンズを楽しめるレンズの一本です。
キヨハラソフト VK50R 50mm F4.5
今回セレクトした3本のオールドレンズの中でもひと際個性的なレンズが、清原光学「キヨハラソフト VK50R 50mm F4.5」です。
清原光学のキヨハラソフトシリーズは、「ヴェスト・ポケット・コダック」というカメラのレンズを流用して、他のカメラで使用できるように改造した「ベス単フード外し」と呼ばれる「軟焦点レンズ」を再現したレンズです。同シリーズには焦点距離70mmの「キヨハラソフト VK70R 70mm F5」もありますが、イルミネーションなどの風景・スナップ撮影には50mmの方が使い勝手が良さそうなので、「キヨハラソフト VK50R 50mm F4.5」のほうをセレクトしました。
この「キヨハラソフト VK50R 50mm F4.5」は特徴のあるソフトな描写をするレンズで、ピント合わせが非常に難しいですが、独特な描写は現代のレンズでは味わえない描写をします。
今回紹介するレンズの中では一番個性的な撮影をできるレンズで、絞りを開けて撮影したときのイルミネーションなどの光源などが、強い球面収差で現れるフレアと合わさって幻想的な描写をします。これは現代のレンズにソフトフォーカスフィルターを使用しても表現できない表現です。
肉眼では味わえないファンタジーな世界観を見せてくれる「キヨハラソフト VK50R 50mm F4.5」は、撮影していてとても楽しめるレンズです。先に紹介した2本は手前に被写体を配置しないと独特な効果が現れにくいのに対して、「キヨハラソフト VK50R 50mm F4.5」はその必要がないので、より簡単に独特な世界の撮影をすることができるのが魅力のポイントです。
まとめ
オールドレンズには、現代のレンズでは味わえない独特な描写をするものが多くあります。決してキレイに写る訳では無いレンズ達ですが、個性豊かな描写は写真を楽しくしてくれます。ミラーレス機になって様々なマウントアダプターが発売され、オールドレンズを気楽に扱えるようになり、写真の楽しみ方が広がりました。
イルミネーション撮影や夜のスナップ撮影に、この冬オールドレンズをお供に一本持ち歩いてみてはどうでしょうか。
■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー
・ソニーαアカデミー講師