フィルムカメラ好き必見!基本を知って、もっとフィルム写真を楽しもう|金森玲奈
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デジタル全盛のいま、フィルムを楽しむ
デジタルカメラ全盛の現在、写真といえばデジタルで撮られたものをイメージする人がほとんどではないでしょうか?私が学生時代はまだまだフィルムカメラが主流でしたが、ここ20年ちょっとでフィルムとデジタルのバランスはすっかり逆転してしまいました。とはいえ、デジタル写真の手軽さやカメラの進化によって、フィルム時代はちょっとハードルが高そうに思われていた写真という媒体が、より身近なものとして私たちの日常に浸透したのはとても嬉しいことだと思います。
レトロなテイストがフィルムカメラの魅力
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そして今、若い人を中心にフィルムカメラの人気が高まっています。シャープな描写を見慣れているからこそ、当時のレンズの持つ温度を感じさせる空気感や、デジタルの便利さとは対極にあるフィルムカメラの操作性、撮ってすぐ見られないといった、ある意味不便さの極みと言えるような仕様ですら新鮮に感じるのかもしれません。そして、なんといってもフィルムカメラはかわいいデザインのものが多いのです。そんなレトロなデザインも今のフィルムカメラブームに一役買っているのかもしれませんね。
今回は1990年に発売されたミノルタの「PROD(プロッド)-20´S」を使って、フィルムカメラの基本的な操作性と、デジタル時代の今だからこそ便利になったフィルム現像後の写真の楽しみ方や、ネガの保存方法についてお話ししたいと思います。
ミノルタPROD-20´Sとは
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前述した通り、今はなくなってしまった国産カメラメーカー「ミノルタ」が1990年11月に発売した35mmレンズシャッター式オートフォーカスカメラです。フィルムの装填も撮影時のピント合わせもフィルム巻き上げも自動で行ってくれるという、フィルムカメラ初心者にも扱いやすいカメラで、カメラのキタムラでもたまに状態の良い物が入荷しています。お値段も手頃なので、はじめてフィルムカメラデビューされる方にオススメです。
実は「PROD-20´S」にはちょっとした都市伝説のような話があって、限定20,000台で製造されたとのことなのですが、何故かシリアルナンバーが20000を超えるものが多数あるというのです。ちなみに私のシリアルナンバーは「33294」。余裕でオーバーしていました(笑)。
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フィルム装填時の注意点(1)
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撮影前の準備の最初の一歩はまずカメラにフィルムを装填することですが、デジタルカメラのように電源を入れたらどのカメラもすぐ撮影スタートできる状態になる、ということはありません。手動でフィルムを撮影できる状態までセットするタイプのものもあれば、「PROD-20´S」のようにカメラ内部にフィルムをセットして裏蓋を閉じれば自動で装填をしてくれるタイプのものなど、フィルムカメラとひと口に言っても操作性はさまざまです。オートローディングタイプのカメラの場合もフィルムにDXコードというフィルム情報(ISO感度や撮影枚数など)をカメラが読み取れるコードが搭載されているものでないと、正しいISO感度で撮影ができない場合などもあり、注意が必要です。
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フィルム側面の銀と黒の模様が、カメラが識別するためのコード、バーコード状のものはフィルム現像時にラボがフィルムの種類を識別するためのコードで、それらを総合して「DXコード」と呼んでいます。
「PROD-20´S」もこのDXコードが非搭載のフィルムの場合はすべてISO感度を100で認識してしまう仕様となっているので、今回はDXコードを搭載したISO400のフィルムを使用しました。最近は海外製のフィルムなども増えてきていますが、稀にDXコードがないフィルムもあるのでご自身のカメラの仕様を確認しておくと安心でしょう。
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フィルム装填時の注意点(2)
フィルムを装填する時や取り出す時に注意してもらいたい点がもうひとつあります。これはすべてのカメラに共通するのですが、裏蓋の内側についている「圧板」と呼ばれる四角い金属板には触らないように気を付けてほしいということです。
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この圧板はシャッターを押した際にフィルムをプレスし、レンズとフィルムの正確な位置合わせと平面性を保つためのもので、実は非常に重要な部品のひとつです。この圧板を強く押すと、プレスするためのばね機構が損傷してしまう可能性があるので、フィルム装填時などに触らないように気を付けてください。また、ホコリなどの汚れがついた場合はブロアで吹き飛ばしたり、やわらかい布でやさしく拭き取ってください。強く擦ったりすると表面に傷が付き、それがフィルム面に擦り傷を作ってしまうこともあるのでお手入れの際も注意したいですね。
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撮ったらすぐ現像しよう
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フィルムは俗に「生もの」と言われたりします。フィルムの箱には有効期限が入っていますが、これは適切な温度で保存されたフィルムを撮影・現像した時に、良好な現像結果が得られることを保証するものになります。この期限が切れてしまったものや、撮影後にフィルム現像まで時間を空けてしまうと、フィルムが劣化して本来の色味や階調が出なくなってしまったりするので、撮ったらすぐに現像する習慣をつけましょう。近年は期限の切れたフィルムが醸し出す独特な風合いを楽しむ人も増えているそうですが、フィルム初心者の方はまず正確な色味が出る有効期限内のフィルムを使うことをオススメしたいです。
今回撮影した2本のフィルムはカメラのキタムラにフィルム現像と、この記事用にデジタルデータ化をお願いしました。このデジタルデータ化オプションは、現像してすぐ写真をデータで見ることができるとてもありがたいサービスです。ただし、通常のデジタルデータ化される画像サイズはそこまで大きな画素数のものではないため、SNSなどで楽しむには十分ですが、プリントする場合は2Lサイズ(127×178mm)程度までがキレイに見える目安だと覚えておいてください。
「PROD-20´S」で見た世界
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PRODの最短撮影距離は95cmと結構長めで、カメラを頭上まで持ち上げてノーファインダーで撮影するも近すぎてピンボケ。カメラストラップも写り込んでいて絵に描いたようなうっかり写真に。
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結果オーライだった後ピン写真。
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フィルムで撮ったら紙にプリントしてみよう
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現像してすぐ写真を楽しめるデジタルデータも良いですが、フィルムで撮った写真の醍醐味はやはりプリントだと思います。フィルムカメラしかなかった時代はネガ現像をしただけではカラーもモノクロもまだ撮った写真が見られる状態ではなく、暗室で印画紙にプリントをして、はじめて「像」が「写真」になりました。
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とはいえ、暗室で一枚一枚プリントをするのは暗室でのプリントの知識だけでなく、時間や費用もかかるため、いきなり挑戦するのはハードルが高いかもしれませんね。そこで先程ご紹介した、デジタルデータを活用してインクジェットプリンターでプリントをしてみる方法をご紹介します。
デジタルデータをスマホやパソコン上で確認してプリンターでプリントをするのもいいのですが、今回はせっかくなので「ベタ焼き」とも呼ばれるコンタクトシートを作るところからスタートしました。
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一本分のネガフィルムを印画紙の上に乗せて(密着させて)一枚の中に全画像を焼き付けるのを密着(ベタ)焼きと呼んでいました。カメラメーカーの現像ソフトやPhotoshopなどでは「コンタクトシート」という項目で複数画像を一枚の用紙の上にプリントすることができます。パソコン画面上で複数の写真を同時に見るのはやや見づらいこともありますが、紙にプリントすることで一枚一枚をじっくり見てプリントしたい写真を選ぶことができるのも楽しいです。今回はパソコン上で2本のフィルムの中からプリント候補に選んだものだけをコンタクトシートにプリントしました。
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「撮ったらすぐ現像しよう」の項でお伝えした通り、画素数の関係で2Lサイズの用紙にプリントしてみましたが、とても綺麗にプリントできました。とはいえ、さらに大きなサイズでプリントしてみたいと思われる機会もいつか訪れるかもしれません。その時にちいさなサイズのデジタルデータしかないのは残念ですよね。また、写真は撮った時よりも時間が経った後にその存在の大切さに気付くものだと思います。いつかの未来に遠い過去の思い出を手に取れる形で残せるように、フィルムであればネガを、デジタルであればデータを、大切に保管してほしいと思います。
ネガの保管方法
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お店にフィルム現像を頼むとスリーブと呼ばれる透明、または半透明のシートに入れられた状態で現像されたネガが戻ってきます。ネガを入れやすくするためか、お店のシートはネガのはじっこが少し出た状態のものが多く、ホコリがついたり傷が入る危険性もあるため、このまま保管するのはあまりオススメできません。家電量販店などで売られているネガ専用のファイルなどに入れ替えて保存しましょう。
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また、スリーブの種類は透明と乳白(半透明)があり、乳白タイプの方が光の透過を抑えてくれるのと、素材もやわらかいためフィルムの保護により適しています。透明なタイプは前述した暗室内でベタ焼きをする際に、シートにフィルムを入れたまま密着焼きができるというメリットがあるので、自分でモノクロのフィルム現像をしていた頃は最初に透明なスリーブに入れてベタを焼き、その後に保存性を高めるために乳白タイプに入れ替えたりしていました。ご自分で暗室プリントをされる方は良かったら参考にしてみてください。
現像したネガフィルムの保存に適した湿度は30〜40%とされています。そのため、長期にネガを良い状態で保存するためには湿度を一定にコントロールしてくれる「防湿庫」に入れておくのがベストです。前面がガラスの扉になっているものは防湿庫内に光が入ってくるため、光によっても劣化の影響を受けやすいネガの保管には、光の入らないキャビネットタイプのものが最も適しています。
とはいえ、防湿庫までは手が出ない…という方は前述したネガ保存用のファイルや遮光性の箱などに入れた状態であれば、ご自宅の部屋に置いておいてもそこまで急激な劣化を起こすことはないと思います。ただし、窓辺など温度が高くなりやすかったり、太陽の光が当たる場所での保管は避け、梅雨など室内の湿度が高まる時期は一時的にスリーブのみを防湿ができるプラスチックのボックスなどに入れておくと安心でしょう。
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ネガは財産。モノとして存在する価値を感じて
フィルムカメラで撮る醍醐味は、不便さも含めたどこかなつかしい世界観を楽しめることです。そうして撮影後に手にするネガは、デジタルデータとは違って実際にカタチあるモノとして存在する、記憶そのものと言えるように思います。失敗したな~と思った一枚でさえ、時間が経てばかけがえのない愛おしい思い出になるかもしれません。だからこそ、一本のフィルムに閉じ込めた時間すべてが写っているネガフィルムは人生の財産のひとつになると思います。デジタル時代の今だからこそ、デジタルの持つ利便性を取り入れつつ、ぜひフィルムで撮る写真も楽しんでいってもらいたいです。
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ピンボケ写真だって大切な思い出。
※作例すべてカメラのキタムラにて現像、スマホ転送サービス利用
■写真家:金森玲奈
1979年東京生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。東京藝術大学美術学部附属写真センター勤務等を経て2011年からフリーランスとして活動を開始。雑誌やwebマガジンなどでの撮影・執筆のほか、フォトレッスン「ケの日、ハレの日」を主宰。祖師谷大蔵のアトリエにてプリントや額装のワークショップなども行っている。個展・企画展多数。