写真をもっと愉しむ「個展開催のススメ!」 #2 ギャラリーを探す

鶴巻育子
写真をもっと愉しむ「個展開催のススメ!」 #2 ギャラリーを探す

写真家·鶴巻育子はこれまでに17回個展を開催し、代表を務めるJam Photo Galleryでは6年間で企画展とレンタル併せて100を超える展示に携わってきました。写真家とギャラリスト両者の視点から個展の魅力や成功へのアドバイスをお伝えする連載企画です。
 
2回目はギャラリー探しについてです。私が東京在住であること、日本では東京に集中していることから、ここでは東京都内のギャラリーに絞ってお話させていただきます。

作品はスペースによって見え方も変化します。個展はギャラリー選びが重要です。立地、広さ、利用料、在廊必須か販売手数料の有無など、ギャラリーによって異なります。憧れのギャラリーでの展示を目標にしている場合でも、展示の条件や規約を細かく確認し、事前にギャラリーに足を運び、自分の作品が飾られている空間を想像してみましょう。

ギャラリーの種類

コロナによってキヤノンギャラリー銀座で予定していた個展「PERFECT DAY」が延期となり、急遽自身のギャラリーで開催。その後、キヤノンギャラリー銀座で再度展示をしました。同じ作品でも空間によって見え方も変化します。(左がJam Photo Gallery、右がキヤノンギャラリー銀座)

日本ほどさまざまな種類のギャラリーが存在する国は他にないと思います。作家とギャラリーが契約をし主に作品販売を目的としたコマーシャルギャラリー、展示スペースを持ち合わせている本屋さんが運営するブックショップのギャラリー、カメラやプリントメーカーが運営するメーカーギャラリー、他にはレンタルギャラリー、自主ギャラリーなどがあります。

ここでは、写真愛好家の方々が個展開催をしやすいメーカーギャラリー、レンタルギャラリー、自主ギャラリーに絞り、それぞれの特徴を紹介していきたいと思います。

 

メーカーギャラリー

カメラやプリンターメーカーが運営しているギャラリーです。出展料が無料または安価であることはかなりのメリットです。銀座や新宿など立地条件が良いのも魅力です。大きな会場が多いので、必然的に展示作品数は多くなりますし、広いスペースに映える大判プリントの展示もしたくなったり、制作費用の負担は大きくなることを想定しておくと後々焦らずに済むでしょう。

公募の日程、審査員や審査方法は、各ギャラリーによって異なります。通常、20~30点でまとめた作品、400~600文字程度のステートメント(作品のテーマや解説)の提出が主な応募方法になります。近年、積極的に作品発表を行っている写真愛好家の方々も多く、メーカーギャラリーの審査通過は自分の作品に対する一つの評価基準として考える方もいて、ギャラリーによっては競争率は高いと聞きます。審査通過のためには、クオリティの高いプリントとしっかりまとまったステートメントは必須です。

名称 会場費 応募 特徴
キヤノンギャラリー 無料(原則2週間・日月曜休み) 年2回 DMハガキ印刷(2000枚まで)キヤノンギャラリー負担
ニコンサロン
THE GALLERY
無料(2週間・日曜休み) 年4回 フレーム貸出無償。出展者が応募締切日の時点で 35歳以下の場合、若手写真家支援活動「Be a Photographer」の一環として、作品制作補助費 10万円(消費税別)を支給
OM SYSTEM GALLERY 66,000円(税込)※2026年4月開催分から88,000円に改定 年2回 フレーム貸出無償 若手写真家支援Limelight企画あり
エプサイトギャラリー 無料
設営撤収作業エプサイト負担。エプソン製インクジェットプリンターで制作されたものに限る
ソニーイメージングギャラリー銀座 無料 ※二時審査(面談)まであり Futere部門 展示作業費ギャラリー負担、制作費負担上限40万円。案内ハガキ 無償(ギャラリー規定様式かつ500枚以内の場合)
ピクトリコ ショップ&ギャラリー プランAプリント工房で作品制作(132,000円以上)5日間無料。プランB 5日間 77,000円 随時 プリント工房にてプリントサービスを依頼した場合、ギャラリーレンタル無料(条件確認)
富士フイルムフォトサロン 無料
フレーム貸出無償。プリント費、パネル加工費などギャラリー負担。若手写真家応援プロジェクト

会期や条件などそれぞれ異なりますので、応募要項を確認した上で応募しましょう。

 

レンタルギャラリー

出展者が使用料をギャラリーに支払い、展示を開催できるスペースです。東京には多くのレンタルギャラリーがあります。レンタル料、スペースの広さはもちろん、主宰者の運営方針によって利用の仕方に違いがあります。審査なしで単にレンタルスペースとして借りられ、その期間自由に使用できるギャラリーもあれば、審査があったり展示内容について相談できるギャラリーもあります。企画とレンタルの両方で運営しているギャラリーは、場合によっては企画に持ち込める可能性もあるかもしれません。自分に合ったオーナーと出会うことも個展成功に繋がる鍵となるでしょう。
 
私が主宰するJam Photo Galleryはレンタルギャラリーに属します。ここで少しギャラリストとしての私の考えお話させていただきます。そして少し宣伝も。

私のギャラリーでは、レンタルと企画の両方を行っていますが、レンタルの場合でも審査を設けています。審査では、作品内容よりも写真や作品作りに対する真摯さや人柄をみています。短い期間でも開催まで細かいやり取りがありますし、お互いが良い展示をするために協力し合える関係性が必要になるからです。希望する方には、面談の時点でアドバイスもしています。Jam Photo Galleryの特徴というと、私がディレクション(別途料金)をするオプションがあります。会期までたくさんのやり取りと細かな作業を楽しめる方に限られますが…その過程が作品制作や空間作りの勉強になればとも思っています。

さて、他にも東京にはたくさんのレンタルギャラリーがあります。私の主観ですが、写真に特化したレンタルギャラリーをリストアップし特徴をまとめてみました。

名称 使用料 販売手数料 壁面長 特徴
弘重ギャラリー(恵比寿) 79,000円~342,000円※スペースによる(7日間) ※学割30% なし A20.5m B17.2m Cafe gallery 18.2m 一軒家でカフェも併用されている優雅な雰囲気。サポートプラン(有料)有り。
ギャラリー・ルデコ(渋谷) 220,000円~※スペースによる(6日間) ※学割有 なし 約24m、約37m、約41m(階によって異なる) ビル1棟に5つの展示スペースがある。パフォーマンスなど様々な用途が可能。
アメリカ橋ギャラリー 70,000~120,000円(6日間・スタッフ常駐の有無による) なし 約18,550mm デザイン会社が運営。2部屋に分かれた変わった空間。モニター完備。東京都写真美術館から徒歩1分の立地。
アイアイエーギャラリー 70,000~120,000円(6日間・プランによる) 35% 約10,810mm スタッフが常駐してくれるプラン有り。同ビル2階にコムロミホさん経営のショップMONOGRAPHがあり、周辺にもギャラリーが集まっている。
Nine Gallery(南青山) 220,000円(6日間) ※学割有 20% 約16,500mm  可動壁有り デザイナーの三村漢さんが運営するギャラリー。有名写真家、写真愛好家の個展、の他、写真以外の展示など広い分野の展示も。
CO-CO PHOTO SALON 16,5000円(8日間) 35% 19,550mm 銀一が運営するギャラリー。ビルの4階でも外光が入り、開放感がある。東銀座駅出口を出て直ぐの好立地。
Basement Gallery 180,000円 税抜き/1週間(9日間 ※会期1週間、搬入搬出各1日) 税抜き販売価格の30% ※ISBNコード付与の書籍:税抜き販売価格の10% 約25m 新宿 北村写真機店のイベントスペース。2024年6月より地下1Fに場所を移しリニューアルオープン。
Jam Photo Gallery 110,000円(6日間)198,000円(12日間) なし 15,625mm 写真家・鶴巻育子が主宰。誰でも展示しやすいサイズ。周辺にギャラリー多数あり。

 

自主ギャラリー

日本独特の写真文化のひとつである自主ギャラリー。写真家同士が集まり運営し、自分たちの作品の発表の場としています。新宿、四ツ谷界隈に多く集まっており、アングラな雰囲気だったり、それぞれ主宰者の色が感じられる面白い空間が多いのが魅力です。基本的には運営メンバーの作品発表をメインとしていますが、空いている時期はレンタルとして使用できるギャラリーがほとんどです。応募に関しては、審査があるギャラリーもありますので、気になるギャラリーに問い合わせてみましょう。
自主ギャラリーのメンバーである写真家たちが訪れ、作品を見てもらえるチャンスもあるかもしれません。

名称 使用料 壁面長 特徴
PLACE M(新宿御苑) 50,000~170,000円 約26m(全壁)※メインギャラリー、ミニギャラリーがある。両方同時に使用も可。  言わずと知れた1987年オープンの老舗自主ギャラリー。瀬戸正人さん主催のworkshop「夜の写真学校」はこの場所で行われている。2階には自主ギャラリーRED Photo Galleryがある。
ギャラリーニエプス(四谷三丁目) 68,000円(6日間)学割有り 約13.6m 主宰は中藤毅彦さん。有孔ボードの壁はチープな印象を感じそうだが、なぜか味になっている。こじんまりしたスペースが落ち着き、作家と来場者の距離も自然と縮まる感じがする。
サードディストリクトギャラリー(新宿三丁目) 80,000円(10日間1単位) 約17.7m フレームレンタル枚数に関わらず使用料5,000円。入口からザ・新宿といった感じのアングラな雰囲気が魅力。小さな本屋も併設している。地下鉄出口を出て直ぐ。4階まで階段。
トーテムポールギャラリー(四谷三丁目) 100,000円(6日間)180,000円(12日間)※学割20%OFF 約16.45mm 広いドアによって実際よりも空間が広々感じる。レンタル受付は年2回の予約期間がある。有元伸也さんはじめ他のメンバーの精力的な活動が刺激的。
ALT_Medium(高田馬場) 90,000円(6日間)、160,000円(12日間)学割・リピーター5,000円引 約18.2m 自然光が入る美しいスペース。写真以外にも美術を中心にさまざまな展示も開催している。

エリア

スナップ撮影も長時間していると、疲れていい写真が撮れません。また写真展は何箇所も連続で観ると、集中力が途切れてしっかり観ることができません。なので街スナップをしながら写真展巡りをすることがよくあります。

#1では「自分の作品を知らない人にどれだけ届けるか、それが個展の醍醐味」と書きました。多くの人に作品を見てもらうには、事前の宣伝活動など集客の努力は必要ですが、「ついで」や「時間潰し」など、どんな形でもギャラリーに足を運んでもらえればラッキーなのです。

写真展巡りをする場合、事前に作家や作品内容を確認しそれを目指して観に行く人もいれば、「今日は銀座周辺を周ろう」と、エリアを決めて一度に数カ所のギャラリーを廻る人もいます。そこでエリアはギャラリー選びで重要なポイントになるわけです。

東京には写真に特化したギャラリーが多く集まるエリアがいくつかに分かれていて、エリア毎の作品の傾向や客層にも特徴があります。自分の作品のテイストとマッチするエリアでギャラリー探しをするのもひとつのアイディアですし、何度か個展を経験している人の中には、あえて自分の写真のテイストとは異なる場所を選ぶ人もいます。同じ場所は飽きるという理由もあったりしますが、馴染みのないお客さんの反応を知り、今後の自分の作品作りに役立てたいという方もいらっしゃいます。

 

新宿・四谷エリア

以前は多くのメーカー系ギャラリーが新宿界隈に多くありましたが、現在はニコンギャラリーとOM SYSTEMギャラリーのふたつのみとなってしまいました。しかしPlace M、ギャラリー・ニエプス、TOTEM POLE PHOTO GALLERY、third ditrict galleryなど、自主ギャラリーの数は東京の中でも圧倒的です。そして、新宿 北村写真機店運営のBasement Galleryは2024年に場所を地下に移動しリニューアル。

自主ギャラリー運営はストリートスナップの写真家が多いのも特徴です。そのためか、自然とストリートスナップ系の作品展示、カメラを肩にかけて訪れるいわゆるスナップ好きなお客さんが目立ちます。バリバリのストリートスナップを見せたい人は、このエリアで勝負するのも面白いでしょう。私は新宿・四ツ谷エリアをスナップするときは、休憩がてらギャラリーに入ることがよくあります。そこで思いも寄らないいい展示や作家に出会ったときはテンションが上がり、その後のスナップ撮影が好調になったりします。

 

銀座・京橋エリア

メーカー系は、キヤノンギャラリー、ソニーイメージングギャラリー、ライカギャラリー(レンタル不可)、丸の内まで足を伸ばせばエプソンイメージングギャラリーがあります。人気写真家が多く利用している銀一運営のCO-CO PHOTO SALON、写真専門ではありませんが小さなギャラリーが多数入っている歴史のある奥野ビルなど、探すとかなりのレンタルギャラリーが存在します。他のエリアに比べると作品の種類の偏りはあまり感じず、ジャンル別写真から現代アートとしての写真と幅広い写真表現に出会えるエリアです。

AKIO NAGASAWA GINZAをはじめとするコマーシャルギャラリー、老舗の資生堂ギャラリーやセイコーハウスホール(銀座和光)、エルメスやシャネルなどファッションブランドのギャラリーもあり、さらに絵画を扱う画廊も多く、銀座は質の高い展示が一遍に見られるエリアです。写真好きだけでなくアート好きの人たちも多いです。

 

渋谷・青山エリア

渋谷のギャラリー・ルデコは昨今ポートレートの展示をよく見かけます。卒展やゼミ展が多く、その他イベントも開催できることから人の出入りも頻繁です。青山にあるデザイナー・三村漢さん主宰のNine Galleryは、写真に限らず様々なアートに対応。ギャラリーが運営するオンラインコミュニティがあり、写真愛好家の展示やイベントも開催し賑わっています。レンタルギャラリーは多くはありませんが、GR SPACE TOKYO、ワタリウム美術館、スパイラルガーデン、渋谷公園通りギャラリー、渋谷区松濤美術館、渋谷ヒカリエ8など、渋谷、表参道、青山の間にはアート関係のスペースが盛りだくさん。

 

小伝馬町エリア

写真系のギャラリーが多く、現在おしゃれな飲食店も増えているエリア。小伝馬町といえばルーニィ247ファインアーツ。レンタルでは人気でしたが、残念ながら現在は企画展のみとなっているようです。アイアイエーギャラリーは、小ぶりなため展示初心者には優しいスペースです。YouTubeでも大人気のコムロミホさん運営のMONO GRAPHYが同ビル2階で営業していますので、写真好きがたくさん訪れます。趣ある古いビルでの営業が多いのもこのエリアの特徴です。ギャラリーに入るまでのビルの雰囲気を味わうのも楽しみのひとつです。レンタルはできませんが、Kiyoyuki Kuwabara AG、Kanzan galleryも素敵なギャラリー。このエリアは狭い範囲にギャラリーが集まっているので写真展巡りをしやすいです。

 

目黒・恵比寿エリア

恵比寿にあるアメリカ橋ギャラリーと日本写真芸術専門学校出身のメンバーで運営されているkoma galleryは、なんと言っても東京都写真美術館からすぐの立地が魅力です。そこから散歩がてら歩きますと、Poetic Scape、Jam Photo Gallery、目黒寄生虫館(写真ではない)、ふげん社(カフェもあり)、金柑画廊、Blitz Gallery…と実は充実した写真展巡りができるエリアなのです。そのため、私が運営するJam Photo Galleryは「ついで」に訪れる人の確率大です。

桜の季節を除くと観光客はほとんど見かけない落ち着いたエリアです。どのギャラリーも駅近ではありません。このエリアで写真展巡りをしている人は、写真を見るためにわざわざ訪れている写真好き。コマーシャルギャラリーが多いので、いい緊張感も保てます。

ギャラリー空間

2018年にPlaceMで、ハワイのバスの車窓から捉えた風景でまとめた「THE BUS」を開催。曲がり角が多いPLaceMの空間は変化を付けやすく、観るときも壁が変わるごとに新鮮な気持ちになります。

ギャラリー探しをときは、まず広さや壁の長さをチェックすると思います(1.2の表参照)。広ければたくさんの写真を展示することができますが、点数を多く見せることがベストとは限りません。個展は、量より質、何より作品意図が伝わるイメージサイズやレイアウトにすることです。先にも述べたように、空間によっても見え方が変わります。作品に合ったギャラリーを見つけること、またはそのギャラリーの特徴を活かした表現方法を考える。では、実際ギャラリー探しをする中で、どこを見ると良いでしょうか。

 

ギャラリーの形

私がギャラリーを作るときに重視したのは、プロアマ問わず誰が使っても展示しやすいスペースでした。A3またはA4サイズのプリントをマット付きで額装したと仮定し、15~20枚程度を展示して綺麗に見えることを考えました。Jam Photo Galleryのスペースは、壁面約15mの長方形です。長辺の2面には5~8枚、短辺2面は2~3枚という計算です。有難いことに、出展くださった方々には展示しやすいと好評です。ただ、しっかりした長方形はクラシカルな展示方法は纏まりやすいですが、動きや変化を付けたい場合はレイアウトに工夫が必要となります。

四角いスペースが展示にはベストだと考えがちです。しかし変形したスペースは、その形が利点となる場合もあります。全体を見渡せないことで、どんな作品がこのあと待っているかワクワクさせる効果があります。曲がったところで世界観をガラッと変えられたり、変化をつけることが可能なのです。Place Mがその良い例だと思います。また半地下にも小さなスペースがあるアメリカ橋ギャラリーも面白い表現ができそうです。

ギャラリーの柱はマイナスイメージが強いですが、使いようによっては素晴らしい道具になります。私が最も感動した柱の使い方は、第44回木村伊兵衛賞を受賞した岩根愛さんの「KIPUKA」(2018年、銀座ニコンサロン)の展示です。当時の銀座ニコンサロンは、ギャラリーのほぼど真ん中に大きな柱がありました。そこに盆踊りを踊る人々の写真が4面に飾られていたのです。輪を描いて踊るように見えました。作品内容にこの柱がどハマりしていたのです。(作品内容と展示画像は検索してください)

 

壁・天井・床

以前はメーカーギャラリーといえば黒い壁というイメージでした。現在はキヤノンギャラリー銀座とOM SYSTEMギャラリー、富士フォトギャラリーが黒壁、富士フイルムスクエアはグレー。他は白壁が圧倒的に多いです。やはり白壁が作品が映えるように思います。ただ黒壁は作品が引き締まる効果があったり、照明を落とすことで作品が浮かび上がり神秘的に見えることもあります。キヤノンギャラリー銀座に行くと、作品に当てるスポットライトだけを使用し会場を暗くした展示がかなり多いように思います。

天井や床にまで拘ると選択肢が狭まりますが、床の質感で空間の雰囲気は変わるものです。大きく分けると、コンクリート(調)、木材、絨毯の3つになります。Jam Photo Galleryはコンクリートで全体を明るく見せています。私が個人的に好きなのは、TOTEM POLE PHOTO GALLERYの手作り感ある木の床です。入って左のちょっとした壁の工夫にも痺れます。Nine Galleryは、床は木材、天井を黒で塗ったのはスペースが広く見える効果を狙ったと聞きました。

 

その他

個展中、長い時間をギャラリーで過ごします。バックヤードやトイレもチェックしておくと安心でしょう。一息できるスペースの有無は意外と重要ですし、作品の箱など荷物が保管できるスペースがあるかも確認しておくと搬入出もスムーズに進みます。

設置方法は釘打ちのギャラリーがほとんどだと思いますが、釘の太さと長さの制限があるギャラリーもあります。使用可能なテープ類、天吊り可不可など、理想とする展示が行えるか細かく確認しましょう。テーブルや椅子、台、プロジェクターの使用、音楽が流せるか等々…会期中は快適に過ごすためにも、ギャラリーとのトラブルを避けるためにも、事前の細かい確認を怠らないようにしましょう。

【写真家に聞く!表現と個展】ゲスト:鵜川真由子さん

広告でも活躍する鵜川真由子さん。多忙の中でも精力的に作品発表されています。写真は今年1月にふげん社で開催した個展「海辺のカノン」の様子。ご自身でセレクトから構成までされたとのこと。

 

 

ーーこれまで17回の個展を開催している鵜川さんですが、個展を開催するからこその気づきってありますか?

(鵜川)若い頃は、こう見て欲しいと思うことが強くありました。もちろん今も作品意図が伝わるように毎回セレクトやレイアウトに時間をかけて考えていますが、見る人は自分の経験と重ねて作品を見るから一人ひとり違う見方になる。それぞれに違ったストーリーが生まれて、違う価値が生まれる。好きに感じてもらっていい。そう思えるようになりました。

ーー確かに写真も他のアートも見る人がいて価値が生まれるものですよね。いつから、そう思えるようになったのですか?

(鵜川)写真を購入してもらったことが大きいですね。その方にとっての価値が重要なんだと気づきました。だから、作品は余白を残すことが大事だと思っています。

ーー個展をやることで一番苦労することって何ですか?
(鵜川)全ての作業が当たり前になっているから苦労と思わないですね。強いていえばレイアウトでしょうか。私は壁そのものでも表現したい、壁一面がひとつの作品と考えます。レイアウトや空間のイメージがつくと撮るものが明確になったり、変わってきますから。

ーー確かに撮ってる時点で、ギャラリーの空間や写真集の装丁も想像しますよね。まあ、それはプロの仕事として考えると当たり前ですが、写真愛好家の方々に個展開催でのアドバイスをするとしたら?

(鵜川)いっぱいあり過ぎますね! 用紙、レイアウト、言葉選びなど全て含めて作品になりますから…あと、上手にできなくても自分の作品をちゃんと理解して言語化することが大事です。

ーーということは、やはりステートメントは必要?

(鵜川)なくても良い場合もあるじゃないですか。それも含めて自分の選択。「海辺のカノン」(2025年・ふげん社)の展示では、ステートメントの配置にもこだわりました。小さい選択を丁寧に考えていくことが大事です。

ーー展示を見にいくと、作品以外でも細かいところって意外と気になりますよね。

(鵜川)そうそう。気をつけることっていくらでもありますよ。雑だったり、見てもらう意識が足りないと感じる展示は冷めちゃいます。作品に対する愛情っていうか、自分の写真を大切にしていないなって印象を受けてしまう。そこは伝わるものです。プロもアマも関係なく。

ーーこんな個展はやっちゃダメよってことはあります?

(鵜川)プリントのクオリティが低いのは、見せる行為として考えたらダメでしょ。それと、すごく嫌なのは身内で固まって喋ってる空間です。

ーーあれね…しかも写真じゃない話で盛り上がってたり(笑)見てもらう空間作りは大事ですね。まだまだ聞きたいことはたくさんありますが、最後にこれまでに印象に残っている展示をひとつ挙げるとしたら?

(鵜川)2017年横浜美術館で開催した石内都さんの「肌理と写真」です!プリントはもちろんなのですが、空間作りが素晴らしく、感情の部分を大切にしていて感性で仕上げているように思いました。展示のレイアウトには会場のジオラマを作ると聞いたことがあります。やはり丁寧な仕事は人に伝わるものなのだと思います。

ーー貴重なお話ありがとうございました!

 

 

※ 各ギャラリーの掲載情報は本記事公開当時の情報です。

 

■写真家:鶴巻育子
1972年、東京生まれ。広告写真、カメラ雑誌の執筆のほか、ワークショップやセミナー開催など幅広く活動。写真家として活動する傍ら、東京・目黒、写真専門ギャラリーJam Photo Gallery 主宰を務める。ライフワークでは、これまでに世界20カ国、40以上の都市を訪れ、街スナップや人物を撮影。主な写真展 Brighton-a little different(2012年、オリンパスギャラリー)、東京・オオカミの山(2013年、エプソンイメージングギャラリーエプサイト)、3[サン] (2015年、表参道スパイラルガーデン)、THE BUS(2018 年、ピクトリコギャラリー・PLACE M)、PERFECT DAY(2020年、キヤノンギャラリー銀座)など。THE BUS(2018年、自費出版)、PERFECT DAY(2020年、冬青社)、夢(2021年、Jam Books)がある。

 

 

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