サバンナ撮影記|Vol.02 ~草食動物は地平線と共に~

井村淳

EOS1D2で撮影した作例

サファリとは

EOS 6Dで撮影した作例1.JPG
■使用機材:EOS 6D + EF24-105mm F4L IS USM
■撮影環境:ISO100(オート) F10 1/1250

 今回はサファリで出会う草食動物たちの撮影についてじっくりとご紹介していきます。サバンナをサファリカーと呼ばれる車で回ることをゲームドライブやゲームサファリなどとも言います。元来、サファリとはスワヒリ語で「旅」を意味しますが、現在ではサファリとは単に宿(キャンプ場)から出発し、ゲームドライブをして宿に戻るまでを指すことも多く、早朝出発して朝食や昼食までに戻ってくる早朝サファリや、昼食後から日没までの午後サファリなどがあります。

 ケニアのマサイマラ国立保護区ではサバンナと呼ばれる草原が広がっています。保護区といっても動物たちが人間に飼われているわけではなく、地図上に引かれた枠の中では人間による狩猟や現地民の居住などが禁止されており、観光で動物を観察する上でもオフロード走行禁止や、動物までの最短距離、夜間のゲームドライブも厳しく制限されています。

 サバンナには無数の動物が生息しています。見渡す限りに動物が一頭もいないことは滅多になく、何かしらの動物が目に入ります。特に体の大きな動物は遠くからも確認できるし、草に埋もれてしまうこともなく初めてのサファリでも誰でも動物を見つけられます。

EOS 5Ds撮影した作例2.JPG
■使用機材:EOS 5Ds + EF11-24mm F4L USM
■撮影環境:ISO400(オート) F11 1/250

アフリカゾウは朝と夕方が狙い時

 特に圧倒的に体が大きい動物がアフリカゾウです。大きいゾウでは体高は3メートルを超え、体重は5トンを超える程の巨体です。そんなゾウでも見渡す限りの草原では、遠くに点のように見えることもあります。草原は真っ平らではなく起伏がありますので、ある程度で視界が区切られ、空と地上の境目、つまりは地平線が視認しやすく、そこに映る動物のシルエットを狙うこともよくあります。特に朝や夕方の空の変化があるときが狙い時です。また、背が高い動物は地平線上でも見つけやすく、作品的にも形が浮かび上がって見えるので体の大きなゾウは狙いやすいです。しかし、なかなかその時間に願う場所に理想のゾウはいないことが多いです。

 地平線上に動物を浮かび上がらせるには、動物が地平線上にいる必要がありますが、地平線は見る場所によって変わります。そのため、動物より自分が低い位置にいることが必須です。少し高いところに動物を見つけても、それより低い位置に撮影可能な道がなければダメということです。朝日や夕日と絡めて狙う事がよくありますが、太陽はどんどん移動してしまいます。太陽が来たちょうど良いタイミングまでそこにいてくれるか、顔や頭の向きが良いかは、ファインダーを覗きながらただただ祈る事しかできません。

EOS1DX2で撮影した3.JPG
■使用機材:EOS-1D X Mark II + EF100-400mm F4.5-5.6L IS Ⅱ USM
■撮影環境:ISO2500(オート) F11 1/1000

 アフリカゾウは群れで行動しますが、いくつかの群れが合わさって大きいと300頭以上という事もあります。基本的に優しい性格なので、じっとサファリカーで止まっていると、すれすれを横切っていく事もあります。サファリ中にサファリカーの中にいて一番怖いのは気が立っているゾウです。ゾウなら車をひっくり返すことも考えられますし、牙がある場合、車に突き刺さってくる事も考えられます。ドライバーたちはゾウのご機嫌までをよく読み取っています。

 特に生まれて間もない仔ゾウがいるときは大人のゾウはかなり神経質になります。ゾウはグループで仔ゾウを守ろうとサファリカーから見えないように隠しているようにも感じます。群れの中心に仔ゾウを囲うようにする事もあります。そんなときは隙間からメインの仔ゾウにピントを合わせます。

EOS1DXで撮影した作例4.JPG
■使用機材:EOS-1D X + EF500mm F4L IS Ⅱ USM
■撮影環境:ISO160(オート) F4 1/1000
EOS1DXで撮影した作例5.JPG
■使用機材:EOS-1D X + EF200-400mm F4L IS USM
■撮影環境:ISO1000(オート) F4 1/1000

キリンは高速シャッターで

 ゾウ同様に巨大な動物で、ゾウよりも背が高いのがキリンです。ツノのまでの高さは4〜5メートルになり、より遠くから見つける事ができます。間近に来ると、キリンの頭はかなり見上げる感じです。草原にいるときはもちろん、茂みの中にいても目立ちます。また、足が長いので地平線上に狙うときは、稜線より上に脚を写せるので地平線上に狙うには一番のおあつらえ向きです。また、月や朝焼け夕焼けなど背景の空とも絡めやすく、被写体としてオールマイティな形とサイズと言えます。

EOS1DX2で撮影した作例6.JPG
■使用機材:EOS-1D X Mark II + EF500mm F4L IS Ⅱ USM
■撮影環境:ISO800(オート) F4.5 1/640
EOS1DXで撮影した作例7.JPG
■使用機材:EOS-1D X + EF200-400mm F4L IS USM
■撮影環境:ISO500(オート) F5 1/320

 キリンは首が長く進化した動物で、背が高い木の葉を食べられます。しかし、その分、水たまりなどの水を飲むのは大変そうです。野生の動物たちは水を飲むときが一番、他の肉食獣を警戒をしています。キリンは前足を少し広げ、目一杯首を下げてやっと地面の水に届きます。しかし、飲んでも長い首を水が通っていかないのでしょう。首を上げて初めて喉を通るようです。首を上げるときにかなりの水が口から漏れます。なんとも効率が悪いのだろうと思います。そんな瞬間がシャッターチャンスです。水の動きはかなり速いので、しぶきを止めるために高速シャッターに設定します。

EOS1DXで撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X + EF500mm F4L IS Ⅱ USM
■撮影環境:ISO500(オート) F4.5 1/1600

 長いキリンの首はネッキングと言って、頭突き合う戦いに使われます。長い首を振り遠心力を使って相手の頭に頭突きする危険な戦いです。人間だったら即死すると言われています。もちろんシャッターチャンスです。体が大きいのでゆっくりに見えますが、これもまたかなりの速さなので高速シャッターになっていることを確認します。角度によって首を振っている雰囲気がよく見える瞬間があります。

EOS1DXで撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X + EF200-400mm F4L IS USM
■撮影環境:ISO250(オート) F5.6 1/1000

カバの戦闘シーン

 サバンナの草食動物で次に思い浮かぶのがカバでしょうか。重さランキングではサイに次いで3位です。実はカバは夜行性であり、昼間のほとんどは川などの水の中か、その水際で昼寝をしています。カバは、皮膚がデリケートで、太陽光を長い時間浴びることが苦手なのです。人間より3〜5倍も乾燥速度が早く、皮膚を保護するために分泌される体液がピンク色な事は有名です。

EOS1 D4で撮影した作例
■使用機材:EOS-1D MarkIV+ EF500mm F4L IS USM
■撮影環境:ISO640(オート) F11 1/640

 私がケニアに通い始めた頃は、マラ川のほとりのロッジを使っていました。夜中や早朝に寝ていると、ものすごい大きな声で目が覚めます。その川にはカバがたくさん生息していて夜な夜な草を食べに上陸しているのです。日中は川を眺めるとカバが水面から頭だけ出していたり背中を出して寝ている姿をよく見ていましたが、カバの全身を見ることはほとんどありませんでした。早朝サファリに出かける時に草を食べ終わったカバが川に戻るところを見かけたことがありますが、まだ薄暗くて撮影には至りませんでした。

EOS1DXで撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X + EF500mm F4L IS Ⅱ USM
■撮影環境:ISO200(オート) F4 1/1000

 ある雨の日にサファリに出ると明るくなっても草原で草を食べるカバを見ることができました。念願の丸ごとカバを見ることができました。日差しがなく、雨で乾燥が抑えられるからでしょう。カバのアクションの狙いの一つがあくびの瞬間です。外れるんじゃないかと思うほど大きな口です。あくびは2回繰り返すことが結構ありますので、撮り損なっても同じ個体を狙っていると再びシャッターチャンスが訪れることが多々あります。また、水中では縄張り争いの威嚇として口を開け合うことがあります。稀に殺し合いになってしまう事もあるそうです。兄弟でもその練習なのか口を開け会う場面がたまにあります。水中での口の開け合いは数十秒程度続くことが多いです。

EOS 1D2で撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X Mark II + EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM
■撮影環境:ISO200(オート) F6.3 1/250

臆病なサイ

 サバンナではサイはとても希少です。いつでも見られる訳ではなく、今この近くにサイがきているなどの噂を頼りに探す程度です。サイのツノは漢方薬などで高価で取引され、今でも密猟が絶えないそうです。最近では野生のサイを一度捕獲してツノにGPSを埋め込んでいるものが多く、密猟されると分かるらしいですが、結局は殺されたことが確認できるにとどまるのでしょう。

EOS1DXで撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X + EF200-400mm F4L IS USM
■撮影環境:ISO4000(オート) F6.3 1/640

 常に狙われているからか、サイはとても警戒心が強いです。サファリカーが近づくとかなりの距離があっても離れていきます。そうやって身を守るしかないのだと思います。サイを撮影する時は超望遠レンズで距離を取りながら狙うしかないです。

 ご存知の方も多いと思いますがシロサイとクロサイの違いについて触れておきましょう。実は、シロサイとクロサイは見た目の色みでは判断がつきません。色は関係ないからです。大きな違いは口の形です。地面の草を食べるシロサイは口が平らになっていて、木の葉を食べるクロサイは口が尖っています。それぞれの食によって進化の方向が違ったのでしょう。一説によると、それを英語で説明した時に口がワイドなサイをホワイトと聞き間違えて、もう一方をブラックとしたとのことです。こうすると見分け方が覚えやすいですね。

EOS1DXで撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X Mark II + EF500mm F4L IS Ⅱ USM
■撮影環境:ISO1600(オート) F9 1/1600
EOS1D3で撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X Mark III+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM
■撮影環境:ISO200(オート) F5.6 1/160

実は危険なバッファロー

 バッファローはアフリカスイギュウという和名です。おそらく水か好きなのかなと思いますが、いつも水辺にいるわけでもなく、草原で群れになっているところをよく見かけます。バッファローはビッグファイブでも紹介しましたが、機嫌が悪いとサファリカーに体当たりしてくることがあるほど気性が荒いです。牧場などでよく見る乳牛よりもふた回りくらいでかく、ムキムキな体つきです。オスとメスはツノの大きさが少し違ってオスのツノは見るからにごっついです。普通の草食獣は警戒心が強くサファリカーで接近しようとすると逃げてしまうことが多く、顔のどアップを撮影するのは難しいです。バッファローはサファリカーが近づいても逃げずに睨みつけてきますが、ドライバーが危ないからと言ってなかなか間近には止めてくれません。

EOS1D4で撮影した作例
■使用機材:EOS-1D MarkIV + EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM
■撮影環境:ISO800(オート) F5.6 1/400
EOS1DX2で撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X Mark II + EF500mm F4L IS Ⅱ USM
■撮影環境:ISO200(オート) F5.6 1/1300

シマウマ、ガゼル、インパラ

 
 サバンナのどこを見てもシマウマはいます。探さなくてもその辺を歩いていて、ドライバーと「今日は動物が何にもいないねえ」と話しをすることがありますが、シマウマはそのカウントに入らないのです。それと同じように扱われるのがガゼルです。少し小型のトムソンガゼルや大型のグラントガゼルです。シマウマとガゼルしかいない状況の時に何にもいないと言ってしまいます。

EOS1DXで撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X + EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM
■撮影環境:ISO400(オート) F6.3 1/1000

 ただ、シマウマだってよく観察すると縞模様が一頭一頭皆違ったり、寝ころんだり追いかけっこしたり、鳥を載せていたりするので、面白い被写体です。…と、少しだけフォローしておきます(汗)。

EOS1DXで撮影した作例
■使用機材:EOS 1DX2 + EF200-400mm F4L IS USM
■撮影環境:ISO250(オート) F6.3 1/1250
EOS1DXで撮影した作例
■使用機材:EOS 1DX + EF500mm F4L IS II USM
■撮影環境:ISO1600(オート) F9 1/1600

 ガゼルに似たレイヨウ類でインパラというのもいます。オス一頭にメスが数十頭とハーレムを作ることで有名です。ガゼルやインパラなど一見、シカのようなツノがある動物がたくさんいますが、サバンナにシカの仲間は一つもいないそうです。皆ウシ科でシカの様にツノは生え替わらないので、一度折れてしまうと一生そのままなのです。インパラは警戒すると皆が同じ方向を向いて緊張感が漂うことがあります。サファリ中ネコ科を探している時に、草食獣が皆同じ方向を向いているとその方向に何かいるかも!と参考にします。

 インパラは逃げる時のジャンプは素晴らしいものがあります。ハンティングの時は、カメラでは追いかけているネコ科の方に注目してしまいますが。ジャンプとともに画面から消えていくことがよくあります。

EOS1DX21で撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X Mark II + EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×
■撮影環境:ISO1000(オート) F5.6 1/2000

トピは望遠レンズで

 いつも稜線にいるのがトピという動物です。朝や夕方でキリンもゾウも見つからない「あそこに何かいる!」と近づくとトピということがよくあります。トピは見晴らしのいいところで周囲を警戒するという習性だからだと思います。「またトピか」と思ってしまうこともありますが、そのトピすらいなかったら何にも撮れないのですから、トピに感謝しなければいけないと毎回反省します。

 太陽と絡めるにも、トピがよくアリ塚(正確にはシロアリの巣)に登っていてくれるので全身のシルエットが狙えます。サファリカーが近づきすぎるとアリ塚から降りてしまうので遠くで狙うのが良いです。どのみち太陽と動物を絡めて狙うには超望遠レンズにテレコンを使うので動物からかなり離れなければなりません。

EOS1D2で撮影した作例
■使用機材:EOS-1D X Mark II + EF500mm F4L IS II USM
■撮影環境:ISO100(オート) F11 1/2700
 太陽と動物の写真はいつでも撮影出来るわけではありません。朝と夕方2回チャンスがありますが、雲がなくちょうど良い明るさの太陽が見え、ちょうど良いバランスの位置に動物がいるという条件は1週間に一回あるかないか程度です。

EOS5D2で撮影した作例
■使用機材:EOS 5D2 +EF500mm F4L IS II USM
■撮影環境:ISO200(オート) F8 1/50

■写真家:井村淳
1971年生まれ。横浜市在住。
日本写真芸術専門学校卒業後、風景写真家竹内敏信氏の助手を経てフリーになる。「野生」を大きなテーマとして世界の野生動物や日本の自然風景を追う。
(社)日本写真家協会(JPS)会員。 EOS学園東京校講師。

連載記事リスト

サバンナ撮影記|Vol.01 ~ケニアへの行き方~

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