サバンナ撮影記|Vol.03 ~動物園でも野生さながらに撮影する秘訣~

井村淳

動物園作例1

動物園で野生さながらの動物を

 今回は私がアフリカの大草原に憧れを抱いた頃に、野生動物を撮影する練習として動物園に通っていた頃のお話と動物園撮影テクニックをご紹介いたします。

 私が野生動物の撮影を夢見始めたのは、高校生の頃です。小さい頃テレビで観たサバンナに生きる野生動物の弱肉強食の世界を自分の目で見てみたい。そして、小学生の頃から趣味で始めた写真でジャンルを決めるなら「動物写真」をやってみたいと考え始めたのが高校1年生の頃でした。

 しかし、アフリカってどうやって行くのだろう、いくらかかるのだろうなど、そんな具体的なことは何にも知らないし、大人になれば行けるんじゃないかとぼやっとしたイメージだけを浮かべていました。現代文の授業の「10年後の自分」という作文で、アフリカの草原で野生動物を撮影していると書いた記憶があります。

 そして、いつか行けるようになった時のために動物を撮る練習をしておこうと思った時に、動物園が頭に浮かびました。そこから、自宅からバイクで20分くらいのところにあった入園無料の横浜市営の動物園に行くようになりました。高校卒業後に写真の専門学校に通っている時に、動物園の動物をテーマにして、その時のタイトルが「肌」でした。

檻を消すテクニック

檻の消し方

 動物園では野生的に動物を撮ることを考えて撮影していました。しかし、動物園は檻やコンクリートなど人工物に囲まれた空間です。最近では、見た目にも野生環境に近い展示の仕方をするところが増えてきましたが、その頃は、比較的小さな檻の中で展示されていました。檻のない堀になっているところなら撮影できるかなとか、背景が草や木のところに来るのを待って撮影しようなど試行錯誤の毎日でした。そんなある時、駄目元で檻越しの動物を望遠レンズで狙ったら、思ったより檻が目立たないことに気がつきました。

「檻が消えた!」

 檻はボケると見えなくなるんだということに気がつき、檻をボカすにはどうしたらいいのか、そのためにはなるべく焦点距離は長い方が良い。檻から離れている動物が良い。カメラは檻に近づけるとよりボケる。などがわかってきました。さらに、檻に日差しが当っていたり、色が白っぽいとボケても檻の存在が目立ってしまうことや、ボケた檻の格子でも動物の目にはかからないようにするとシャープになるなどが解ってきました。すると、それまでは撮れないと諦めていた動物も狙えるようになっていきました。

動物園作例3
■使用機材:EOS 7D Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO640(オート) F5.6 1/640
動物園作例4
■使用機材:EOS 7D Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO4000(オート) F5 1/1000

切り取り方と明暗差で工夫する

 それでも、周囲の人工的なものは消せないので野生的な写真はあまり撮れません。そこで、人工的な背景はあまり見せなければいいと思い、画面いっぱいに動物を切り取ればいいのではと、使用するレンズの焦点距離を長く、足りなければテレコンバーターを使って画面いっぱいに切り取ることを始めました。すると、動物の顔だけではなくて、模様や個性的な形が見えてきて、動物のパーツを大きく切り取るようになり、そこから学生時代のタイトルにした「肌」へと繋がっていったのです。

動物園作例5
■使用機材:EOS 6D + EF70-200mm F2.8L IS 2 USM + EXTENDER EF2×III
■撮影環境:ISO100(オート) F6.3 1/500
動物園作例6
■使用機材:EOS 7D Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO160(オート) F5.6 1/1000

 背景の隠し方は画面いっぱいに動物を切り取り、背景を見せないという方法の他に、明暗差を使って黒バックにすることも有効です。動物に陽が当たっていて、背景が日陰のところになるポジションから狙うと、背景は真っ黒に潰れて人工物があっても隠すことができます。この方法は季節や時間帯による光の変化を読むとより狙いやすくなります。

動物園作例7
■使用機材:EOS 1DX + EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM + EXTENDER EF1.4×III
■撮影環境:ISO640(オート) F8 1/80
動物園作例8
■使用機材:EOS 7D Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO500(オート) F5.6 1/1250

前ボケでよりリアルな動物の姿に

 動物園で撮影していて思いついた戦法が前ボケ効果を使うことです。展示されている檻の中だけではなく、檻の外にある生け垣なども活用できます。野生動物を茂みの隙間から垣間見ているような雰囲気で野生風を演出したり、鳥の脚環も人工的かなと気になる場合は、手前の草などを厚めの前ボケにして脚を隠してしまうのも有効です。

 前ボケも檻をぼかすのと同じ狙い方です。草などは明るい色なので消えてしまわず、ボケとして残ります。ボカすものがカメラに近いほどフンワリと薄めのボケになり透けてきます。被写体に近いほどくっきりしたボケになり透けず厚めの前ボケとなります。

動物園作例9
■使用機材:EOS 7D Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO800(オート) F5.6 1/1000
動物園作例10
■使用機材:EOS-1D X Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO500(オート) F5.6 1/640

使えると表現の幅が広がるスローシャッター

 野生に比べて狭い空間で飼育されている動物でも、動きを表現することはできます。ウロウロと歩き回ってくれれば、流し撮りのチャンスです。ゆっくり歩いていても、スローシャッターで動きを追いながらシャッターを切ると、背景が流れて動物は止まって写るという動感を表現することができます。動物も動いているので全身が止まるということはないのですが、基本的には顔がブレていなければOKとなります。適切なシャッター速度はその動物の動く速さにもよります。

 遅くするほど動感は大きくなりますが、その分失敗も多く、百発百中とはいきませんが百枚に一枚成功すれば良いくらいの気持ちでチャレンジすると良いです。歩くトラはシャッター速度1/60秒くらいから始めてみて、流し撮りに慣れてきたら1/15秒くらいに遅くしていくと良いでしょう。

動物園作例11
■使用機材:EOS-1D X Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO100(オート) F9 1/15

 また、別の動感表現でホッキョクグマなどが水に潜り顔を上げた時にブルブルをする瞬間も良いチャンスです。その飛沫が狙いどころですが、完全に飛沫を止めるには1/1600秒より速いシャッター速度が良いです。また、しぶきをブラす動感もあり1/60秒~1/30秒あたりが面白いと思います。

動物園作例12
■使用機材:EOS 7D Mark II+ EF70-300mm F4-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO1250(オート) F7.1 1/1600

動物園だからこそ撮れる作品

 動物園によっては、夏の夜に「ナイトズー」などという、普段は閉園してしまって見られない夕方以降の動物たちの生態を見られることもあります。実は動物たちの多くが一番活発に行動する時間帯です。動物園によってはキリンと夕日を絡めて撮影でき、まるでアフリカの草原の世界そのままを狙えることもあります。

 太陽をある程度大きく写すには超望遠レンズが必要になります。そのために、動物との撮影距離も遠くから狙わなければなりません。動物が近いと画面いっぱいになってしまいます。夕日のタイミングになってから撮影場所を探しても、夕日はどんどん沈んでいってしまいます。その様な場所を日中に探しておくと良いでしょう。

動物園作例13
■使用機材:EOS-1D X Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM + EXTENDER EF2×III
■撮影環境:ISO3200(オート) F11 1/1000

 逆に野生では撮影することが難しいという場面が狙えることもあります。動物園ならではの狙い方として、ガラス越しのホッキョクグマが目の前で水面から顔を上げるところを超広角レンズで狙うインパクトです。大型の肉食動物は野生下ではここまでの接近戦は不可能と言えるでしょう。

 広角レンズを使うので檻越しでは檻がくっきり写ってしまうのでガラス(アクリル)越しの動物を狙うのに有効です。広角レンズなので少し絞っておくと深い被写界深度で狙えます。ただ、接近している分動きも速いので、シャッター速度は1/1000秒など速めに設定しておくと良いです。

動物園作例14
■使用機材:EOS-1D X Mark II+ EF16-35mm F2.8L IS 3 USM
■撮影環境:ISO100(オート) F10 1/3200

 動物園でも動物の赤ちゃんは生まれます。動物園では大抵赤ちゃんが生まれるとホームページなどで情報を発信してくれます。動物園では生まれても、すぐに展示してくれるとは限らないので、展示を開始するタイミングをチェックしましょう。また、展示する時間も午前中だけとか午後何時からなどのチェックもしておくと良いです。動物の赤ちゃんの成長は早いので、なるべく早めに会いにいきたいものです。

動物園作例15
■使用機材:EOS-1D X Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO4000(オート) F6.3 1/1000

デジカメを持って動物園へ行こう

 35年ほど前の撮影ではフィルムを使っていました。感度がISO100や400という限られたもので少しでも暗いところは写せませんでした。デジタル化された今では、感度がIS06400や25600などでも使える画質に進化しています。それだけ撮影できる範囲が大幅に増え、動物を撮影する人にはとてもありがたいことです。野生動物の撮影の練習として始めた動物園撮影ですが、今ではこれはこれで十分魅力的な被写体となると思います。

 自分の好きな推しの動物に時間の許す限り張り付いてシャッターチャンスを待つの良いですし、園内をぐるっと回って撮りやすいものを見つけて撮るのも良い体験となるでしょう。

動物園作例16
■使用機材:EOS 7D Mark II+ EF100-400mm F4.5-5.6L IS 2 USM
■撮影環境:ISO1600(オート) F5 1/1600

■写真家:井村淳
1971年生まれ。横浜市在住。日本写真芸術専門学校卒業後、風景写真家竹内敏信氏の助手を経てフリーになる。「野生」を大きなテーマとして世界の野生動物や日本の自然風景を追う。
(社)日本写真家協会(JPS)会員。 EOS学園東京校講師。

連載記事リスト

サバンナ撮影記|Vol.01 ~ケニアへの行き方~
サバンナ撮影記|Vol.02 ~草食動物は地平線と共に~

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