キヤノン EOS-1D X Mark III レビュー | 北の大地を飛び回る鳥たちを撮影
はじめに
待望のフラッグシップ機EOS-1D X Mark IIIが登場し、どれだけ凄いのか楽しみで手元に届くのを待ち遠しく感じていました。手元に届いた本機の箱をいざ開けてみると、一見して前機種のEOS-1D X Mark IIにそっくりで、最初はあまり新しい機種を手にした感じがしませんでした(笑)。手にとってみるとボタンの位置なども、ほとんど変わらないように感じ、前機種を使い続けてきた筆者にとって慣れた操作性はとても有難いものでした。
連写スピードが2コマ/秒速くなり、高感度が1段良くなったというところは野生動物を撮影する筆者にとって、とても期待するところです。今回少し意外だったのは、有効画素数が2010万画素と10万画素減らしてきたことです。その分優先したであろう画質とスピードは最も注目しているポイントになります。予測不可能な動きをする野生の生き物では構図を完全に決めておくことはできないのでトリミングしたいところですが、画素数的にはあまりしない方が良いと心して冬の北海道で検証してきました。
DIGIC Xがデジタルカメラのウイークポイントを克服
DIGIC Xはこの機種から導入された新開発の映像エンジンで、ノイズの抑制と解像感の向上が伺えます。また、あえて2010万画素に抑えたフルサイズCMOSセンサーは、幅広いダイナミックレンジで階調は豊かになり、優れたS/N比と合わせて更なる高画質を実現したようです。そのおかげで、太陽を画面に取り込んでも太陽の輪郭を維持しやすくなったことを実感しました。筆者は大きな太陽と動物を絡めた狙い方をよくします。その太陽をきれいに捉えることは、デジタルカメラのウイークポイントだと諦めていましたが、ここにきてようやく使える!と思い嬉しくなりました。
かつての8ミリフィルムのような連写性能?
1秒間に16コマという高速連写は、昔の8ミリフィルムの動画のコマ数ですね。連写速度が速くなれば、一瞬のシャッターチャンスの取りこぼしが少なくなります。動物の動きは意外と速く、この間がほしい!と思う事がよくあります。少しでも連写速度が上がればちょうどいいカットが残せるようになります。
頭の上を通過するタンチョウを広角レンズで仰ぎ見るのですが、かなりのスピードで飛んでいます。16コマ/秒の高速連写のおかげで、タンチョウの翼と太陽が重なる直前の瞬間が撮れました。
また、2羽のタンチョウが縄張り争いなのか、少し熱くなって戦っている場面がありました。かなり長い間、連写していたら一瞬、翼と翼が重なり手をつないだようなシンメトリーの瞬間が捉えられました。
羅臼沖の海では、左から飛んできたオオワシが元々流氷に止まっていたオオワシを追いやったときに、氷の上に積もった雪が飛び散り逆光に照らされた、綺麗な瞬間が撮れました。
ISO 25600でも満足できる画質に
動物写真では、日が昇る前や日没後の薄暗い時間帯に撮影することがよくあります。動いている被写体は、ある程度の速いシャッター速度に設定しますので、必然的に感度が高くなり画質が低下してしまうジレンマに陥ります。高感度の画質が少しでも向上することは、動物写真を撮る人なら誰もが願っていることでしょう。2機種ぶりに常用感度が1段上がったのでとても嬉しく思い、早速試してみました。流石にISO102400はそれなりに荒れてしまうので、しっかりと意図をもって使う事をオススメしますが、ISO25600では前機種のISO12800くらいの画質で撮影する事ができ、実際に使える感度域が広がった事を実感しました。
AFフレームの選択とライブビュー
筆者が今までにセレクトしてきたフォーカスフレームは、1点AFか領域拡大上下左右が多いのですが、今回の撮影では色々試してみることにしました。全域をカメラ任せの自動選択では、背景が山や林などコントラストが強い時、被写体が点のようになってしまうと、どうしても背景に引っ張られてしまう事があったので、範囲を狭めてゾーンAFを試してみると、なかなか良い感触を得ました。また、短いレンズで青天狙いの時は、自動選択でどこかに被写体がかかれば食いついてくれるような狙い方が出来ました。
三脚を使っている時は、ライブビューでの撮影をよく行います。すると、フォーカスフレームの領域がぐっと広くなり、画面の端の方まで、最大で上下は100%、左右は90%までフォーカスフレームを設定できるので、とても便利に使う事ができました。
優れたAFの操作性能
EOS-1D X Mark IIIから搭載されたスマートコントローラーにより、フォーカスフレームの移動が瞬時にできるようになったのもとても興味がありました。最近はミラーレスカメラのEOS Rも使っていますが、ファインダーを覗きながら液晶画面を親指でタッチし、フォーカスフレームを瞬時に動かす事ができることに慣れてきて重宝していました。それとは位置が違いますが、AF ONボタンに触れればフレーム位置をダイレクトに動かせます。そのままボタンを押し込めばAFが作動します。初めは動きが敏感で戸惑いましたが、慣れてくるとファインダーで追いながら、2羽のタンチョウのうち顔がよく見える方にフォーカスフレーム位置を細かく調整して、撮影できるようになりました。
飛び回る鳥を追従するAF性能
AFの測距点が前機種の61点から大幅に拡張され、最大で191点になりました。点の数が増えて何が変わるのだろうかと正直、半信半疑なところもありました。しかし、飛び回る被写体を実写してみるとすぐにその恩恵を理解することができました。10カット以上連写しても捉えた被写体をほぼ外す事なく追い続けてくれました。新開発されたAFセンサーは、捉えた被写体を逃さないだけではなく、高精度に合焦してくれるようになりました。
氷の上にとまっているワシが突然飛び立つ時、今までその俊敏な動きにAFがついて行けず、ピントが遅れて後ピンになりがちでしたが、今機種ではフォーカスフレームをワシの顔に合わせていれば、その動きにも対応してくれ、狙い通りにピントを合わせて撮影することが出来ました。
目を疑いたくなる?連続撮影性能
EOS-1D X Mark IIIは、RAW+JPEGラージの設定でも1,000枚以上連続撮影が可能という、目を疑いたくなる性能が記載されていました。動物写真の撮影では、予測できない動きをし続ける場面もあります。10カットくらいの連写で終わるかなと思っていても、そこからさらなる展開が起こり、一番欲しいところで書き込みが追いつかずシャッターがスタックしてしまうということもあります。バッファメモリーの容量アップとカードの書き込み速度の向上により、その心配がなくなったことで思う存分にシャッターを切る事ができます。
検証の結果
地味なところでは、重さが90g軽くなり、2台使いする僕には180gの軽量化となったことです。さらに、リモートスイッチのコネクターが従来の左に戻ったことは非常に嬉しいところでした。また、頻度が高いボタンにバックライトの搭載は薄暗い撮影をするときにとても助かります。そして、フラッグシップ機ならではの防塵、防滴のシーリングに耐環境性能をアップさせたAFユニットなど、信頼性の向上も問題なしです。
EOS-1D X Mark IIIは、見た目に変化があまり感じられなかったのですが、いざ使ってみると中身はすっかり入れ替わっていると言えるほどの進化と機能の向上を実感しました。