キヤノン EOS R1|スポーツフォトグラファーを絶対的な安心感で支えるフラッグシップ機
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はじめに
キヤノンRシステムでは初となるフラッグシップモデルであるEOS R1が登場しました。1の称号を持つボディはEOS-1D X Mark III以来になります。RシステムではこれまでEOS R3が主にスポーツや報道分野で使用され、フラッグシップの穴埋めの役割を果たしてきましたが、撮影現場ではファインダーの信頼性やEOS R1の登場を期待してEOS-1D X Mark IIIをメイン機とするフォトグラファーも多くいました。今回フラッグシップ機EOS R1の登場でミラーレス機への全面移行が加速していくのではないかと思います。
私はスポーツ分野を中心に撮影していますが、EOS R3が登場した際にシステムを全てRシステムに切り替えました。その理由は私が撮影する分野において競技に支障をきたさないためにサイレントシャッターが求められるケースが増えてきたことや、魅力的なRFレンズを使用したかったこともあり、早期にミラーレスへの転換を行いました。EOS R3はAF性能や高感度画質等、スポーツ撮影でも十分に力を発揮してEOS R1が登場するまでは私のメイン機として多くの撮影現場に持ち出しました。これでも仕事に特別な支障はなかったのですが、EOS R1をテストで手にした時には迷わずEOS R1をメイン機にすると決めました。
その理由は色々ありますが、大きな要因は信頼性です。EOS R3から大きな画素数のアップはありませんし、飛び抜けた新機能も搭載されていません。しかし電子ファインダーの見やすさ、デュアルピクセルCMOS AFとして初めてクロスAFを採用してトラッキングAFの強化を実現しました。その他にも高感度性能や質感描写の向上、CFエクスプレスカードを採用したダブルカードスロット、感触がよく握りやすいグリップ、電子シャッター使用時のシャッタータイムラグの少なさなど、私がEOS R3を使っている上で改善や向上してほしいと思っていた要素が多く取り入れられていました。
とても地味なチェンジが多いと思われがちですが、私がカメラに求めるものは安心して撮影できること、最短距離で目的にアプローチし、事故なく依頼主に写真を届けることです。その点ではEOS R1はしっかりと私の希望に応えてくれるカメラだと実感しています。全部は書ききれませんが、特に私が重宝している部分についてお伝えしたいと思います。
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■撮影環境:1/2500sec F2.8 ISO800 209mm
進化したトラッキングAF
スポーツ撮影において最も重要視するのはAF性能です。特に細かい上下左右の動きや急加速、急減速などの咄嗟の動きの変化にしっかりと追従、対応できるかを見ています。
またミラーレスカメラの一番の長所はAFが捕捉できる守備範囲が広いこと。一眼レフでは測距点が多くてもファインダーの中心側に位置していたため、被写体をフレームの隅に置きたい時はAFフレームがある場所に被写体を置かなければならず、フレーミングを変えるしかありませんでした。つまりAFエリア優先で絵作りをしなくてはならなかったのです。その点でミラーレスカメラはそのようなストレスがありません。フレーミングを優先して撮影することができるため、撮りたいフレーミングを追及できるようになりました。特にEOS R1はエリア内すべてにおいてクロスAFを採用したことによってトラッキングAFが強化され、ファインダー内のどの位置に被写体があっても大幅に捕捉性能が向上しました。EOS R3と比較しても正確性が増すと同時に初動のスピードが速く、撮影に集中できるようになりました。
今回ご覧いただく被写体は総合馬術になりますが、馬とライダーがコンビを組んで競技者となるため、トラッキングで被写体選別をシーンによって人物優先、動物優先(馬)に切り替えながら撮影を行います。馬かライダーか、どちらにフォーカスするかは状況によって異なりますので、すぐに切り替えができるようにボタンカスタマイズを活用して、背面のSETボタンを押すことで被写体選別を変更するようにしています。EOS R3ではどうしても動物(特に馬)を認識するのが苦手な傾向がありましたが、この部分も改善されていて、馬の目と人の目を切り替えても高い精度で安心して撮影出来ています。また逆光時や水飛沫が上がるような場面でも正確に被写体を追従して、捕捉を続けてくれるため「使えるカット」が増えて、撮影後に多くのバリエーションの中からベストカットをセレクトできるようになりました。
またこちらには写真がありませんが、バドミントンやバレーボールなどのネット越しにいる被写体にフォーカスしたいシーンでも高い精度でフォーカス可能です。トラッキングの恩恵を受けてよりフレーミングに集中できるのはありがたいです。また今回は使用していませんが「アクション優先」という機能があり、サッカー、バスケットボール、バレーボールを選択可能で、この3種目の動きに適したAF作動が可能になります。もちろん100%完璧というのは難しいと思いますが、これを見てもスポーツ撮影を念頭においたカメラだということがわかります。今度はこの3種目以外にも増えていくことを望みます。
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■撮影環境:1/1250sec F1.2 ISO250 85mm
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■撮影環境:1/2000sec F4 ISO1250 338mm
見やすいEVFファインダー
私はスポーツ撮影においては約90%以上ファインダーを使用して撮影しています。ミラーレスカメラでは背面液晶を見ながら撮影する方もいると思いますが、瞬時に状況判断をしながらシャッターを切るスポーツ撮影ではファインダーを見て撮影した方が被写体の動きを追いやすく、有利になると考えています。日中の屋外競技からアリーナ競技、ナイターなど、様々な状況下で撮影するため、ファインダー性能は撮影結果に大きな影響を与えます。EOS-1D X Mark IIIのファインダーと比較すると、EOS R3でも物足りなさを感じていましたがEOS R1では大きな進化が見られました。視野率約100%、約944ドットの電子ファインダーは視野が広く、とてもクリアに見えます。
もちろん動きに対する遅延もありません。ファインダーは一眼レフには敵わないと思っていましたが、EOS-1D X Mark IIIユーザーが使用しても不便は感じないと思います。快晴時のコントラストが高い条件から屋内競技の暗い照明下まで、ストレスなく撮影が出来ています。ファインダーが見やすいと選手の動きを追いやすくなると同時にシャッターチャンスの見極めにも好影響を及ぼします。私にとっては生命線となるファインダーの改善は大変嬉しい変化です。これだけでもEOS R1を手にする価値があると思います。
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ローリングシャッター歪みを抑えた電子シャッターと秒間最高約40コマの高速連写
ミラーレスカメラの電子シャッターを使用する際にどうしても問題になるのはローリングシャッター歪みです。近年はシャッター音レスを求められる現場が増えてきました。今回撮影した馬術競技も状況によってはサイレントシャッターが必須になります。これは至近距離でシャッター音を聞いた馬がビックリしてしまい、競技に影響が出てしまうことがあるためです。暗黙の了解で電子シャッターを使用する場合もありますし、大会主催者から求められるケースもあります。できるだけいい撮影ポジションを確保するために電子シャッターの使用が必要不可欠になりました。
私がスポーツ撮影で電子シャッターを使用するようになったのはEOS R3を導入以後になります。このカメラで初めてローリングシャッター歪みが実用上気にならないと判断しました。EOS R1ではさらにローリングシャッター歪みが抑えられているようです。これまで様々な競技で撮影しましたが歪みが気になるシーンはありません。またメカシャッターではシャッターを切った際にどうしても僅かなタイムラグが出てしまうため、選手の動きを見失ってしまうことがありましたが電子シャッターではブラックアウトフリー表示が可能になるため、選手の動きとトラッキングAFの追従を確認しながらシャッターを切ることができるのもメリットです。
EOS R1では電子シャッター使用時で連続撮影速度は秒間最高約40コマにアップしました。私は基本的には秒間30コマに設定し、目的に応じてコマ速を変えて撮影しています。競技の内容やどの瞬間を撮りたいのかを見ながら最適なコマ速に切り替えて撮影して効率化を図ります。コマ速が速いことで一瞬しか訪れないアスリートのベストな瞬間を撮影できる確率が高まります。1秒の世界で戦うスポーツ撮影においては撮影枚数が増えてしまう懸念よりも使える1枚を第一に求められるためとても重宝しています。
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■撮影環境:1/2500sec F2.8 ISO800 233mm
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■撮影環境:1/6400sec F2.8 ISO1600 300mm
部分的なブラッシュアップ
EOS R1では細かい部分がブラッシュアップされています。一つ目はCFエクスプレス対応のダブルカードスロットです。EOS R3ではCFエクスプレスとSDカードのダブルスロットでした。私は撮影時においてデータ消失などのトラブルを未然に防ぐために必ず同時記録を行っています。以前に比べてデータの事故を体験することはほぼ無くなりましたが、「絶対はない」のがデジタルデータです。特に依頼仕事では必ず撮影と同時にバックアップ記録を欠かさず行っています。CFエクスプレスとSDカードで同時記録を行うと速度の遅いSDカードに書き込みスピードが引っ張られるため、CFエクスプレスの高速書き込みを十分に生かすことが出来ていませんでした。これが2枚同じスピードのカードを使用できるため上記のようなストレスがなくなりました。特にRAWデータで高速連続撮影を行うと顕著にその差を体感できます。
またカードスロットの開閉箇所にロック機能がついたことや視度補正ダイヤルにロックがついたことも大変嬉しいブラッシュアップです。カメラを複数台ぶら下げて移動しながら撮影をしていると気がつかない間にダイヤルが回っていたり、不用意にカードスロットの扉が開いてしまったりした経験がありました。このような部分も安心材料になります。またグリップの素材が滑りにくいものに変更になり、長時間の撮影でも握りやすく疲労が溜まりにくいと感じています。このような細かい部分をしっかりブラッシュアップしてくれているのがフラッグシップ機なのだと思います。
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■撮影環境:1/2000sec F4 ISO1600 420mm
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■撮影環境:1/2000sec F4 ISO1250 280mm
まとめ
EOS Rシステムでは初めてとなるフラッグシップモデルであるEOS R1は発売前に噂されていた高画素化やグローバルシャッターの搭載など、驚くような機能はなかったかもしれません。しかしEOS R3と比較して仕事道具として改善してほしい部分を確実にブラッシュアップしてくれました。私がフラッグシップ機に求めるものは安心して使えることです。尖った機能もよいですが、全体を底上げして撮影現場でのストレスを軽減してくれる進化はとても嬉しい変化です。
屋外での撮影では急な天候の変化があり、終わり時間が見えない長時間の撮影でも集中力を欠かすわけにはいきません。体力的にもギリギリの状態で撮影する時にカメラに助けられることはよくあります。スポーツ撮影の現場では欠かすことが出来なくなったクロスAFの採用やファインダー性能の向上は、これまであと一歩で撮れなかったシーンを「撮れる」瞬間に変えてくれます。必要な写真が撮れて当たり前というプレッシャーの中でカメラには安心してシャッターを切れる、任せられることを求めています。EOS R1はそれらを満たしてくれる仕事道具として私にとって必要不可欠と判断して購入しました。今後私のメイン機として活躍してくれそうです。
※写真すべて全日本総合馬術大会2024にて撮影
■撮影協力 日本馬術連盟
■写真家:中西祐介
1979年東京生まれ 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。講談社写真部、フォトエージェンシーであるアフロスポーツを経て2018年よりフリーランスフォトグラファー。夏季オリンピック、冬季オリンピック等スポーツ取材経験多数。スポーツ媒体への原稿執筆、写真ワークショップの講師も行う。現在はライフワークとして馬術競技に関わる人馬を中心とした「馬と人」をテーマに作品制作を行う。
日本スポーツプレス協会会員
国際スポーツプレス協会会員