キヤノン EOS R3 × 野生動物|井村淳
はじめに
待ちに待った キヤノンEOS R3が手元に届きました。開発発表の時から本当に首を長くして待っていましたので、手元に届いた化粧箱を見ただけで大きな喜びを感じました(笑)。そして化粧箱を開けてボディを手に取った瞬間、「軽い!中身入っているの?」と思ってしまいました。バッテリーを入れない本体のみの重量は822gと、縦位置グリップ一体型のボディとしてはかなり軽量となっています。今までメインで使っていたEOS-1D X Mark IIIは、本体のみの重量が1,250gだったのでその2/3以下しかないのです。ちなみにEOS R5の縦位置グリップにバッテリーを2個装填すると1,161g、EOS R3はバッテリー込みで1,015gと146gも軽いことになります。
▼EOS R3開発発表の際に井村淳さんへインタビューした記事はコチラ
・キヤノン EOS R3の正式発表が待ち遠しい!|動物写真家の井村淳さんへインタビュー
・キヤノン EOS R3の続報!早く全容が知りたい!!|動物写真家の井村淳さんへインタビュー
視線入力とAF性能
いきなり野生動物の撮影に持っていくには、新機能が多いので、近くの動物園で試し撮りをしておくことにしました。一番試したかったのが視線入力です。昔のフィルムカメラ時代に搭載されていた機能で、当時は測距点が5つしかなく、そのいずれか見たところでAFが作動する画期的なものでしたが、私の中ではどうにも馴染めず試した後は視線入力をOFFのまま使用していました(汗)。EOS R3の視線入力は画面のほぼ全域に約4,700の選択可能なAFポジションがあり次元が違います。
EOS R3を抱えて、野生動物撮影を試すのに、通い慣れた北海道に出かけることにしました。実践でどんな感触なのか楽しみで前のめり気味に到着しました。
見たところにピントが合う!これが実現すれば撮影がとても楽になります。合わせたいところにピントを確実に合わせるには、フォーカスフレームを一点にして、被写体に確実に重ね合わせなければなりません。EOS R5やEOS-1D X Mark IIIなどで、タッチ&ドラッグAFやスマートコントローラーでフォーカスフレームの移動はかなり素早く移動できる様に進化していますが、見たところに合うならば、さらに素早く合焦にたどり着けるはずです。小動物のリスなどは動きが素早く、一瞬止まるところを狙うのですが、それも一瞬すぎて、レンズを向けて、ピントを合わせているうちにいなくなることが多いので、0.1秒でも早く合焦させる必要があります。EOS R3ならばレンズを向けながらファインダーを覗くと同時に視線入力によるAFがスタートするので、素早くリスの瞳を捉えてくれます。連写を切りながら構図の調整ができるのでかなり成功率が高くなりました。
視線入力を実際に体験してみて感じたことは、使いこなすには少し慣れが必要だということです。キャリブレーションを繰り返し行い、自分の瞳の動きをカメラに覚えさせることが必要です。見たところとポインターが少しずれているだけで、意図しない場所にフォーカスフレームが重なり意味がなくなってしまいます。
いくつかの場面で使っていると、キャリブレーションは実際に撮影する体勢でカメラを構えた状態で行うと良いことに気がつきました。三脚にカメラを設定して、いつも同じ姿勢でファインダーを覗くなら問題ないのですが、そうでない場合はファインダーを覗く角度が微妙にズレていたようです。ですので、はじめのうちは手持ち撮影の場合その都度キャリブレーションをすると精度が上がります。
キャリブレーションが整ってくると、見たところに視線入力のポインターが思う様に動きます。その状態で「視線でAFフレームを移動・AF開始」のボタンを押すと(デフォルトではシャッターボタン半押しですが私はAEロックボタンに変更)、視線入力のポインターのところにAFフレームが現れAF作動開始します。この時に「瞳検出する」に設定している場合、そちらが優先されて視線入力のポインターが被写体の瞳からずれていても瞳にフォーカスフレームが移動します。8種類のAFエリアのいずれを選択していても、そのフレームが視線入力で移動できます。
また、視線入力は連写中も常にポインターが出ていて、見ているところで追従するのかと思っていましたが、「視線でAFフレームを移動・AF開始」ボタンを押し続けている間(デフォルトでは連射撮影している間)は、視線入力が切断されてポインターも消えています。ボタンを押し直すと視線入力をやり直すことができます。
たまに視線入力を合わせたいところに誘導できなくて(うまく使いこなせてない為)ピントを合わせづらい状態になる事もあります。その場合はファインダーを覗いたまま「OK」ボタン(ボタンカスタマイズで変更も可)で視線入力をオフに出来ますので、そのままAFボタンを押せばカメラ任せにフォーカスを合わせることが出来ます。いずれの場合でも、一度フォーカスが食いつけばAFフレームがトラッキングして合わせ続けてくれます。
瞳AFの動物優先は犬、猫、鳥以外でも動物の瞳をトラッキングしてくれることが多いので、どんな動物でもまずは試してみると良いです。リスやシカでも結構しっかりと反応してくれます。もし、カメラが瞳を認識しなくても視線入力でAFフレームがおおよそ重なってくれフォーカシングしてくれます。そして、ピントが食いついたらサーボで追いかけてくれ、ピントをとらえた部分のシャープネスはレンズの描写力を100%引き出し、息を呑むほどのクオリティです。
バリアングル液晶モニター
EOS史上、縦位置グリップ一体型で初のバリアングルモニター搭載ですが、これも動物撮影にはありがたい設計です。動物撮影は目線を合わせたり、地面レベルに構えたりすることがよくあります。地面に寝そべってもファインダーを覗きながら撮影するのが厳しいことが多々あります。
バリアングルがあれば寝そべらなくても、しゃがんだりお尻をつけて座った状態で、左手でズームリング辺りを持ち、右手でカメラを握りながら、バリアングルの液晶画面を見て撮影できます。瞳AFで被写体を追いかけられることも、タッチフォーカスでフレームを誘導してからAFをトラッキングすることもできます。リス目線や湖の辺りで水面に浮かぶハクチョウを下から煽り気味で狙うなどのアングルが楽に行えます。超ローアングルでの合焦成功率が上がりました。
暗所での撮影
高感度が良くなったことは、動物を撮影する者にとってはとても魅力的です。朝夕など暗いところでの撮影が多いので、1段分でも高く高感度が使えると助かります。驚くのは肉眼ではほとんど見えない暗いところでも、暗視スコープ的に被写体が液晶画面上に見えます。しかし、AFで全て追えるかというとそこまでではありません。暗い場面は、暗く写したいのですが、暗めの露出設定ではAFは迷ってしまいます。その為シャッター速度を遅くするなどで少し露出を上げてAFを有効にする必要があります。
羅臼の宿の前の川にやってくるシマフクロウの撮影では、通常魚のいるところでは照明が当てられているので、指定された設定でちょうど良い明るさに写せるのですが、そこから少しでもズレた場所は暗くなっていて10mも離れたところでは、目を凝らしてじっくり見ないと被写体が確認できないくらい暗いところに留まることもよくあります。
ピントを合わせ、感度をグッと上げて撮影してみると今までは諦めていたISO51200でも使えそうですし、ISO102400も記録的には使えそうなレベルです。超高感度の描写は、予想通り良くなっていてEOS R5と比べても確実に進化しているようです。
頭の赤いツルの代表、タンチョウは北海道に生息しています。秋から越冬地となる場所に集まり始めます。世界的にも有名な雪裡川の音羽橋はコロナ禍前までは世界中の人たちが三脚を並べ、早朝の撮影時には100名以上は当たり前という光景でした。今回の12月中頃でも十数名が日の出前から撮影で集まっていました。
日の出前の気温はマイナス8度くらい。肉眼ではなかなか確認できない薄暗いところもEF500mm F4L IS II USMにマウント変換アダプターを使いEOS R3を装着し、静止画測距輝度範囲EV-7.5とは言え、暗すぎてAFでは合わせられない状況でも撮影は始まります。ピントさえ合わせられれば長時間露光で撮影ができます。感度を高くしてファインダーで被写体が薄らでも見えれば、拡大表示してマニュアルフォーカスで合焦後、30秒以内で撮影できる範囲まで感度を下げて撮影します。徐々に明るくなってくるので、露出を調整し、タンチョウが動き出したら、タンチョウがブレないように高感度になってもシャッター速度を速くします。最低でも1/125秒できれば1/250秒、飛翔の場面ではできれば1/1000秒以上が理想です。
タンチョウがこちらに向かって飛んでくる場面は、翼や脚を追従してしまうなどAFが苦手とする状況ですが、EOS R3ではかなりの確率でタンチョウの頭をトラッキングしてくれます。今までは任意のAFフレーム1点でタンチョウの頭に重ね合わせながらフレーミングするのは難しかったのですが、視線入力と瞳AFの設定でタンチョウの頭をトラッキングさせられるので、タンチョウの頭にフレームを誘導できれば後は構図に集中できます。
電子シャッターでのスロー撮影
私は野生動物をテーマに撮影をしていますが、自然風景も被写体として追い求めています。どちらも野生という大きなテーマの中にあります。今回取材で訪れた知床半島に行くと必ず寄るところにオシンコシンの滝というところがあります。水量が豊富な渓流瀑(滑滝)でNDフィルターを使ってスローシャッターでよく狙います。
EOS R5では電子シャッターに設定していると0.5秒までのスローシャッターしか設定できませんが、EOS R3では30秒まで設定が出来ます。長秒撮影時にシャッター方式をメカシャッターに切り替えなくてもよくなりました。細かな部分の進化ですが、私には嬉しい進化です。
さいごに
総合的にEOS R3は、とても進化した最新カメラと断言します。使えば使うほど自分の体の一部のように扱える感覚がありますので、今後さらなる好感触を得られると期待しています。動物などの動く被写体には間違いなく効果が得られます。しかし、一つだけ気がかりなのが価格です。いずれ出るだろう”1”の称号のフラッグシップ機の時はどうなってしまうのだろうかと(笑)。
■写真家:井村淳
1971年生まれ。横浜市在住。日本写真芸術専門学校卒業後、風景写真家竹内敏信氏の助手を経てフリーになる。「野生」を大きなテーマとして世界の野生動物や日本の自然風景を追う。
(社)日本写真家協会(JPS)会員。 EOS学園東京校講師。