はじめに
キヤノンから35mmフルサイズ裏面照射積層型CMOSセンサーと映像エンジン「DIGIC X」を搭載した、フルサイズミラーレスカメラ“EOS R3”が2021年11月に発売されるとアナウンスがありました。このカメラはデジタル一眼レフカメラのフラッグシップ機「EOS-1D X Mark III」に代表される「EOS-1」シリーズと、フルサイズミラーレスカメラ「EOS R5」に代表される「EOS 5」シリーズに並ぶ、新しいラインのカメラとして登場します。
これまでShaShaでは何度か動物写真家さんの井村淳さんに「EOS R3」の性能予測をしてもらってきましたが、正式に発表され性能の詳細が判明した現在、本製品の魅力について、キヤノンマーケティングジャパンの担当者へ直接インタビューしましたので是非ご覧ください。
概要
■デジタル一眼レフでは発売されなかった、「3」の名称を持つカメラが今回初めてデジタルのEOSシリーズとして登場ということになりますが、この名称に決まった経緯を教えてください。
ープロ向けフラッグシップである「1」系と、ハイアマチュア向けである「5」系の間に位置する新しい製品ラインナップです。市場に必要なカメラの方向性として、高速・高感度・高信頼性をコンセプトとするカメラが必要だと考えました。その製品性能を含めたキャラクターから、「1」系と「5」系の間のライン「3」としました。
ーハイアマチュア向けだけでなく、プロユーザーも十分に満足できる性能を目指しています。
■左:EOS R5 右:EOS R3
■デジタル一眼レフでは「1」の名前が付いたEOS-1D X Mark IIIが発売されていますが、ミラーレスカメラでもフラグシップである「1」の名を冠するカメラがこの後に控えているのでしょうか。
ー現時点では、絶対的な信頼感と安心感を持って多くのプロの方々に使われているEOS-1D X Mark IIIがプロ用「フラッグシップ」カメラと位置付けております。ただ、EOS R3はスペック上はEOS-1D X Mark IIIを上回っている部分もあり、「フラッグシップ」といえるレベルになっています。
ー将来製品についてはお答えできませんが、RFシステムはEFシステムよりも進化したシステムであり、その「1」を冠するフラッグシップモデルは、更に高い次元の性能を狙わなければならないと考えており、その高いハードルを越えるために我々は挑戦を続けています。
描写性能
■多くの要望があった積層型CMOSセンサーがEOS史上はじめて搭載されましたが、このセンサーによる処理の高速化によってEOS R3が得る最も大きい恩恵はなんですか?
ー積層型センサーは画素部と回路部を独立した基板上に搭載するため、画素部は高画質化に特化し、回路部は高速化・高機能化に特化することができます。そのため、高速連続撮影や6K動画、高感度撮影時の高S/N、ローリングシャッター歪みの低減などの実現に貢献しています。電子シャッター時のローリングシャッター歪みが、EOS-1D X Mark IIIに対して約1/4に低減しています。
■EOS R3で積層型CMOSセンサーがEOS史上はじめて搭載された。 ■今回搭載されているセンサーにはローパスフィルターは搭載されているのでしょうか
ーEOS R3にチューニングされた従来タイプのLPF(ローパスフィルター)を搭載しています。
■有効画素数2410万画素でありながら、EOS 5D Mark IVを凌ぐ解像性能を実現しているとのことですが、これは画像処理エンジンの進化に起因するところなのでしょうか。
ーRFレンズとの組み合わせで、高速通信が可能になっているため、絶対に避けられないレンズ収差、センサー構造の影響(ローパス)などを高度に解析・補正することが可能になっています。そのためCMOSセンサー、RFレンズ、DIGIC Xとの組み合わせにより、ピクチャースタイル初期条件、かつISO12233準拠のCIPA解像度チャートでの評価において、EOS 5D Mark Ⅳと同等以上の解像感を実現しています。
■オートホワイトバランスがより高精度になったと伺いましたが、主にどういったシーンで性能を発揮できますか?
ーディープラーニング技術を取り入れた新しいオートホワイトバランスアルゴリズムにより、自然の緑を多く含むシーンのオートホワイトバランス性能が向上しています。風景撮影などで、より正確なホワイトバランスで撮影することが可能です。
電子シャッター
■今回、カタログやWEBサイトにて「電子シャッター」という言葉を多く目にしました。これは今まではデメリットが不安視されていた「電子シャッター」が歪みや画質において「メカシャッター」と同じレベルまで到達したのでしょうか。
ーEOS R3ではメカシャッターと比較した際でもブラックアウトフリーの連写や、最速1/64000秒のシャッタースピードなど電子シャッターでないと実現できなかった機能が搭載されています。また電子シャッター時はレリーズタイムラグもEOS-1D X Mark IIIよりも高速化されますのでほとんどの場合、電子シャッターのデメリットは感じないでしょう。そのため、電子シャッターがデフォルトで設定されています。
■EOS R5やR6ではポートレートを撮影されている方から、シャッター音のボリュームを調整したいというお声を伺うことがありました。EOS R3は電子シャッター時にシャッター音のボリュームを調整できる機能が搭載されたとのことですが、この点についてどのようにお考えでしょうか。
ーEOS R3では様々なシチュエーションに対応するために、電子シャッターの音量を5段階で調整する機能を有しております。ポートレート撮影では撮影のリズムやモデルのテンションが重要な要素だと思っています。そのリズムやテンションを生み出すためにシャッター音が必要であるという事で、今回は5段階で音量調整可能な仕様にしております。進化した人物へのAFと合わせてお使いいただきたいと思っています。
AF性能
■「視線入力AF」がフィルム一眼レフ「EOS7、EOS7S」以来の搭載となりますが、今回実装した意図を教えて下さい。
ー高速性を持つカメラという点で、複数被写体の切り替えやAFフレーム・AFエリアの移動などをさらに早く行わせるために搭載しております。被写体にAFフレームを合わせるために行っていたフレーミングの煩わしさから解放され、より快適で集中できる撮影環境を提供できると考えております。
ー以前は測距点が少ないため搭載可能でした。そこから一眼レフタイプは測距点やエリアを広くする方向に開発を進めていました。もちろん視線入力のご要望も多くいただいていましたが、実用的かどうかというと使いにくい点も多いと思っておりました。今回、進化したセンサーとデュアルピクセルCMOSAFIIの組み合わせで視線入力を使っていただくことで、よりよい使い勝手を実現できたと思っております。
■「視線入力」AFはどういったシーンで活躍しますか?
ーファインダーを使用した静止画撮影で使用可能です。視線の位置にAF フレーム/AF エリアを素早く移動することができるため、複数の被写体へのAFを素早く切り換える際に有効です。例えば従来のシステムで陸上撮影を行う場合は、複数の選手が画角に収まっていた場合瞳AFを使用しながら撮影したい選手の選択を素早く行うことは難しかったですが、視線入力を行う事で簡単に選択することが可能です。
■新たに実装した「乗り物優先AF」で車やバイクなどの検出が可能とのことですが、検出した際にどの部分に優先してピントが合うのでしょうか。
ーディープラーニングにより、クルマ(フォーミュラカー、ラリーカーなど)、バイク(モーターバイク、オフロードバイク)を検出することが可能になりました。被写体が高速で移動するモータースポーツにおいても、車体とヘルメットという2つの手がかりを補完し合うことで、粘り強くトラッキングすることが可能です。また、ドライバーやライダーのヘルメットなど、重要部位を検出する[スポット検出]も設定できます。
ファインダー
■設定に追加されたOVFビューアシストや表示Simulationという新たな機能について教えてください。
ー「OVFビューアシストモード:入」設定時は、ピクチャースタイル/ホワイトバランス/オートライティングオプティマイザ/露出設定に応じた明るさ(表示 Simulation)/高感度撮影時のノイズ低減/高輝度・階調優先/HDR撮影(HDR PQ)がライブビュー映像に反映されなくなります。その代わりに、次のようなOVFビューアシスト専用の画作りの実現により光学ファインダーのような自然な「見え」に近付けています。
● より広い出⼒ダイナミックレンジでの表⽰を⾏い、ハイライトや暗部の階調をより⾃然に⾒えやすく表⽰
● ピクチャースタイルの反映をしないため、彩度の⾼いピクチャースタイル設定でも、⾒たままに近い⾊味で表⽰
● コントラストの⾼い設定や、屋外等のコントラストが⾼いシーンでも、⽩とびや⿊つぶれを低減し被写体を⾒やすく表⽰
ー表示Simulation設定時は従来の露出Simulationに加え、リアルタイムで被写界深度を確認できる設定が追加されました。
■OVFビューアシストは一眼レフの光学ファインダーのような見え方が出来るということですが、実際に写る映像と色合いや露出などに差が出るということでしょうか。
ー従来の光学ファインダー撮影時と同じように差が出ます。撮影後のイメージを常に確認したい場合はOVFビューアシストを切ることをおすすめいたします。
その他
■今回動画性能の向上も大きな話題を呼んでいますが、静止画同様のAF性能や、手ブレ補正はそのまま使用できるのでしょうか。
ーAF性能は低輝度限界こそ静止画が上回っていますが、それ以外は同様に使えます。手ブレ補正ではもちろん協調補正も可能です。そのためジンバル等も使用しなくてもブレを抑えた映像を撮影可能です。また、ジンバル等に載せて撮影する際も従来機種より調整しやすい仕様になっております。
■今回アクセサリーシューが新しくマルチアクセサリーシューに変更になり、ストロボだけでなく、スマートフォンアダプターやマイクなどが発売されていますが、今後どういった拡張がされていくのでしょうか。
ー今回のシューはPD対応、高速通信が可能な次世代インターフェースです。それによって、トランスミッターやスマホホルダーなどの純正ACCだけでなく、XLRアダプターなども対応予定です。今後、映像表現や通信の進化などに合わせて、純正ACCも拡大していきたいと思っております。
■電子シャッターの撮影時のデメリットが改善されたことにより、スポーツシーンだけでなく多くの場面で使用できるようになりました。メカシャッターの限界を超えるような性能、機能が搭載される中、メカシャッターとの使い分けはどうなっていくと考えられますか。
ー今後ますます電子シャッターの技術は進歩していくと考えております。一方でメカシャッターはシャッターを切る気持ちよさや安心感につながります。両者の特性をうまく使い分ける事で、撮影領域を拡大していければと考えております。
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