キヤノン EOS R5 × 風景写真|八木千賀子
はじめに
はじめまして、風景写真家の八木千賀子と申します。キヤノンのEOS RシリーズからEOS伝統の「5」を継承したEOS R5の発売から2年が過ぎ、RFレンズのラインナップもかなり充実してきました。EOS 5Dシリーズと同様にすべてを兼ね備えたフラッグシップ機はフルサイズミラーレスになり、様々な進化を感じることができます。風景写真を撮影してきて感じたEOS R5の実力をお伝え致します。
強力な手ブレ補正効果
EOS初のボディ内5軸手ブレ補正機構を搭載したことにより、協調制御ISが可能なRFレンズであれば最大8段という驚きの手ブレ補正効果を得ることができます。IS非搭載のレンズやオールドレンズを使用時でもボディ内手ブレ補正により5軸手ブレ補正機構を使うことができ、今まで手持ちでは難しかった撮影を可能にしています。風景写真を撮影していると三脚を立てることが困難なアングルでの時、今までだと仕方なくISOを上げて撮影していましたが、強力な手ブレ補正効果により撮影の幅が広がりました。
薄曇りの森の中、優しい光が幹と紅葉した葉を照らしている状況で、背景にある山の雰囲気を写し取るためF8まで絞っています。そのためシャッタースピードは1/13になっています。一般的には「1/焦点距離」と言われているので、焦点距離100mmの場合、1/100以下になると手ブレが発生してしまう可能性があります。RF70-200mm F4 L IS USMとEOS R5では最大7.5段分の手ブレ補正効果を発揮してくれるので、1/13のシャッタースピードでもしっかりと写し止めてくれました。今までは難しかった手持ちでの撮影を可能にしてくれ、リズムよく撮影することができました。
望遠レンズを使用し、紅葉が映り込む水の揺らぎを切り取ってみました。望遠で撮影する際は、わずかなブレが増幅されてしまうことがあります。またファインダーで覗いていても小刻みに揺れてしまいますが、強力な手ブレ補正機構のおかげで撮影した写真は手ブレしていません。そのおかげで作品として残すことができます。
バリアングルモニターで自由に
EOS 5D Mark IVが発売されたときライブビュー撮影がとても便利になったのですが、背面モニターが固定式だったためバリアングル式になると良いなと思っていました。EOS R5では念願の可動式バリアングル式の背面モニターが搭載されたので、風景撮影時とても便利になりました。バリアングルモニターになったことでカメラポジションやアングルの自由度が高く、今までだと諦めていた撮影も可能にしてくれます。モニターも3.2型と大きくなり、タッチ操作でピントチェックも容易になりました。
木にできたうろの中にカメラを差し込み、広角レンズで撮影しました。時代を感じさせる樹の幹と、その向こうに生い茂る新緑を見せることで未来を感じさせてくれます。このときカメラは地面すれすれにあり、今までは撮影時にファインダーやライブビューで確認することはできませんでした。そのため何度も何度も撮影してみることが必要でしたが、バリアングル式になったことで、ピントの位置や画面の四隅までその場で確認することができるようになり、作品を作り上げることができました。
川の中に入り、水面近くの高さに三脚を立てることで川の流れと滝をダイナミックに撮影しました。カメラを水面近くに立てているためファインダーでは確認することは難しい状況ですが、バリアングル式モニターのおかげで撮影できた一枚です。
暗いシーンでもピント合わせ可能
EOS R5を使用して一番驚いたのが、暗いシーンでもAFが動作しピント合わせができるということ。低輝度測距限界は開放F1.2のレンズ使用時でEV-6となっています。EV-6というと肉眼では被写体を見つけることが難しいほど真っ暗な状態。今までは星空撮影時に手前の被写体にピントを合わせるには、一度ライトを被写体に当ててピント合わせすることが必要でしたが、明るいレンズと組み合わせることで、ファインダーを覗くと手前の被写体もしっかりと確認でき、ピント合わせが容易になったので星景撮影が捗ります。
EV値の目安として月明かりのない星空ではEV-4といわれており、EOS R5の低輝度測距限界EV-6の凄さがよくわかります。八丈島で撮影した天の川ですが、太平洋に囲まれている八丈島では本州に比べ光害が少なく、ライトを消すとまさしく真っ暗な状況です。肉眼では何も見えませんがEOS R5のファインダーを覗くとそこにあるヤシの木を見ることができ、スムーズにAFが動作し快適に撮影することができました。
カメラに取り込まれる光は撮像面の中央が明るくなるため、中央の AFフレームを使用しワンショットAFに設定することで、星空などの暗い場所でのAF性能を最大限に生かすことができます。ピント合わせしたあと構図を作り込む際は親指AFにしておくと便利です。
電子ビューファインダー
約576万ドットの高精細0.5 型EVF(電子ビューファインダー)が搭載されており、滑らかに表示され色みも自然な印象。今までの光学ファインダーでは暗い場面などでは見づらいこともありましたが、EVFは暗くならず見やすくなりました。視野率100%で、露出シミュレーション表示やメニュー画面の表示、電子水準器やヒストグラムなども表示できるようになり、ファインダーを覗いたまま様々な情報を確認することができます。また表示させる情報は使いやすいようカスタマイズすることができるので、撮影に集中することができます。
ファインダーの明るさは1~5段階に調整することができるので、撮影者の好みで設定することができます。晴天時の雪山などは眩しいほどの明るさなので、設定を明るめに設定しておくとEVFが見やすくなります。また4種類の色調調整もできる上に、細かい調整ができる色調微調整機能が搭載されていたり、カメラを縦位置で構えると自動的に縦型のレイアウトに変更されるなど、撮影時ストレスフリーの機能が満載です。
真夏の昼間に撮影した際、モニターで撮影画像を確認しようとしても反射してしまい見づらいことが多々あり、ストレスを抱えていましたが、EOS R5の優秀なEVFのおかげでその場で再生画像を確認しやすくなり、余計なものが入っていないかなど隅々まで現場で対応することができるようになりました。
最大100%の広範囲AFエリア
EOS R5のデュアルピクセルCMOS AF IIは最大100%の測距が可能で、風景写真を撮影する際に使用するAF方式(スポット1点AFや1点AFなど)の任意選択時でもRFレンズ使用時は縦約100%、横約90%と自由度が高くなりました。一眼レフでは画面端の被写体にピント合わせをするときはAFロックを使用していましたが、画面端までAFエリアが広がったことで、構図の自由度が増し効率的かつシャッターチャンスを逃さなくなりました。AFフレームを素早く移動させるため、ボタンカスタマイズでマルチコントローラーのAFフレームダイレクト選択を設定しておくと便利です。
朝焼けが広がる空を主役に、右下に富士山を脇役に据え撮影しました。今までの一眼レフのファインダーでは、この富士山の位置にAFフレームポジションがないため、ピント合わせをしてAFロックをして構図を作るのにどうしてもタイムラグが発生してしまいました。しかしEOS R5のAFフレーム任意選択時の選択可能ポジション数は5,940ポジションと自由度が高く、画面端まで網羅しているおかげで刻々と変化する空も時間を無駄にすることなく撮影できました。
EOS R5には8つのAF方式が用意されているので、被写体の大きさや動きなどに合わせて使い分けることができます。雪降る中でオシドリがエサを求め歩きまわっていたため、ラージゾーンAF(横)に設定しサーボAF、検出する被写体を動物優先にすることで、被写体を見失わずに撮影することができました。
まとめ
一眼レフ機からミラーレス機に乗り換える際、一番懸念していたEVFですが、光学ファインダーと遜色なく、むしろより便利に進化しているので、風景写真を普段撮影している人も違和感なくEOS R5に乗り換えることができると思います。強力な手ブレ補正機構(協調IS)や広範囲のAFエリア、そしてバリアングルモニターなどにより、今まで撮影できなかった風景さえも撮れるようになっています。自然の美しい姿をそのままリアルに表現できるEOS R5はなくては、ならない相棒になりました。
■写真家:八木千賀子
愛知県出身。幼い頃より自然に惹かれカメラと出会う。隻眼の自分自身と一眼レフに共通点を見いだし風景写真家を志す。辰野清氏に師事し2016年に【The Photographers3(BS朝日)】出演をきっかけに風景写真家として歩み始める。カメラ雑誌、書籍など執筆や講師として活動。