風景写真がもっと自由になる。キヤノン EOS R5 Mark IIがくれた“静かな進化”

八木千賀子
風景写真がもっと自由になる。キヤノン EOS R5 Mark IIがくれた“静かな進化”

はじめに

キヤノン EOS R5 Mark IIは2024年8月の発売から、夏の終わりを皮切りに、秋・冬、そして春へと移り変わる季節の中で、いくつもの撮影現場で使い続けてきました。その中でまず感じたのは、撮影中、余計なことを気にせず“今”に集中できる。そんな感覚をくれたカメラだったということです。風景写真って、構図や光をじっくり見ていくイメージがあるかもしれませんが、実際には光の移ろいや風の変化に敏感でいないとシャッターのタイミングを逃してしまうことも。

このカメラは、そうした“撮る側の集中力”を保ちながら、もっと自由に、もっと軽やかに表現できる力をくれる1台だと思いました。

高感度撮影に強いAIノイズ処理(ニューラルネットワークノイズ低減)

EOS R5 Mark IIでは、新しいエンジンシステム「Accelerated Capture」に、キヤノン独自のディープラーニング技術が組み込まれています。これにより、ノイズ処理だけでなく、AFやホワイトバランス、AE解析などの画質全体にも高度な判断が加わり、従来では撮るのが難しかったシーンでも、安定した高画質を実現しています。 静かな風景を撮る場面では、どうしても高感度で撮らざるを得ないことがあります。そんなときに頼りになるのが、EOS R5 Mark IIに搭載されたAIベースのノイズ処理機能「ニューラルネットワークノイズ低減」です。

R5 Mark IIでは、静止画における常用最高ISO感度がISO51200まで引き上げられ、さらにこのAI処理が加わることで、高感度でも“見たまま”に近いクリアな描写が得られます。これまでCanon純正ソフト「Digital Photo Professional(DPP)」でしか使えなかったニューラルネットワークノイズ低減は、月額の有料プランが必要でしたが、R5 Mark IIならカメラ内で同等の処理ができるのも大きなポイントです。暗い森の中や夕暮れの海岸、夜明け前の空など、光がわずかしかない中でも、しっかりと階調が残ってくれる安心感があります。

実際に、ISO51200で撮影した天の川の写真を比較すると違いは歴然。ノイズが目立ちにくく、空の透明感や星の粒感がしっかり保たれていることがわかります。

ニューラルネットワークノイズ低減なし(ISO 51200)

■撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art
■撮影環境:焦点距離 14mm マニュアル(F 1.8、1.3 秒、± 0 EV) ISO 51200 色温度 3900K

ニューラルネットワークノイズ低減あり(ISO 51200)

■撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art
■撮影環境:焦点距離 14mm マニュアル(F 1.8、1.3 秒、± 0 EV) ISO 51200 色温度 3900K

また、実際の星景写真ではISO3200程度で撮るケースが多いですが、その場合でもニューラルネットワークノイズ低減は効果的です。夜空のグラデーションがより自然になり、星の粒もくっきりと際立ちます。

■撮影機材:Canon EOS EOS R5 Mark II + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 17mm マニュアル(F 2.8、15 秒、± 0 EV) ISO 3200 色温度 3900K
ISO3200で撮影した星景。繊細な光の重なりも、ノイズに邪魔されず美しく描かれている。ノイズが目立ちにくく、星の輪郭が保たれ、夜空の深みが伝わります。

カメラ内で完結する深度合成

風景写真では、足元の花から遠くの山までピントを合わせたいシーンがよくあります。ただし、絞りを極端に絞りすぎると回折現象が起きてしまい、全体の解像感が落ちてしまうことも。また、望遠レンズでは被写界深度が浅く、絞り込んでも奥までピントを合わせるのが難しい場面が少なくありません。

そんなときに活躍するのが、EOS R5 Mark IIの「フォーカスブラケット撮影」機能です。これまでパソコンのソフトを使って後処理で合成していたものが、このカメラなら撮影直後にカメラ内で合成が完了するため、その場で結果を確認できるのが大きなメリットです。回折の影響が出にくい絞り値で複数枚を撮影し、カメラ内で自動的に合成してくれるため、前景から遠景までシャープに描写された一枚が、その場で完成します。

たとえば、奥行きのある山並みや広がる風景を前にシャッターを切ったあと、そのまま背面モニターに合成結果が表示される。そんな体験は、まさに“撮影中に仕上がっていく”感覚でした。

下の比較写真は、同じ構図を「F32まで絞った1枚」と「F11で30枚をフォーカスブラケット合成」したものです。F32では回折の影響で富士山のディテールが甘くなっていますが、F11合成では手前の梅の花から富士山の山頂まで、しっかりとシャープに描写できました。

F32まで絞った1枚

■撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 100mm 絞り優先AE(F 32、1/6 秒、- 0.33 EV) ISO 400 AUTO

F11・30枚をフォーカスブラケット合成

■撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 100mm 絞り優先AE(F 11、1/40 秒、- 0.33 EV) ISO 400 AUTO
回折を避けながら、全体にピントの合った仕上がりに。

ただし注意点として、風で大きく揺れる被写体が画面内にあると、合成時にブレが生じやすくなります。風が穏やかなタイミングを狙うか、風の影響を受けにくい被写体で使うのがおすすめです。

設定はとてもシンプルで、「撮影メニュー5」→「フォーカスブラケット」→「深度合成:する」を選ぶだけ。 撮影するとピント位置が手前から奥へ自動的に動いていき、合成されたJPEG画像がその場で完成します。 パソコンを持ち込めないロケ先でも、“仕上がりの確認までできる”のは本当に助かります。

さらにステップ幅(ピントを動かす幅)や枚数、露出の平滑化などの細かな設定も可能。撮影条件に合わせて調整できるのも安心です。合成の際に生じる画角のズレも、自動でトリミングして整えてくれます。
※合成画像はJPEG形式で保存され、RAW形式では出力されません。

フォーカスブラケット撮影では、対応するファイル形式(JPEG/HEIF/RAW/C-RAW)で素材を記録できます。撮影は電子シャッターで行われ、最初に設定したシャッタースピードや絞り、ISOなどがそのまま全コマに適用されます。ステップ幅(ピントを動かす量)や撮影枚数は自分で調整できるので、被写体に合わせて柔軟に設定できるのも魅力です。特に「露出の平滑化」をONにすると、ピント位置の変化で明るさが変わるのを自動で補正してくれるため、合成後の画像がより自然に仕上がります。

静止した被写体を三脚でしっかり固定して撮ることが基本。合成がうまくいくか不安なときは、あらかじめ少ない枚数でテスト撮影して、ステップ幅などを確認しておくと安心です。

視線で操作できるAFの快適さ

初めて視線入力AFを使ったとき、ちょっと驚きました。ファインダーをのぞいて「ここにピントを合わせたいな」と思った場所に、実際にAFポイントが動くんです。

風景撮影のときは三脚で構図をじっくり決めることも多いですが、実はこの視線入力AFは、そういうときよりも手持ち撮影のときにこそ活躍する機能だと感じています。歩きながら構図を探すような場面では、視線でピントを動かせるのがとても自然で、シャッターチャンスを逃しにくくなりました。

私はカスタムボタンに視線入力AFのオンオフを割り当てておき、必要なときにすぐ呼び出せるようにしています。常時使うというよりも「ここぞ」という場面で使う、そんな立ち位置の機能です。また、視線入力の精度はキャリブレーションを何度か行うことで上がっていきますし、ユーザーごとに登録できるため、複数人でカメラを共有する場合にも便利です。AFポインターの表示色もオレンジ、パープル、ホワイトの3色から選べるので、好みに合わせた使いやすさがあります。

■撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + RF24-70mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 24mm 絞り優先AE(F 8、1/80 秒、± 0 EV) ISO 250 太陽光
一面の海に溶け込みそうなウミガメ。視線が自然に向かったその先に、すぐピントが合ってくれた。

安定感とテンポを生む手ブレ補正&プリ連続撮影

撮影のテンポが崩れると、いいリズムで構図を探したり、光を追いかけたりできなくなってしまいます。そういう意味でも、R5 Mark IIはとてもよくできています。

まず注目したいのが、ボディー内5軸手ブレ補正機構の進化。広角から望遠まで、RF/EFレンズの種類を問わずしっかり効いてくれるうえ、周辺協調制御にも対応。最大で中央8.5段、周辺でも7.5段分の補正効果があります。手持ちでの撮影が多い山道や風が強い場所でも安心してシャッターが切れました。

■撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 70mm 絞り優先AE(F 8、1/500 秒、- 1 EV) ISO 100 AUTO
一歩一歩の先に広がる風景も、手ブレを気にせず自然に切り取れる安心感。

そして、晴天下でも構図がしっかり確認できるファインダーの視認性。EOS R5と比べて約2倍の高輝度パネルを採用した約576万ドットのOLEDファインダーは、日差しの強い場所でも構図や露出の確認がしやすいです。明るさ設定も「6」まで引き上げ可能で、表示倍率は約0.76倍。準備中には6倍/15倍の拡大表示もできます。

■撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 200mm 絞り優先AE(F 2.8、1/8000 秒、- 1.33 EV) ISO 200 AUTO
強い日差しを受けて白く輝く草地。ファインダー越しにも、光と陰の微妙な変化がはっきり見えた。

加えて、裏面照射型の積層CMOSセンサーと新しい画像処理エンジンの組み合わせで、処理速度も非常に速くなりました。合成やRAW現像後の待ち時間が短く、次のカットにすぐ進めるのも地味に嬉しいポイントです。
また、最大30コマ/秒の高速連写は、風景でも活躍します。波の形、風で揺れる草木、鳥の羽ばたきなど、一瞬の美しさをしっかり記録してくれます。

■撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:焦点距離 168mm 絞り優先AE(F 3.5、1/500 秒、- 0.33 EV) ISO 500 AUTO
飛び出した瞬間のしぶきまで。30コマ/秒の連写が、一瞬のドラマをしっかり記録してくれる。

そして「静止画プリ連続撮影」。シャッターボタンを押す前の最大15コマまでさかのぼって記録してくれるので、「今のきれいだったな…」という瞬間を逃さず残せます。記録形式はRAW/C-RAW/JPEG/HEIFすべてに対応し、従来のRAWバーストモードのように撮影後に画像を切り出す手間がないのも大きなメリットです。

静止画プリ連続撮影では、シャッターボタンを半押ししている間に一時的に記録が始まり、全押しのタイミングから最大15コマ前までさかのぼって記録されます。使用時には電子シャッターが自動設定され、AEBやフリッカーレス撮影、フォーカスブラケット撮影など一部機能との併用はできませんが、連続撮影速度はドライブモードに依存し、テンポよく撮影できます。

シャッターを切るタイミングが難しい動物や風景の一瞬を確実に記録できるので、風景写真家にとっても非常に心強い機能です。

■撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + RF70-200mm F2.8 L IS USM Z + EXTENDER RF1.4x
■撮影環境:焦点距離 280mm 絞り優先AE(F 4、1/250 秒、+ 0.33 EV) ISO 1000 日陰
木漏れ日の中で見つけた、小さな命の一瞬。迷わずシャッターを切れたのは、静止画プリ連続撮影のおかげだった。

その他の便利機能:アップスケーリング

EOS R5 Mark IIには、他にも便利な機能があります。たとえば、撮影後の画像をカメラ内で約1億7900万画素にアップスケーリングできる機能。これまでは「Digital Photo Professional(DPP)」などの専用ソフトと月額有料プランが必要でしたが、R5 Mark IIではカメラ単体でこの高精細化処理が完結します。私は頻繁には使いませんが、大きくプリントしたいときや、細部まで見せたい一枚にはぴったり。覚えておくと心強い機能です。

まとめ “撮れる”から“表現できる”へ

EOS R5 Mark IIは、ただスペックが上がっただけではない、“撮る人の気持ち”に寄り添ってくれるカメラだと感じました。
写真って、シャッターを押すまでの思考や感覚がとても大事。このカメラは、その時間を妨げず、むしろそっと後押ししてくれる存在です。
AI処理や高速レスポンス、視線AFといった機能も、ただ新しいから便利なのではなくて、「自然の中で、自分らしく撮りたい」という気持ちにしっかり応えてくれる。そんな静かな信頼感がありました。

撮影機材:Canon EOS R5 Mark II + RF85mm F1.2 L USM DS
■撮影環境:焦点距離 85mm 絞り優先AE(F 2、1/1250 秒、± 0 EV) ISO 200 AUTO
川辺に咲く満開の桜。ただ目の前の風景に、心静かに向き合える時間がここにあった。

EOS R5 Mark IIは、そんな“静かな自信”をくれるカメラでした。

 

 

■写真家:八木千賀子
愛知県出身。幼い頃より自然に惹かれカメラと出会う。隻眼の自分自身と一眼レフに共通点を見いだし風景写真家を志す。辰野清氏に師事し2016年に【The Photographers3 (BS 朝日)】出演をきっかけに風景写真家として歩み始める。カメラ雑誌、書籍など執筆や講師として活動。

 

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