キヤノン EOS R7 レビュー|動体撮影に最適な高速・高画質APS-C機
はじめに
2022年6月23日にキヤノン EOS R7が発売されました。EOSデジタルにおいて「7」という数字を与えられたカメラは、動体撮影に強いというイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。EOS 7D Mark IIと同じAPS-Cサイズのセンサーを持つEOS R7の登場は、フルサイズセンサーのボディが多くラインナップしている中でユーザーの選択肢を大きく広げたと思います。
特にスポーツをはじめとした撮影場所が限られる動体撮影では、フルサイズと比較して焦点距離換算約1.6倍のアドバンテージが重要な役割を果たすケースも多々あります。今回はキットレンズであるRF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STMを含む2本のRFレンズを使用して、自転車ロードレースのトレーニング取材で体感した感想をお届けします。
動体に最適なAF性能
私がEOS R7に一番期待しているのは、スポーツ撮影において最も影響を受けるAF性能です。
広いAFエリア、トラッキングAF、瞳AFなど撮影者を自由にしてくれる性能が多く搭載されています。自転車のロードレースはヘルメットにサングラス姿、そして車ほどではないですが素早いスピードで目の前を走り抜けていきます。一度通り過ぎてしまえば次に私の前を通過するのは30分から40分後、コースにもよりますが何度でもチャンスをくれる被写体でありません。しかもいくつものバリエーション写真が必要とされるため、都度場所を移動しながら撮影します。そのため選手が通過するごとに一発勝負で決めていく必要があるので、AFには正確さと速さの両方を高いレベルで求めます。
EOS R7を使用してのファーストインプレッションは「これは使える」でした。サングラスやヘルメット姿の選手を被写体検出機能が「頭部」を検出し、しっかりと追従してくれました。私が使用したシーンでは一度追従を始めると外すことなく追い続けてくれたおかげで、フォーカスはカメラに任せてフレーミングに集中して撮影が出来ました。また、フレーミング全体でAFエリアが稼働するので端に被写体を置いたり、動きを追いながらスムーズにフレーミングの変更が可能です。AFの初動スピードも申し分ありませんでした。
最大8段分の手ブレ補正
EOS R7に搭載されているカメラボディ内手ブレ補正機構と、RFレンズのレンズ内光学式手ブレ補正がセットになることで協調制御が可能となり、より強力な手ブレ補正が効きます。スポーツ撮影は高速シャッターを切るケースが多いので手ブレと縁遠いと思われるかもしれませんが、手持ちで撮影する以上は手ブレの可能性と戦います。スポーツ撮影ではほとんどの場合は三脚を使用出来ず、超望遠レンズを使用する際は一脚を使いますが、手持ちに比べて機動力が犠牲になりますので、出来る限り手持ち撮影をしたいのです。
また、レンズが小型軽量の場合であっても、細かい手ブレが起きているケースは多くあります。フレーミングを優先するあまり不安定な構え方になったり、長時間の撮影で疲労困憊の中で最後の力を振り絞りながら撮影することもあります。スポーツ撮影でも協調ISは欠かせないものであり、重要な保険でもあるのです。そして最終的には画質に好影響を与えてくれますので、RFレンズとの組み合わせをお勧めします。
高い解像感と高感度画質
APS-Cセンサー搭載のカメラはフルサイズと比較して焦点距離が約1.6倍換算となり、距離のある被写体を撮影する際はとても有利になります。エクステンダーと異なり、レンズの開放絞りを変えずに焦点距離を伸ばせるので、現場に持ち込む超望遠レンズを一回り小さくすることも出来ます。その反面、センサーサイズが小さくなるため解像度や高感度画質が懸念材料になると思います。
私は以前にAPS-Cセンサー搭載のカメラを使用した際に期待していた画質が得られず、メインカメラにしなかった経験があります。現在常用しているカメラは全てがフルサイズセンサー搭載のカメラです。
さてEOS R7はどんなものだろうかと撮影後に写真データをよく見てみると、想像以上の高い解像度と高感度画質を持っていると感じました。フルサイズの画質と同等というわけにはいきませんが、従来のAPS-Cセンサーのものに比べて大きく前進していることが実感出来ます。RFレンズの高い解像度との相乗効果もあると思いますが「使える」レベルにありました。高感度性能も上昇していて、撮影条件にもよりますがISO12800までは常用できると考えています。
高感度が使えることで開放F値が明るくないレンズでも積極的に使用できるため、レンズの選択肢を増やすことが可能になりました。こうしてみると、私がこれまで持っていたAPS-Cへの思い込みを変えていかなければいけません。
メカシャッターで秒間15コマの高速連写
EOS R7ではメカシャッターで1秒間に最大15コマ、電子シャッターで1秒間最大30コマの高速連写を達成しました。私が常用しているEOS R3ではメカシャッターで秒間12コマなので、EOS R7は飛ばして来たな!というのが実感です。秒間10コマを超えると1コマ増えるごとに違う世界を見ることが出来ます。最初にシャッターを切った時の感触はちょっとシャッターがバタバタしているなという印象だったのですが、撮影が進むにつれて小気味よいリズム感を感じるようになりました。サイレントシャッターにはない確かにシャッターを切っているという感触が心地よく、APS-Cということもあるのか想像よりもシャッターの振動が少ないです。
スポーツ撮影ではコマ送りのような連続写真が必要となるケースもありますが、それとは別にこの1秒間の中でできる限りのドラマを拾いたいという時に高速連写が威力を発揮します。
1秒間の間に選手は様々な動きを組み合わせながら進みます。ぺダルを力強く漕ぐ足の動き、ハンドルを握る手、顔の僅かな揺れなどスポーツは短い時間の中に多くのドラマが凝縮しています。その中で細かい時間を刻むことで肉眼では見えない「写真だけの世界」を構築していくことがスポーツ写真には求められます。それを達成するための一つのギアとして、高速連写が貢献してくれるのは間違いありません。もちろん高速連写があるからシャッターチャンスを逃さないということではなく、フォトグラファーの補助輪の一つとして捉えています。
また、電子シャッターではどうしてもローリングシャッター歪みが心配なシーンもありますので、メカシャッターで秒間15コマの高速連写は大きな武器になりそうです。
サブ電子ダイヤルをはじめとした新しい操作系
EOS R7の背面を見て一番目を引いたのはサブ電子ダイヤルです。EOS R3やEOS R5では背面液晶の右隣にありましたが、EOS R7ではファインダーの右隣に配置されました。そしてダイヤルの中央にマルチコントローラーがあり、メニューボタン以外は全て右側にボタンが配置されています。カメラ上部をみると電源スイッチやISOボタンも右です。確かに撮影中はシャッターを筆頭に、ほとんどの操作を右手で行なっています。左手の使用はレンズのズーミングやファインダーから目を離した時のメニュー操作や、再生時に背面液晶を見る時くらいです。
サブ電子ダイヤルの位置はEOS R3やEOS R5の位置に慣れているので最初は違和感がありましたが、慣れて来るとグリップを握りながら親指をダイヤルにかけやすい位置にあることが実感出来ます。マルチコントローラーとサブ電子ダイヤル、AF-ONボタンの位置がより近くになり、親指を動かす範囲を狭いエリアに収めることで操作時間を短縮できました。この僅かな時間が撮影中のストレスの軽減に繋がります。
他にもSDカードを使用するデュアルカードスロットや防塵・防滴構造の採用など、安心して使えるという点にも配慮が見られます。
まとめ
APS-Cセンサー搭載のカメラを使用するのはEOS 7D Mark II以来ですが、EOSはRシステムとなり大きな進化をしていました。一番驚いたのは高い解像感です。これまで私が持っていたAPS-Cのネガティブな一面を払拭してくれました。その他にもスピード感があり正確なAF性能、強力な手ブレ補正、高感度画質など全てにおいて私の想像を超えていたのは嬉しい誤算でした。カメラ全体を俯瞰して見ると完成後の高さがわかります。
また、今回キットレンズになっているRF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STMはLレンズとは比較出来ませんが、小型軽量で本当によく写ります。そしてユーザーにとって何よりも重要なのは販売価格ではないでしょうか。EOS R7も高価な製品ではありますが、上記の性能を見ていくとコストパフォーマンスに優れたカメラだと思います。RFレンズのラインナップが充実してきたこともあり、ユーザーの選択肢が広がったのは嬉しい限りです。
■撮影協力
日本大学自転車部
■写真家:中西祐介
1979年東京生まれ 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。講談社写真部、フォトエージェンシーであるアフロスポーツを経てフリーランスフォトグラファー。夏季オリンピック、冬季オリンピック等スポーツ取材経験多数。スポーツ媒体への原稿執筆、写真ワークショップや大学での講師も行う。現在はライフワークとして馬術競技に関わる人馬を中心とした「馬と人」をテーマに作品制作を行う。
・日本スポーツプレス協会会員
・国際スポーツプレス協会会員