キヤノン EOS R8 レビュー|日常や旅先での撮影を気軽に楽しめるフルサイズミラーレスカメラ
はじめに
現在私が愛用しているEOS R8。2019年にリリースされたEOS RPの後継機としての位置付けで、軽量小型がウリのフルサイズ。今年4月に発売されてから旅も日常もEOS R8と一緒に撮影を楽しんでいます。使い心地や性能、魅力的な機能についてレビューしたいと思います。
EOS RPとの比較
まずは、「フルサイズEOS史上最小・最軽量」のキャッチフレーズで4年前に登場したEOS RPとの比較をしてみたいと思います。85mmから86.1mmと約1mm高さが高くなった以外はサイズは変わりませんが、バッテリーとSDカード含めての質量はRPより24gほど軽く、APS-CのEOS R7と比べるとなんと約150gも軽い。
女性の手にはしっくりくるグリップは私にはちょうど良いサイズ感。手の大きいユーザーのために、別売りで販売されているエクステンショングリップを装着すれば馴染むと思いますが、せっかくのコンパクトさは失われてしまうのはちょっと勿体ない気がします。何より携帯性に優れた軽量コンパクトなボディを生かして、とにかく普段使いや旅先でさりげなくバッグに忍ばせ、軽快に撮影を楽しみたいカメラです。
背面は十字キーが採用され、ボタンは最小限に抑えてあるシンプルな仕様はEOS RPと同様です。EOS RPでは左側に配置されていた電源スイッチが、EOS R8では右側に移動。ミドルクラスのEOS R7、R10、そして、EOS R6 Mark IIと同じ位置にあるので、同時に数種類のカメラを使用する場合には、感覚的に指で操作でき、誤ってスイッチを切ってしまうミスもなくなります。
EOS RPの画素数が約2,620万画素に対し、EOS R8では約2,420万画素と若干減少していますが、プリントアウトする場合、A3程度でしたら十分に美しく仕上げることができますので全く問題なし。画像処理エンジンは、DIGIC 8からDIGIC Xになり、AF検出やAF性能、高感度撮影に有利になりました。その辺りはこの後お話しましょう。
EOS R6 Mark II 同等の性能
コンパクトなのに映像エンジンは、上位機種のEOS R6 Mark IIなどと同様のDIGIC Xを搭載というのがスゴイ。CMOSセンサーとの連携によって高感度撮影でもノイズを抑えた高画質を実現し夜間や室内など暗いシーンでの撮影も昼間と変わらない感覚で撮影をこなせます。電子シャッター撮影時では最高約40コマの高速連写が可能なので、スポーツや乗り物の撮影ではいい瞬間を逃すことはありません。
ビルの間で行われるこじんまりした盆踊りの光景は東京らしいとも言えます。ようやくお祭りの開催が再開し、皆さん、集まって踊ることに喜びを感じているようでした。ISO6400の画質は、もはや高感度には入らないのではと感じるほど美しい画質です。常用最高感度はISO102400。多少ノイズは目立ってきますが、どうしてもって時に上げるようにしています。
AF検出は、人物、動物、乗り物を選ぶことができます。動物優先では、犬、猫、鳥、そして馬に対応しており、乗り物優先の場合は、ドライバー、ヘルメット、飛行機のコックピットなど重要部位を検出する「スポット検出」の設定も可能です。
絞りを開放気味にするときはピントの位置に配慮しなければなりません。特に人物や動物の撮影では瞳にピントを合わせたい。優秀なトラッキング性能で、一度瞳にピントが合うと、動き続ける被写体でも追い続けてくれます。ですから、ピント合わせはカメラに任せる方が失敗が減ります。その分、撮影者は背景や構図に集中出来ますのでより思い通りの写真が手に入ります。
使える機能
その1 デジタルテレコン
デジタルテレコンの設定を入にすると、撮影画像の中央部を拡大し撮影倍率を変更することができます。2.0×、4.0×の選択が可能です。長いレンズを装着していない時、遠くにある被写体を大きく撮りたい際に活用できる機能です。ただしどうしても画質は低下してしまいます。作品作りでの撮影というよりは、記録としての撮影に使用しています。JPEGのみの設定、AFは中央部固定になること、静止画のみに設定可能であることを覚えておく必要があります。
十字架の上に留まっている鳥を見つけてRF24-50mm F4.5-6.3 IS STMの望遠端で撮影しました。空の表情も良く綺麗な風景ではありますが、肝心な小鳥の存在がほとんど確認できません。
デジタルテレコン4倍に設定すると、十字架と小鳥を大きく切り取ることができました。画質を比べると、さすがに解像度は落ちてしまっているのが確認できます。
その2 フォーカスBKT(ブラケティング)
近頃はカメラのさまざまな機能を試して楽しむようにしています。その中で大活躍しているのが、フォーカスブラケティング。一回のレリーズでピント位置を変えながら連続撮影が自動的に行われます。連続撮影された画像を合成することで、被写体を隅々までくっきりとした画像に仕上がる仕組みです。撮影回数、ステップ幅(ピントを移動する幅)、露出の平滑化(明るさの変化の調整)を設定することができ、「深度合成をする」を設定すれば生成された画像と各段階で撮影した画像のそれぞれが保存されます。撮影枚数が多くなるため、容量の多いSDカードを使用する方が安心です。
被写体をくっきり見せたい時は、F値の設定を絞ることはお分かりだと思いますが、近接撮影ですと被写界深度は浅くなってしまい、被写体全体にピントを合わすことが難しかったり、絞りを絞り過ぎると回析現象が発生し画像のシャープさが失われてしまいます。
鹿の親子が描かれているグラスをフォーカスBKTで撮影してみました。絵柄もグラスも鮮明に写っているのがわかります。
その3 RAWバーストモード
RAWバーストモードは、高速でRAW画像を連続撮影し撮影後に画像の切り出しができる機能です。データはひとつのファイルで記録されます。撮影後に再生し切り取りたい画像のところで「SETボタン」を押すと、JPEG、RAW、HEIFを選んで保存できるシステムになっています。JPEG画像で切り出す場合、「編集して保存」を選択すると明るさ、ホワイトバランスなどの細かい調整が簡単にできてしまうのもメリットです。カメラ内で作業が済んでしまう気軽さが魅力。
さらにプリ撮影を「する」にセットすると、シャッターボタンを半押ししてから全押しした時の0.5秒前から画像の記録が可能になります。動きが予測できない動物の撮影にはぜひ試していただきたい。
この機能を使い、飼っているコザクラインコの寅次郎の撮影をしてみました。シャッタースピードを高速、AF動作はSERVO、検出する被写体を動物に設定し準備します。飛んだ瞬間にシャッターを切るのは非常に難しいものですが、プリ撮影をセットしてみると、飛び立つ前の瞬間から捉えることができました。
羽の動きや広がり方が美しい瞬間を選んで、JPEGで切り出してみました。素早い鳥の動きでも逃すことなく良い瞬間を写し止めることができました。撮影者の腕というよりは、完全にカメラのお陰。誰でも撮れてしまうのがちょっとコワイです。
最後に
街スナップや普段使いの撮影では、センサーサイズに拘らなくても良いと思っていますが、やはりフルサイズは使い慣れているし、安心感があります。気になる点は、バッテリー。小型のLP-E17を採用しているため、ガンガン撮る方は予備のバッテリーは必須です。また、ボディ内手ぶれ補正は搭載されていませんが、レンズ内手ぶれ補正機能で十分対応できます。
軽量コンパクトの利点を活かすには、レンズもキットレンズのRF24-50mm F4.5-6.3 IS STMなどコンパクトなものを装着するのがおすすめです。身軽に撮影を楽しむのが、EOS R8で撮影する流儀だと私は考えます。
■写真家:鶴巻育子
1972年、東京生まれ。広告写真、カメラ雑誌の執筆のほか、ワークショップやセミナー開催など幅広く活動。写真家として活動する傍ら、東京・目黒、写真専門ギャラリーJam Photo Gallery 主宰を務める。ライフワークでは、これまでに世界20カ国、40以上の都市を訪れ、街スナップや人物を撮影。主な写真展 Brighton-a little different(2012年、オリンパスギャラリー)、東京・オオカミの山(2013年、エプソンイメージングギャラリーエプサイト)、3[サン] (2015年、表参道スパイラルガーデン)、THE BUS(2018 年、ピクトリコギャラリー・PLACE M)、PERFECT DAY(2020年、キヤノンギャラリー銀座)など。THE BUS(2018年、自費出版)、PERFECT DAY(2020年、冬青社)、夢(2021年、Jam Books)がある。