ペンギン世界への撮影記 ~心強い旅の相棒となったキヤノン EOS R6 Mark II 編~|岡田裕介
前作のペンギン写真集「Penguin Being-今日もペンギン-」の発売から約5年。今年再び、5週間ほどフォークランド諸島に滞在し撮影した写真で構成する、岡田裕介氏の新作ペンギン写真展をキヤノンギャラリー銀座・大阪で開催します。詳しくは文末の写真展情報をご覧ください。
はじめに
今回は、コロナ禍もあって2018年以来6年ぶりの再訪となったフォークランドでのペンギン撮影のお話と、この旅から一眼レフからCanonのミラーレスへとカメラのシステムを一新したので、旅で感じたミラーレスカメラの利点の話も交えていきたいと思います。
見たことのない姿
新作を撮影するにあたり、今までにはないペンギンへのアプローチはないかと考え、今回はペンギンたちのコロニー近くでキャンプ生活をしながら撮影をしました。
それが功を奏したのか、到着早々に今まで見たことのないびっくりするような光景を目撃することができたのです。それはテント近くの穏やかな入江で、まるで幼稚園の園庭で遊ぶ子供のようなペンギンの姿。彼らのヒソヒソ話まで聞こえてくるようでした。
いつ襲われてもおかしくない天敵のいる海やビーチ、子供を鳥などから守りながら子育てをするコロニーでの緊張感ある様子と全く違った、穏やかな湖の浅瀬でまるで人間の子供のように戯れ合うペンギンたち。僕はペンギンの国に迷い込んでしまったかのような感覚になりました。
そんなペンギンたちの様子を、ストレスを与えないようそっと彼らの目線やそれよりも低い位置から狙うのに最適なのが、バリアングルでした。腕の上にレンズを乗せるようにカメラを固定すると、自分の腕が雲台のようになり、かなりの安定感。水面ギリギリの位置から撮影したこの写真は、バリアングルがなければ成立しない画角でした。ペンギンの撮影ではこの時以外にも多用したのですが、大人の身長の位置からではなく、視点を下げて小さい子供や動物の撮影に使ってみると、いつもとは違う世界が広がるのでオススメです。低い位置でカメラを構えても動きながら撮れるので動画の撮影にも使えますね。
一瞬の絶景
世界中を年中旅していると、天候に恵まれる時とそうでない時が当然のように出てきます。ネイチャー写真を始めた頃は、僕の心も天候に左右され一喜一憂していたのですが、それを何度も繰り返すうちに、天候も動物との出会いも良い時もあれば悪い時もあって、大きな期間で考えるとその割合は同じぐらいに平均化されていくことを理解し、一喜一憂することは少なくなってきました。
しかし虹はいつだって特別です。ある日の早朝に見た朝焼けの中、集団で海に向かうペンギンたちの背後に現れた大きな虹には大興奮しました。虹はあっという間に消えてしまうので、いつ消えるかとドキドキしながらアングルを決めるのに精一杯の中、ファインダー内で露出の正解が分かるミラーレスカメラに助けられました。
ミラーレスカメラになってからシャッターを押すまでの作業がいくつか省略され、シャッターチャンスに集中できるようになったのは本当にありがたいことです。
今回、虹の出た前半はかなり天候に恵まれ、毎朝のように劇的な朝焼けを見ることができましたが、一転して後半は悪天候が続きました。フォークランドは風が強い日が多いのでテントもなるべく風の当たらないところを選びましたが、風速35mの嵐の日には荷物用のテントのポールが折れて浸水し、食料が水浸しに…こちらは辛い思い出です(涙)。
大波の中の行進
絶壁の上にコロニーを作るイワトビペンギンにも会いに行ってきました。
その島にはスケジュールの関係で2泊3日での短い滞在になりましたが、普段は穏やかな海が、珍しく大波の日にあたり、岩に当たり激しく砕ける波が太陽の光を浴びて美しく輝いていました。そんな日にもイワトビペンギンの日常生活は当たり前のように行われます。彼らは僕が知るペンギンの中でも一番大変な生活をしていて、体の大きさから考えるとびっくりするほどの角度のある崖を、ぴょんぴょんとその名の通り飛ぶようにして登り降りし、海へ行って自分や子供のために捕食をし、コロニーへと戻る過酷な生活を日々繰り返しているのです。大変だな、頑張ってるなと思い彼らを観察していると、あまりに非効率で理解出来ない行動を見ることもありました。
それがこの写真で、ここに写っているペンギンたち、実は一度陸に上がった後、そのままコロニーへは向かわず、近道なのか理由は分かりませんが、果敢にもこの大波が来る細道を通ろうとチャレンジするのです。しかし、そのほとんどは波にさらわれてもう一度海へ。「結局は鳥ですからね〜知能はあんまり…」と、以前どこかの水族館の飼育員さんが言っていたことを思い出す出来事でした。
命の物語
今回も命の物語を何度も目撃しましたが、特に印象的だったのがこのシーンです。
数日前から、この場所で死んでしまった子ペンギンと、そこから離れようとしない親ペンギンの姿を目撃していました。そこへある日、その死体を狙うヒメコンドルが現れたのです。ヒメコンドルは襲いかかることもなく、ずっと近くにいて飄々と様子を伺い、隙をみて近づくと親が威嚇するといったことが、何時間にもわたって何度も繰り返されていました。死んで動かなくなってしまった子供を、それでも外敵から守ろうとする親ペンギンの本能と、自分や子供が生きるために食料を確保しなくてはいけないヒメコンドル、自然界の切ない攻防を知る貴重な機会となりました。
さいごに
6年ぶりのフォークランド諸島、昨今の気候変動を考えると、ペンギンたちの生活環境が変わっていないか心配していましたが、再訪した場所のペンギンたちは軒並みその数を増やし、丸々と太っているのを見て一安心しました。
しかしフォークランド諸島の中には鳥インフルエンザが原因でペンギンが死んでしまったため、流行を防ぐために閉鎖に追い込まれた島があったり、僕が滞在していた島も鳥インフルエンザを防ぐために僕の滞在以降テント泊が禁止になったりと、平穏と呼べる状態ではありませんでした。
気候変動、疫病、戦争など、今の地球を考えると「行きたい時に行きたい場所へ」という思いがよりいっそう強くなりました。
今回の旅から一眼レフからCanonのミラーレスへとカメラのシステムを一新したのですが、ペンギンの目線になって撮影をする時に多用するバリアングルの液晶の見やすさや取り回しの軽快さ、AFの精度など利点が多く、バッテリーの持ちが悪いことを除けばいいことばかり。
またフィルム時代から、カメラ選びの要素の1つにするほどシャッター音を重視してきたのですが、一眼レフカメラでの撮影中にシャッター音が原因で草食動物に警戒されることも少なくなく、EOS R6 Mark IIのメカシャッターの、自分だけに聞こえるぐらいの音量がとても心地よかったです。
最近購入したEOS R5 Mark IIと共に、これからも心強い旅の相棒となってくれるでしょう。
岡田裕介写真展『それは僕らだけの言葉 -Penguins Being Penguins- 』
あの日僕が見た光景は
繰り返されるありふれた日々の中にあって
特別でもなく、奇跡でもなく、偶然でもない僕は人間で、彼らはペンギンで
理解することなど到底無理、無意味でしかない
しかしあの日僕が見た光景は
なんだか見てはいけないものを見てしまったような
僕の知っている彼らではなかった
まるで僕の知っている人たちみたいだった僕は隠れもせずにただそこに居て静かにシャッターを切る
そこには彼らだけの言葉があった
僕を通して記録されたその光景は
まるで彼らの言葉が録音されているかのように
見る者に話しかけるだろう
その聞こえた言葉は、あなたの中に生まれたあなただけの言葉だただ一つ
ペンギンは、今日もペンギンである
その事実以外、何一つ確かなことはない
■東京会場
【会期】9月17日(火)~9月28日(土) 10:30〜18:30 (日曜・月曜・祝日休館)
【場所】キヤノンギャラリー銀座 [地図]
※全日在廊
※32点展示予定
トークイベントを開催します。
※詳細はキヤノンギャラリーホームページをご確認下さい。
9月20日(金) 19:00~20:00 (予約制)
9月28日(土) 14:00~14:30 (予約なし)
■大阪会場
【会期】10月15日(火)~10月26日(土)10:00〜18:00 (日曜・月曜・祝日休館)
【場所】キヤノンギャラリー大阪 [地図]
※10/19(土)の午後以外は全日在廊
※32点展示予定
■解説
「National Geographic 写真賞の受賞を機に、世界でも作品を発表し旅を続けている写真家 岡田裕介。
過去フォークランド諸島を4度訪れ、長い年月をかけてペンギンを記録してきました。2019 年に全国 2 万人を動員した同テーマの 写真展から5年、再びフォークランド諸島に1ヶ月以上滞在し撮影したこの新作は、ネイチャーフォトグラファーとして真正面から 生き物と向き合い写真に収めながらも、見る人の余白で無限に物語が生まれる、まるでペンギンたちの言葉が聞こえてくる群像劇を見ているような作品を発表します。 」
<新作写真集>
岡田裕介写真集 『それは僕らだけの言葉 -Penguins Being Penguins-』
1,000部限定
9月17日(火)発売 オンラインストア・写真展会場にて販売
価格 8,800(税込)
A4変形 ハードカバー 私家版
オンラインストアにて9月1日(日)先行予約開始
https://yusukeokada.stores.jp
※発売からしばらくは写真展会場及び上記直販オンラインストア限定販売
順次一般書店、小売店、ネット書店での販売を予定しています
■写真家:岡田裕介
埼玉県生まれ。2003年より、フリーランスフォトグラファーとして独立。沖縄・石垣島、ハワイ・オアフ島への移住を経て現在は神奈川県の三浦半島を拠点に活動中。 水中でバハマやハワイのイルカ、トンガのザトウクジラ、フロリダのマナティなどの大型海洋ほ乳類、陸上で北極海のシロクマ、フォークランド諸島のペンギンなど海辺の生物をテーマに活動。2009年National Geographicでの受賞を機に世界に向けて写真を発表し、受賞作のマナティの写真は世界各国の書籍や教育教材などの表紙を飾る。温泉に入るニホンザルの写真はアメリカ・ スミソニアン自然博物館に展示。国内でも銀座ソニーアクアリウムのメインビジュアルをはじめ企業の広告やカレンダーなどを撮影。