キヤノン RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM レビュー|風景を「引き寄せて撮る」楽しさ

GOTO AKI
キヤノン RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM レビュー|風景を「引き寄せて撮る」楽しさ

はじめに

こんにちは。写真家のGOTO AKIです。風景写真の撮影は広角レンズ!と思っていらっしゃる方も多いようですが、望遠ズームレンズはどうでしょう? 今回レビューするキヤノン「RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM」は、手軽に持ち運べる軽量設計ながら、88mm~336mm相当(35mm判換算)の焦点距離をカバーし、自然風景の撮影で皆さんの表現の幅を広げてくれる一本です。早速、作例を見ながらレンズの魅力を探っていきましょう。

デザインと操作性

「RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM」の第一印象は「とにかく軽い」。全長は約93mm、重量は約270gと、コンパクトな望遠ズームです。ズームリングやフォーカスリングの操作感も滑らかで、特にズーム時の引っかかりもなく、構図を素早く切り替える場面でもストレスを感じません。

デザインの特徴としては、ズーム操作により鏡胴の長さが物理的に伸びる「沈胴式」の構造を採用している点が挙げられます。焦点距離を伸ばすにつれて鏡胴が前方にスライドし、望遠端では最も長くなります。収納時はコンパクトな設計となっており、実用性と携帯性のバランスに優れています。

広角端(55mm)
望遠端(210mm)では、鏡胴が前方にせり出します。

「RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM」は、基本的にはAPS-Cサイズのセンサーを搭載したキヤノンのミラーレス機向けに設計されていますが、フルサイズ機にも装着可能です(その場合は、クロップ撮影となります)。フルサイズ機とAPS-C機を併用する場合にも柔軟な選択肢となるレンズです。

撮影範囲が広がる望遠域

このレンズ最大の特長は、望遠域の広さにあります。焦点距離は55mm~210mm、35mm判換算で88~336mm相当。この長さは、風景写真における表現の可能性を大きく広げてくれます。

例えば、山間部の風景では、広角では見落としてしまう中腹の木々や、稜線の細部を切り取ることが可能です。遠くに佇む一本の木、朝霧の中にぼんやり浮かぶ山頂など、細やかな「自然の表情」を切り取るには、この望遠域が有効です。

厚い雲間から光が差し込む夕刻の湖畔風景。55mmで光の筋や山影をドラマチックに描写。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F8 1/2500秒 ISO400
水面に映る光と影の抽象的な模様。210mmで上の写真の一部を引き寄せた作例です。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F8 1/2500秒 ISO400
色づいた葉を55mmで切り取り、背景を整理。自然の模様にフォーカスしました。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F7.1 1/50秒 ISO400
夕日と湖面の光の道を、圧縮効果を利用して描写しました。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F5 1/1600秒 ISO200
若葉の重なりと木漏れ日の光と色彩を描写。210mmで切り取っています。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F7.1 1/640秒 ISO400
入道雲を210mmの望遠域で切り取った一枚。明るい中にも明暗のメリハリが感じられます。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F8.0 1/400秒 ISO400
滝の一部をクローズアップ。細かな水の動きをシャープに描きます。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F6.3 1/640秒 ISO3200

55~210mmの焦点距離のバリエーションに加え、カメラに搭載された「クリエイティブフィルター」機能との組み合わせにより、表現の可能性は広がります。一例として「ジオラマ風」フィルターを用いた作例はどうでしょう? ズームによる画角の選択とフィルターの効果が合わさることで、より多彩なビジュアルが楽しめます。

湖岸の木々と水面を望遠で捉え、カメラ内のジオラマ風フィルターを適用。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F5.6 1/200秒 ISO125
焦点距離を210mmにして、木々の姿と水面の反射を描写。ジオラマ風フィルターが、風景を幻想的なミニチュアに変えた一枚。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F7.1 1/1000秒 ISO1000

望遠による圧縮と引き寄せ

望遠レンズならではの魅力に、「圧縮効果」と「引き寄せ効果」があります。遠くの被写体が近くに引き寄せられ、背景と前景がギュッと凝縮されたような、視覚的なインパクトを生み出すことが可能です。

例えば、秋の紅葉シーズンでは、遠方にある山の斜面と手前の紅葉した木々を同一画面に収めることで、奥行きと立体感を強調できます。また、雲海越しにそびえる山岳を切り取れば、幻想的な世界観が表現できるでしょう。風景の撮影では望遠域を利用することで、表現の幅が大きく広がります。作例を見て確認していきましょう。

滝と木のシルエット(引き寄せ+圧縮)
前景の木をシルエットで捉えつつ、背後の滝を圧縮構図で描写。望遠レンズの圧縮効果によって、距離のある要素同士がひとつの画面に密に収まり、空間に緊張感が生まれています。引き寄せの力が画面全体をドラマチックに演出しています。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F7.1 1/10秒 ISO3200
木の幹に映る葉の影(圧縮+質感描写)
木の幹に落ちた葉の影を望遠で切り取った一枚。質感のある樹皮と柔らかな影が対照的に浮かび上がっています。遠くの木の葉がつくる影も、圧縮された構図の中で一体化し、風景の中に潜む詩的な瞬間を見事に引き出してくれます。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F7.1 1/1250秒 ISO3200
光に透けるクモの巣(ボケ効果)
クモの巣に当たる光を逆光でとらえた作品。背景は美しい玉ボケで溶け、主題を際立たせています。RF-S55-210mmの柔らかく自然なボケ味が、繊細な被写体を美しく包み込んでいる一枚です。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F7.1 1/320秒 ISO800

最短撮影距離

RF-S55-210mm F5-7.1 IS STMは、望遠端でも最短撮影距離0.73m、最大撮影倍率0.28倍というスペックです。「マクロレンズ」とまではいきませんが、花や木の芽、キノコや落ち葉といった自然の小さな被写体を切り取るには十分な性能です。

特に春の芽吹きや、冬の霜をまとった草花など、被写体との距離が近い自然風景において、この近接性能は威力を発揮します。ボケ味も自然で柔らかく、主題を際立たせるのに効果的です。

木の幹に生える苔と地衣類。望遠端で木の幹に密着した苔と地衣類を撮影。微細な質感や陰影のグラデーションが、RF-S55-210mmの高い描写力によってしっかりと再現されています。背景の自然なボケと相まって、主題が浮かび上がるような表現が可能です。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM
■撮影環境:F7.1 1/125秒 ISO400

STMで動画も静寂

RF-S55-210mm F5-7.1 IS STMは静音性に優れ、フォーカス駆動時の音が小さいため、音声を同時に記録するシーンでもAF音が入り込む心配がありません。実際の使用感としてはピントの移動が非常に滑らかです。

焦点距離55mmと210mmで撮影して繋いだクリップです。
■撮影機材:Canon EOS R100 + RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM

まとめ

「RF-S55-210mm F5-7.1 IS STM」のレビューはいかがでしたか?望遠ズームレンズは遠くのものを引き寄せるだけでなく、風景の中にあるディテールや質感、光と影の繊細な変化を丁寧に描き出してくれるレンズです。その軽さと描写力で、風景写真に新しい視点をもたらしてくれるでしょう。これからの暖かな季節に向けて、普段は広角を選びがちな方も、このレンズを通して「引き寄せて撮る」楽しさをぜひ体験してみてください。

 

 

■写真家:GOTO AKI
1972年 川崎生まれ。1993~94年の世界一周の旅から今日まで56カ国を巡る。現在は日本の風景をモチーフに創作活動を続けている。2020年日本写真協会賞新人賞受賞。日本大学芸術学部 准教授・武蔵野美術大学造形構想学部 非常勤講師・キヤノンEOS学園東京校講師。

 

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