キヤノン RF100mm F2.8 L MACRO IS USM×ポートレート|大村祐里子
はじめに
2021年7月15日に発売となった、キヤノン RF100mm F2.8 L MACRO IS USM。名前の通り、マクロレンズです。今回は、EOS R5にこちらのレンズを装着してポートレートを撮影してみました。当記事では、マクロレンズの機能を一つずつご紹介するのではなく、マクロレンズである当レンズをポートレート撮影に使ったらどういったところが面白かったか、という視点でお話させていただきます。
SAコントロールリングでボケ描写を変える
F2.8の100mmマクロ、という観点でみると、かなりスリムな印象である当レンズ。手が相当小さい私でもしっかりとホールドできます。現場に手伝いに来てくれた人も「これで100mmなのですか!小さいですね!」と驚いていました。
このレンズの特筆すべきポイントは「SAコントロールリング」です。公式HPを見てみると、SAコントロールリングとは、リングを回すことで、SA(Spherical Aberration:球面収差)を変化させ、ボケの輪郭をやわらかくしたり硬くしたり自在なボケの描写を可能にするもの、とのこと。
実際に、同一シチュエーションでSAリングの回転方向を変えてみて、その描写を比較してみました。まずはSAコントロールリングを動かさず、ノーマルな状態で撮影したものをご覧ください。
次に、リングを「-」方向いっぱいに回転させてみました。背景がグルグルと柔らかくボケて、全体的にソフトフォーカスがかかったような雰囲気になりました。
今度は、リングを「+」方向いっぱいに回転させてみました。背景の玉ボケの輪郭がクッキリとして、ボケの主張が強めな印象になりました。全体的にソフトフォーカスがかかったような雰囲気なのは、さきほどと似ています。
このように、当レンズはSAコントロールリングを回転させることで、本当に同じレンズなの?と驚いてしまうほど、異なるボケの描写・ソフトフォーカス効果が楽しめます。その点が非常に個性的で面白いなと感じたので、この日は当レンズのボケの描写やソフトフォーカス効果を存分に取り入れた作品づくりをしたいなと思いました。
ノーマルな状態で撮ってももちろん良い!
と、ここまでSAコントロールリングを回転させる話ばかりしてしまいましたが、もちろんノーマルな状態で撮っても、とても良いです。線がスッキリとしていて、キヤノンらしい描写だなと思いました。個人的には自分の作風に合っていて好みです。
100mmという焦点距離ゆえに歪みもほとんどないので、マクロレンズという名称ではありますが、ポートレート撮影でも大変使いやすいレンズだなと思いました。
ソフトフォーカスを生かした優しい絵作り
この日のモデルさんは女性らしい雰囲気で、お花を持っていただいたらさらに柔らかい空気をまとわれるようになりました。その空気感が伝わるような作品にしたいなと思い、SAコントロールリングを「+」に回転させて、背景とモデルさんのお顔はちょっと硬めに描写してしっかりと見えるようにし、逆に手前のお花は大きくぼかして、柔らかさが出るようにしました。
今度は、先ほどと反対に、お花を主題にして、モデルさんが背景に佇んでいるような構図にしました。SAコントロールリングを「-」に回転させて、背景は大きくぼかしながら、手前のお花はある程度見えるようにしました。
キラキラとした木漏れ日をバックに微笑むモデルさんが眩しかったので、SAコントロールリングを「+」に回転させて、背景の玉ボケをあえて強調してキラキラ感を高めてみました。ソフトフォーカス効果ゆえのハイライトのにじみが、私の感じた眩しさをうまく表現してくれたように思います。
太陽を背に、お花を覗き込むモデルさんが輝いて見えました。お花や表情感はしっかりと描写しつつ、背景はなだらかにぼかして、私がこの場所で感じた空気をそのまま写し取りたいと思いました。SAコントロールリングを少しだけ「-」の方向に回して、過剰にボケないようにし、適度なソフトフォーカス効果が残るくらいの絵にしています。
リングの回転加減で、ボケやソフトフォーカスの量を調節できるのはとても良いなと思います。
パーツのアップもおまかせあれ
当レンズは撮影倍率1.4倍、最短撮影距離:0.26mのマクロレンズです。ゆえに、マクロ撮影はお手の物。
ポートレートにおいてマクロ撮影はしょっちゅう行うものではないですが、写真を組んだときに、ときどきパーツのアップが入っていたりすると、作品全体にリズムが生まれます。
今回も、パーツに寄った撮影をしてみました。瞳にだって、こんなに寄れてしまいます。このくらいのアップの絵があると、組写真を作りやすくなるのでありがたいです。
モデルさんが見つめているものまでハッキリとわかります。レンズフードがお顔にぶつかりそうになるくらいまで寄れるので、緊張しました。
モデルさんがしていたイヤリングがかわいかったので撮影しました。「あ、いいな」と思ったパーツに躊躇なく寄れるレンズは、ポートレート撮影においてとってもありがたい存在だなと思いました。
ノスタルジックな表現にも
このレンズは、優しくて柔らかい表現だけではなく、ノスタルジックな表現も得意です。トンネルを通りがかったとき、そこを歩くモデルさんを「柔らかくて優しい」というよりは、どこかノスタルジックに感じました。その感じをこのレンズで表現できないかな?と思い撮ってみたところ、まさに私が思い描いていたような絵になりました。
ソフトフォーカス効果と大きなボケは、どこか昔懐かしい雰囲気の写真に仕上げてくれます。モノクロにしてみると、よりそれが誇張されるように思います。
ショートムービー
4K・DCI(4096×2160)、通常画質、29.97fps、Canon Logで撮影しています。全編、手持ちです。レンズの描写を生かして、ふんわりと優しい雰囲気に仕上げてみました。
おわりに
一本で、様々な描写が楽しめるRF100mm F2.8 L MACRO IS USM。マクロレンズとしてはもちろんですが、ポートレートを撮影するためのレンズとしても、非常に優秀だと思いました。ノーマルな状態でも良いですし、SAコントロールリングを活用して、大きなボケやソフトフォーカス効果を楽しまれてみてはいかがでしょうか。
■モデル:川口紗弥加
■ヘアメイク:齊藤沙織
■写真家:大村祐里子
写真家。1983年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。クラシックカメラショップの店員を経て、写真の道へ。福島裕二氏に師事後、人物撮影をメインとし、雑誌・書籍・Webでの撮影・執筆など、さまざまなジャンルで活動中。趣味はフィルムカメラを集めて、使うこと。 2020年3月に『フィルムカメラ・スタートブック』(玄光社)を出版。