キヤノン RF200-800mm F6.3-9 IS USM レビュー|撮影領域を広げる画期的な超望遠ズームレンズ
はじめに
キヤノンから2023年12月8日発売となった超望遠ズーム「RF200-800mm F6.3-9 IS USM」。いままでいろいろな超望遠ズームを利用してきましたが、RFズームレンズで最長焦点距離(2024年1月現在)となる800mmまでカバーできることに魅力を感じ、さっそく注文。さいわい、発売日に入手できましたので、タンチョウの撮影を中心に一ヶ月ほど使ってみた感触をネイチャースナップ的視点からレポートしていきます。
800mmって何に使うの?
800mmなんて、何に使うの?と思う方もいるかもしれません。でも、私にとって800mmという焦点距離は待ち望んでいたものでした。いきものの撮影をするときに一番気をつけているのが、いきものの行動を妨げないこと。適度に距離をおいて静かに撮ることで、いきものが自然な行動を見せてくれるようになるので、動きを視認できる程度ならいくら離れていてもいいのです。
▼画角比較
また、地元でライフワークとなっているタンチョウの撮影でも、タンチョウが遠くにいるときに良いポーズをすることもあり、もっと望遠が欲しいと思うこともありました。そんなシーンでは、今まで使ってきた望遠端600mmのレンズよりも200mm焦点距離が長くなったことでイメージ通りに撮れることも多いのです。
APS-Cとの組み合わせでさらに画角は狭くなり、フルサイズ換算では1280mm相当の画角が得られます。ズームであることで構図の微調整や風景的な撮影も可能で、まさにネイチャースナップにピッタリのレンズだと感じています。
操作性について
手にした第一印象は、サイズの割に軽くてびっくりしました。実際には約2.05kgあり軽いとはいえないのですが、似たようなサイズのSIGMA 60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSMは3Kg近くあり、RF200-800mm F6.3-9 IS USMは1kgほど軽いです。TAMRONのSP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2とほぼ同じ重さですね。EOS R5と組み合わせてもホールディングバランスは良く、長時間の手持ち撮影も可能です。鏡筒が伸び縮みしてもバランスは変わらないです。
鏡筒のサイズはやや太めで、手が小さい私にとっては手持ち撮影で操作できるギリギリの太さというところです。ズームリングの回転角は180度近くあり、200mmから800mmまでワンアクションで回転させるのはちょっと厳しくズーム域の広さを感じます。
実際の撮影時には、おおよその目的となる焦点距離にしておいて、微調節して構図を整えるようにすると実用的です。400-800mmとか、300-600mmで使うような感じです。ズームリングの回転の重さは調整リングで「スムース」と「タイト」に変更出来ますが、私は軽く動かせるスムースの状態で使っていて、移動時にロック代わりにタイトにするようにしています。
操作スイッチはシンプルで、フォーカスモード/コントロールリング切り替えスイッチと手ブレ補正スイッチ、レンズファンクションボタンとなっています。特殊な撮影をすることがなければ、これらを切り替えることもない感じです。
▼レンズのサイズ比較
描写の印象
一番興味があったのが、800mmでの描写力。撮影現場でもこのレンズを持っていると、「写りはどうですか?」と聞かれることが何度かあって、皆さんも気になるところだと思います。
800mmでの開放絞り値はF9と正直明るいとはいえないので、基本的にいつも開放絞りで撮影することになります。また、これまで各社から出てきた超望遠ズームは600mmまでで、それを大幅に超える焦点距離を持つことで、ある程度は甘い描写だとしても仕方ないと考えていました。
でも、安心してください。
実際に撮影してみると望遠端800mmでも十分な解像力と描写性を持っていて、これまで使ってきた600mmクラスの超望遠ズームと同等かそれ以上の描写でした。
ただ、800mmなどの超望遠域での撮影では、被写体までの距離と空気のコンディションが重要で、画角が狭いからとあまり遠景を引き寄せて撮ろうとすると、空気の揺らぎによってピントのない像になってしまいます。空気の状態にもよるのですが、シャープさを求めるのであれば、せいぜい20~30m以内の被写体を狙うようにすることが必要です。
広角端200mmではかなり解像感も高く、風景を撮影したときにはLレンズと比べても遜色がない感じがしました。風景の望遠域から小鳥などを狙う超望遠域まで、十分な描写が得られる利用範囲の広いネイチャースナップ向きのレンズという感想です。
逆光時の撮影でもゴーストやフレアは出にくいものの、焦点域の関係でレンズフードが短いため、画角からギリギリ太陽が外れるようなときに強く出てくることがありました。必要に応じてハレ切りや延長フードを自作するなど対応が必要なこともあります。
最短撮影距離など近距離でもしっかりした描写をしてくれます。ただ、望遠から超望遠という焦点距離のため、被写界深度はかなり浅くなっていて、注意が必要です。逆に大きなボケを活かした画面構成をするには向いていますが、しっかりピント合わせをしないといけません。
手ブレ補正について
焦点距離が長くなった分、カメラブレが起きやすくなってしまうので、手ブレ補正(IS)の効果も気になるところです。私は手持ち撮影が多いので、基本的にシャッター速度を速くするように設定していますが、800mmでの撮影では1/125秒程度以上のシャッター速度であれば、安定してブレを抑えてくれています。
それ以下になると、何枚か撮影しておけばぶれていないカットが得られるという感じでした。キヤノンからは具体的に何段分の手ブレ補正効果があるとアナウンスされていないので、過信せずに自分なりにブレにくいシャッター速度を調べておくと良いと思います。
ただ、タンチョウの飛翔シーンなど動体撮影では、ちょっと戸惑うことがありました。ISのオン・オフは切り替えできますが、ISモードの1と2の切り替えがなく、どうも動体撮影時にギクシャクしてしまうことがあるのです。とくに進行方向が一定ではない時が苦手な感じで、慣れが必要に思いました。ISが大きく働いたときは描写が甘くなる感じがありますが、このあたりは他社の手ブレ補正でも起きるので、よりスムーズに被写体を追えるよう練習する必要がありそうです。
RF200-800mm F6.3-9 IS USMはEOS R3の「流し撮りアシスト」や、EOS R7・EOS R8などの「流し撮りモード」に対応しているので、対応ボディを最新のファームに更新すればより快適に撮影できるものと思いますが、残念ながら記事公開時ではEOS R5は未対応となっています。
使っていて気になったこと
このレンズの本来の使い方とは違うかもしれませんが、ネイチャースナップで多用する望遠マクロ的な近距離側での撮影では、いくつか気になったことがありました。
まずは最短撮影距離が分かりにくいことです。焦点距離によって最短撮影距離が変化し、200mm時0.8m、800mm時3.3mとなっています。同時に距離目盛りが省略されているので、望遠マクロ的な撮り方をするときに被写体までの距離の判断がしにくいのです。
また、ミラーレス一眼全般にいえることなのですが、近距離のAFが苦手な感じがしていて、一度奥のものにピントが合ってしまうと手前のものにピントを合わせ直すのに苦労します。そのときは自分の足下にレンズを向けてピントを近距離側にしてからカメラを構え直すなどの対応をしているのですが、フォーカスリミッターやフォーカスプリセット機能があればもっと楽に撮影できるのに、と思いました。
レンズファンクションボタンにそのような機能の割り当てがないかと調べてみましたが、残念ながら無かったので、可能ならファームウェアのアップデート時に機能追加して欲しいところです。
EOS R5との組み合わせでは、カメラのグリップとレンズの隙間はかなり狭く、寒冷地での撮影で厚手の手袋をしていると指を入れるのがギリギリになります。中指が当たる感じがあり、あまり心地よい状態ではありません。知人が持っているEOS R3ではかなり余裕があったのですが、コンパクトなボディと組み合わせたときには窮屈になってしまうことがあると思います。
使いこなしのためのプチアドバイス
大きく移動する被写体を撮影しているときは、露出はマニュアルで設定することが多いです。オートだと背景の状態によって大幅に露出が変化して、失敗してしまうからです。RF200-800mm F6.3-9 IS USMは開放絞りで撮影することが多いのですが、開放絞り値が焦点距離によって変化するために一工夫必要です。
そんな時は、EOS R5では「C.Fn2」タブの「絞り数値変化時の露出維持」をオンにしておくのがおすすめです。ズーム操作に合わせて絞り値が変わった場合に、シャッター速度やISO感度をシフトして同じ露出を維持してくれます。変更するのはシャッター速度、ISO感度の他、シャッター速度とISO感度の両方をシフトさせることもできます。こうすることで、安心して開放絞りで撮影を続けられます。
最後に、これは仕方ないことですが、開放F6.3-9ということで暗いところでのAFはやはり苦手で、使うシーンを選ぶことも必要です。晴天時でも影ばかりの暗い森のなかではAFがうまく働かないことがありました。どのくらいの明るさまでAFが働いてくれるのか、皆さんそれぞれの撮影シーンのなかで把握しておくことは必要だと感じました。
まとめ
800mmという超望遠の世界を手軽に持ち運べる画期的なズームレンズの登場は、また撮影領域を広げてくれました。いきものの撮影では、これまでよりも一歩引いた離れたところから撮影が可能となるので、いきものにストレスをかけずに自然な姿を撮らせてもらえるようになるはずです。
また、近づけないからと今まで見過ごしていた被写体を再発見するきっかけにもなると思いますので、被写体を限定せず、いろいろなところにレンズを向けてみると良いと思います。
まだ北海道は雪景色ですので、暖かくなったら花や虫などもこのレンズで撮って皆さんにお見せしたいと思っています。ぜひご期待ください。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。