キヤノン RF400mm F2.8 L IS USM × 鉄道|村上悠太
はじめに
カメラ、レンズ共にラインナップが出そろってきたEOS Rシステムに新登場した、本格派超望遠レンズたち。画質はもちろんのこと、お値段も本格派ですが、ズームレンズでは決して味わえない孤高な解像感とヌケの良さはぜひ一度体験してほしいと感じる素晴らしさを持っています。今回はそんな超望遠レンズから、RF400mm F2.8 L IS USMの使用レポートをお届けします!
見た目から想像できない!?激軽ヨンニッパ!
かつては400mmという焦点距離自体が一般的ではないレンズでしたが、最近ではRF100-400mm F5.6-8 IS USMやRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMの登場で、身近に感じる焦点距離のようにも思います。特に被写体に近づくことのできない鉄道では、走行シーンを撮影する際には望遠レンズが“標準レンズ”ともいえるぐらい必須の焦点距離です。
RFレンズの望遠ズームレンズも非常に性能が高く、僕自身、普段はRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMを愛用しています。でもね・・・だからでしょうか、使うと実感しちゃいますね。やっぱすごいんですよヨンニッパは!!(400mmF2.8だからヨンニッパ)あらゆる焦点距離をカバーするズームレンズに比べ、固定された焦点距離にのみ特化した光学系に設計することができる単焦点レンズはいわばその焦点距離のプロフェッショナル!仕上がってくる画の違いが一目でわかるほど、クオリティに差が出ます。
RF400mm F2.8 L IS USMは全長約367mmとかなり大型のレンズ。しかしながら持ってみるとその軽さにびっくりします。重量は約2890gと、見た目のインパクトとは正反対にかなり軽いんです!キヤノンの超望遠単焦点レンズはEFレンズ時代からモデルチェンジを繰り返してきましたが、その度画質はもちろん、レンズ自体も大幅に軽量化がされてきました。
鉄道ではこのクラスのレンズを使用する場合は三脚を併用することが主ですが、飛行機撮影など手持ちで使用されることが多いジャンルではこの軽さは大きなアドバンテージになるはずです。鉄道でも撮影する現場まで運搬することを考えたら軽いに越したことはありません。
1本で3度おいしい?F2.8が持つ大きな魅力
もう一つ、このレンズならではの魅力をご紹介したいと思います。F2.8の大口径を持つこのレンズはエクステンダーとの相性もとてもよいのも大きな魅力。エクステンダーを使用すると焦点距離を伸ばすことができますが、その分開放F値が暗くなります。EOS Rシリーズは開放F値がF22でもAFが使用できる上(一部制約があります)、高感度撮影の性能も向上しているため、開放F値がそこまで明るくないレンズでもエクステンダーを使用するハードルは高くありませんが、それでも開放F値が明るいのはメリットもたくさん。
RF400mm F2.8 L IS USMはEXTENDER RF1.4x、EXTENDER RF2xの両方に対応しており、これらを使用することでそれぞれ560mmF4、800mmF5.6のレンズとしても使用できます。2倍のエクステンダーはF値が2段暗くなりますが、それでもF5.6というのはかなりの明るさです!
実写レポート!その実力は!?
そんなRF400mm F2.8 L IS USMと共に新緑の鉄道撮影に出かけてきました!
三重県を走るJR東海名松線。路線の総延長はそこまで長くありませんが、風光明媚で折々の風景が楽しめる路線です。普段は広角~中望遠あたりで風景を多く入れ込んだ引きの構図で撮影することが多い名松線ですが、今回はRF400mm F2.8 L IS USMでトンネルから出てきた列車を大胆にアップにしてみました。このキハ11という車両もややレアな車両なので、こうした狙いも少しアリかな、という印象です。実はこの1枚、撮影地に移動中に列車を見かけたので慌てて構えて撮影した1枚。三脚を立てる余裕がなかったので手持ち撮影をしていますがレンズの軽量化が効いています。ピントはサーボAFにし、カメラにおまかせ。列車を引き立てたかったので絞りは開放のF2.8に設定し、手前の新緑を大きくボカしてみました。どこかやわらかく、それでいてピント合致面はシャープな描写がこのレンズの持つ大きな魅力です。
また、慌てて構えた際にふと気が付いたのがレンズとボディの剛性でした。これまでもマウントアダプターを介して、EF400mm F2.8L IS III USMを使用することが度々あったのですが、その際にちょっと気になったのがマウント部分の剛性でした。軽いとはいえある程度の重量があるレンズなので、できればボディにダイレクトにレンズを取り付けたいなーと感じていました。エクステンダーをかけるとレンズ+エクステンダー+マウントアダプターとなるので、より強く感じます。細かな点ではありますが、こうした箇所もRF400mm F2.8 L IS USMのうれしいポイントのように感じます。
続いては長野県を走る中央本線の新緑です。中央本線というと東京にお住まいの方は東京~高尾間を走るオレンジ色の電車のイメージが強いかもしれませんが、実は東京から塩尻を通って名古屋を結ぶ長大路線です。信州の山地を行く路線で、名松線同様に四季の風景が楽しめる路線です。塩尻を境界に東側がJR東日本、西側がJR東海と2社のJRが受け持っている路線でもあります。今回、向かったのはJR東海側の中央本線。西側ということもあり、「中央西線」と呼ぶ方もいらっしゃいます。この区間には名古屋~長野を結ぶ特急しなのが1時間に1本のペースで運行されており、都市と都市を結ぶ大切な使命を請け負っています。
季節はちょうど芽吹き!様々な緑が山を彩っていました。この場所は引きの構図でも撮影できますが、鉄橋の部分を400mmでアップにして撮影しています。細かな葉っぱや枝木まできちんと描写したく、カメラは約4500万画素のEOS R5を組み合わせました。新緑のきらめきを表現したかったので半逆光の時間帯に撮影してます。必然的に列車が大きく写るだけでなく、真横に近いこの角度は最も動体ブレが起きやすい状況です。特に高画素機はブレが目立つ傾向があるので、いつもより速めのシャッター速度をチョイスしました。
続いても中央本線から。山間を行き交う列車を撮影しています。手前に残るのはヤマザクラでしょうか。奥の花がまだ残っている木々との対比と季節が移り替わる狭間のようなものをテーマにして撮影してみました。最近では花や新緑、紅葉、雪景色など「盛り」の時期ではなく、こうした狭間の時期が気になっています。
このシチュエーションでは手前の木々にもピントを合わせたかったのでF16まで絞り込み、被写界深度を深くしています。その分シャッター速度が下がり、動体ブレ以上にカメラブレも気になってきますが、RF400mm F2.8 L IS USMのIS(手ブレ補正機能)はシャッター速度約5.5段分。強力にブレを防いでくれました。この写真のように列車の上に電線がある「電車」の区間で俯瞰撮影をする場合、どうしても列車に電柱や電線が架かります。ただ、極力列車の顔を抜くことのできる「隙間」を探して撮影するのがポイントです。今回は偶然にも対向列車も登場し、「行き交う」様子が撮影できました。
超望遠レンズならではの表現でもある「トンネル越しの列車撮影」。短いトンネルを出口から撮影し、あたかもトンネル内で撮影したような写真が撮影できます。こちらも中央本線なのですが、山道のトンネルらしくきれいなS字を描くトンネル内のレールを副題に撮影しています。この時もF値は開放のF2.8。シャッター速度を確保したいという狙いもありますが、どちらかというときらめくレールのボケを活かしたかった思いが強く、絞りを開放にし、被写界深度を極力浅く設定しました。
レール面は列車が来るまで真っ暗なので、やや構図を作るのが難しいところですが、列車が来る前にあえてかなりオーバーで撮影してみたり、EVFの「露出シミュレーション」をオンにし、構図を作る際にオーバー目の露出値を設定したりすると、やんわりとトンネル内のレールの様子が見えてくるので、これを参考に構図を決めています。また、ピントはトンネルの入口からやや入ったレール部分に置きピン(あらかじめピントを合わせて列車を待つ手法)をして合わせています。
RF400mm F2.8 L IS USM + EXTENDER RF1.4xの組み合わせで540mmとし、夜迫る森に向かう、そんなイメージで撮影してみました。ISO感度を8000まで上げてもシャッター速度は1/15秒とかなり暗いシチュエーションです。ただ、これもエクステンダーを付けるマスターレンズが暗ければ、よりシャッター速度を下げるかISO感度を上げなくてはいけません。こうしたシーンではF2.8のアドバンテージを強く感じます。
1/15秒だと通常、列車はブレてしまいますが、正面に近い角度から超望遠レンズで圧縮して撮影することで、見かけ上の列車速度を遅くすることで写し止まって見えるようにしています。ミラーレスカメラは一眼レフカメラに比べ、シャッター時のミラーショックがない分、カメラブレには強いですがそれでもこうした条件下ではレリーズを使っていたとしてもむやみに連写せずに、1枚1枚間隔をあけて撮影したり、電子シャッターを使ったりして極力カメラブレを防ぎましょう。
在来線以上に近づくことができない新幹線の撮影ではむしろ400mm域はスタンダードな焦点距離ともいえます。同じ場所でかつてRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMなどでも撮影したことがありますが、さすがは単焦点レンズ。圧倒的な解像感とヌケ感は撮影直後のモニターの段階ですぐに実感できました。
そしてEXTENDER RF2xを付けて800mmで撮影したのがこちらです。ピントは「顔+追尾優先AF」でヘッドライト部分にロックオン!列車が来る前にある程度列車がアップになった際の見え方を想像して構図を作っておき、最終的にはファインダーでのぞきながら微調整して撮影してます。AFの精度も暗いレンズよりも明るいレンズのほうがより確実に安定した追従をしてくれるので、単に描写力だけではない、F2.8の底力のようなものを体感できました。
近代的なデザインが特徴の西武鉄道のフラッグシップトレイン「Laview」。前面の丸い窓とイエローの座席が際だつ明るい車内と、雨降る暗い夜の対比をテーマに撮影してみました。列車がブレないギリギリのシャッター速度を設定して撮影しています。こうした暗いシチュエーションもシンプルに明るいレンズが大活躍するシーンです。車内の明かりと屋外の露出差が少なくなるこの時間帯に撮影すると、車内のようすまで1枚の写真に写し込むことができます。
まとめ
その価格帯から一般的、とは言いにくいレンズですが、確かな高性能とズームレンズとは一線を画す描写力は間違いなく孤高のクオリティを持つレンズです。まずはズームレンズを使用してみて、400mmでの撮影が多いようであれば、本格的に検討してみるのもおすすめです。
■写真家:村上悠太
1987年東京都生まれ。鉄道発祥の地新橋でJR発足年に生まれた。日本大学芸術学部写真学科卒業。「ひとと鉄道、そして生活」をテーマに制作活動を行う。鉄道旅を通して日台観光促進、相互交流にも携わり、2019年台湾観光貢献賞(台湾政府 観光局)を受賞。高校時代には、毎夏北海道東川町で開催されている「写真甲子園」に出場し、2019年開催大会では出場者で初めて審査委員を務める。