キヤノン RF50mm F1.2 L USM|「撮る」より「感じる」50mm単焦点とF1.2が作り出す世界

中西祐介
キヤノン RF50mm F1.2 L USM|「撮る」より「感じる」50mm単焦点とF1.2が作り出す世界

はじめに

今回レビューするのはキヤノンRF50mm F1.2 L USMです。これまでキヤノンからはEFレンズを含めて数多くの50mmレンズが発売されてきました。それだけ単焦点50mmレンズは多くのユーザーからの支持を得ているということだと思います。少し古い話になりますが私が写真学生だった頃、50mmは写真の基礎を固めるためのレンズで、初心者は50mmから始めた方がいいという認識がありました。現在は高性能な小型軽量のズームレンズが多く発売され、それは過去のことになったかもしれません。しかし今でも私にとって50mmは写真の面白さを再認識させてくれる特別なレンズです。RFレンズでは現在RF50mm F1.2 L USM、RF50mm F1.4 L VCM、RF50mm F1.8 STMの3本がラインナップされていますが、その中からRF50mm F1.2 L USMをピックアップします。

■撮影機材:キヤノン EOS R6 Mark II + RF50mm F1.2 L USM
■撮影環境:1/3200sec F1.2 ISO100

50mm単焦点の面白さ

50mmという焦点距離は肉眼で見ている世界に近いと言われています。先にも述べましたが、私が写真学生時代に50mmは写真を撮る上で一番基本になるレンズと教えられてきた理由はここにあります。ファインダーを通してみる前に自分の目で被写体をしっかりと観察しなさいという教えだったのだと感じています。また単焦点レンズの中でも標準的な距離となる50mmは使い方によって、広めの画角を撮れたり、被写体によって背景をぼかして中望遠のような効果を出したりと、撮影者の動きによって様々な撮影が可能になります。ズームレンズにはない不便さが新しい発見を生み出すことも多くあります。現在は撮影場所や時間の制約を受ける取材撮影ではほぼズームレンズでこなしてしまうケースが増えていますが、マンネリ化を防ぐために単焦点レンズをいつもバックに入れて、自分が何か忘れてしまっているものがないかを確かめる作業をしています。

■撮影機材:キヤノン EOS R6 Mark II + RF50mm F1.2 L USM
■撮影環境:1/400sec F2.5 ISO100

また被写体と自分の距離を肌で感じながら撮影できるのも単焦点50mmのメリットかもしれません。50mmという焦点距離から得られる程よい距離感が被写体とのコミュニケーションを円滑にしてくれることもありました。自分から動くことで少し違った世界を見ることが出来る面白さも50mmレンズならではだと思います。35mmや85mmなど様々な単焦点レンズがありますが、50mmという距離感はどこか独特で写真を「撮る」というよりも「感じる」要素が強くあるのだと思います。これが50mmレンズが多く支持される理由なのかもしれません。

■撮影機材:キヤノン EOS R6 Mark II + RF50mm F1.2 L USM
■撮影環境:1/2000sec F1.6 ISO100

開放F値F1.2の世界

私は新しいレンズを使用する際に一番重要視しているのが絞り開放時の使い勝手です。絞り開放から1段、2段絞ると画質が向上すると言われますが、せっかく開放F値が明るいレンズを使うのなら一番明るい状態で使いたいのです。これはレンズにとっては一番条件が厳しい状態で使用することになりますが、高いコストをかけてレンズを購入する理由は他のレンズにはない明るさや画質、それに連動したボケ味を体感できるためです。

もちろん何を撮りたいのかによって絞りを変えることもあります。開放F1.2を実現したRFレンズは50mm F1.2 L USMと85mm F1.2 L USM、(DSも含む)しかありません。ズームレンズで明るいとされるF2.8とF1.2では表現できる世界が違います。大きく、滑らかなボケ味を実現し、写真の中に奥行きを出すことができます。F2.8でもボケ味が大きいと思っていましたがF1.2は全く違う世界です。仕事で人物(特に屋外)を撮影している際もクライアントからボケ味については高評価をいただくことが多いため、近年は可能な限り単焦点レンズ(50mmや85mm F1.2)をメインに使用しています。フォーカス部分を拡大していくと見せたい部分はキリッとピントがあり、そこからアウトフォーカスしていくグラデーションはとても美しいです。開放F値から素晴らしい描写をしてくれるレンズはとても信頼をおくことが出来ます。また逆光時のフレアも少なく、大変使いやすいです。少し引いて撮れば風景の要素を入れ込んだ写真になり、寄って撮影すれば背景を生かして人物が浮き上がるポートレートのような撮影も出来ます。

■撮影機材:キヤノン EOS R6 Mark II + RF50mm F1.2 L USM
■撮影環境:1/640sec F2.5 +2EV ISO640

さらに私が特に意識しているのは前ボケのコントロールです。これは平面である写真の中に奥行きを感じてもらうことで一層写真の世界に入り込んで見てもらえるようにするためです。写真(静止画)は映像(動画)と違い、時間の尺を使って見せる表現方法ではないので情報量が限られます。その良さを生かすためにも平面である写真の中に奥行きを作り、写真の世界に入り込んでもらえることを意識しています。そのために大きなボケを作れるF1.2という絞りが撮影の幅を広げてくれるケースがあります。同時に開放絞りが明るいことで、写真にある厩舎内のように限られた自然光を生かして撮影することが可能となります。写真では明るく見えていますが、実際は撮影を諦めてしまおうかと思うくらいの条件でした。F2.8クラスのレンズでは高感度性能に頼ったとしても厳しい条件だったと思います。このようにこれまでは目を向けていなかった世界にもチャレンジする楽しみを与えてくれるのがこのレンズなのだと思います。

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF50mm F1.2 L USM
■撮影環境:1/160sec F1.2 ISO200

EF50mm F1.2 L USMからの進化

RF50mmには二つのLレンズがあります。後発のRF50mm F1.4 L VCMも大変気になるレンズですが、こちらはまだ使用していませんのでRF50mmF1.2 L USMのスペックを見ていきます。開放F値については上記でお伝えした通りです。その他で気になる点は最短撮影距離と最大撮影倍率です。最短撮影距離はEF50mm F1.2 L USMから5cm短縮しました。それによって最大撮影倍率は0.19倍になります。この5cmはとても大きな差で、被写体に寄って撮影した際の「もう一歩寄りたい」を解消してくれます。

またRFレンズになり、光学設計も最新になりました。EFレンズ+アダプターでは得られないRシステムに最適化した光学設計となったことでAF、画質の両方で快適さが増しました。デュアルピクセルCMOS AFとレンズ制御の最適化によって、開放絞りで撮影していてもフォーカスでストレスが溜まることはありませんでした。私は撮影を全てマニュアルモードで行うのでRFレンズから導入されたコントロールリングにISO感度を割り当てて、右手はシャッター速度と絞り、左手で感度変更を行なっています。絞り羽根がEFレンズの8枚からRFレンズでは10枚となり、より美しい円形絞りが実現できている点も好感触です。

■撮影機材:キヤノン EOS R3 + RF50mm F1.2 L USM
■撮影環境:1/5000sec F1.2 ISO100
■撮影機材:キヤノン EOS R3 + RF50mm F1.2 L USM
■撮影環境:1/3200sec F1.2 ISO100

まとめ

RFレンズには様々なズームレンズがあり、レンズの選択肢も増えました。それらと比べれば撮影できる領域や利便性を感じる場面は少ないかもしれません。しかし50mmというレンズは写真の面白さ、発見する楽しさを再認識させてくれるレンズだと思います。RFレンズには異なる3本のレンズがラインナップされていますので、目的に応じて選択が出来ます。RF50mm F1.2 L USMはその中では一番高価なレンズで他の2本と比較して小型軽量という点では劣りますが、開放絞り1.2の世界は他のレンズでは見ることが出来ない独特な世界を撮ることが可能です。あえて希望を言うならばこのサイズと価格のままで手ブレ補正(IS)が搭載してほしいと思いますが、現時点では最高の50mm単焦点レンズと言えそうです。

■撮影機材:キヤノン EOS R6 Mark II + RF50mm F1.2 L USM
■撮影環境:1/1600sec F1.6 ISO100

 

 

■写真家:中西祐介
1979年東京生まれ 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。講談社写真部、フォトエージェンシーであるアフロスポーツを経て2018年よりフリーランスフォトグラファー。夏季オリンピック、冬季オリンピック等スポーツ取材経験多数。スポーツ媒体への原稿執筆、写真ワークショップの講師も行う。現在はライフワークとして馬術競技に関わる人馬を中心とした「馬と人」をテーマに作品制作を行う。
日本スポーツプレス協会会員
国際スポーツプレス協会会員

 

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