キヤノン RF600mm F11 IS STM レビュー|鶴巻育子
はじめに
先に価格のお話をするのは品がありませんが、このRF600mm F11 IS STMは10万円を切る信じられない価格で手に入ります。ちょうど2021年7月15日に発売予定のRF600mm F4 L IS USMの価格を見ればお分かりの通り、通常、超望遠レンズは100万、200万は当たり前の世界です。プロのスポーツカメラマン、動物や飛行機を専門とする写真家、あるいは、余裕のある人など、限られた人のための特別なレンズだったはずです。
超望遠レンズをなぜ私がレビューするかと言いますと、現在鳥の撮影に夢中になっているからです。もともと鳥好きだった私は、都内ですが緑が多い場所に引っ越したことを機に、双眼鏡を購入しバードウォッチングを始めました。写真家なら気になったモチーフがあればすぐに撮影しそうなものですが、鳥の撮影には、超望遠レンズが必須。大きくて重いレンズが得意でない私は、気が進みませんでした。そもそも、高くて簡単に買えない。
RF600mm F11 IS STMは超望遠レンズにしてこの価格。普通じゃないレンズの魅力と実力を紹介したいと思います。
普通じゃない超望遠レンズ
その1 軽量コンパクト
価格もビックリですが、サイズにも注目したいと思います。質量はたったの約930g、長さが269.5mm。なぜ、こんなにコンパクトなサイズが実現できたのでしょうか。
RF600mm F11 IS STMでは、DO(Diffractive Optics)レンズと沈胴機構を採用しています。DOレンズは、1枚で通常のレンズ複数枚の色収差を補正できる効果があり、非球面レンズの性質を併せ持っているため採用するレンズの枚数を軽減でき、その結果小型軽量化が実現しています。さらに、絞り調整機構を非搭載とし、外装やパーツに強化プラスチックを採用することで軽量化を図りました。
600mmレンズとは思えないコンパクトさ。一日中持ち歩いても全く苦になりません。今までにない、デイリーユースな超望遠レンズです!
野鳥を撮影するきっかけとなったツミ。今年も近所に巣を作りました。ツミが枝から枝へ移動するのを追いながら、手持ちでフットワークよく撮影できます。
その2 F11固定
このレンズ、絞りがF11固定です。なぜF11なのか? EOS R5・R6に搭載されているセンサー、デュアルピクセルCMOS AF IIが可能なAFは開放F22まで。エクステンダー装着を考慮し、開放F11がベストと言う結果になったそうです。
絞りの調整ができないレンズに、私もはじめは物足りなさと些かの不安を感じていたのは事実です。しかし、600mmの超望遠なら、被写体と背景の距離の距離関係はありますが背景はボケやすいと思えば、絵作りに支障はないと考えました。また、ミラーレスはEVFファインダーですので、一眼レフと違い絞り値が大きいとファインダーが見えづらくなる心配もありません。
オナガだと思いますが、雛にご飯を与えている瞬間です。背景が美しくボケていて、オナガの親子の可愛らしい姿が際立ちます。
高感度
素早い動きをする鳥を写し止めるには、早いシャッタースピードを確保しなければなりません。枝に止まっている鳥でも翼の動きを止めたければ、1/500は欲しい。絞りF11固定ですので、高速シャッタースピードを確保したい場合、晴れていてもISO感度を上げる必要があります。そこで懸念されるのが画質ですが、高感度に強いEOS R6との組み合わせで、低ノイズの綺麗な画像が得られます。とは言え、なるべく低感度で撮りたいのは正直なところです。
そこで、コントロールリングが活躍します。私のオススメはISO感度の割り当てです。シャッタースピードを確認ながらISO感度を調整し、極度に高いISO感度での撮影をできるだけ避けています。シャッタースピードを割り当てる手もありですが、常にISO感度を意識するのは忘れないように。
毛がモコモコしていて、あどけない仕草をみるとカラスの子どもでしょうか。晴天でも高速シャッタースピードを確保するためにISO感度1600。ノイズは全く発生せず、お腹や頭の毛の柔らかさや光によって黒光りしている翼の質感が潰れることなく美しく再現されています。なぜか、口を開けたまま上を向いている姿勢を数分間続けていました。かわいいです。
元はカラスの巣だったみたいですが、空き家になったためツミが使っています。真上に向けてカメラを構えると不安定になりブレやすくなるので、敢えてISO感度を12800に設定して撮影してみました。さすがにノイズが出てきました。とはいえ、絵柄のせいか、あまり気にならないです。
外装、デザイン
「はじめに」でも述べたように、超望遠レンズは高い!と言うイメージを覆す驚きの低価格。低価格実現の理由は、上で記したDOレンズ採用やF11固定の割り切った構造にありますが、もう一つは外装の素材。金属を使用せず、強化プラスチックを採用したことが、低価格&軽量化に繋がっています。プラスチックの外装はチープなイメージになりやすいですが、何故か高級感を感じるのはレンズ先端に革シボ加工を施しているからでしょう。これ、見た目が良いだけでなく、ホールド感もかなり良い。手持ち撮影が基本であることを意識したデザインです。
褒めまくっていますが、見た目で気になることがひとつあります。沈胴式の構造は、撮影する時はロックを外し、レンズをびよんと伸ばします。その状態の見た目がちょっぴり不恰好。また、ロックを外し、レンズを伸ばし、ロックする、その3段階の操作をしないと撮影できないので、咄嗟に撮影したい場面で焦ることも。
また、防塵防滴ではないため、雨の日やホコリの多い場所などでは注意が必要となります。特にレンズを伸ばしているときは気をつけましょう。
手持ちで鳥の撮影が楽しい
その1 AFエリア
私は通常の撮影では、1点AFが基本の設定です。しかし、鳥の撮影となるとゾーンAFやサーボAF、顔認識などに頼ってしまいます。AF測距エリアは、画面中央・横約40%×縦約60%と範囲が狭いことや、サーボAF時の連写のコマ速が低下するのですが、私の場合、ほとんど画面中央に被写体を配置する構図を好むことと、連写を多用しないので、普段そこにストレスは感じていません。ただ、暗い場所などの低コントラストな場面では、時々ピントが合いづらいと感じることがあります。
元気よく鳴いていた雛たち。実はこの後カラスとツミに狙われてしまいました。AF方式を顔認識+追尾優先に設定すると、鳥の目にピタッとピントが合います。便利な機能を使うのは個人的に避けていましたが、鳥の撮影ではかなり重宝する機能。使わない手はないです。ちなみに、手持ちでシャッタースピード1/100ですが、ブレてません。
その2 手ブレ補正
カメラ内に内蔵されている5段分の手ブレ補正。サクサク手持ちで撮れるのは嬉しい。気をつけたいのは、手ブレが防げるからといってシャッタースピードを1/125、1/60に設定しても、動物やスポーツ撮影では、被写体ブレに注意しなければなりません。無理せず、高ISO感度に設定するのがベターだと思います。EOS R5・R6カメラ内手ブレ補正とは調和制御は対応していませんが、5段の手ブレ補正は十分と言えます。
なんと、シャッタースピード1/25で撮影しています。息止めてしっかり構えたらブレずに撮れました。ちなみに知り合いの家のネコちゃんです。
上は野生化したインコが仲良く電線に止まっている風景です。下はカラスの横を通り過ぎていくたくさんのインコたちを捉えました。超望遠レンズの圧縮効果によって建物が密集した東京らしい風景を写すことができ、被写体と被写体の重なりを狙った描写を楽しむことができます。
鳥の撮影では、できるだけ主役を画面に大きく捉えがちですが、周りの状況を入れることでスナップ的な面白さが加わります。何が被写体でも自由に撮るのが一番です。ジャンルに縛られない、時にはルールを無視することで、自分らしい写真が撮ることができると思います。
最近めっきり数が少なくなったスズメ。姿をみるとホッとします。背景の綺麗なボケで、スズメが止まっている場所が浮き上がっています。ピント部分も解像感もあり嫌味のない気持ち良い仕上がりです。
多摩川で撮影していると、向こう岸に学生たちが土手の階段を上っている姿を発見しました。こんなときに、超望遠レンズがあるとスナップができちゃう。鳥の撮影の合間に、歩きながらスナップもしています。
超望遠レンズは動物園でも大活躍です。檻の向こうにいる動物を大きく写せます。これはフラミンゴの羽の部分だけを切り取りました。ここまで寄れると、今まで見えてなかったものが見えてきてワクワクします。
まとめ
プロの道具だった超望遠レンズが、手の届く価格と持ち運び簡単な小型軽量の実現によって、誰でも気軽に楽しめるようになりました。私も写真家とは言え、このレンズがなければ鳥の撮影を初めていなかったと思います。
RF600mm F11 IS STMとRF800mm F11 IS STMの2本のレンズは、開発者の工夫と割り切りによって誕生しました。このレンズを使いこなすコツは、使う側も工夫と割り切りを持って楽しむことです。
■写真家:鶴巻育子
1972年、東京生まれ。広告写真、カメラ雑誌の執筆のほか、ワークショップやセミナー開催など幅広く活動。写真家として活動する傍ら、東京・目黒、写真専門ギャラリーJam Photo Gallery 主宰を務める。ライフワークでは、これまでに世界20カ国、40以上の都市を訪れ、街スナップや人物を撮影。主な写真展 Brighton-a little different(2012年、オリンパスギャラリー)、東京・オオカミの山(2013年、エプソンイメージングギャラリーエプサイト)、3[サン] (2015年、表参道スパイラルガーデン)、THE BUS(2018 年、ピクトリコギャラリー・PLACE M)、PERFECT DAY(2020年、キヤノンギャラリー銀座)など。THE BUS(2018年、自費出版)、PERFECT DAY(2020年、冬青社)がある 。