ロードレース撮影での機材を紹介|王道のRF70-200mm F2.8 L IS USMが使い勝手抜群!
はじめに
ツール・ド・フランスをはじめとするロードレースの撮影をメインに行っているフォトグラファーの辻啓です。様々な自転車競技がある中で、長時間にわたって公道を使ってスピードを競い合うのがロードレース。特にステージレースと呼ばれる複数日(最大で3週間も!)にわたって開催されるレースは毎年コースが変わるため、ほとんどの撮影場所が初見で、よっぽど酷いコンディションではない限り天候に関係なく開催され、レース参加人数は200人近く、工夫によってアングルが無限大。スタジアムスポーツにはない「撮り甲斐」があるのがロードレースです。
平均スピードが50km/h近くに達し、峠道の下りであれば100km/hを超えることもあるロードレース。そのためモータースポーツ的な撮影の難しさが有ります。文化や生活を写真をこめることができ、風景写真的な要素も有り。今回はそんなロードレースの撮影で使用する機材を紹介します。
使用機材
特にこだわりがあるわけではありませんがメイン機材はキヤノンです。現在はEOS R5を2台体制で使用しています。それまでEOS 1Dシリーズや5Dシリーズを愛用していましたが、2021年にミラーレス化。電子ビューファインダーに慣れが必要だったため、購入から実戦投入まで半年ほどのトレーニング期間を設けました。
ヨーロッパでロードレースを撮影するキヤノンユーザーはEOS R3使用率が高く、その優位性は理解しているものの、バッテリーの持ちを除いてEOS R5に不満はありません。高速移動する被写体を追うため、電子シャッター使用時はローリングシャッター歪みの問題が出てきますが、メカシャッターで対応するため不満はないです。
一脚に装着して俯瞰で撮ったり、どこかに固定する際もEOS R5の軽量性は役立ちますし、下から煽る撮影時もよりセンサーを地面に近づけることができます。USB Type-Cで直接充電できることも旅系フォトグラファーにとって嬉しい点です。自身もサイクリストなので、カメラを背負ってロードバイクで先回りするようなライドイベントやランニングイベントの撮影を担当することも多く、そんな機敏に動き回るようなロケでもEOS R3に代表される「四角いカメラ」の重さはNGです。
使用するレンズのバリエーションは王道と言ったところでしょうか。動きものを撮影することが多いので望遠系レンズの出番が多いものの、風景と一緒に撮影できるロードレースの特色から広角系レンズもよく使います。とはいえこれは撮影スタイルによっても変わりますし、クライアントの要望によって調整するところではあります。
ロードレースに限らず自転車競技には真円のホイールが写り込みます。しかもモータースポーツと比べても被写体における真円の割合が大きく、存在感が大きい。その真円を歪ませることなく円を円として撮影したいという個人的なこだわりから、超広角レンズはよっぽど画角に制限がある場合を除いて使いません。縦の動きが大きかったり、比較的スピードの遅いオフロード系の自転車競技では超広角レンズや魚眼レンズで被写体に寄って動きを表現することが多いものの、やはりスピードの速いロードレースでは広角レンズで寄ると追いつきません(汗)
下記のレンズリストは使用頻度の順。基本的にRF70-200mm F2.8 L IS USMを装着したEOS R5と、RF24-70mm F2.8 L IS USMを装着したEOS R5を純正ストラップで2台肩がけして持ち運び、ロードレースではこの組み合わせで9割ほどの撮影をこなしています。時速70kmで正面から突進してくる集団スプリントではEF300mm F2.8L IS II USMを使用し、フィニッシュラインからフォトグラファーポジションの距離に合わせて1.4倍のエクステンダーを装着。
レース中にモーターバイクの後部座席に座って撮影する際は、安全上の理由から選手と距離を取らないといけない国もあるため、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMをメインに使用することもありますが、基本的にはRF70-200mmとEF300mmの予備レンズとしての位置付けです。
▼レンズリスト(使用頻度の高い順)
キヤノン RF70-200mm F2.8 L IS USM
キヤノン RF24-70mm F2.8 L IS USM
キヤノン EF300mm F2.8L IS II USM
シグマ 85mm F1.4 DG HSM | Art
キヤノン RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
キヤノン EF16-35mm F2.8L II USM
一本選ぶなら?
これまた王道ですがRF70-200mm F2.8 L IS USMですね。EFレンズ時代から比べると本当に、信じられないぐらい、軽量コンパクトになりましたし、EOS R5と組み合わせると持ち運びが夢のように軽い。EOS 1D X Mark IIIとEF70-200mm F2.8L IS III USMを組み合わせていた時はセットで2,920g(1,440g+1,480g)だったのが、今は1kg以上軽い1,808g(738g+1,070g)。軽ければ軽いほどいいというわけではないものの、物理的に上下左右のフリが軽くなるので助かっています。
特に動きものの撮影には無くてはならない存在であり、例えばRF70-200mmとRF24-70mmを同じ焦点距離70mmで撮り比べた場合、被写体を追従する際のAFの食いつきから開放時のシャープさは前者に軍配が上がります。綿密にセッティングしたロケとは異なり、何回も周回コースで通過するので撮影チャンスが多い日本のロードレースとは異なり、ラインレース(1箇所から1箇所へ線で繋ぐコース)なので撮影チャンスは一回きり。撮り逃さないことを何より優先するので、信頼できるレンズに偏っています。
手ブレ補正はそれほど積極的に使わないのでオフにしているシーンが多いものの、「振った方向と直交する手ブレのみを補正」してくれる「MODE2」のみ流し撮りの際に使用。ちなみに光学式ファインダーから電子ビューファインダーに切り替えて最も苦労したのが流し撮りでした。数をこなすことでもうすっかり慣れましたが。
不満があるとすると、従来のEF系70-200mmと違って繰り出し式のズーム方式になったこと。もちろんこの方式を採用したことで軽量コンパクトさを実現しているのは理解していますし、短く固定した状態で持ち歩くのでレンズをぶつけるシーンが減りましたが、どれだけ頑張っても伸びた部分に水がついた状態で収納してしまい、レンズ内部に水が入りやすくなるんです(雨対策については次章)。
旅先のトラブル
ツール・ド・フランスを例に出すと、約1ヶ月にわたって旅をしながら取材します。毎日ホテルが変わり、毎日200-300kmの規模で車移動し、その先々でレースの写真を撮影する。そのため色んなトラブルが起こりますし、トラブルが起こってもその場で解決しなければなりません。これまで車上荒らしで機材一式盗まれることも経験しましたし、現地の知り合いに助けてもらいながら取材を継続したことも。
カメラ機材が壊れても(ほとんどの場合)修理に出すこともできない。そこでキーワードになるのが「壊れにくさ」です。やはり値段の高いレンズやボディの耐久性は心強いもの。天候が悪化しても行われるのがロードレースなので、フォトグラファー側もそれなりの工夫と覚悟で撮影に挑まないといけません。
特にモーターバイクに座って撮影する際には雨対策が必須。とはいえゴツい防水カバーを装着してこれまで何度も結露でカメラとレンズにダメージを負わせてきた経験があるので、少し雨の場合は簡単なカバーしか装着せず、濡れた部分をタオルで拭き続ける方式を採用しています。
記録メディアはエラーや不自然な動きが出たらもう怖くて使えないので常にスペアを用意。バッテリーやチャージャーもスペアを用意しています。写真のクオリティーはもちろん、それよりも「3週間使い続けることができる耐久性」が自分の中の機材選びの気分になっています。
■フォトグラファー:辻啓
1983年大阪府堺市生まれ。2004年にイタリア留学を経験し、ロードレースの世界にのめり込む。帰国後は東京都内でバイシクルメッセンジャーとして活動する傍ら、自転車メディアや関連メーカーをクライアントとして英語とイタリア語の翻訳業をスタート。やがて写真撮影に主軸を置き、2009年からツール・ド・フランスをはじめとする海外レースの取材を行っている。